7 デビュタント
デビュタントの日がやって来た。
エマも気持ちが落ち着いて前向きになろうとしている。
この日は見違えるように美しく艶やかに、侍女たちによってエマは変身させられた。
「お嬢様はこんなにもお美しいのに、やっと私達の願いが叶いました」
侍女たちはエマの美しさを褒め称えた。
「綺麗にしてくれて、皆ありがとう」
ドレスアップしたエマに父も満更ではなさそう。
「エマ綺麗だ。流石私の娘だ」
「今までとギャップが凄いわね。誰もエマってわからないわよ」
「お姉様、今日はお兄様をお借りしますね」
「は?勝手にどーぞ」
「エマそろそろ行こうか」
「楽しんでおいで、あまりお喋りするんじゃないぞ」
「はいお父様、では行って参ります」
大好きな義兄がエスコートしてくれる。エマは差し出された手を取って王宮に向かった。
王宮の控室で待っていると緊張してエマは義兄の腕を強く握っていた。
「大丈夫だよ。落ち着いて」
義兄は姉と既にデビュタントを経験済みである。
任せておけば心配ない。
エマが表情をを和らげると義兄は愛おしそうにエマを見つめた。
「本当に綺麗だ、いつの間にか大人になっていたんだな」
「お兄様、照れるからやめて下さいな」
正装している義兄はいつにも増して素敵だ。
お爺様には義兄のような婚約者を決めて欲しいとエマは思う。
「フランセ侯爵家のエマ様ご挨拶させて頂きたく存じます。本日はデビューおめでとうございます」
気が付けば大勢の貴族に囲まれて挨拶を受けていた。
「有難うございます」
お礼を述べてエマはカミールの横でニコニコしていると、あとは義兄が上手く対応してくれる。
やがて名前を呼ばれて二人で眩しい大広間に出た。
震えながら壇上の両陛下にご挨拶に向かうと陛下からお祝いの言葉を頂いた。
「お祝いのお言葉、大変嬉しく存じます。これからも臣下として誠心誠意お仕えさせていただきます」
何度も練習したお礼の言葉を返すとエマのメインイベントが終わった。
「それでは御前を失礼致します」
落ち着いたカミールに促されてその場から離れ、エマはカミールと来て本当に良かったと安堵した。
エマたちのダンスが始まると大広間には白いドレスの花が咲き、初々しい光景が広がった。
足を踏まないか気にしてるとカミールが囁いた。
「ほら胸を張って、今日は世界中でエマが一番美しい」
「はい」
カミールのリードでエマは緊張が解けて体が軽くなりフワフワと舞っているとダンスは終わってしまった。
カミールは注目の的でダンスが1曲終わるとすぐに令嬢達に囲まれている。
エマの元にはサミュエル第一王子殿下が来てダンスを誘われた。
殿下は学園の1年先輩でもある。幼い頃は婚約者候補にもなって何度か遊んだこともあったが殿下は公爵令嬢と婚約した。
「踊って頂けますか?」
「は、はい、喜んで」
会場にざわめきが起こった。
「いつの間にこんなに綺麗になったのかな?」
「ふふふ、兄にも先ほど言われました」
「はは、カミール殿はエマ嬢を溺愛しているからな」
「末っ子ですから」
「そういう事にしておこう」
周囲に注目されながら殿下に優雅にリードされ、大広間の中心でダンスを披露できてエマは満足だった。
しかしダンスが終わり周りを見回すと、エマは見つけてしまった。
(ユーリ・・・・レイラ様と参加していたのね。気づかなかった)
二人は見つめ合って息の合ったダンスを披露していた。
大勢の男性からダンスを誘われたがエマは疲れたからと断ってユリウスから反対の方向に身を隠した。
「エマ、大丈夫か?」
義兄が追いかけてくれていた。
「うん、ちょっと驚いただけ。平気よ」
「帰るか?」
「ううん、お兄様ともう一度踊りたいわ」
義兄と踊っているとエマは子どもの頃カミールがダンスの練習相手をしてくれたのを思い出した。いつも優しかったカミール。オリーヴと結婚したら本当の兄となり、誰にも取られないと思っていた。
「ねぇ、お兄様はマリーナ様と婚約して王配になるの?」
「まさか、ただの噂だよ」
「良かった。王宮に行ってしまったらもう会えなくなると思ったわ」
「私はエマの傍にずっといるよ」
「本当に?約束よ」
(私とずっと一緒にいてお兄様は幸せになれるだろうか)
この時初めてエマは義兄の幸せを考えた。
「私ね、お兄様も幸せになるようにお手伝いするわ」
「エマが幸せになるのが私の幸せだ」
「お爺様に次の婚約者を探してくれるようにお願いしたの。次は間違えないわ」
「・・・えっ!いつの間にそんな話を」
「私は幸せになるからお兄様も幸せになって欲しいわ」
笑顔で話すエマにカミールは複雑だ。
ボーエン伯爵家からエマを抱え出したあの日、怒りと共に仄暗い喜びも感じ、大切な宝物を手にした気がした。
「エマ、愛しているよ。二人で幸せになろう」
「ええ、絶対になりましょうね!」
エマに真意は伝わっていない。
まだまだ兄の領域からカミールは抜け出せない。
読んで頂いて有難うございました。




