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 青年は真っ暗の森の中を進む。青年は騎士のような格好をしていた。その服装はボロボロであり、大量の血が付着していた。青年はふらふらとしており、また右足を引きずりながら歩いていた。青年は血で真っ赤となった剣を支えにしながら森を進んでいた。


 青年はどこか目的地があるわけではなかった。ただやみくもに森の中を進んでいたのだった。彼はある目的を果たした。しかし、その後どうすればいいかはわからなかった。その目的を達成するためだけに生きてきたのだ。だが、その目的を果たした今、自分の生きる意味というものを失っていた。

 

だけど、彼は生きるためにこの森を進んでいた。この森に逃げ込んだのには追っ手を振り払うのに良いと思っただけでなく、なぜかここに行かなければならないと思い、この森を進んでいた。わけもわからずに、ただただ歩みを進める。意識はだんだんとなくなっていき、自分がまっすぐ歩けているのかも徐々に分からなくなっていく。


 青年は森の中をどれだけ歩いたかわからなかった。そして、青年は森の中に屋敷を見つける。屋敷の外見はボロボロであったが、誰か住んでいるようであった。青年はその屋敷を見つけた瞬間、糸が切れたように倒れこむ。そして、青年は意識を失くす。


 青年が倒れこんで、少しして屋敷から一人の女性が出てくる。その女性は黒髪の若い女性であり、ドレスを着ていた。女性は青年が倒れこんでいるに気づくと、びっくりする。その後、すぐに青年の近くまで来て、しゃがみ込むと青年の様子を確認する。

 その後、女性は何かをつぶやきながら、青年の額に手を置く。その瞬間、真っ黒い何かが青年を包み込んでいく…


「ここはどこだ?」


 俺は目覚めると同時に見えた、天井を見てつぶやく。俺は体を起き上がらせようとする。その瞬間、体中に痛みがはしる。俺はそれに耐えながら、上半身を持ち上げて周りを見る。そして、ここが、自分が意識を失う前に見つけた屋敷の一室であろうことを予測する。


(ここにいる人は俺を助けてくれたようだな)


 俺はこれからどうするか、を考える。自分の立場もあるので、ここにいつまでもいるわけにもいかない。それにここの屋敷の主にとって、俺の存在は危険なものだ。だが、すぐに体は動かせないな。


「まだ生きているんだな、俺は」


 俺は自嘲気味につぶやく。実際、そう思うのだ。あれだけの傷を負いながら、ここまできたんだがよく逃げられて、生き残れたものだな。生きる意味もわからないというのに。

 そう俺が思っていると、部屋の扉が唐突に開く。そこには、茶髪で短い髪の女性がいた。おそらく年は20歳ほどであろう。また、服装からして、ここで働いているメイドのようであった。メイドは俺を見て驚いていた。おそらくではあるが、起き上がっているのに、驚いたのだろう。メイドはすぐに「お嬢様」とか言って背を向けてどこかへ行く。


 俺は主人を呼びに行ったのだろうと思う。だが、お嬢様という言葉に引っかかりを覚える。こんなところで令嬢が暮らしているとでもいうのか、と俺は疑問を抱く。それにもし暮らしているにしても、貴族のご令嬢がなんでこんなところで暮らしているのだ、とも思う。


 そんなことを思っていると、部屋に先ほどのメイドとともに一人の女性が入ってくる。その女性はこの国では珍しい黒髪であり、年も自分の予測では一緒にいるメイドより若く15、6とこの国では成人まであと少しの年齢である美人の女性であった。


「無事にお目覚めのようで何よりです」


 黒髪の女性はそう笑顔で言う。俺は感謝と謝罪の意を示そうと頭を下げようとする。だが、痛みがはしってうまくできなかった。


「無理はなさらないでください、騎士様」


 騎士という単語を聞いて、俺は苦い顔をする。俺はもう騎士ではないのだ。騎士と言える資格は自分にはとうになくっているのだ。だが、それをいきなり伝えても相手は困るだろうな。俺はそう思いながらとりあえず自分の名を名乗る。


「俺、いや私の名前はレインと申します。この度は私の命を救っていただきありがとうございます」


「気にしないでください、傷だらけの騎士様が倒れていたらお助けするのは当たり前のことです。それと、私の名前はクリスティン・ルートビッヒと申します」


 ルートビッヒという名を聞いて、俺は驚く。それはこのフェイル王国の三大侯爵家の一つとの家名であったからだった。一応この森の場所はルートビッヒ侯爵家の領内だったはずだが、自分は貴族の事情についてそれほど詳しくないとしても、そんな三大侯爵家の一つのご令嬢がいくら領内といえどもこんな森の中で暮らしているのはおかしなことだと感じていた。だが、そこを聞くのは相手に失礼だろうと考え、今日が何日かを尋ねる。すると、彼女はすぐに日付を答えてくれた。


