stage of struggle V
どんどん人が集まり、だんだん此処にいることが苦痛になってきたフィンヴァラがハズラットに帰ると言うべきかどうか思案し始めた頃、
『Ladies & Gentlemen!』
公園の至る所に設置されたスピーカーから、アナウンスの声が響いた。
『御来場の皆々様、大・変お待たせい・た・し・ま・し・た! 只今より「ウルドヴェルタンディ・スクルド」主催、「バトル・シティ」を開催致・し・ま・す!!』
アナウンスの宣言とほぼ同時に、盛大な花火が上がる。
下らない。
フィンヴァラはそう思った。
そしてそれは、きっとハズラットも思っていることだろう。
だが……このイベントに無理矢理参加させられる〝彼〟自身は、一体どう思っているのだろうか?
きっとなんとも思っていないのだろう。
「可哀想ニ……」
フィンヴァラは呟き、ハズラットを一瞥……出来なかった。彼は既に、何処にもいなかったのである。
〝魔導士〟である彼は、その姿を人々に認識不能にすることが可能だ。
だから、其処にいる筈なのに人々が認識しなくなる。認識しないということは、其処にいないのと同等。
やれやれと呟き、フィンヴァラは意識してハズラットを見ようとした。
認識をずらしている〝魔導士〟を『視る』者は、〝ハンター〟か〝能力者〟だけである。
そしてハズラットをそうやって認識出来る者は、【Vの子供達】の他には彼くらいであろう。
『長者』達を除けば、だが。
そしてそのことを、フィンヴァラは自覚している。
『出来損い』のフィンヴァラ。
彼がラッセル・Vと出会う以前、そう呼ばれていた。
〝サイバー〟なのに感情がある。たったそれだけで『出来損い』と呼ばれた。
だがラッセル・Vは、それを彼自身の長所として残存し、更に当時としては最強の〝能力〟を与えたのである。
〝最強・最凶・最狂〟の〝サイバー・ドール〟。
今となっては数少ない精神感応物質の使い手……だった。
今は、もう以前の彼ではない。
生業としていた〝ヘッド・ハンター〟も引退して久しい。
なにより、彼は既に自分の全てを託した。
ラッセル・Vに最も愛されたと人々に言われている、D・リケットに。
「……アノ人ハ、誰モ愛シテイナカッタケドネ……〝Seelie Court〟以外ハ……誰モ。僕ノコトモ、DBモ、ふぁうるモ、ソシテりけっとモ……。僕達ハ、所詮全員『出来損イ』ダッタ……」
自分や【Vの子供達】にしか出来ない〝能力〟を使う度、そのことが思い出される。
そしてそれは、決して曲げられないない真実。
研究にしか興味がなく、生涯独身で過ごし、親も子供も一切いない。
その周りには、彼が作り出した〝サイバー〟だけがいた。
その中で、一体なにを生み出そうとしていたのか……それを知る者は一人だけだ。
【Vの子供達】の中に在り、唯一その身体に機械を埋め込んでいない者、ファウル・ウェザー。
だが彼は、その重い口を開かない。いや、開けないのかも知れない。
彼自身、『出来損い』だから。
「……アンナ処ニイルノカ……」
周囲を見回して、フィンヴァラは呟く。ハズラットは空中にいたのだ。然も結界のすぐ傍に。
なにをしているのやら……。
そう思い、だがすぐにその考えを打ち消してフィンヴァラはその場を立ち去った。
もうハズラットの興味は自分に向いていない。そして自分がいなくなっても、彼は捜すことはないだろう。
このイベントに興味がないということを、初めから知っていたから。
誘ったのは、この場に入り易くするためだけだ。
〝魔導士〟は、『ウルドヴェルタンディ・スクルド』が関係している場所には単身で入ることを許されない。
それは〝魔導士〟と〝PSI〟の確執そのものの象徴でもある。
遥けき太古より脈々と受け継がれている秘法と、新しい『力』。それらが衝突するのは当然のことなのだろう。
フィンヴァラがこの場を立ち去ったのを、実はハズラットは知っていた。
それだけの〝能力〟を、自分は持っているから。それにそうなることも初めから知っていた。
ハズラットは彼を利用したに過ぎない、自分の目的のために。
「……この程度で〝結界〟か……。実に雑だ。大したことがないぞ、『ウルドヴェルタンディ・スクルド』」
そう呟き、手を翳して呪文を唱えた。そして結界の片隅に、常人には絶対には見えない――いや余程熟達した者にしか見えないほどの傷を付ける。
「これが兄として出来る最後のことだと思えよ。多少――いや、かなり、私怨もあるがな」
独白し、更に呪文を唱えた。
『本日の司会進行を勤めさせて頂くのはこの私、DJ・ロッディ! それではこれより、説明に入らせて頂きます……』
アナウンスが響く中、フィンヴァラに続きハズラットも、その姿を消した。
そして二人が中央公園にいなくなった後、17.50タイムに〝彼〟――D・リケットは中央公園に現れた。
いつもと変わらない漆黒のロングコートを纏い、光の加減で虹色に見えるサングラスを掛けて。
『おおっとぉ、此処で今回の主役の御登場だぁ!!』
リケットを見付けた司会が、マイクに向かって大声で叫ぶ。
それを聞いた観衆が一斉に周囲を見回し、そしてカメラがリケットに向けられる。
司会の後方に巨大なスクリーンが現れ、カメラが捉えている映像を映し出した。




