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 stage of struggle IV

 中央公園は、その名の通りに〝結界都市〟の中央にある。


 そしてやはり中央部にあるファウル・ウェザー病院と、多少距離はあるものの、隣り合わせてる。


 普段は静かな――違う意味で言うならなんの変哲もないただの公園なのだが、その広さだけは定評がある。


 中央公園。


 直径8万メートルの〝結界都市〟の丁度中央部に位置する、直径3千メートルの公園。


 用途目的は、特にない。本当に只の公園なのである。


 だが用途目的がないということは、如何なることにでも使えるということだ。


 それに気付いている者は、実はいなかった。


 この〝結界都市〟を統括する『都市連合委員会』ですら。


 何故なら、公園は公園であって、それ以外の何物でもないと思われているから。


 そしてその盲点を突き、『ウルドヴェルタンディ・スクルド』が大規模なイベントを開催したのである。


 テレビ局に話しを通し、更には高視聴率番組(『まぁぶる物語』)の時間帯を横取りして。


 それを考えるだけで、莫大な金銭が暗躍していると思うのは自然なことであり、また逆に、そうまでして行うべき必要のあるイベントなのかと人々は思うに違いない。


 だが出演者の名を聞き、少なくともその道の者達は納得した。


 その道の者達とは、〝ハンター〟達のことである。


 大音量の音楽と共に盛大な花火が上がっている中央公園。


 その中には仮店舗が軒を連ね、『ウルドヴェルタンディ・スクルド』の商品が並べられている。


 その多くは武器、兵装であり、〝サイバー〟用、〝ハイパー〟用、〝PSI〟用、そして一般用と分けられていて、兵装使用許可証(ライセンス)さえ持っていれば誰でも購入出来る仕組みになっていた。


『ウルドヴェルタンディ・スクルド』製のそれは性能、機能性共に充実しており、耐久性も充分にある。

 更にそのデザインも斬新で、一部のマニアに熱狂的な指示を受けてもいた。


 但し値段が市価の五割り増しだが、それだけの価値があると評判なのである。


 しかし今回のイベントでは、なんとそれらがこのイベント中に限り市価の半額にまで抑えられていた。

 然も今回に限り、此処で購入した兵器、兵装のサポートを永年無料で行うという破格ぶりである。


 もっともほぼ使い捨ての兵器のサポートなどをアテにする〝ハンター〟はいない。どうせすぐに使用限界を超えるか破壊されるかのどちらかだし。


 その、言ってしまえば兵器のバーゲンセールを聞きつけた〝ハンター〟達や護身用の兵器を調達したい者達、更には転売目的の武器商人達までが中央公園に殺到した。


 そして訪れた者達の眼には、必ず中央公園内に設置された、空中に浮かぶ一辺500メートルの巨大な立方体が映るだろう。


 それは強力な〝結界〟によって形作られており、テストなのか時々その中に森林や砂漠などの(ヴァー)(チャル)(・リア)(リティ)が現れては消えている。


 その仮想空間は本物と見紛うほどの質量を有しているということに、人々は気付いているだろうか。


 いや、多くの人々は気付いていないだろう。その技術の高度さと、そして危険性に。


 17.45タイム。


 露天から購入したフランクフルトにマスタードを零れんばかりに塗りつけて店主に嫌な顔をされつつそれを頬張り、空中に浮かんでいる〝結界〟を視界に捉えて顔を顰めたハズラット・ムーンを更に一瞥して、白いロングコートを羽織ったフィンヴァラは無表情に店舗を見回した。もっとも、無表情はいつものことだが。


「……一ツ訊キタイノダガ、はーてぃ」


〝結界〟を見つめつつ口をもごもご動かしているハズラットに言う。

 その喉から直接発せられる機械音声が、否が応でも彼が〝サイバー〟だということを思い知らせている。

 もっとも、その全く動かない表情を見ただけでも充分にそう思うだろうが。


「『ハーティ』は止めろ」


 食べ終わり、残った串をゴミ箱に放り込んでから言う。


 だがそれを聞き流し、フィンヴァラは続けた。


「……コンナ詰マラナイいべんとニ誘ウタメダケニ、僕ヲ呼ンダノカナ?」


「詰まる詰まらないはどうでも良いが、たまにはこういう莫迦げたものを見るのも良かろう? そもそも此処は近くだろうが」


 確かにフィンヴァラの店[セフィロート]の所在地は中央公園の北側である43番街ではあるが、その軒を連ねる『サイバー・ストリート』43番街の北側――つまり端にある。


〝結界都市〟全体を見れば近くだが、徒歩30分以上は余り近くとは言い難い。


 もっともハズラットの〝魔導〟で跳んで来たのだが。


「……マァ、コノいべんとノ所為デ閑古鳥ガ鳴イテイタカラ良イケド。ダケド、本当ニ来ルノカナ?」

「バナナじゃないだからよ、ンなモン叩き売りなんかするなよな。……まったく……。ん? なんか言ったか?」

「……ナニモ」


 兵器の説明をしつつどんどん安くしていく露天を一瞥して文句を言っているハズラットを見て呆れたのか、フィンヴァラはそれ以上なにも言わなかった。


 ハズラットが珍しくフィンヴァラの店を訪れたのは、丁度ファウル・ウェザーから依頼された出前を届け終わり、そして予約をキャンセルするというメッセージを端末が受診した直後だった。


 正直な所、こんな血の臭いが充満した店に案内して評判を落とすよりも、キャンセルされた方が有り難かったりするが。


 捨てる神あれば拾う神あり、だな。自分を襲いに来た莫迦者のことか、それともそれを真っ二つにして店内を血だらけにしてしまった自分のことを指しているのか――後者だろうが――妙なことを考えるフィンヴァラだった。


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