52お見舞い①
「・・・・・全く、随分と無茶するんだから・・・」
一体何が起こっているのか・・・??
分かるか??いや、分からない。
これは、俺の人生一の難問だ。・・・・あの事件よりも??
そりゃそうだろ!!
だって・・・・。
「・・・・いや、なんでお前がここにいるんだよ??」
「なによ!?居ちゃ悪いわけ!!???せっかく心配してお見舞いに来たって言うのに!!なんであんたはそう冷たいのよ!?」
「分かったから落ち着けって・・・・分かった、分かったから・・・・」
ここ、病院だぞ??それも、個室じゃないんだからな??
「もう・・・!!全く!!・・・・でも、今の病院って、お見舞い品の持ち込み駄目なのね・・・・。はあ・・・・それが分かってたら、果物なんて買って来なかったのに・・・」
あれ、随分と豪勢だったけど、もしかして自分のお金で買ったの??
その言葉は胸の中にそっと仕舞い込む。
何故かって??なんでだろうな??聞いたら益々ドツボに嵌まる気がしたから、かな??
「・・・・で??柏木、なんでお前は、ここに来たわけ??」
「へえ・・・??なんでってそりゃお見舞いに・・・」
ぽかんとした顔で、俺の病室の机に頬杖をつく彼女だったが・・・・。
「はあ!?お見舞い!!??何それ!!??冗談でしょ!!??お前が!??俺のお見舞いぃ!?うっそだあ!!!絶対、俺の寝首を掻きに来たんだろ!?俺が動けないのをいいことに復讐に来たんだろ!?」
絶対そうだ!!!
こいつに恨まれることはあっても、こんな風に優しくされるいわれはない!!!絶対に!!
「はあ!?何それ!?私はただ、あんたが約束を守って、ちゃんと私の無実を証明してくれたから・・・!!!」
「それだって、陥れたようなもんだろ??冷静に考えろ??お前、騙されやすすぎだぞ!?」
「・・・・あんたねえ・・・・。その自覚があるなら、せめてもうちょっと優しくしてくれてもいいんじゃない??」
ひぇっ!?怖いんで、果物ナイフを握らないでください!?
というか看護師さーーん!!!なんで果物は没収したのに、ナイフは没収しないんですか!!??
殺される!!殺されちゃいますよー!!!
「・・・・まあ、でも、ほんとに助かったわ。ありがとね」
そんなふうに感謝されるいわれなんて俺にはない。
だって、俺がしたことなんて、褒められるような物じゃないから。
全てを傷つけて、見えないもの、隠れていた物を掘り起こして、自分さえ良ければ、って突き進んだだけ。
その結果が、あれなら、悪く無いって、自分で自分を慰めているだけの卑怯者。
「・・・・そんな感謝されることなんて・・・・」
それでも、彼女は、首を横に振ってくれる。
「ううん。だって、実を言うと、女の子の中には、私が石川に売春しているって知ってる子が何人もいたんだ・・・・。ずっと、ひやひやしててさ・・・・。一応皆言わずにいてくれたけど、どこからか漏れやしないだろうか?今日にも警察に捕まるんじゃないだろうか?って・・・・・。でも!!あんたが、ああやって助けてくれたから!!!最初は望んで体を差し出したわけじゃないのにね・・・・。女って損な生き物だ・・・・」
こいつはこいつで、怯えていたわけだ。
でも、それは、自分の身から出た錆だろ?
今までの俺なら、そう切り捨てていたんだろうけど、なんでだろうね??今日この時は、冷たく斬り捨てることなんてできなかった。
「・・・・俺の恩人がさ」
「なによ急に?」
「いいから黙って聞けって」
「調子狂うわね」
あの時も、俺、こんな風に病院のベットで横になってたっけな・・・・。
「俺の恩人が残してくれた言葉があるんだよ・・・・」
あの時、あの人は何を話してくれたんだっけ??よく覚えていないんだけど、強烈に覚えている言葉が、たった二つだけあった。
『人間って、不思議な生き物でな・・・・・。他人を、そして自分を傷つけずにはいられねえんだよな・・・・・。だからな、坊主。死にたくなったら笑え。思いっきり笑い飛ばしてやれ・・・・・。そんで生きたくなったらな・・・・・・』
「思いっきり泣け」
「・・・・・何よそれ・・・??」
「さあね??俺もずっと考えてるんだけどさ・・・・・。逆じゃないのかなって・・・・。でも、不思議となあ・・・・・」
俺が窓の外を見ているのは、ほんの小さな情けだ。
別に、慰めるつもりは無いし、慰める言葉も持たない。
実際、つい最近まで、人とかかわる一切を放棄して生きてきたんだ。家族すらも拒絶して・・・・。
だからさ・・・・・。
女の子が泣いてるときに、どうすればいいのか?なんて知らないよね??
「・・・・うぅっ・・・!!・・・・・っひっく・・・・!!!・・・・うぅ・・・・!!!」
別に、俺のベットシーツが涙で汚れるくらいなら、勘弁してやるか。
こいつもこいつで、随分と気を張り詰めてたみたいだしな・・・・。
「そういえばさ・・・・」
まだ、目は赤かったけど、さっき泣いたことは全くなかったことにするみたいだ。まあ、俺もその方がいいんだけどな・・・・。
「なんだよ??」
「委員長、じゃない、成瀬流美ちゃん??彼女、どこかの誰かさんが下敷きになって守ってあげたおかげで、大事には至らなかったんだって」
「へえー・・・・」
「あの時意識が無かったのは、ショックで気絶したんだろうってさ。精密検査を受けて、何ともなかったみたいだからもう学校にも復帰してきてるけど・・・・」
・・・・そこで切るなよ!?気になるだろ!?
