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 impossible is made possible III

「……なにを言っているかは解りませんが、彼女の再生能力は非常に興味深い。どうです、私と共に来ませんか? 貴女にとって決して損にはなりませんよ」


 ファウル・ウェザーへなのか、それとも彼女へなのか、手を差し伸べてそう言うマーヴェリーを一瞥する。


 そして眼を伏せ、


「……可哀想に……貴方は自分がオリジナルだと()()()()()()()のね……それはとても哀しいことだわ……。でも――それすら()()()()()()()()プログラミングされている……。酷いことをするのね……例えコピーであっても、一つの命には変わりないのに……」


 白衣の胸元を掴んだままマーヴェリーに近付き、そしてその眼をじっと見詰めた。


 その吸い込まれそうに深い瞳から、慌てて視線を逸らす。


「危険だ……貴女は危険だ……。此処で、消えて貰わなくては……」


 全てを見透かしているようなその深い双眸に見詰められ、彼は例えようもない恐怖に襲われた。それは、自分が何者かを気付いてしまう恐怖。そのことを、自分は気付いてはならない。


「消す、貴女……お前の全てを……」


 呟き、マーヴェリーはその〝能力〟を解放する。


 風が渦を巻き、病棟内に竜巻が幾つも発生した。


 それが、彼女とファウル・ウェザーを取り囲む。


 空気の刃が、彼女の身体を切り裂いた。だがその傷も、一瞬にして消えて行く。


「彼女の〝能力〟を知りたいか?」


 結界を張ってマーヴェリーの風を防いでいるファウル・ウェザーが、ゆっくりと言った。その口元には、笑みが浮かんでいる。


「教えてやろう。彼女の〝能力〟は〝リジェネレート〟。例え単一の臓器のみしか残っていなくても自動再生する究極の〝能力〟。だがそれは自身にしか発揮出来ないし、そうすることは莫大な労力と疲労が伴う――つまり、相当()()()()()。だがそれだけではない。彼女は更に、全ての〝PSI〟を極限まで発揮出来る。無論〝単象能力(シングル)〟専用以外の、だがな」


〝PSI〟の能力は、大きく分けて二つに分かれている。


 ひとつは単一の〝能力〟のみ発現する〝()()()()〟。


 そしてもうひとつは――多くの〝PSI〟能力者がこれに当て嵌まる、複数の〝能力〟を発現出来る〝複象能力者(マルチ)〟。


〝単象能力〟は単一しか発現出来ない代わりに、極限までそれを研ぎ澄ますことが出来る。

 そして〝複象能力者〟は、複数の発現が可能だが一つひとつの〝能力〟を極限まで研ぎ澄ますことは出来ない。


 更に〝PSI〟には〝単象能力〟でしか発現出来ないものもあり、〝グラビドン〟〝ヴァンパイヤ〟〝ナイトメア〟そして〝タイムウォーカー〟がそれにあたる。


「そんなことが……物理的にあり得る筈がないでしょう!」


 言いながら、風を彼女にぶつけ続ける。


 銀色の髪が風に翻弄される。


 羽織っている白衣が切り裂かれる。


 そして――その透き通っていると見紛うほど白い肌に、赤い筋が走っては即座に消えている。


「……埒があきませんね……。新たな〝能力〟かどうかは知りませんが、その治癒能力は相当なもののようだ。……宜しい、一瞬で消し飛ばしてあげましょう」


 無数に発生している竜巻を一つにまとめ、巨大な竜巻を発生させた。


 病棟内の全ての機器が悲鳴を上げ、だがそれら全てにファウル・ウェザーが結界を張った。


 幾ら『都市連合委員会』の援助を優先的に受けているとはいえ、これ以上病院の設備に傷を付けられたら堪ったものではないから。


 一つになった巨大な竜巻が彼女に迫る。それをまともに受けたものは、一瞬にして細切れになってしまうだろう。


 彼女は茫洋とそれを見詰め、そして眼を伏せ両手を広げた。


 その身体が宙に浮く。そして床に零れている羊水が、その成分を残して蒸発する。


 それは、この病棟内の大気が消え失せた証拠。


 大気がなければ風は発生しない。


 そしてそれがなくなると、人は呼吸が出来なくなる。



 ごめんなさい



 彼女の唇がその言葉を紡ぎ出す。


 だが空気がない為にそれは言葉にならない。


 そして――マーヴェリーの身体は分子単位で分解された。


 大気を一瞬で消滅させ、更に肉体を一瞬で分解可能な〝能力〟。


 それは極限まで研ぎ澄まされた〝イレイザー〟。


 空調設備が機能し、大気が元通りになったのを確認してからファウル・ウェザーは結界を解いた。


 そして呆然としているベスを立たせ、彼女を見た。彼女はその美しい裸身を恥ずかしそうに隠し、彼に背を向ける。


「自分が誰だか、解るか?」


 自身を抱きしめて背を向けている彼女を見詰め、ファウル・ウェザーが訊く。

 仕事上、女性の裸など見慣れているから別になにも思わないのだが、彼女が平気な筈はない。


 それに気付いたのか、何処からともなくガウンを出し、再びその肩に掛けた。


「解っているわ、ファウル兄さん。私は【Vの子供達】の末妹、〝Seelie……〟シーリー・コート」


『天才』と言われた生体機械工学者ラッセル・Vが最も愛し、最も手を加えた者。


 そして――唯一の成功例。

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