4becomes the tragedy I
「今日21タイム頃、『市街』の歓楽街の傍にあるマンション上空に巨大な重力塊が出現しました。
目撃者の証言によりますと、その前触れらしき現象として小さな重力塊が上空から降って来たとのことです。
付近の現場は一時騒然となり、死傷者がかなり出た模様です。その正確な数は解っておらず、行方不明者の安否が気遣われます。
また、目撃者の中には空中に浮いている人を見たとの情報もあり、捜査当局では〝PSI〟か〝魔導士〟絡みの事件と見て捜査を開始していますが、『魔導士ギルド』ではその様な〝能力〟は〝魔導士〟には絶対に出現しないと、事件との関与を否定しています。
歓楽街の傍での事故だったのですが、奇跡的に路地裏には被害はありませんでした。
尚、その重力塊の影響で空間が歪み〝ドラゴン・アシッド〟が発生した模様ですが、歪みはすぐに閉じたために被害は最小限に抑えられました。
それでは、『魔導士ギルド』の『世界の館』から中継です」
『はい、「世界の館」前です。早速ですが、昨日の事件との関与について、「魔導士ギルド」の最高導師、ハズラット・ムーン副長にインタビューを行います』
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『今回の事件について、どの様に思われますか?』
『酷い事件だな』
『いえ、そうではなくて、この事件は〝魔導士〟が関わっているという情報がありますが、それをどう思われますか?』
『どう思うもなにも、〝魔導士〟が関わっているという根拠すらなく、それに我々には〝属性〟というものがあるためにそのようなことをするのは不可能だ。そんな下らないことを訊くために私を呼んだのか?』
『――っつ。質問にだけ答えて下さい。どうしてそう言い切れるのですか?』
『質問には答えた筈だが。私の言語を理解出来ないくらいに無知蒙昧なのかな。まぁ、良いだろう。私は貴方をはじめとしたマスメディアがそういったものなのだと、理解し終えていたからな』
『な……!』
『こんなところで貴方と下らない討論をするのも時間の無駄だから話しを戻してやるが、先程言った通りだ。解らないと言うのなら低能にも解るように詳細に説明するが。それから言っておくが、貴方達に尋問される筋合いなんてないぞ。そもそもそんな権限も無いだろう』
『尋問ではなく、質問です。話を戻しますが、それで皆を納得させることが出来ますか?』
『納得する、しないは訊く人の勝手。そしてそれを理解しようとしない輩には徒労に終わる。それに、事実をありのままに伝えないで曲解し、更に捻じ曲げて自分達の都合の良いように面白可笑しく報道し、現場に居合わせてもいない「自称」専門家が真剣な面持ちで意味のない莫迦を言い、鵜呑みにした民衆に支持されてしまうという荒唐無稽な様相が安易に連想出来る様は、腹立たしさを通り越して滑稽だな』
『な……! それは貴方の偏見です! 取り消して下さい!』
『偏見? 面白いことを言うな。……まぁ、幾らそんな当たり前なことを言っても理解しない「自称」正義の報道にも判る程度の簡単さで説明しよう。我々〝魔導士〟には先程言った通り〝属性〟というものがある。それは〝陽〟〝月〟〝光〟〝闇〟〝火〟〝金〟〝木〟〝土〟そして〝水〟の九通りだ。つまり、〝陽〟と〝月〟は対極に在り、〝光〟在る処に〝闇〟が在る。〝火〟は〝金〟を熔かし〝金〟属の斧は〝木〟を倒す。〝木〟は〝土〟を抉り〝土〟は〝水〟の流れを止め、そして〝水〟は〝火〟を消す。循環する強さと弱さ、これが基本だ。しかし今回の事件は、その流れる循環を無視して壊す力であり、またそのような力の行使は〝魔導士〟には絶対に不可能だ』
『……それはどういうことですか?』
『……貴方達マスメディアはどうしても、なにがなんでも我々を犯人に仕立て上げたいようだな。まぁ良いだろう。それが貴方達の仕事であり真実であり「正義」だろうから』
『私達は真実を報道しているだけです。そのような偏見の目で見ないで下さい!』
『真実? 実に曖昧な表現だ。人が情報処理能力に限界がある有機生命体である以上、そして感情がある以上、個々で感じる「正義」にはその個体差があると同様に違いがある。言っていることとやっていることに差異を感じないか? 貴方達の得る情報とやらには主観が含まれていて、相当量の齟齬が生じているというのに何故気付かない。それを踏まえて、今の言葉をそっくりそのまま貴方に返そう。だが今、そのことは討論しないでおいてやろう。言葉を武器にしている貴方達が言い負かされるのは観る側にとって滑稽で痛快だが、それをされると下らないプライドが一丁前に作用して心底屈辱らしいからね』
『何故そのように偏見の目で見るのですか!』
『偏見? それはそう書いて「しんじつ」とルビを振って読めばいいのかな? 話が進まないから喧嘩は買わないでおいてやろう――面倒臭ぇし。貴方達のプライドは心底どうでも良いから話を戻すが、我々〝魔導士〟は――こう言うと語弊が生じるが、良く言えばいわゆる学者肌の者が大半で、外に出ることは殆どない。悪く言えば変人の集まりだが、少なくとも「市街」でそんな莫迦な真似をする者は一人として存在しない。そもそもそんな無謀なことをして何の得になる』
『……無謀、ですか?』
『そう、無謀だ。仮にその重力を操る〝魔導士〟がいたとして、これほどの敷地面積を誇る「市街」をまるごと潰そうとしたら、全身衰弱で即死してしまう。〝魔導士〟は皆、自分の研究に没頭している変人だが、それに命を懸けるほど愚かではない』
『……「市街」を潰せる〝魔導士〟はいない、ということですか?』
『読んで字の如く潰せる者はいない。これは断言出来る。だが〝魔導士〟の名誉のために言うと、方法は違えどただ壊したり消し去るだけだったら貴方の眼の前でインタビューに答えてやっている〝魔導士〟にも可能だぞ。ま、自分の研究に没頭している変人だから、そんな何の特にもならないことはしないがな。それに、そんなことをしてマスメディアを喜ばせるのも不快だ――』
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『この発言を、どう思われますか?』
『どうって……まぁ、彼はマスコミが大嫌いだということは判りましたね。ですがこれほど強く否定するのは逆に怪しいと言うのが一般的ですね。それに彼は何かを隠していると思いますよ。それがどういうことなのかは解りませんが』
『そうですか。尚、捜査当局はこれから〝魔導士〟達のアリバイを調べると共に、事件の関連を詳しく捜査していく模様です――』




