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2-15:「不快の攫え方」

「――アルマジロより1-1より周辺ユニットへッ。応援を求む……ッ!」


 鷹幅は、その中性的な童顔にしかし険しい色を作り、自身の装着する指揮官用携帯無線にそう発し上げた。彼の背後には高機動車が止まり、その車上や周囲には、同様に顔に険しい色を作る、小隊本部班の隊員達の姿があった。

 彼ら、小隊本部班のいる場所は、愛平の町をほぼ中央を南北に通る、町の主要町路上の一点。小隊本部班は、先にサウセイとジューダ達を保護したために、一時的に進行停止を余儀なくされた3分隊の担当範囲を一部カバーすべく、後方追従から転じて前に出てきていた。

 しかし今その小隊本部班は、町路上で進行を停止。そして本部班各員は、一様に険しくそして焦り戸惑う様相で、町の先を睨んでいた。

 彼等の先にあったもの、それは町路を塞ぐように並べ詰まれた木材や木柱の数々。そしてその背後に覗き見えるのは、多数のオーク達の姿。その様子から、それ等が町路上に張られたバリケード、陣地なのは容易に予測がついた。

 しかし。本部班の隊員達が見せる困惑の理由。それはまた別にあった。

 バリケードの各所には、なんと痛ましい事に、切断された人間の首。そして損壊した死体などが、無数にぶら下がりあるいは磔られていた。おそらくこの町の住民や騎士団の男の物と思われるそれは、無残にも見せしめのために、オーク達の手により晒されていたのだ。そして……


「……お願い、オーク様たちに逆らわないでぇ……」


 バリケードの正面から、か細く求めるような声が上がる。それは女の物。なんとバリケードの正面には、何人もの生きた女達が、縛られ磔られ並んでいた。おまけに揃って裸に剥かれ、あられもない姿を晒している。

 女達は、この町の住民や騎士団の女騎士。それがオーク達に生け捕りにされ、肉の盾として利用されていたのだ。


「どうかオーク様の軍門に下ってくれぇ……」

「人間ではオーク様たちには叶わないのぉ……」


 そして、そんな磔られ並ぶ女達からは、そんな降伏を訴える声が漏らされ聞こえてくる。それはまるで背後のオーク達に、媚びへつらうかのような物。

 女達はすでにオーク達からの数多の暴力凌辱により心折られ絶望。オーク達に縋りよるために人間を蔑む事も厭わない、完全に屈服した存在に成り下がっていたのだ。


「なんて事を……」


 この地獄のような光景が、小隊本部班が停止を余儀なくされている理由であった。

 光景、そして漏れ聞こえてくる声に、鷹幅は思わず声を漏らす。


「選抜射手は!?」

「配置に向かわせましたが……あの数、状況に対応するのは厳しいかと……」


 鷹幅は振り向き、傍らに付き添っていた陸曹に尋ねる。陸曹は答えるが、同時に向かわせた選抜射手だけでは状況への対応は難しいであろう旨を返す。


「くっ……――各ユニット!こちらは敵の陣地に遭遇、敵は町の住民を多数人質に……肉の盾にしている!こちらだけでの対応は困難、至急応援願う!」


 それを受けた鷹幅は、苦し気に声を漏らす。そして無線機に向けて、再び応援を要請する言葉を紡ぎ叫んだ。




 場所は3分隊の位置する交差路へと戻る。

 すでにサウセイと男の子のティウは、移送のために寄こされた中型トラックにより町の外へと避難していき、その場には制刻等と3分隊。そしてジューダの姿が残っている。


「――なるほどな」


 89式装甲戦闘車の傍には、峨奈の姿がある。

 彼の周りには制刻や敢日。さらにはジューダが囲い、皆、峨奈の手元にあるタブレット端末の画面を除き注視していた。

 そこに映っていたのは、上空の無人観測機からの映像。映し出されクローズアップされているは、今まさに小隊本部班が直面している、肉の盾のバリケードがある現場。


「気持ち悪いマネをしてくれる」


 再び上がる峨奈の呟き。それは寄こされた通信と上空映像から、小隊本部班側の状況を把握したことで零されたものであったが、凄惨な光景を前にしてしかしそれは、妙に冷静――いや、他人事染みた物であった。


「ッ、また反吐が出る行為をしてくれたな……!」


 一方。タブレット端末を覗き込んでいた敢日は、その悪逆非道の行いを目にして、憤慨の声を上げている。


「連中の、常套手段だ」


 そして、ジューダから重低音での補足の声が上がる。

 はじめは一応の説明を受けてなお、タブレットを不思議な面持ちで見ていた彼であったが、今は同種族の卑劣な行いに憤りを覚えているのであろう、発されたその言葉には静かな怒りが含まれていた。


