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孤独な迷探偵  作者: 高橋はるか
第一章 座禅しながら人は死ねるのか??
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6美女は大学に夢を見る。ぼっちは現実しか見ない。

なんのかんので実は僕、今保健室に居ます。

はい、結局連れてこられてしまいました。俺は自分が情けないよ・・・・・。

「はい。あーんして?」

生まれて初めてかもしれない・・・・。

それもこんな美しい女性にあーん、だなんて・・・・。

この胸のときめきは・・・・・??


口臭くないよね??


「痛ってえ!?」

「少し口内を切っているだけだね・・・・。これなら何もしなくてもいいわ・・・・。ただし、頬は腫れるだろうね・・・・。氷水で冷やしなさい?」

そう言って渡されたのは、キンキンに冷えた氷水が入ったビニール袋。

それを言われるがまま頬へと当てる。

ずきずきと熱を持ったようにうずく頬に心地よくて、少し嬉しかった。

「しっかし他の先生に聞いたけれども・・・・。随分と君も素直だね?」

その言葉には、表情には一切の皮肉が無い。嫌味もない。

それでも、そう言われるのが気恥ずかしくてうつむいてしまう。

「・・・・別にそんなんじゃないですよ・・・・」

「ふーん??」

それ以上は何も言われなかったし、何も言うつもりもないんだろう。

兎に角居心地の悪い空間だ。

このままここにいても、いいことは無いと思うのだが、ではこの氷水をどうすればいいのか?という問題もあるので、お尻の辺りがむずむずするような気がしたが、我慢していたら、

「ところでもう三年生よね?杉谷君は、進路どうするつもりなの?」

なんで俺の学年知ってんだよ?とは思わない。だって、体操服に刺繍された名前が、学年ごとに違うから、それを見れば一目瞭然なのだ。


「いや俺は別に・・・・」

 

なんでわざわざそんなことを言わなければならないんだろうか?

確かに会話には困っているが、むしろ話しかけてほしくもないし、何ならまじまじと見つめられるのも居心地が悪いからやめてほしいのに・・・・。


「進路の悩みを聞くのも、私のような心理カウンセラーの仕事なのよ?ほら!受験生ほど悩みやストレスを抱えやすいじゃない?」


そういうものなのだろうか?

良く分からなかったが、それでも別に面白いこともないので、適当に答えて置く。


「はあ・・・・。俺は大学に進学しますよ・・・・」

「ほう!!進学かあ・・・・。いいなあ大学生!!私も戻れるなら大学生に戻りたいわあ・・・」

「そういうもんすかね?」

「そうよ?大学生ってね。実は夏休みと春休みが、学校によっても違うけれどもだいたい二か月ずつ、合わせて四か月くらいあるのよ!!信じられる!?私、学生時代に計算したら、土日祝日休みで春夏冬の休み全部足して、半年くらいは休みなのよ?」

「ええ・・・・??」

それってその間何をするんだろうか?

勉強?・・・・でも休みなんだから、勉強はしなくてもいいってことだよな・・・??

じゃあ・・・バイト?部活?サークル活動??

それがどんなものか分からないけれども、随分と暇なんじゃないだろうか?


「もちろん!!授業も選択制で、自分の好きな授業を選んで受けることができるわよ?私は心理学を専門的に学ぶために心理学科のある大学に入学したけれども、それ以外にも古典文学なんかをよく受けてたくらいだし・・・・。自分の苦手な、物理とか、数学とかは受けなくてもいいし!!」


取ってつけたように授業の話をしているが、今更感が強い。

だってそうだろ?どれだけ授業が選択制だったとしても・・・半年間は休みなんだろ?

それって、週の半分は休んでるってことになるよな??


「大学って・・・・・何かを勉強しようと思ってなければ意味ないんですか・・・??」


彼女の話を聞いていたら、何の目的もなく大学に行くことが無意味に思えてきた。


「なんだ少年よ?何かを学びたいとか目的はないのか?」

「ええ・・・・。これといった目的は・・・・」


恥ずかしい話だ。これと言って苦手な教科もなければ、学校にいても暇だから空き時間はほとんど予習をしている。

部活も特に何もやっていなかったし、友達もいなかったから、家に帰ってもすることが無くて適当に勉強をしていた。

そしたら、三年生になって、いや、一年生の時から成績だけは中の上、もしかしたら上の下あたりを維持し続けることができた。

そして今も、無意味なほどの時間を勉強に費やしているわけでもなく、ただ、学校の予習復習と、そしてほんのわずかな受験勉強だけで、中堅の国立大学には入学できる程度の学力はあった。

それが災いしているのか、特に苦手な、いや、嫌いな教科が無い反面、好きな教科というものも存在しない。

だから、文系に進むのか、理系に進むのか、それすらも曖昧で、自分自身何をどうすればいいのか分かっていないくらいだ。


「でも、もう今秋口だ。どこの大学に行きたい、というのはあるんだろう?」

「ええ、まあ・・・・」

それくらいは俺だってある。


「で?どこの大学を志望しているの?」

「ええっと・・・・。X大学・・・・」

「ふーん・・・・?」


どうせそれくらいの反応だと思っていたさ。これといった反応はされないと、思っていたよ。だって、俺が今言った大学は、国立大だけれども、中堅くらいの大学で、これといった特色もない、平凡な大学。

ましてや、近隣の県に存在する、という訳ではなく、何でその県の国立大学なの?って言われても仕方ないような場所なんだから。


「どうして?と聞いても?」


別に大した理由はない・・・・。それでも強いて挙げるのなら・・・・。


「まあ、家から通えない距離で、なおかつ俺の学力で入ることができそうだから」

「随分とおかしな理由だな・・・・。しかし、それだって中堅なんだ。全国の受験生が聞いたら、怒るような・・・・」

「だって、大学を出てなければ、就職に不利なんですよね?だったら、金銭的にも、学力的にも進学できるのに進学しない理由がないじゃないですか?それに・・・・」

「それに・・・?」

「・・・・親から離れたいなって」

「両親のことが嫌いなのか?」


その時佐倉先生がどんな表情をしていたのか俯いていたから俺には分からない。

随分と挑戦的な顔をしていたのかもしれない。

だって、そうでなければこれほど棘のあるような冷たい声にならないだろう?


