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孤独な迷探偵  作者: 高橋はるか
第一章 座禅しながら人は死ねるのか??
9/55

8そしてぼっちはもう一人の自分に出会う①

だから、という訳ではないし、言い訳をするつもりもないんですが・・・・。


「遅い!!全く女性を待たせるとは!!」

「すみません・・・・」


車はどこかへ置いてきたのだろう、腕を組み、仁王立ちした先生が、駅前でぷりぷりと怒っている。

仕事の時に着ていた服のままだ。ということは、十七時の終業から、どこにも寄らずにすぐにここに来たんだろう。


俺はというと・・・・。


目的の駅が学校と家から数駅の近さで本当に助かった。

でなければ、いつもの癖で家に帰る電車に乗ったところだった。

慌てて戻って目的地へと急いだけれど・・・・・。十七時終業って早すぎませんか・・・?


「先生って随分終わるの早いんですね・・・・?」

「私は外部カウンセラー!!だから、就業時間は八時間。残業もなし!!というか、普通に忘れていただろ!?でなきゃ、もう少し早く来れたんじゃないのか!?」

「・・・・いや、ぶっちぎりの最高速度でここまで来ましたよ・・・?」

「嘘だね!!もう二十分は早く来れたはずだ!!」

言い逃れできない。だって、いくら外部カウンセラーと言っても、先生だけあって、生徒の終わりの時間までばっちり把握している。

「・・・・すいません・・・・」

「・・・・素直でよろしい!!」


とか言っておきながら、全然許してくれる気が微塵もしないんですけど、気のせいですかね??


「で?なんで遅れたの??」

その笑顔止めて!?怖いんですよ・・・!!

「ええっと・・・・なんて言うか・・・・。いつもの癖で普通に気づいたら帰りの電車に乗っていたと言いますか・・・・・」

習慣て怖いね・・・・。そりゃ三年も続ければ、誰でもこうなるんじゃない?

「問答無用!!」

「うっ!?」

腹を殴られた。それでも、加減はされていて、びっくりしたがそんなに強くはない。

「言い訳はしない!!」

「・・・・いやそんな無体な・・・・。ていうか先生が聞いて来たんじゃ・・・??」

「とにかく!!女性を待たせるなんて!!男の風上にも置けないね!!そんなんじゃあだめだぞ少年!!」

「・・・・・すみませんって・・・・」

女性と待ち合わせをすることなんて、今までなかったし、今日がおそらく最後だろうからいいんだ・・・・。別に・・・・。

「じゃあ行くぞ!!」

そのまま、腕を掴まれ強引に連れられて行くが、そんなことしなくてももう逃げないって!!

「先生!!・・・子供じゃないんで離してください!!」

「いいから!!いいから!!!私に言わせればまだまだ君らは子供だよー!!!!」

「全っ然話を聞いてくれない!?それに、先生二十代でしょ!!俺たちとそんなに変わらないって言うか・・・・!!」

「女性の歳を聞くなんて!!??なんて失礼な子だい!!!お母ちゃんに教わらなかったのか!!??マヤ文明と同じくらい女性の年齢は謎に包まれているって!!」

「マヤ文明と同列に語らないでくださいよ・・・・。さらっと話してますけど、あれ、世界中の研究家たちが未だ解き明かせない謎なんですから・・・・」


女性の年齢なんて、運転免許証か、もしくは保険証を見れば解き明かせる程度の謎だ。

そもそも目分量で測っても大して違いなんかでないだろうし・・・・。

いいとこプラスマイナス五歳くらいか?


なんて失礼なことを考えているうちに、駅前の飲み屋街を抜け、飲食店街を抜けていく。

まだ、さすがに十八時前だけあって、多くの店が暖簾を上げたばかりか、もしくは閉まっているところが多く、客足も疎らだ。

店先も閑散としているが、それでも仕込みの最中なのか、いい匂いだけは立ち込めて来て、否応もなくお腹がすく。


高校生の食欲舐めるなよ!!


たいして動いてなくとも、たいして頭は使わずとも、二時間もしないうちに腹が減るんだ。運動部だったら三十分か?・・・不思議な生き物だ。


というか、運動部、特に野球部の連中に言いたい!!


購買部に走りすぎ!!休み時間になれば必ず購買に行くか、もしくは、昼に食うつもりで持ってきた弁当をバクバク食べているが、エンゲル係数が高すぎるんじゃないのか!?