「急ごうぜ!向こうはヤバそうだ!」


 そして敢日は、向こう側へ応援に向かう事を急かす声を発し上げる。


「焦りなさんな」


 しかしそれを差し止めるように、状況に反した冷静な声が峨奈から上がった。


「向こうは変に住民を意識して、まごついてるようだな――鷹幅二曹(かれ)らしい」


 そして峨奈は再び手にしたタブレットで、小隊本部班側の状況を確認。そのうえで、何か呆れの含まれたような言葉を一言零した


「これはヘタに綺麗にやろうとすると、二進も三進もいかなくなるパターンだ」


 そして視線を起こして、引き続きの言葉を紡ぐ峨奈。


「――おい、峨奈さん。何を企んでる?」


 そんな峨奈に、敢日は少し詰問するような色で言葉を飛ばす。峨奈のその言い回しと様子から、何か穏やかではない気配を感じ取ったからだ。


「解放」


 しかし、そんな敢日を抑えるように呼び止める声が掛かる。他でもない制刻だ。


「ちぃと、ぶち抜くプランも必要になってくるかもしんねぇ。覚悟はしてたろ」


 制刻は続け、説くようにそんな言葉を敢日に投げる。


「だが――」


 それでもなお、敢日は食い下がろうとする。


「峨奈三曹。あれなら、俺等で踏み込みますが」


 しかし制刻は敢日の言葉を遮り、峨奈へ視線を向けて進言の言葉を発した。


「いや、本部班への応援対応は我々3分隊で向かう。よければ君らは、予定のルートを押し上げてほしい」

「いいでしょう」


 峨奈は制刻の進言は取り下げ、制刻等には3分隊が担当するブロックラインの引き続きの押上げを指示。

 制刻はそれをやや不躾な言葉で了承。


「それじゃ、アンタも俺等と来てくれ。まだ無事な人らの、アタリを知りてぇ」


 そして制刻は、ジューダへ自分等への同行を要請する。


「しかし――大丈夫なのか。策はあるのか?」


 それに対してジューダは、少し困惑の色を見せて尋ねる言葉を紡ぐ。


「大丈夫。生半可な事はしません」


 その尋ねる言葉には、峨奈が、そんな言い回しで答えて見せた。


「解放、GONG。そんじゃぁ、行こうぜ」


 峨奈の回答が終わると、制刻は敢日等にそう促しながら、自身は遠慮なしといった様子で身を翻し、歩き始めてしまう。


「おい!――ッ、チクショウ」


 敢日は納得いかないといった様子の言葉を荒げるが、しかし結局制刻を追いかける。ジューダも、少し不穏を感じているような色を見せながらもそれに続き、最後にGONGの巨体がノシノシと追いかけて行った。