 俺は聞いた日付から、三日間もここで寝ていたようであることに気づく。俺はそのことについて謝罪の意を示した。


「三日もの間、申し訳ありません」

「いえ、お気になさらず。それでレイン様、所属されている騎士団の名前などお教えてくださりませんでしょうか。こちらで連絡をとりますので」


 俺は固まる。なんと言ったらいいかわからなかったからであった。だますほうはいくらでもある。だが、騎士の格好をしていたとしてもわけのわからない人物を助けてくれたこの令嬢をだますのには腰が引けた。


「どうかなさいました?」

「すみません、私は騎士ではないのです」


 令嬢とメイドは驚いた顔をする。そして、すぐさまメイドは令嬢の前に立ち、こちらをにらんでくる。おそらくではあるが、賊か何かだと思ったのだとう。


「私はあなた方に危害を加えるつもりはありません」


 俺がそう言うとメイドが俺のほうをにらみながら言う。


「そんなことは信じられません」


 俺はそうだよな、と思う。そして、この場をどうしたらいいか、どのような話をするべきかを考える。その時、令嬢は落ち着いてと優しい声で言う。メイドはしぶしぶといった感じで一歩下がる。


「では、レイン様は何者なのでしょうか」

「ただの裏切りものですよ、騎士団、いや王国にとっては」

「どういうことでしょうか?」


 俺は答えをどうするかを悩む。自分の本当のことを伝えることに意味があるのかどうかわからなかった。だけど、令嬢のまっすぐこっちを見てくる眼を見て、本当のことを伝えることを決める。なぜだかわからないが、この人に嘘をつくことはしたくない、と思ったのだ。


「私の父は平民でありながら王国の第一騎士団の騎士でした。私が幼いころ私の父は騎士団の任務中に亡くなりました。事故と言う扱いで。ですが、私はおかしいと思いました。だって、あの時俺に報告をしてきた騎士は詳細を教えてくれませんでしたし、それに同時期噂を聞きました」

「噂ですか?

「ええ、父は平民だったから周りに厄介視されていて殺されたんだ、と」


 俺は窓のほうを見る。そこには、森が広がっていた。そして、あの日のことを思い出す。俺と同じ村に住んでいた人が俺に聞かれないように話していたのだ。俺の父は貴族に殺されたに違いない、と。でも、それを糾弾できるわけがない。諦めるしかない、と。レインはかわいそうだ、とも。


「俺はその後、死ぬほど努力して王国騎士団に入りました。父の死の真相を調べるために。俺は騎士団で活動しながら、その任務について調べました。そして、知りました。俺の父が死んだ本当の事実を」


 俺はこぶしを握り締める。令嬢とメイドは黙って聞いてくれていた。


「父は殺されたんです。元第一騎士団の団長で今、いえ以前は王都にて悠々自適に暮らしていたキリング・アルラッドに。キリングはご存知でしょうが三大侯爵家のアルラッド侯爵家の一人です。やつは平民が嫌いでしてね、優秀だった俺の父を相当嫌っていたようです」


 俺はそこまで言うと、俺は一度深呼吸をする。そして、昔のことを思い出す。あの時の、父の死の真相が判明したときのことを。あの時の絶望と怒りと悲しみを。


「だから殺したそうです。俺の父を」


 メイドは驚いた顔をしていたが、令嬢は驚いた顔をしていなかった。だけど、少し寂し気な表情をしていた。


「前置きが長くなりました、申し訳ないです。俺はその事実を知ったのでキリングを殺しました。ただそれだけです」


 俺は何の気もなしにキリングを殺したということを言う。そう言った時の自分の顔はわからなかった。自分がどう思っているのかすらも。

 それを聞いて、メイドは驚いた顔のまま、固まっていた。令嬢はそうですか、と一言いうと寂し気に笑うと俺に尋ねてくれる。


「あなたは後悔しているのですか?」


 俺はその問いを聞いて、すぐに答えを返せなかった。自分でもわからなかったからである。自分の行為に後悔があったのか否かを。キリングを殺した時、俺は復讐を果たした高揚感だけでなく、どこかこれからどうすればいいという困惑を感じたのだ。だって、俺にとってはそれだけが復讐を果たすことが俺のすべてだったのだから。


