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 completely impossible IV

『ウルドヴェルタンディ・スクルド』の研究室である『バイオ・タワー』。


 其処は今、混乱の極みに達していた。


 ハッキングされ、そして最悪のウイルスである〝カンサー・セル〟を植え付けられたのである。


 このウイルスの特徴は、最も単純で、だが最も被害が大きく効果的なものだ。


 それは、急速に自己増殖を繰り返して容量を占拠し、更にどのような作業をしてもウイルスのパターンデータを完全に消去出来ないというもの。


 よってコンピューターを初期化しても、同じ記憶媒体を使っている限り、再び自己増殖するのである。


 見る限り史上最悪のウイルスなのだが、二つだけ救いがある。


 まず一つ目。このウイルスは、感染したコンピューターの容量を全て飲み込まない限り、ネットワークを介して他のコンピューターには行くことはない。


 其処までの機能は、実はないのだ。


 それにその機能を付けてしまったのなら、ネットワーク化された世界中の全てのコンピューターが、一瞬にして使用不能になってしまう。


 そして二つ目。このウイルスを保存することは、絶対に不可能なのだ。


 何故ならどのように強固なプロテクトをしていても、それすら吸収して増殖するから。


 よってそれは、データの転送では植え付けられない。直接システムに侵入し、その場でそのウイルスを作り出すしかないからだ。


 最悪のウイルス〝カンサー・セル〟。


 だがそれを植え付けられる人物は、この〝結界都市〟では二人しかいない。


〝サイ・デッカー〟の最高ランク「SA」に位置する二人、〝黒妖犬〟カペルスウェイトと〝道化師〟アハ=イシカ――E・ヘッド。


 だがカペルスウェイトは、そのようなことはしない。


 何故なら彼は、アンチウイルスソフトの開発者だからだ。


 彼の作ったアンチソフト[γ(ガンマ)-ナイフ]は、現状この〝結界都市〟で最も信頼されているソフトである。


[γ-ナイフ]の最大の特徴は、自己進化することで最新のウイルスへの免疫を得る点にある。


 それにより、パターンファイルをインストールするなどという面倒な作業が必要なくなり、一度フルインストールすることで今後一切ウイルスの侵入を許さない。


 但し、気を付けなければならない事項がある。


 それは、このソフトは自己進化するという点。


 それがなにを意味しているか、容易に想像出来るだろう。


 インストールした時点ではただのプログラムソフトなのだが、日々の進化に対してユーザーがなにも対応しなければ、時間と共にシステムが侵蝕されて行くのである。


 ある意味、このソフトもウイルスを駆除するウイルスと考えてしまっても良いのかも知れない。


 非常に優秀で危険なソフトなのだが、実はこのソフトは桁違いに高価で、とてもではないが一般ユーザーは購入出来ない。


 よってその使用対象は企業に限られている。大抵の企業は優秀な技術者――〝サイ・デッカー〟を雇用しており、そのソフトの管理を任せているのだ。


 そして当然、『バイオ・タワー』のメインコンピューターにもそのソフトがインストールしてあった。

 だが、その自己進化する[γ-ナイフ]であっても、〝カンサー・セル〟には敵わない。


 ウイルス駆除機能が、一瞬にして呑み込まれるから。


 記録されているデータを消去しつつ、システムの中で暴れまわる人形――E・ヘッドを何とか牽制し続けるカペルスウェイトは、不自然なほど急激にシステムが変貌したことに気付き、迷わず全ての回線を切断した。


 だが切断出来ない。何者かが強制的に回線を繋いでいる。


 そしてそれが可能な人物を、カペルスウェイトは知っていた。


 その人物は〝サイ・デッカー〟ではないが、ある意味どれほど優秀な〝サイ・デッカー〟でも敵わない。なにしろ、()()()()()()()()()()()から。


「なん……だって……? この……クソ忙しいときに!!」


 モニターに不可解な文字が一瞬表示され、その現象の意味を理解したカペルスウェイトはキーボードを床に叩き付け、突然マイクに向かって叫んだ。


「研究員、緊急事態だ! 余計に性質(タチ)の悪い奴が来やがった! 申し訳ないが、一度此処の電源を全て切る!!」


 言うなり、突然総電源を切断した。それは此処のシステムを全て放棄するという意味であり、バックアップ中の全てのデータは消えてしまう。


 そして彼は、実は()()()()()()()()()()()()()()()()()


 だがその願いを裏切る結果が、彼の目の前に叩き付けられた。


 なんと、電源が落ちない。


「…………あー、ったく! やっぱりかよ!!」


 所詮願いはそれだけでしかないようだ。それに、彼はそうなることが予測出来ていたらしい。


「バックアップがある程度終わったら、()()付けて返してやろうと思っていたんだよ。どうしてそれが待てない!?」


 マイクに向かって大声で叫ぶ。それはカペルスウェイトの心の声でもあった。その声に反応するように、床に転がっているキーボードが勝手にキーを打つ。そしてモニターに文字が表示された。その文字は、この様なものだった。

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