その1
「とうとう捕まえたぞ女騎士」
薄暗い部屋の中、オークは不敵な笑みを浮かべながら、そう息巻いた。
「クッ……殺せっ!」
女騎士は手を縛られ、重りの付いた足枷で自由に身動きが取れない状態にされていた。彼女は内心何をされるか戦々恐々としながら、しかしそれを悟られぬよう強い心を保ってオークを睨みつけた。
「ようやく捕まえた女騎士をそう簡単に殺しはしない。むしろ、死よりもおぞましい苦しみで貴様を絶望の淵に叩き落としてくれる。」
「死よりもおぞましい苦しみだとっ!? しかし私は誇り高き女騎士! 卑劣なオークの拷問などには決して屈しないぞ!」
女騎士の眼にはまだ、抗う力強い光がみなぎっていた。
「クックックッ……どこまで耐えられるかな? これはどうだ!」
オークが手元のスイッチを押すと、薄暗かった部屋は一気に明るくなった。女騎士は眩しさにしばし目を細めるが、やがて目が慣れて全体を見渡せるようになった。奥行きのない狭い真四角の部屋に思われたが、縦長だったようで少し奥まった所に並び立つ人の姿があった。
「女騎士ちゃん!? 無事なの!?」
「ああっ! 女騎士捕まってしまったのか!」
そこには女騎士の両親がいた。幸い拘束具などで縛られてはいなかったが、何をされるのかと2人の顔には恐怖の色が浮かんでいた。
「母さん! 父さん! オーク貴様ぁ! 両親を人質に取るとは卑劣な!」
明らかに狼狽えている女騎士の姿に、オークは自分の目算が間違いではなかったと思わず声を上げて笑った。
「わっはっはっ! どうやら効果てきめんのようだな。驚いている暇はないぞ、早速拷問を始めるぞ!」
オークが合図すると、部屋の中に1台の台車が運び込まれた。台車の上には大人1人分くらいの高さがある本棚が乗っており、何やら書物が丁寧に並べられていた。
「こっ、これは私の家の本棚!? 何故こんなものがここに……?」
オークはこれから始まる地獄そのものを想像しほくそ笑んだ。そして女騎士の母親にこう促した。
「それではお母様、こちらは女騎士が個人的趣味で集めた本でございます。大変お手数ですが、今からお好きな1冊を一字一句漏らさず声に出して読んでいただきたく……」
母親は突然の要求に困惑しつつも
「そ、そんな事で女騎士ちゃんが解放されるなら、いくらでもやって上げますとも! コレにするわ……あっでもなんかヤケに薄い本ね……とにかく! 女騎士ちゃん、お母さん頑張るからね!」と、健気にも女騎士を勇気付ける余裕を見せた。
「ああっ! お母様! それだけはっ!」
女騎士の懇願も虚しく、彼女の母親は、彼女の個人的趣味で集められた中の一冊『イケオジ団長! こんなバリスタ入りませんっ!』を朗読し始めた。
“団長!? 本当にこんな行為で、敵軍の絶対防御を打ち破れるのですか! 何を言う! それからこのバリスタを君の※※※に打ち込み、※※※※する事によって※※※出来るのだ! わ、分かりました……ああっ! そ、そんな※※※※! ※※※※だろう! 耐えて見せよ! ううっ! ※※※※! ※※っ! ※※ッ! こ、これはっ! 防御できませんっ!……”
女騎士の母親は、顔を真っ赤にしてこのとんでもない同人本の読み上げを続けている。父親は目を丸くして、“一体これは、誰が何のために書き上げ、そして女騎士は何のために買ったのか、聞く必要がある”と冷たい目を向けている。本の朗読が終わる頃、恥辱の極地で女騎士はもう息も絶え絶えになりながらこう言った。
「もう……屈します」
「……堕ちたな」
「だがまだ終わったとは言ってないぞ」
オークは悪どい笑みを浮かべながら、トドメを刺すべく女騎士の母親に新たな薄い本『トロットロトロイの木馬』を手渡すのであった。