「ふーん・・・・」
でも、敢えて俺は気になっていないふりをする。だってそうだろ??今更俺が、気にしたところで、何様だ?って言う話だよ。
「まあ、元から大人しくて友達も少ない子だったけど・・・・。あの騒動から、独りぼっちになることが多いみたいで・・・・よく図書館にいるみたいだから、気になるんだったら、復学した時に会いに行ってみれば??」
「・・・・・どの面下げていくんだよ・・・・」
「うーん・・・・そうねえ・・・・・。ごめんさない?って言ってみれば??そしたら案外簡単に許してくれるかもよー??」
はあ??この世の全員が全員、お前みたいに脳みそ空っぽだったら全然苦労しねえのにな。
そんなわけねえだろうがよ。全く!!
「・・・・はあ・・・・」
「なによ??信じてないわけ??ふーん・・・・まあ、別にいいけどお??」
なんだその腹立つ顔??
にやにや笑いやがって!!なんだ??言いたいことがあるなら言えよ!!
「うぜえ・・・・」
「あ!?何よその顔!?全然話聞く気ないじゃん!?うわー・・・!!あんたってホント馬鹿なのね!?そんなんだから・・・・!!!」
彼女の言葉は、そこで終わってしまった。
俺としては好都合だけれども、こいつにしてみれば、最悪の展開だろうね。
何せ・・・・。
「おや、おや?これは、これは、子猫ちゃん??一体今日はどうしたのかな??こんな男子高校生の病室に、一人でお見舞いに来て、挙句、カーテンも閉め切るなんて??」
先生・・・・。なんかその台詞、悪役っぽいぞ??
「出た!?佐倉先生!?・・・・っくっそ!!しかもその妹ちゃんまでついてくるとは・・・ここは分が悪いか!?」
何をぶつぶつ言っているんだか・・・・。
「出直すか・・・・!?いや、ここで逃げるなんて・・・・!?」
随分と逡巡しているようだけど、椅子だけは絶対に手放さないのね??
二つしかない椅子の片方を堂々と占有して、一切腰を上げる気はないその精神は、褒められるものだと思うよ??
「すまねえが、お嬢ちゃん。ちょっとの間、席を外してくれねえか??」
しかし、その努力も虚しく、犬飼さんが顔をのぞかせた瞬間、「あ!私、用事を思い出した!!じゃね!!」と捨て台詞を残し、早々に消えていってしまった・・・・。
まだまだ、犬飼さんのことは苦手なようだけど・・・・。
「ふん!!ようやく消えたか!!この邪魔者め!!」
・・・・だから、それ、まるっきり悪役の台詞よ?先生??
「大丈夫か坊主?」
「え?ああ。元気も元気。ぴんぴんしてますよ。・・・・・・左足以外は、ね」
釣られてみんなが視線を向けるその先には、歴戦の戦士よろしく、ギプスと包帯でぐるぐる巻きに固定され、天井から吊られた俺の左足が。
「全く・・・・。俺はいつお前に、建物の三階から飛び降りろって言ったよ・・・・」
「そうしなきゃ犯人が分からなかったから仕方なくですね・・・・」
「分かった、分かった!!もういい、もういい!!!へん!!どうせ俺が悪いんだよ!!全部、全部、俺が、悪うございましたよ!!」
なんだ??なんでこの人こんなに荒れてるんだ??
こそ、っと耳打ちして教えてくれたのは、事件の後、改めて名前を聞いた、犬飼さんといつも一緒にいる若い刑事さん。
名前は・・・・確か・・・・小鳥遊さん??だったっけ??小鳥遊誠さん??
「犬飼刑事、本部長に呼び出されて、こってり絞られましてね。事件解決のばたばたがようやく落ち着いて来たでしょ??」
まあ、あれからもう早三日経つからね。
「マスコミへのアプローチとか、教育委員会への根回しとか、世間への申し開きとか・・・・。もう色々大変で、実は私たちも三日ほど寝てないんですよ」
「それは、それは・・・・」
それ以外になんて声をかければいいの??
「で、ようやく落ち着いたと思ったら本部長に呼び出されて、説教、説教、説教・・・・。説教の嵐でしたよ・・・・」
この人のこの感じだと、逃げたな??
「まあ、私途中から席を外してて、最後までいなかったんですけど」
やっぱり!?
「あとで聞いたら、給料減俸らしいです・・・・。奥さんがそれに怒っちゃったみたいで・・・・辛い立場なんですよ・・・・・。家でも、職場でも・・・・」
「こら!!誠!!無駄話してるんじゃねえ!!!」
虫の居所が悪いようで・・・・・。
・・・って!?奥さんいたのかよ!?けっ!!だったらもう人生勝ち組じゃねえか!!
「今日は、お前に事後報告だな。そのために来たんだが、今日は大丈夫か??」
「ええ。まあ、何とか・・・・。あの時は、お見苦しいところをお見せしました」
「別に、俺が、お前の事情に立ち入るつもりはねえけど・・・・。まあ、流石にあの様子を見て、な・・・・。じゃあ、事情聴取、とは行かねえだろ」
実は、病院に運び込まれて、ただ骨にひびが入っているだけで、二週間ほども安静にしていれば治るって聞いて、念のため検査入院したんだけどさ。
その時、この四人がいたんだけど・・・・。
あの後、来たんだ・・・・・。
顔も見たくない、声も聴きたくない、あの人が・・・・。




