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8stage of struggle I

『ウルドヴェルタンディ・スクルド』専属の医療機関は、『バイオ・タワー』だけではない。

 厳密には『バイオ・タワー』は研究室であり、その他に医療機関は存在する。


 その医療機関の名は、ない。


 命名段階で『ウルドヴェルタンディ・スクルド』の創始者であるギスカー・スルーバックが、「名前なんぞはなくても良い」と言ったことが発端で、その医療機関は『病院』としか呼ばれていない。


 そしてそれで困ることなど、一切なかった。


『病院』は一般の人々にも受診出来るのだが、救急指定病院ではない。既にファウル・ウェザー病院があるためだ。


 それに、此処を受診するのは主に『ウルドヴェルタンディ・スクルド』の社員だから。


 そして社員に限り、その受診料金は一切不要。


 因みに、ファウル・ウェザー病院では職員も有料だったりするが。


 その『病院』の施設は、やはりファウル・ウェザー病院ほどではないがそれなりに揃っている。


 いや、あそこまで高度な医療機器を揃えているファウル・ウェザー病院が異常なのだ。


 それを考えると、『病院』の設備は充分に高度なものといっても良い。


 診療科目は精神科を除いて全てあり、当然ながらICU(集中治療室)も完備している。


 此処の最大の特徴はICUの〝()()()()()()()()〟の数と高性能さである。


 ICUの総ベッド数20床、それに対して〝バイオ・カプセル〟の総数25基。


 この数は、医療が発達している〝結界都市〟において一位である。


 そしてそれを扱うスタッフも、同等に屈指の者が揃っているのだ。


 因みにファウル・ウェザー病院の〝RAR・ラボ〟との違いは、製品名だけである。


〝バイオ・カプセル〟が25基あるこの『病院』だが、実は実際に使えるものは24基のみだ。


 何故ならその1基だけが、この施設が出来た当初からずっと使われ続けているから。


 その中に満たされている羊水に浸かって横たわる、背の高い素裸の女性。


 彼女は、生まれた時からずっと此処に横たわっている。


 子供から成長し、そして……一七歳になった時点でその成長と生命活動が停止した。


 だが、彼女は生きている。


 生命活動が停止して尚、彼女は死んでいないのだ。


 その姿形が変わることなく。


 今まで数多の医師が彼女を診察したが、原因は全く解らない。


 彼女は生命活動が停止しているのに、生きているのである。


 それが一体どういうことなのかが全く解らず、遂に『病院』の院長は五年前、ある人物を召還した。


 その人物とは、生体機械工学者ラッセル・Vである。


 彼は〝バイオ・カプセル〟から彼女を一旦出し、その生体構造からDNA、染色体や塩基配列に至るまで調べ上げ、そして診断を下した。


 彼女は、至って健康体だ、と。


 だが彼が診察する前後より、彼女の身体――厳密には精神に、異変が起き始めた。


 精神と肉体が分離し、その精神体が独立したのである。


 精神が肉体から離れて独立するということは、この〝結界都市〟では珍しくもないが、彼女の場合はその独立した精神が〝PSI(サイ)〟だった。


〝PSI〟が精神体になるということは侭あるが、その逆は決して有り得ない。


 何故なら〝PSI〟という〝能力〟は脳から出る――或いは脳で生成される『力』だからだ。


 つまり〝PSI〟という〝能力〟は、肉体があって初めてその真価を発揮するのである。


 それなのに、彼女は精神体であるにもかかわらずず〝PSI〟としての『力』を発揮する。


 その理由は誰も解明出来なかった。


 そして、その肉体が生命活動を停止しているにもかかわらず、生き続けているという原因も。


 彼女を診察したラッセル・Vは、去り際に彼女へ直接言った言葉がある。


「いつか、〔良い妖精〕が君を救うかも知れない――」


 その言葉を信じ、彼女――キョウは待ち続ける。


〝ウルドヴェルタンディ・スクルド〟の一員として、その肉体を『病院』に預けたまま。

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