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 death player IV

 路上で官能的なダンスを踊りつつ客引きをしている半裸の女を尻目に、D・リケットは歓楽街を歩いていた。


 両手をコートのポケットに突っ込み、客引きの女には目もくれずに歩く。


 それでも女達は彼を店に引き込もうとして文字通り絡み付いて来る。


 だが今度は一瞥すら与えずに通り過ぎた。女は路面に唾を吐き掛け、不自然に豊かな胸の谷間から煙草を取り出して火を点ける。そして壁に寄り掛かって次の客を物色し始めた。


 夜の歓楽街は観光スポットとなっているが、気を付けなければならないことがある。


〝路地裏の人々〟に捕らえられ、殺されなかった者がいる。


 その殆どは女性で、そして実に官能的なのだ。


 彼女達は歓楽街を通る者を誘惑し、言葉巧みに路地裏へと誘う。そして一歩でも路地裏へと引き込まれた者は、その時点で〝路地裏の人々〟となってしまうのだ。


 彼女達のことを、人々は「ダーク・キャッチ」と呼ぶ。


 その「ダーク・キャッチ」達は〝路地裏の人々〟の一員となった時点で肉体を改造させられ、本人ですら自分と判らないほど官能的で蠱惑的な容姿を手に入れる。勿論、それにはそれ相応のリスクが伴っているが。


 彼女達は、定期的にその体型を維持するためのドラッグを内服しなければならない。

 そしてそのドラッグは〝路地裏の人々〟が作り出したもので、副作用も強烈だ。

 飲み続けなければ身体が醜く膨れ上がり、そして死に到るのである。


 その薬を手に入れるため、彼女達は夜の繁華街を彷徨い続ける。


 それには、果てなどない。そして救いすらない。


 彼女達を助ける術は、一切ないから。




 ――*――*――*――*――*――*――




 繁華街を通り過ぎ、とあるマンションの前でリケットは足を止めた。


 そしてポケットから手を出し、握られているメモを一瞥する。


『四番街7-16967-404 トレントリース3050号』


 メモを持っている手を一度だけ強く握り締め、そして開く。メモは青白い火に包まれて、灰も残さず燃え尽きた。


 マンションの自動ドアをくぐり、そしてインターフォンのボタンを押す。暫くすると、女性の声がした。


 なにがあったのか、それは涙声だったのだが、リケットは気にしない。いや、気付いていないのだろう。


『……どちら様ですか?』


 スピーカーから声がする。此方からは相手の姿は見えないのだが、向こうからは確認できるだろう。リケットは顔の半分を覆うくらい大きなサングラスを外し、


「D・R」


 一直線にカメラを見詰めて呟いた。


『……ウソ……』


 スピーカーから、涙を押し殺した声がする。それが何を意味しているのか、やはりリケットには解らない。


 仮に判ったとしても、興味などない。そもそも此処に来たのは、只の気紛れ以外のなにものでもないからだ。


『本当に……貴方なの?』


 声は続いた。それを何も言わずに聞き、再びサングラスを掛けた。


『イヤ、掛けないで! もっと、顔を良く見せて』


 掛けたサングラスから手を放す前にそう言われ、溜息を吐きつつそれを外した。


 スピーカーの向こうから、激しく嗚咽を上げる声が聞こえて来る。


『逢いたかった、逢いたかったよ……ずっと逢いたかったんだよ。ねぇ、どうして突然いなくなったの?』

「……用件は?」


 涙声で聞く声に対して、リケットは冷たくそう言っただけだった。


 それがなにを意味しているか、声の主には判ったのかも知れない。僅かだが沈黙し、そして自動扉が開いた。


『取り合えず、入って』


 そう言い残し、声は途切れた。最後の声にはやや怒気が混じっていたのだが、彼はそれを理解するだけの心を持ち合わせていない。


 エレベーターの横には、その中を映し出すモニターがある。それを一瞥して誰もいないことを確認し、乗り込んで30階のボタンを押した。


 緩やかにエレベーターが動き出す。階下のモニターには、リケットの姿が映し出されている筈だった。


 だが、其処には何も映っていなく、無人のエレベーターのみが映し出されている。


 そして30階に着き、ドアが開いてエレベーターを降りる。


 その一瞬だけ、リケットの姿がモニターに映った。


 階下に人がいたのなら、それを見て不審に思うだろう。


 だが、マンションのエレベーターが勝手に動き出すことなど、珍しくもなんともない。実害がなければその程度では騒がない。それが「市街」の人々なのだから。


 このマンションは「バビロン・タワー」ほどではないがそれなりに広く、ワンフロアに60戸の部屋があるらしい。


 その為にエレベーターの前には電光掲示板があり、其処で行きたい部屋番号を入力すれば自動的に廊下のナビゲーションライトが点灯する仕組みになっている。


 大抵の者はそれを利用するのだが、リケットはそれに目もくれずに歩き出す。

 そして暫く後、彼は目的の部屋の前に来ていた。どうしてこの部屋の所在が解ったのか、それは彼にしか理解出来ないことだ。


 ドアの横にあるチャイムを鳴らし、中にいる者を呼ぶ。


『え、もう来たの? ちょっと待ってて……』


 其処まで言うと、なにかが派手に転がる音となにか金属製の物――多分鍋だろう――が落ちる音、そして彼女の悲鳴がした。


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