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 broken reality VI

「『エイケン・ドラムである「A・ヘッド」ではなく、アハ・イシカである「E・ヘッド」に用があるとは、これは尋常ではないねぇ。取り合えず理由を訊こうじゃないか。それから、これは正規の仕事かなぁ? そうだとしたら契約書にサインして貰うよ。そして、料金割引は無しだ』」

「詳細はファウルに訊け」


 歩きながら、リケットは冷たく言う。そして大扉の前に着くと、両手で押し開いた。


 いつの間にか初老の男は消えており、そしてリケットの眼の前には革のソファに深く腰掛けた、タンクトップをだらしなく着ている、何故かバックルが両足に無数に付いている革のズボンを穿いた白髪の男がいた。


 その双眸は何処か茫洋としており、そして瞳の色は薄い黄色の為に瞳そのものが無いように見える。


 だが注目すべきはその双眸に宿る瞳孔。


 彼の瞳孔は、爬虫類のように縦長であった。


 部屋の中にはその革のソファと小さな丸テーブルがあるだけである。そしてその丸テーブルには、ノート型端末が一台置かれている。ケーブルの類は、一切無い。


「30秒だけ待ってくれ。ファー坊に訊くから」


 入って来たリケット一瞥し、彼はノート型端末を片手で弾く。そしてすぐに手を置き、


「なんだい、何事かと思ったらファー坊の依頼だったのかい? OKOK。料金はファー坊に請求しておくよ。で、誰をこの世界から抹消したい?」


 腹の上に手を置き、口元に笑みを浮かべて彼は言った。


 ファウル・ウェザーを「ファー坊」と呼ぶ彼こそ、この〝結界都市〟で最高の〝サイ・デッカー〟であるDB。


 そして、四人の【Vの子供達】の長兄。


 因みに「DB」とは彼のハンドルネームで、その本名は誰も知らない。本人でさえ。


「バグナスという奴だ」


 短くそう言い、リケットはDBの傍に行き。端末を勝手に弄る。すると画面に灰色の髪を逆立てた、血色の瞳の男が表示された。


「……()()()()、こいつは兵器の売買から紙オムツまで取り扱っている最大手『ウルドヴェルタンディ・スクルド』の幹部じゃねぇかよ」


 そう言うと、やはり片手でキーを弾く。すぐにそのデータが表示された。


「名前はソリッド・バグナス。『ウルドヴェルタンディ・スクルド』――通称『ノルン』の兵器開発部門の責任者だ。もっとも売買に関われるだけの技量が無いためか、(もっぱ)ら兵器の実践活用におけるデータ収集を担当しているな、表向きは」


 リケットの傍に、例の初老の男が現れる。そして何処から出したのか、彼に椅子を勧めた。

 だがリケットはそれに反応しない。別に悪意があったり警戒しているわけではなく、単純に自身がそういった行動を必要としていないだけだ。


〝ハンター〟は、誰の眼の前であっても概ねそのような行動を取るものだから。


「だが裏ではその兵器を実際に使って色々しているらしい……ビンゴ! どうやら〝ヘカトンケイル〟とも契約していたらしいなぁ。俺様とお前で潰した例のチンケな組織だが、覚えているか?」

「忘れた」


 一瞥するDBへそう言う。彼にとって、終ったことは全てどうでも良いことなのだろう。


「ま、良いけどね。それに手数料は既に引き落とした。返せって言われたって返さないよ。……ほう、〝PSI(サイ)〟で〝能力〟は〝グラビドン〟か。こりゃまた厄介な。こんなのと喧嘩して、ただで済むと思っているのか……もうやりあってたのかよ……大したヤツだ、お前は」


 キーを弾きながら、DBは続けて言う。そしてリケットに視線を移して、


「俺様はいつでも良いぞ」

「では、今直ぐだ」

「OKOK。0.02タイムだけ待ってくれ」


 そう言うと首の左側を露出させ、端末から引き出したコードをその露出した首にあるプラグに差し込んだ。それを合図に、床から黒い物体がせり上がって来る。


 それらは全て彼が使用するコンピューター。その演算能力は、一秒間に最低一京回の浮動小数点演算の実行が可能。


 更にDBと直結することにより、それは天文学的数字にまで跳ね上がる。


 全てのコンピューターが現れ、そして再び現れた初老の男がDBの顔に流線型のゴーグルをする。その瞬間、彼の双眸が蒼白く輝き、


「お久シ振りだナ、まタ逢えて嬉しイよ。さてサて、今度の用ハどんナのダい? D・リケット」


 人格が入れ替ったかのように口調が変化した。


「Each=Uisge――黙って作業しろ。詳細はAiken=Drumから訊いている筈だ」

「相変わラずつれナいね。解っていルさ、ソリッド・バグナスの抹消ダよね? ……ヨし、準備完了!」


 DBの周囲を囲むコンピューターが低く唸る。そして更に、天井から百インチはあるモニターが現れた。其処には、白い顔のピエロが映し出されている。


「Come on〝white face〟」


 スピーカーからDBの声がする。そして本体であるソファに坐っている彼は、まるで死んだかのように動かない。それは彼の意識が、「サイバー・ワールド」に入り込んだことを意味している。


 リケットはその動かないDBを一瞥し、続けてモニターに目を移した。


 映し出されているピエロは、DBの意識。


 そして「サイバー・ワールド」におけるDBという固体でもある。


 それが其処から消えるということは、現実の彼の命も消えるということ。


 全く動かないDBの足に、今まで何処に行っていたのか頬擦りをする「まぁぶる」がいた。


「まぁぶる」は心配そうにDBを見上げ、そしてなにを思ったのか何故かぽよぽよ弾んでリケットの傍に寄り、足に体当たりをし始める。


 だがその程度の攻撃(?)になど効果がある筈もなく、ただ弾き飛ばされただけだった。


 それでも諦めずにぽよぽよと攻撃(?)するそれを無視して、リケットはただじっとモニターを見詰め続けた。

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