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 impossible is made possible IV

 土煙りが舞い上がる結界内で、ゆっくりと崩れ落ちるT-REXの傍に着地し、そして懐から煙草を取り出して火を点けるリケットを見た観衆は、その意外な展開に言葉を失い静まり返った。


 T-REXに勝利したからではない。


 その方法が、信じられないのである。


 あの巨大な頭を吹き飛ばし、更に巨躯を穿って勝利するなど、一体誰が考え付くだろうか。


『………………あ……え…………?』


 あの五月蝿(うるさ)い司会のロッディですら、何が起きたのかが理解出来なく間抜けな声を出すだけだ。


 だが観衆はそれにすら気付いていない。


 それを尻目に、リケットはゆっくりとタバコを(くゆ)らせ煙を吐き、そして更に懐から錠剤を取り出して口に含む。


 それは、ファウル・ウェザー病院で処方されたもの。一錠で5万キロカロリーある高カロリー薬。


 それをまとめて飲み込み、再び煙をゆっくりと吐く。


〝サイバー〟の胃は、摂取した食物を即座にエネルギーに変換出来る。


 そして今のリケットは、それが必要なほど消耗していた。それほどまでにT-REXとの戦いで消耗したエネルギーは、莫大なものだった。


 もっともそれは〈EM(エム)C(シー)HEC(ヘック)Breaker(ブレイカー)!=〉を使用した所為なのだが。


『こ……こいつぁ驚いた……』


 暫く後、司会のロッディがやっと口を開いた。


『今の出来事、しっかり見たかい皆の衆!? いやいや、私もおったまげたぞ! なんとあのT-REXの頭を一瞬で吹き飛ばしてしまった!! 流石は最強の〝サイバー・ドール〟!』


 絶賛する司会を尻目に、リケットはまだ火の点いている煙草を咥えたままポケットに手を突っ込む。


 摂取したカロリーが、急速にエネルギーに変換され全身を満たす。


『此処で彼の心境をインタビューしたいところだが、もう〝結界〟に入ってしまっているからねぇ。インタビュー出来ないのは哀しいが、それは仕方ないか! では、続けて次の勝負だぁ!!』


 司会の声と共に花火が上がる。民衆が吼え、それが音のうねりとなって中央公園に木霊する。


 中央公園は、異様で異常な熱気と狂気に包まれていた。


 ――T-REXの死体はその場に残らず、大気に溶け込むかのように薄くなり、やがて完全に消失した。


『第二幕、破壊神降臨!!』


 その声と共に〝結界〟に展開してあった景色が消滅し、今度は雪山になる。そしてその周囲に雪が降り始め、それはすぐに吹雪となった。


 更に気温も極低温となり、体感気温は零下50度を下回るであろう。


 結界壁が歪み、其処に先ほどと同じく漆黒の穴が現れる。其処から二人の男女が姿を現した。


 男は腕が四本あり、長い髪を後ろで乱暴に縛っている。その首には頭蓋が鈴なりに連なっている首輪をしていた。


 そして女はその両手に曲刀を持ち、宝冠を被り、その隙間から髪が数束零れ落ちている。


 どちらも上半身裸で全身に奇妙な文様の刺青(タトゥー)がしてあり、更に双眸は虚ろで、その表情だけではなにを思っているのかを窺い知ることは出来ないだろう。


『この二人は「シバ」と「カーリー」。男がシバで女がカーリーだ! さあ、早速始めて貰おうじゃないかぁ!!』


 司会の絶叫が終了するなり、シバが拳を振り上げてリケットを襲う。


 口から煙草を吐き出して後退し、突き立ててある蛮刀を掴む。

 吹き付ける吹雪に充てられて既に冷たくなっているが、そのスイッチを入れた瞬間、蒸気を上げて発熱した。付着した雪が、振動によって発生した熱により一瞬にして蒸発したのだ。


 シバの拳は空を切り、だがその凄まじい衝撃波が地面に積もっている雪を打つ。

 雪が舞い上がり、その視界を塞いだ。だがそれを空気ごと斬り裂いて視界を確保したカーリーが、持っている曲刀をリケットに叩き付けた。

 それを蛮刀で受け流し、雪を掻き分けて移動するリケットをシバの拳が再び襲う。

 だがやはりそれも空を切る。雪が弾け飛んで、視界を全て塞いだ。


 拳を振り下ろして体勢がまだ整っていないシバに、リケットの鋼の鞭が雪を突き破って飛来し絡み付く。


 空気が白色の光を発して爆発した。


 それにより、弾け飛んでいる雪と降り続いている雪が蒸発し、その場に大きな穴を空ける。


 その光の渦中にあるシバは、白煙を上げて両膝をついた。


 それを尻目に曲刀を振り下ろすカーリーのそれを蛮刀で砕き、即座にその手で頭を鷲掴みにする。


 再び空気が爆発し、掴んでいるカーリーの全身を超高圧電流が駆け巡る。


 だがそれでも、カーリーは動いた。


 残る曲刀を振り上げ、斬りつける。それを避けるべく手を放して離れたリケットの背で、衝撃波が弾けた。


 シバが絡み付いている鋼の鞭を力尽くで振り解き、そして拳を振り上げている。


 漆黒のコートが弾け、その下に装備している戦闘服が露わになるが、それを全く気にせずに移動を始めた。


 蛮刀は、彼方の雪に埋もれている。今リケットが持っている武器、それはその両腕に内蔵された鞭のみ。


 高速移動するリケットにシバとカーリーが迫る。


 カーリーの曲刀からの斬撃と、とシバの拳から発せられる衝撃波が反撃の(いとま)すら与えず襲い、リケットはそれを避けつつ移動し続けた。


 そして蛮刀を拾い振動のスイッチを入れようとした刹那、シバの衝撃波が蛮刀を貫き粉々に砕いた。

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