お前はどこのスラムで生まれたんだよ!?って言いたくなるんだが、購買も、恐ろしいことに、筆記用具よりも、菓子と、パンと、おにぎりの品ぞろえの方がいいって、なんか本末転倒な気がするんだ・・・・。

 そんなことを考えていると、街の雰囲気ががらりと変わり、今度はオフィス街へと姿を変える。

暗くなり始めた街に呼応するように、あちこちの窓から日の光にも負けないほど明るい蛍光灯の黄色が外へと漏れる。

まだまだ、恐らくはそこで働く企業戦士にとっては、これからの時間が勝負時なんだろう。

時たま学生にもいるが、夜型人間なんて、今くらいから元気いっぱい、今までの萎れた様は何だったの?と疑うほどに猛烈な集中力で勉強をこなす奴もいるくらいで・・・同じなのだろうか?

まだまだ、と言わんばかりに、ネクタイを風にはためかせ、ビルへと駆け込む彼らは、一体何に追われているというのだろうか?

まるで、命でも狙われているかのようなその慌てっぷりに、想像もしたくはない。

へとへとになって、禿散らかした頭髪が、せっかく朝には整えて隠していただろう頭髪が、露わになるほど汗でぴったりと張り付いてもなお、ビルのエントランスへと消えていく彼らは、鏡を見る余裕さえないのだろうか?

はたまた鏡のない世界から帰還でもしたのか??

って!!不思議の国のアリスかよ!!


一人脳内突っ込みをしていると、その中の一つ、随分と寂れたビルでようやく佐倉先生は足を止めた。

「ここだ!!」

「え!?ここ!?」

ビルの看板には・・・・・。

1F・・・・天然セラピー処 万博(まんぱく)

怪しい・・・・。怪しすぎる・・・・。なんだろう天然セラピーって・・・??

しかも、ばんぱく、じゃなくて、まんぱくって・・・・。誤字、なのか??笑っていい奴なのか??

いかがわしい系じゃないだろうな??

それこそまさかやくざの事務所にでも連れて行かれるのか!?

2F・・・・・空白だ。

いや、あからさまに何かの上に白いテープを張り付け、隠したような痕がある。

やっぱり怪しい・・・・・。

3F・・・・・ティファにー

ティファニーって・・・。あのティファニーじゃないよな・・・・??

いや!!いやいや!!よく見ろ!!よく見てみろ!!!『ティファにー』って!!なんで、に、だけ平仮名なんだよ!!おかしくない!?って言うか何の店なの!?とてつもなく気になる・・・・。

「どこだったかな・・・・??四階だ!!四階!!行くぞ!!」

「え・・・!?ちょっ・・・!!待って・・・!!」

四階だと!?しまった見ていなかった!!四階には何が待ち受けているというのだ・・・!?

ええい!!こうなったら男は度胸だ!!

狭いエレベーターの中は、不必要なほどの消臭剤が振りまかれ、動き出すときも、そして止まる時も、驚くほど揺れた。


少し気持ち悪くなる。


昔からそうだ。エレベーターで酔ってしまうんだ・・・・。それなのに車には酔わなかったり、バスには酔うくせに、船には酔わなかったり・・・・。


多分匂いが駄目なんだろうな・・・・。


と冷静に分析してみたが、扉が開いたそこには、黒縁で曇りガラス張りの扉が、目の前に鎮座し、エレベーターを降りた者をすぐに待ち受けている。

なんの遊びも、空間もなく、すぐに扉、というのは、なんだか少し圧迫感がある。

まあ、よく考えれば、ここは四階、すぐにエレベーターに乗れるということは、逆にいいことなんじゃないのか?


そう考えたが、後にそのことが幸いするとは、この時の俺は全く思ってもいなかった。



「さ!!行くぞ!!」

「え!?ちょっと待て!!??えっ!?行っちゃうの!?躊躇いもなく!?って言うかここ何の事務所なんですか!?」

この怪しいビルに、怪しい曇りガラス・・・・。どう考えてもまともな事務所ではない。

そう思ったからこそ、声を潜め、必死に抗うが、佐倉先生は一切躊躇しない。

「大丈夫だって!!入れば分かるから!!!」

「ほんとに嫌ですううう!!!だってここ!!どう見ても堅気の事務所じゃないですよねえええ!!!??まさか知る人ぞ知るイタリアンの名店で、客席一席、予約五年待ちとかの店じゃないですよねえええ!!??」

「なんでそんな店に君と来なきゃならないんだ??」

冗談ですけど!!冗談ですけどそれにしたってそんな真顔で返されちゃ流石にちょっと落ち込みますって!!!

「・・・・あ!?」

一瞬の油断を狙われた!!

俺の反抗心を削いでその隙に突入するとは・・・!!できる・・・!?


ガチャリ!


と無情にも扉が開き、半ば強引に引きずられるように(今までもそうだったが、今はさっきまでとは比べ物にならないほどの力でだ)中へと招き・・・・いや連行される。



事務所の中は・・・・・。



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