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 like a demon VII

〝FFC〟に横たわる人物は、人間としての原形をまだなんとか留めている。だがその体型から辛うじて性別が解る程度で、それがどのような容姿であったのかの判別は難しい。


 いや、それどころか不可能ですらあった。


 ファウル・ウェザーはその人物の額を中指で触れる。その指先の皮膚が僅かに焼けたが、彼は気にしなかった。


「拙いな……生きているのは大脳、小脳の一部と脳幹だけか……身体は塩基配列が狂っていやがる。破棄した方が早い。おい、今すぐに〝RAR・ラボ〟を持って来い。此処で処置をする」


 額に触れただけなのに、其処までの診断をする。そして白衣を脱ぎながら指示をした。


 今すぐ此処で処置をするということは、この病院では珍しくもない。時と場合によってはトイレでそうすることもあるのだ。


 それに、緊急時には感染などに気を使っていられない。


 ――もっともそれは、ファウル・ウェザーやこの病院に限って、だが。


 指示の返事を待たずに、ファウル・ウェザーは素手でその女性の首を切断した。その切り口は滑らかで、とても素手で切断したとは思えない。


 そして彼はその首を持ち上げ、頭を撫でた。たったそれだけなのに、その頭蓋骨が消滅して脳が露わになっていく。


 脳は汚染により緑色に変色していたため、その汚染部分を丁寧に掻き分け、そして程なく脳と脳幹だけとなる。


 彼はそれを用意された〝RAR・ラボ〟へと優しく入れた。


 ――〝RAR・ラボ〟とは、体細胞の完全な再生と回復を目的に作られた装置である。


 即ち、Reco()very() And() Reprod()uction()


 全長約2.5メートルのそれは、人口羊水で満たされている。


 人体の失われた部分を再生させる装置。過去、この装置によって命を長らえた者は数知れない。


 だが――


「これほどの再生は出来るかどうか解らない。そしていつまで掛かるのかも見当がつかないな。一体、何があった?」


 もう一方のカプセルに横たわっているリケットを見る。既に輸液がされており、服や戦闘服が汚染の可能性があるために全て剥ぎ取られていた。


「……〝PSI(サイ)〟と戦った」


 リケットが呟く。輸液のお陰か、既に意識が回復したらしい。だが身体は相変わらず動かない。まだ其処までのエネルギー補充が出来ていないのだ。


「ほう。で、負けたのか?」

「……さあな」


 勝ち負けなど、リケットにとっては関係ない。それにそんなことを気にするほど矮小でもない。


「だが奴の両上下肢は消した」

「『消した』だと? お前まさか〝ブレイカー!〟を使ったのか?」


 その質問に「そうだ」とだけ答え、リケットは眼を閉じた。


〝ブレイカー!〟。

 正式名称〈EM(エム)C(シー)HEC(ヘック)Breaker(ブレイカー)!=〉。

 それは、超高圧電力によって物体の分子運動を狂わせ、そしてその繋がりを絶つ兵器である。


 物質全てを消滅させるその凶悪さと消費される電力が膨大であり、主に経済的な理由で常在兵器としての稼働が困難であるため、取り扱う商人は存在しない。


 因みに消費される電力は、0.5秒で約12ジゴワット(120億ワット)――落雷のエネルギーの十倍弱である。


「……お前は機械に頼り過ぎなんだよ。だがそう言っても、どうせ『脳が疲れる』とか言うんだろうが。まあいい、ゆっくり休め」

「――ひとつだけ、頼みがある」


 眼を閉じたまま、リケットはファウル・ウェザーに言った。


「今から言う情報を、彼女の塩基配列に組み込んでくれ。彼女が望んだことだ」


 リケットが言う情報を聞き、彼は頷いた。そして再び意識を閉ざすリケットを一瞥し、


「……懐中時計と月――お前は、ジェシカすらも忘れてしまったのかよ……」


 思わずそう口走るが、そういう自分に苦笑した。そうだった、リケットにとってジェシカ・Vという固有名詞は「どうでもいい」存在でしかなかった。


 天才と呼ばれたラッセル・Vに育てられた四人の【Vの子供達】。その一人であるファウル・ウェザーは、彼に最も愛された者をじっと見詰めながら溜息を吐いた。


「相変わらず、自分に正直過ぎて他人を傷付ける奴だ」

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