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私が、上履きを忘れた その2

 理科室は渡り廊下を通って、特別教室が入った棟の4階にある。私の教室も4階なのだけれど、4階には、渡り廊下がない。だから一旦3階に降りてから、再び向こうの校舎の階段を一つ登らなければならないのだ。普段は気にしないその動作も、上履きのない今日は煩わしく感じる。こんなに靴下のまま廊下を歩いていたら、きっと足の裏、汚れちゃうだろうな。つま先立ちにも疲れて、今の私は足の裏全体を付けて、廊下を歩いていた。後ろから、ココロの声が近づいてくる。よかった、まだ行ってなかったんだ。振り向いて見るとその後ろには、私のクラスの男子が数人ついて来ていた。

「まってよー、ヒナ!」

「あー、ココロ、ごめんね、先に行っちゃってると思って」

「ううん、いいんだけど、大丈夫?先生に、何か言いかけてたけど?」

「あれ?見てたんだ。うん、なにか上履き、借りようかなって思ったんだけどさ、やっぱり恥ずかしくって、言えなかったんだ。だから、今日は一日靴下で過ごすことにする」

私はつとめて笑顔で言ったけれど、ココロの目にはそう映っていなかったのかもしれない。心配そうな顔をして、ココロが言う。

「そっか。・・・よかったら、私が、頼もうか?」

「いいよー、そんなこと。私が決めたことだもん。ココロは気にしないで」

ありがたかったけれど、もう、私は中学生。こんなことで、お友達に迷惑をかけたくなかった。それに、もう結構校舎内を歩いてしまったし、いまさら上履きを借りても、汚れた靴下で履いちゃったらそれを汚しちゃって、悪い気がする。

「そう?」

「うん」

そんなことを話しているうちに、理科室にたどり着いた。黒板を見ると、いつものように今日の実験内容が書いてある。今日の実験は・・・、空の観察?

 特に準備するものはなし。理科室での指定席に座り、チャイムが鳴ると、理科の先生がやってきた。授業は面白いんだけれど、怒らせたら、怖いんだ。

「みんなそろってるか?今日から、天気の学習に入る。天気図とか、湿度とか、聞いたことあるだろう?手始めに、空の観察と行こうか。全員、体育館棟の屋上のプールに集合だ」

とたんに教室がざわめきだす。私の学校のプールは、敷地面積の関係で、体育館の屋上に作られた。25メートルで、幅も十分。屋根はついてないけれど、高いところで泳げるのは気持ちいい。でも今からそこまで行くのか・・・。みんな上履きのまま、だよね?だけど私は靴下のまま・・・。

「ヒナちゃん、いこう?」

私が座り続けていると、いつの間にか集まった私のお友達メンバーが。

「あ、うん、行くよ」

私はちょこちょこと靴下のまま、再び廊下に踏み出した。


 体育館棟へは別の渡り廊下が、特別教室棟の2階から伸びている。それを通ると、体育館棟の2階につく。このフロアに運動スペースがあり、さらに校舎2階分登ったところにプールがある。その階段は外についていて、砂埃が堆積して、けっこう汚い。私は目に見える砂をなるべく避けながら、階段を上がっていた。お友達には、ここまでの道のりで私の事情は知られてしまった。みんなが上履きを履いて歩くところを私だけ靴下のままというのは、やはりかなり恥ずかしい。とっても、とっても。

「さあついた。今から入るけど、プールサイドは走るなよー。あ、上履きは脱がなくていいぞ」

クラスのみんなが続々と上履きのままプールへと入っていく。まだプールの授業はないので、水はためられておらず、プールサイドも乾いていた。でも、あちこちに鳥のフンが、落ちている。踏まないように、気を付けないと・・・。ここを靴下のまま歩くってなんか変な感じ。プールの時は、裸足だもんね。

「こらこら、全員下じゃなくて、上を見ろ。太陽は見るなよ。こっちの方角だ。雲はどっちからどっちにながれてる?太陽はどこから上ってどこに沈む?」

先生が次々に問題を出していく。えっと、こっちからそっちで、太陽は東から西・・・。

 それから先生の空の解説のメモを取り、私たちは再び理科室に戻った。この往復だけで、なんだか足が疲れた気がした。理科室に戻ったころには、もう授業の時間は残り5分ほどしかなかった。簡単に次回の説明をして、今日の復習プリントを配って、おしまい。挨拶をして、道具を片付け、教室へ戻る。はあ、階段の上り下りがつらいよお・・・。


 2時間目はハタちゃん先生の数学。ほとんどは話を聞いて黒板を写して・・・だけれど、時々生徒が当てられ、黒板に問題を解くことがある。今日の授業は、4x×3y=?みたいな計算練習。予習はしてあるから、なにがきても大丈夫。

「で、この答えは32xy³ってなる。それじゃ、いまから書く問題5つ、誰かに解いてもらおうかな・・・、じゃあこの列の前から5人、それぞれお願いします!」

私のいる窓際の列が当たってしまった。私は前から4番目。さて、ささっと解いて答えを書きに行こう。・・・そうだ、私今日上履き履いてなかった。みんなの前にソックス姿を見せることに・・・。ううー、恥ずかしい・・・。いいや!俊足で書いてくる!すぐに問題を解いた私は、みんながまだ下を向いている中、ペタペタと黒板に向かう。なんだか足音がいつも以上に響いている気がする。黒板の下は、いつも掃除しているはずなのに、チョークの粉で濃い緑色のリノニウムのタイルが白っぽくなっている。うっかり踏んでしまうと、そこに私のかわいい足跡が・・・。なんていってられない、あわてて足でごしごし・・・。見られてないよね??