「わかりません」


 俺が絞り出せた言葉はそれだけだった。本当にわからなかったのだ。後悔したというのも事実だ。でも後悔していないというのも事実のように感じられたからであった。俺はその返答を返すと、漠然とこれからどうするかを考える。きっとこの令嬢とメイドは俺を騎士団に突き出すであろう。その時、どうするか、を。まあ何かする気持ちは起こらなかったが、抵抗する気力はなくなっていたのだ。でも、俺にとっては全く想定外の言葉が令嬢から聞こえてくる。


「お話は理解しました。では、とりあえずうちで傷を治すといいでしょう。傷が治れば、あとはあなた次第です」


 俺は驚く。そして、本気で言っているのか、とも思う。メイドも俺と同じような気持ちをしているようであった。俺はかなり困惑しながら尋ねる。


「本気で言っているんですか?俺をかくまっていることを知れれば、あなた方に不都合が生じるはずです」

「本気で言っています。不都合などは多少ありますが、問題ありません」


 令嬢の顔は本気で言っていた。俺はなぜ、令嬢がこんなことを思うのかはわからなかった。なぜ、そこまでして俺を助けようとするのか。俺は予想もつかず、わけもわからないままだった。だから俺は問う。クリスティン・ルートビッヒ侯爵令嬢の真意を。


「なぜそんなことをするのですか?俺を騎士団に突き出すほうが最善でしょう。あなたにとって」


 メイドは俺の意見に賛同しているようで、何度も首を縦に振った後に、令嬢を見つめる。少しして、令嬢は答える。


「確かにあなたの言うとおりです。でも、私はあなたと話してみたいと思ったのです。あなたの話を聞きたいと」


 俺はわけのわからないままだった。この令嬢に話すようなことは自分にあるのだろうか、と思う。俺の話を聞くことで、この令嬢にとってどんな利点があるのかが全くわからなかった。


「申し訳ありません。一度私の話をしても構いませんか?」


 俺は了承を示す頷きをする。令嬢は朗らかに笑う。そして、横にいるメイドのほうを向く。


「ミシェル、椅子をお願いできるかしら」


 ミシェルと呼ばれたメイドはすぐに、椅子を持ってくる。令嬢は椅子に座ると話を再開する。


「私があなたの話を聞きたいというのは、私の境遇が関係しています。『破滅の魔女」というものをご存知ですか?」


 『破滅の魔女』俺はその単語をどこかで聞いた気がして、頭の中にある記憶や知識からその単語を聞いたことがないかを確認する。そして、俺は昔小さな頃に聞いた物語の中でその単語を聞いたことを思い出す。その話の内容はどうだったか。俺は必死に思い出す。そして、細部は思い出せないが、概要を思い出す。俺は自分が思っていることが合っているかどうかを確認する。


「『破滅の魔女』はかつて王国を滅亡ぎりぎりまで追い込んだとされる希少な闇魔法を使う魔女のことですよね」


 令嬢は頷く。だが、なぜそのような存在が話にでてくるのだろうか。そもそも『破滅の魔女』は俺の記憶が正しければ存在そのものがあやふやだったはずだ。


「なぜ、そのようなことを聞いたのかと困惑なさっているでしょうね。でも、とても重要なことなのです。なぜなら私は『破滅の魔女』の生まれ変わりとされているからです」


 俺は驚きで固まってしまった。突拍子もない話だったからだ。そもそも信じられなかった。そう俺が思っている瞬間、証拠をお見せしますね、と言うと何かをつぶやく。それと同時に、令嬢の手のひらから黒い霧のようなものが出てくる。その霧は、自分の知識だけで実際に見たことがないので、確実な判断ではなかったが、闇魔法によって生じていると自分は判断できた。闇魔法を使えるものはめずらしく、いやもはや伝説級であった。王国の歴史の中で使えるとされるものはいないはずだった。

 だからこそ、俺はこの人が『破滅の魔女』と生まれ変わりとされてもしょうがないと思えた。話の雰囲気からして、この人が『破滅の魔女』の生まれ変わりというわけではなのだろう。だが、闇魔法を持っている女性ということでそうなったのだろうと俺は判断する。そして、俺は考え付いた予測があっているかどうかを尋ねる。