「――髄菩陸士長」


 そんな制刻等を見送った後。峨奈は背後の89式装甲戦闘車を見上げ、その砲塔上でキューポラから半身を出す髄菩に呼びかける。


「はい」


 呼びかけに、髄菩からは倦怠感を隠そうともしない返事が返ってくる。


「聞いてたな?本部班への応援へは我々で向かう。その上で――」


 しかし峨奈は気にせず、続く言葉を紡ぐ。それは応援に向かう上での、具体的な行動を説明支持する物。


「ッ――」


 それを聞いた瞬間。砲塔上で髄菩は、その陰険そうな顔立ちであからさまに嫌悪した顰めっ面を作る


「――了解」

「すまんな、頼むぞ」


 しかし直後には、投げやりな了解の返事を紡ぐ。それに本当にすまないと思っているのか怪しい、淡々とした声色で任せる言葉を返す峨奈。


「藩童、聞いたな?出せ」


 そして髄菩は、操縦手の藩童に告げ指示。

 89式装甲戦闘車はエンジンを唸らせ、鎮座していたその場から動き始めた。




 先の小隊本部班が遭遇した、吐き気を催す人間の盾のバリケード。

 その内側では、そこに籠る多数のオーク達の姿があった。


「なんなんだぁ、あのおかしなヤツらと荷車ハ?」


 その中の一体が、バリケードの隙間より町路の先を除き伺い、そして訝しむ声を上げる。

 その一体を始め、数体のオーク達の視線はいずれも、バリケードを越えた向こうに現れたおかしな荷車――本部班の高機動車と、隊員達に向いていた。

 オーク達は皆、唐突に表れた不可解な物体と者達に、懐疑的な目を向けていたのだ。


「妙な恰好してやがルぞぉ?」

「どっから入ってきたンだ?」

「さっきのでかい音は、あいつらが関係してんのカぁ?」


 口々に訝しむ、あるいは推測の声を上げるオーク達。


「へっ、なんだろうと構わねぇゼ」


 しかしその中から、一体のオークがそんな声を上げた。


「新しく獲物がノコノコ現れたんダ。これまで通り殺して奪っチまえばいいんダ」

「ハハッ!そりゃそうダッ!」


 一体のオークの発言に、他のオーク達は賛同し、下卑た笑い声を上げる。


「どぉれ。ちょいとさらにビビらせてやるカぁ」


 そしてまた一体のオークが、息巻いてそんな言葉を発する。そのオークはそれから身を翻して、町路の端へと歩み近寄る。

 そこにあったのは、裸に向かれ首輪で繋がれた、女達の姿。

 女達は皆、この町の住民や騎士団の騎士であったもの。そして今はオーク達の戦利品であり、悍ましい人間の盾のバリケードのための『材料』であった。


「オラ、メス共ぉ。また役に立ってもらウぞ」

「あぁ……そんなぁ……」

「お慈悲をぉ……」


 女達の目の前に立ち、言葉を浴びせるオーク。それに対して女達は一様に、弱弱しい声で許しを請う言葉を漏らす。

 しかしオークはそんな女たちの言葉に耳を貸す様子はまるで見えず、下卑た笑みを浮かべて品定めするように女達へ視線を走らせる。


「へへへ、やっぱりここは最強の騎士様といくカぁ」


 そしてオークは女達の中から一人の女に目を付け、その首輪に繋がる鎖を取って掴み引っ張った。


「あぅっ……くうっ……」


 オークに目を付けられ引き出されたのは、女達の中でも特に目見麗しい美女。

 彼女はこの町の騎士団の騎士であり、そして騎士達の中でも最も剣技に長け、騎士達や町の住民達から恐れられそして憧れ敬愛された女であった。

 町が襲撃された当初には、その腕をもって数多のオーク達を屠って見せた彼女。しかし捕らえられた町の住人を盾にされ、彼女はやむを得ず剣を捨てオーク達に投降。その軍門に下った。


「ゲヘヘッ。この騎士様を町の連中の前で犯してやった時は見物だったよなっ」

「あァ。最強の騎士様が俺達によがって媚びてる様を見せつけられた時の、町の男共の惨めな顔ったら無かったぜっ。思い出しても笑えてくらァ」


 女騎士を引きずりながら、下品な会話を交わすオーク達。

 オーク達の手中に落ちた女騎士は、己もまたその身を肉の盾として利用されてしまい、住民や仲間の騎士達の前に晒され凌辱の限りを尽くされていた。

 そして恥辱と凌辱により心折られた女騎士は、オーク達に媚びへつらい、住人や仲間達に向けて全面降伏訴え、町人や仲間たちを絶望の底に陥れたのであった。


「おぉら騎士様、また俺達の役に立たせてやるゼ。せいぜい俺様のモノでだらしなくよがって鳴いて、人間共を絶望させてくレよ」

「あぁそんな……また、屈強なオーク様に犯されてしまうのかぁ……」


 女騎士に下卑た言葉を浴びせるオーク。対する女騎士はまるで抵抗の色も見せずに鎖に引っ張られ、そしてか細く嘆きしかしどこか媚びるような声を漏らす。

 女騎士は今やすでに心身共に完全にオーク達に折られ屈し、絶望を受け入れオーク達に媚び従うものに成れ果てていた。

 女騎士はオークに引かれヨタヨタと歩かされながら、バリケードの内側端の一角に連れていかれる。

 そこには木箱や瓦礫を雑に積み上げた足場が設けられていた。一応本来の用途は、バリケードの向こう監視するための見張り台代わりの物。

 オークは女騎士の首根っこを掴んで持ち上げ、足場へと乗って立つ。そして自身の巨体の前で女騎士を抱いて抱え上げ、女騎士は一糸纏わぬあられもない姿を晒されてしまう。


「よく鳴けよぉ、それだけ人間共は面白く狼狽えるからナぁ」


 オークは舌なめずりをしながら、自らの股間のモノを露出させる。これから女騎士を犯し楽しむつもりだ。

周りや足元には、女騎士の仲間や護るべき住民であったそれが無残に晒され、磔られた女達が媚びて鳴く中での、冒涜的で背徳的な行為。


「あぅぅ……人間ではオーク様には到底叶わないんだぁ……オーク様にお慈悲を頂くしかないんだぁ……」


 そんな残酷な光景の中で、しかし女騎士はうめき声のように人間を卑下する言葉を、そしてオークに媚び売る言葉を漏らす。それは己が絶望に屈しオークの慰み物になる事を、仕方がない事と言い聞かせる物。