 無事に正解して、また話を聞いていると、授業はおしまい。この次は、音楽室での音楽だ。再び特別教室棟へ。

「ヒナ~、次の次体育だし、体操服持っていこ!」

「あ、そうだね、4時間目体育かあ」

そっか、体育もあった。先週と一緒ならマット運動のはずだけど、どうなんだろ?体育館も上履きで入ることになるから、あまり動かないのがいいなあ・・・。

 音楽室は、3階の端にある。私の入っている吹奏楽部の練習場でもある。床は足に優しい木のフローリング。今日は歌を歌って声出しした後、テレビでミュージカル鑑賞。「CATS」って初めて見たけど、とても面白いと思う。さすがに40分足らずですべては見られないので、次回へ持ち越し。音楽室までくる必要はあったのかなあ・・・?


 音楽室を後にして、体育館棟の1階へ。今日は本当に学校の隅から隅まで歩かされてると思う。

「ヒナー、トイレいこ!」

「あ、わたしも!」

体育館棟へ行く途中、トイレに誘われる。まって、私、上履きないんだけど・・・。

「あ、でもヒナ上履きが・・・」

「ここってスリッパなかったっけ?あ、あるよ!」

なんと、職員室に近い先生用のトイレにはスリッパが設置されていた。教室の近くのトイレにはスリッパないから、今日一日どうしようと心配していたけれど。ここまで来るのは大変だけど、ソックスのまま用を足す方が嫌悪感は強い。今日初めて履く校内の履物。ああ、トイレのスリッパがこんなにも温かく有り難いなんて・・・。みんなは上履きのまま入っている。まあそうだよね、普通はわざわざ履き替えないもん。でも、みんなの後ろを歩くのは、トイレの床を歩いたみんなみんなの後ろを歩くということで・・・、いやいや、そんな細かいことは気にしないでおこう。うん、気にしたら負けだ、たぶん。

 こうして安全安心に用を足した私たちは、体育館棟へ急ぐ。いつの間にやら、4時間目が始まるまであと5分。間に合うわけはないけれど、そこは先生もわかっていて、5分くらいは待ってくれる。

 体育館棟1階に女子更衣室がある。ほかに、道場みたいな部屋があり、あとはコンクリートの床の開いた空間だ。放課後になると、運動部がストレッチなどしているらしい。かなりオープンな空間なので、グラウンドからの砂がすごい・・・。ソックス越しにも、ひんやりとしたコンクリートと、砂や小石のざらざらした感じが伝わってくる。校舎内のホコリを集めた上に砂まで集めるなんて、私のソックス、どうなってしまうんだろう・・・。真っ黒は間違いないはず・・・。あまり足裏を見られないようにしなきゃ・・・!とくに男の子には!


 体操服に着替えると、外階段を上がり、体育館へ。体育以外ではふくらはぎあたりまでの長めの白ソックスを履いているが、私は体育の時、スニーカーソックスに履き替える。履き替えない子もいるらしいけど、運動すると汗をかくし、だいたい、長い白ソックスなんて体操服には不釣り合いだし・・・。あまり派手でない限り靴下は何でも大丈夫らしいから、私は黒いスニーカーソックスにしている。履き替えたばかりのソックスでペタペタペタ・・・。脱いだ白ソックスは、怖くてよく見ていない・・・。

 みんな集合し、出席番号順に並ぶ。体育は男女別に2クラス合同で行うから、人数は多め。女子は体育館で、男子は外らしい。今日は暑いから、中でよかった。並んで座って、周りを見渡すと、・・・ん!?いまちらっと、上履きを履いてない子がいたような・・・?あれは隣のクラスかな。また見つけられるといいけど・・・。

 準備体操をして、体育館を2週走る。あー、上履き履いてないから足が痛い!走り切ってジンジンする足に目線を落とすと、黒いソックスがすでに白っぽく汚れている。白は黒に、黒は白に染まるのか・・・、なんてかっこいいことを考えてみる。ふと横を見てみると、私と同じように座り込んだ女の子が。足元は・・・やっぱりソックスだけ!ピンク色のスニーカーソックスを履いている。もしかして、彼女も上履きを・・・?話したことない子だけど、話してみたいなあ・・・。

 今日の体育は、ありがたいことにマット運動だった。倉庫にしまってあるマットは自分たちで引っ張り出してこなければならない。倉庫って、ホコリっぽいんだよな・・・。でも順番的に私も運ばなければならない。ホコリ舞う倉庫からマットを持ち出す。きれいに並べて、さあ運動開始。二人ずつペアになって、まずは倒立から。まずは私がペアのココロの足を支える。そして交代・・・。

「じゃあ、いくね!」

「うん、いいよ、ヒナ!」

「えいっ」

 その時私は気づいていなかった。背はココロの方が高い。私が彼女の足を持った時には、上履きの足の裏なんて見えなかったけれど、ココロが私の足を持った時は、足の裏が目の前に・・・。

 その後、前転、後転、応用技などを練習する。時間が経つごとに、マットの横に上履きが順番に置かれ、ソックス姿や裸足でやる子も増えていた。これならみんなに紛れて、ソックス姿の私も目立たない。わーい! ・・・なんていう時間はあっという間に終わって、また制服に着替える。この後は給食。私は今週当番ではないから、そんなに急がなくても大丈夫。しっかり汗を拭きとって、制服に着替え、そしてもともと履いていたソックスに履き替える。・・・なんだか表面もところどころ黒っぽくなっている。きっと足の裏はひどいことに・・・。体育の時間に履いていた黒いソックスはすぐに体操服と一緒にたたむ。帰ったらすぐに洗濯だ。


つづく

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