「ルートビッヒ侯爵令嬢ともあろうものが、こんなところにいるのは『破滅の魔女』の生まれ変わりとされているからですか?」


 ええ、と令嬢は笑顔で答える。笑顔であったが、その視線はどこか寂し気なものであった。


「私の父の指示によるものです。私は表向きには病気で療養していることとなっています」

「失礼ですが、なぜルートビッヒ侯爵はあなたを処分しなかったのですか、『破滅の魔女』の生まれ変わりではないか、と気づいたときに」


 自分でもこの質問をするべきではないと思っていた。だが、聞かなければいけないと思った。令嬢は俺にすべてを話す気でいるようだし、すべてを聞かなければ自分が納得できないと思っていた。だからこそ、俺は酷な質問をする。メイドがこちらをにらんでいるのがわかる。だが、俺に何かを言うことは抑えているようだ。令嬢はわけを説明してくれる。その様子はあたかも傷ついてないと思わせるものだが、逆に傷ついているのではないか、と思わせるものだった。


「現在ルートビッヒ侯爵家には、男児がおらず、私と妹の二人しか子どもがいません。となると、外部から婿を入れるしかありません。そして、現在第一王子には婚約者がおらず私たちは婚約者としては適齢期です。ですので」


 令嬢は一度言葉を切る。そして、窓の外を見る。その見た方向にはおそらくルートビッヒ侯爵家の屋敷があるであろうと思った。


「私はルートビッヒ侯爵家を存続させるための存在です。といっても妹が第一王子と結婚できなければ処分するでしょう」


俺の中では、話を聞くごとにふつふつと怒りの感情が沸き起こっていた。この令嬢はただ生かされている。侯爵家のために。そして、侯爵家のためならば殺される可能性があるのだ。俺は静かにこぶしを握りながら、唇をかむ。怒りを抑え込めるために。俺はできる限り冷静になりながら尋ねる。


「あなたの境遇は理解しました。あなたはこれから何をするつもりですか?」


 俺は暗に尋ねた親や家族になんらかの形でこの境遇に追いやったことを復讐するのか、と問うた。だからこそ、復讐を果たした俺の話を聞くつもりなのか。おそらく令嬢は俺の質問の本当の意図を理解するであろう。令嬢は俺のほうを向くと、困ったような笑顔をすると答える。


「まだ決めていません。いや決められないのです。私は父と母と妹、特に父をおそらく憎んでいます。でも、それでも家族なのです。だからあなたの話が聞きたいと思いました。復讐を果たした者の話を」

「わかりました。でも一つだけ言わせてください。あなたはあなたの人生を生きるべきです。あなたはまだ後戻りできるのだから」


 俺は小さく付け足す。俺とは違うのだから、と。令嬢はそうですね、と言うと椅子を立ち上がる。


「では、今日はお休みなってください。体が治るまでの世話などはこちらのミシェルがしてくれます」


 令嬢の隣にいたメイドは俺のほうを一瞬にらむと、わかりました、クリス様と言う。そして、俺のほうを向く。


「お困りのことなどありましたらお願いします」

「迷惑をおかけしますが、お願いします」


 俺は痛みに耐えながら、軽く頭を下げる。そして、令嬢はこの部屋から出ていき、ミシェルと呼ばれていたメイドと二人だけになる。ミシェルさんは俺のほうをいぶかしむような目で見ながら、忠告する。


「お嬢様になにかあったら絶対に許しませんから」

「わかってますよ。というか本当に申し訳ない、俺がここにきてしまったせい多大なご迷惑をおかけすることになって」


 ミシェルさんは俺のこの態度を見て、若干動揺したようだった。そして、何度も首を振る。それをすることで、気持ちが切り替わったようである。


「とりあえず、食事は私が運びます」

「感謝します」

「何か聞きたいことはありますか?」


 俺は今すぐ聞きたいことを考える。少しして、俺は尋ねる。


「この屋敷には、クリスティン様とあなた以外にいる人物はいますか?」

「執事のロドリグさんがいます。二、三日前から本邸のほうに行っていて今日の夜帰ってくるはずです」


 俺はなるほど、と言って頷く。想像以上にここには人がいないようであった。監視役などがいると思ったが、俺がここに来れたことを考えるといないようであった。まあ、逃げたりはしないという確信であろう。

 「ありがとうございます、もう質問はありません」と俺は返す。今急ぎで聞くべきと思えることはこれだけであった。他にも聞きたいことはあったが、いずれ聞けるか、もしくは聞かなくてもすむであろう。


「では、食事を持ってきます」


 ミシェルさんはそう言うと、部屋を出ていく。俺はこの部屋に一人だけになると、外を見つめる。そして、自嘲気味に小さくつぶやく。


「まだしばらく生きることになりそうだな」


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