「・・・・ああ。嫌いです・・・・。ここまで育ててもらった恩は感じてますけど・・・・」

「どうして嫌いなんだ?」


なんで俺は、今日初めて話したようなただのカウンセラーの先生に家庭の事情まで話しているのだろうか?

やっぱり、流石心理カウンセラーというだけある。

特に、馬鹿にするわけでもなく、皮肉を口にするわけでもなく、こっちのことを人扱いしてくれるし・・・・。

何より、聞き上手なのかもしれない・・・・。

独特の間、俺は口下手な方だ。上手く話そうとするとつっかえてしまうし、どもってしまう。それなのに、何も言わずに黙って話すのを待ってくれる。

その雰囲気に騙されてここまで話してしまったが、それもここまでだろう。


「何だっていいじゃないですか・・・・」

へらへらと笑いながら、曖昧に口を濁せば、今まで、誰もが俺の顔を見て「気持ち悪い」とか、「むかつく」と言って殴るか、もしくは距離を置こうとした。


なのに・・・・。


その悲しそうな表情はなんだ・・・??


「そっか・・・・」

この話はこれで終わり!!氷水も返して、そろそろ授業に戻ろうとしたその時だ。


「でもさ!!それなら寮で生活するのか!?それとも賃貸のアパートでも借りるのかとか決まってるの!?」

とまるで何もなかったように話し始めてしまうではないか。


・・・・いや、授業に行きたいんだけど・・・・??


そう思って時計に目を向ければ、もうすでに四限目の始業からに十分近い時間が経っているではないか!?

「残念でしたあー!!ここはチャイムの音が聞こえないようにスピーカーの音量を落としているのだよ!!さあ!!観念したのならお姉さんとお話しタイムだ!!」

「・・・いや。いいんですか?そんな簡単に先生が生徒に授業を無断欠席させても」


呆れて物が言えない。道理でなかなかチャイムが鳴らないな?と思っていたところだ。

でもまあ、癪だが、今から戻って教室に入って行くよりは、ここにいたほうがいいのは事実。


「ふふん!!私は外部カウンセラー!!先生ではないのだよ!!」

「・・・ってかどういう設定したらチャイムの音消せるんですか・・・?あれ校内放送で、普通消せないはずじゃないんですか・・・??」


どうやったのかは知らないが、無ければ困るものだ。

そういう設定になっていないだろうに・・・・。

と思ったのだが・・・・。


「保健室だけは、違うようだね。あと実は校長室もチャイムの音が鳴らない様にできるんだ。ここだけの話だよ?」

「いや・・・、何で知ってんすか・・・」

もう怖いこの人・・・・。

「ささ!!話の続きを!!」

「ええ・・・??何の話でしたっけ?」

「寮か?はたまたアパートか?だよ!!」

「なんでそんな嬉しそうなんですか・・・・・??」

もう何を言っても無駄なんじゃないか?そう諦めて、話をすることにした。

「寮は他の人がいるから嫌ですね・・・・。アパートも・・・・まあ、アパート借りるしかないんでしょうけど・・・・。安いとこがいいですね」

「なんで?苦学生ってわけじゃないんだろう?」

「・・・・親が、目的もなく大学に行くような奴には学費しか払わないっていうんで・・・・」

「ええ・・・??」


そんなことで嫌いになったわけではないが、普段からの不仲がたたって、よく相談もせずに勝手に進学を決め、そして大学まで決めてしまったことがよほど頭に来たのだろう。

そんなふうに言われてしまえば、正直に言えば、自宅から通える大学に進学するのが一番いいのだろう。

それでも俺は・・・・。とにかくあの家から出たかった。何が何でも・・・・。


「そうなのか・・・。大変なんだな・・・しかし、君のご両親も何も分かっていない!!大学なんてところ、目的をもって入学する学生なんてほとんどいないよ!!もっぱら君と同じで学歴が欲しい、家庭の、もしくは学力の都合で入れる大学に取りあえず入って、それで半年近い休みの中、必死に自分がやりたいことを探すんだ!!そう言うところだってのに!!」


随分と偏見がある、偏った見方だと思わなくもなかったが・・・・。

そんなのあの親父には通じない。

だから嫌いなのだ。


「恐ろしいことにな!!バイトをして、お金を貯めて、サークル活動を適当にして、恋人を作って、ある程度やることをやったら本当に暇な所なんだ。そして、暇になると人ってのは恐ろしい物で、必死で何かをするのだな・・・・。いやはや、若さというのも味方して、今思い出しても途方もないパワーを生み出していたよ・・・・。彼ら、彼女らの力を世界平和に役立てられるんじゃないか?と本気で疑うほどだ。それはもう・・・・」


聞く気が失せてきた・・・・。聞かなきゃよかったかもしれない。

でもなんか・・・・。久しぶりにまともに人と話した気がする。

嬉しいのか、気恥ずかしいのか自分でも良く分からなかったが、おかしいことに、この人とならもう少し話していたい気がするから不思議だ。


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