「ゲハハッ、いいぞ本当に面白いぜっ。そら、俺様のモノでいい声響かせナぁッ!」


 女騎士の絶望と屈服の言葉に気を良くし、オークは下品に笑い上げる。そしていきり勃たせた己の股間のモノで、女騎士を貫かんと腰を振るおうとした……



 ――衝撃音が割入ったのはその瞬間であった。



 町路を渡るバリケードの東側側面。そこに建っていた住居家屋の壁面が、突如としてその内側より爆ぜるように倒壊。瓦礫が飛び散り四散し、家屋に大穴が開く。

 そしてその内から現れたのは、全体を緑色に染めた、あまりにも巨大な〝何か〟。


「ハ――?」


 突然の事態に、オークは視線だけをそちらに奪われ、振るい上げようとしていたその腰を、身を硬直させる。

 突如として現れた怪物は、家屋の傍に立っていた数体のオーク達を、いとも容易く跳ね飛ばし、あるいはその異質な足回りで轢き潰し。さらには組まれていたバリケードをまるで喰らうように轢いて壊し――直後にはその止まらぬ突進でオークの目の前に急襲。


「――エっ?」


 怪物はその鼻面で、オーク達が立っていた足場をど突き壊した。気づけば足場上に居たはずのオークは、抱えていた女騎士ごと宙空に投げ出されており、その牙を有する厳つい口からは、しかし締まらない声だけが漏れる。


「――ギュェッ!?」


 そして一瞬後、オークは固い町路地面に叩きつけられ、無様な悲鳴を上げた。




「――ギュェッ!?」

「――ぎゅぅ!?」


 オークが。そして遅れて、共に投げ出された女騎士が地面に叩きつけられ、悲鳴を上げる。受け身も取れずに地面に叩きつけられ、鈍痛に苛まれ身悶えるそれぞれ。


「あぎぃ……な、なに……」


 内、叩きつけられたカエルのような姿で身悶える女騎士。――しかし直後。彼女の身を唐突に影が多い、そして何か巨大な物の気配がすぐそこに差す。


「――ひぇ?」


 顔を起こした女騎士の口からは、間の抜けた声が漏れる。彼女の視界を占めたのは、黒く武骨な動く〝何か〟。


「――ぱぇッ」


 妙な悲鳴。そしてパキャッ、という乾いた音が響いたのはその直後。

 女騎士に差し迫っていたのは、今しがた急襲した正体不明の怪物。

 そして見れば、その怪物の不気味な印象さえ受ける足回りが、女騎士の頭を踏み潰していた。

 果実のように爆ぜ潰れた女騎士の頭。しかし怪物はそこで止まる様子もなく突き進み続け、異質な足回りでさらに女騎士の胴を飲み込むように踏みつぶす。

 女騎士の胴は完全に怪物の足に潰され消え、血溜まりが。そして怪物の足回りの範囲から外れた女騎士の四肢だけが、覗きビクリビクリと痙攣していた。


「う、ウわぁぁァッ!?」


 恐怖の動揺の声が上がったのはその直後。その声の主は、先に女騎士を犯そうとしたオーク。女騎士より少し先に投げ出されたオークは、女騎士が怪物に踏みつぶされる様子を、まざまざと見せつけられる形となった。そしてその怪物はなお止まる事なく、不気味な唸り声と音を立てて、オークへと迫る。


「ヒィッ!」


 臆し、慌て這いずり逃げ出すオーク。しかし怪物の速度は、その巨体に反して異様に速かった。這いずり逃げるオークに、怪物は易々と追いつく。


「――ギッ!?――ギャァァァァッ!?」


 怪物はその足回りで、這い逃げていたオークのその脚を捕まえるように巻き込む。そしてまるで喰らうように、オークの胴を轢き潰し出した。


「ヒギャァッ!?ヤメ゛ッ!ギャアアッ!」


 怪物の巨体の重量に捕まえられ、最早逃れる事もできずにみるみる飲み込まれていくオーク。


「タズ――ア゜っ」


 怪物の足回りは、数秒後にはオークの上半身までもを轢き潰し切った。そして足回りの進路から丁度外れていたオークの首から上だけが、切断されるようにプツリと胴を離れる。

 そして、そこまで行った所でようやく動きを止めた怪物の脇に、オークの生首がゴロリと転がった。

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