9 害虫退治
王宮の夜会会場で陛下の挨拶が終わり、デゼール王国のナダリア第一王子の紹介も終わると楽団が演奏を始めて、マリーナ王女とナダリア王子のダンスが始まった。美しい二人に人々は魅了されている。
王族のダンスが終わってエマは義兄とダンスを始めたが、今夜の義兄がなんだか甘すぎてエマは戸惑っていた。いつもより距離が近くその美貌から醸し出される色気に当てられそうだ。
ダンスが終わるとマリーナ王女が近づいてきて義兄は少し顔を顰めた。
マリーナ王女は気さくな性格で男女問わず人気がある。
パートナーのナダリア王子はシンシア公爵令嬢と踊っていた。
「カミール、1曲どうかな?」
女性の、しかも王女様のお誘いだ。
「今夜はエマ以外の令嬢とはダンスは致しませんので」
(お兄様~~~~~)
「エマ嬢、私は君の兄に振られたよ」
「申し訳ありません。お兄様!私は大丈夫なのでダンスをお受けして下さい」
「ははは、しかし君は独占欲が強いな。エマ嬢は全身真っ青だ」
「害虫が多すぎて、これでも足りないくらいです」
「ふむ、私も害虫を追い払ってくるかな、夜会を楽しんでおくれエマ嬢、では失礼」
王女の害虫とは何のことだろうか。
カミールは再びエマの腰を抱くとフロアーに出てダンスを始めた。
「今夜はどうしたのですか? お兄様はヘンです」
「エマ、お兄様ではなくて今夜は名前で呼んでくれないか」
「はい? そ、それはちょっと無理ですわ」
「そうか、まだ早いかな。時間を掛けなければ・・・う・・ん」
ブツブツ呟く義兄にエマはやはり義兄は王配になるのではないかと疑った。
(他人になるから今から名前で呼ばせようとしてるの?)
「カ、カ、カミール様?」
「なんで様付けなんだ? 名前だけもう1回呼んでくれないか」
「そんな恐れ多いことは!」
斜め上思考のエマだから、きっとまた勘違いしているとカミールは思った。
「まぁ そういう所も可愛いのだけど」
頭にキスをされて「ふぇ?」とエマは顔が熱くなる。
やはり今日はいつもと違う、焦って義兄の足を踏んでしまった。
2曲目のダンスが終わるとザワザワとざわめきが起こり、会場内を見渡すとエマは青くなった。
マリーナ王女がナダリア王子を父と姉に紹介していたのだ。
姉とナダリア王子がダンスを始めると眩暈が────
「エマ、大丈夫か? 少し休もう」
「いえ、お兄様。お姉様を見張らないと!」
「あれは害虫退治をしているんだ。放っておけばいい」
鈍いエマでも意味が伝わった。
マリーナ様はナダリア王子を排除しようとしている。
それはつまり王配、義兄と婚約をする為に違いない。
「でもお姉様がまた過ちを犯したら」
ハラハラしながら姉を見ているとダンスが終わるなり父の元に戻り、一言二言話すとどこかに向かった。
「どこにいくのかしら?」
「元カレとデートだろう。心配ないよ」
カミールが止めるのも聞かずオリーヴを追いかけた。
姉は外の庭園に。
ダンスが続くフロアーを見渡したがナダリア殿下の姿が見えない。
庭園に出てオリーヴは走るように奥へと進んで行く。
(また問題を起こしたら大変だわ)
エマは慣れない靴で少し足が痛くなったが姉を追いかける。
義兄がなぜか腕を引っ張るので姉に距離を取られて見失ってしまった。
「どこ行ったのかしら」
立ち止まって見渡していると────
「あ・・あん・・」
「・・・うん・・・ん・・」
何処からともなく令嬢の呻く声が聞こえる。
「エマ、ここは恋人たちが過ごす場所だ」
カミールが耳元で熱く囁いて後ろからエマを抱きしめた。
「そ、それじゃぁ、ここで殿下と淫らな関係を」
「・・・はぁ、しょうがないな、来てごらん」
カミールに案内されて茂みの奥を見ると姉は元カレのヤンデール伯爵令息とキスの最中で────
「ここがオリーヴの逢引き場所だ」
「ひやぁ」
身内のラブシーンにエマは結構ショックを受けた。
「戻るよ。エマにはまだ早い」
義兄もあそこで姉とキスをしたのだろうか。
(うぅ・・・ヤダ、想像しちゃったわ)
広間に戻り果汁水を飲んでいるとマリーナ王女が今度はナダリア王子を伴って接近してきた。
「ナダリア殿下、こちらは私の部下のカミール。彼の妹のエマ嬢だ」
紹介されて挨拶を返すと、ナダリア殿下がエマに手を差し出した。
「エマ嬢、踊って頂けますか」
「はい、喜んで」
即行ナダリア王子の手を取った。
「お兄様はマリーナ様とダンスをどうぞ」
エマは目の前の害虫王子を見つめた。金髪碧眼の美しい方だ。
先ほど姿が無かったのは休憩されていたのかもしれない。
(姉との浮気を疑って申し訳なかったわ)
「噂ではカミール殿がマリーナ王女の婚約者候補だと」
声もイケメンで素敵だ。どこが害虫なのか。
「兄は違うと言ってますが、分かりません」
「・・・私も違うと思います」
「そうでしょうか」
「ええ」
惚れ惚れする笑顔を向けられてエマはポ~ッとしてしまった。
(お姉様が興味を持たないはずだわ。この方はカミールお兄様にオーラが似ている)
「ほら、貴方が心配でずっとこちらを見ています」
見ているというか、マリーナ様とダンスしながらこっちを睨んでいる義兄と目が合った。
(大丈夫、王子様の足を踏んだりしないわよ)
「恥ずかしいですわ。いつまでも子ども扱いなんです」
ナダリア王子はクスクス笑った。何が可笑しかったのか?でもナダリア殿下には好感が持てた。
「有難うございました。楽しかったです」
エマがナダリア王子から離れると直ぐにカミールが肩を抱いて、エマを誘いたい害虫令息たちを睨んで蹴散らした。
「楽しそうだったな」
「ええ、とっても。でもちょっと足が痛くなってきちゃった」
「じゃぁ帰ろうか」
「お兄様は残って下さっても」
「いや、帰ろう」
父に声をかけて外に出ると義兄はエマを抱えて馬車に向かう。
恥ずかしかったが足が痛いのでエマは甘える事にした。
読んで頂いて有難うございました。




