51孤高の名探偵②
「証拠ならある」
そこまで言われてもなお、淡々と、胸を張るでもなく、自慢げに語るでもなく、彼女はいつもと変わらぬ無表情。
「ど、どこに!?何処に証拠があるって言うんですか!!??」
「この鉄格子。かなり狭い」
「それがどうしたんですか!!??この事件と!!!いや!!!俺がやったって言うのと関係ないでしょ・・・!!??」
「いや、関係大あり。だって、この鉄格子、女の私の手でも一度突っ込んだら抜けなくなるくらいには狭かった。だとすれば、いくらあなたが、高校生だと言っても、成人男性並みの手の大きさはあるはず」
「そ、それは・・・・!?」
突然、右腕を気にするそぶりを見せ、袖をたくし上げたがもう遅い。
「そのひっかき傷はなに??」
「これは・・・・!!??これは!!そう!!!猫に引っかかれたんです!!!一週間前くらいに???猫に、こう!!ひっかかれた傷です!!!」
「そう?しらを切るのはいいけれど、この鉄格子に付着しているであろう皮膚、もしくは血痕のDNAを調べれば、分かること。それでもまだ、何か言うことがある??」
「そんな・・・・・」
ようやく、諦めたのか、がくり、と膝から崩れ落ちた彼。
・・・・最後の最後まで、名前が分からないけど、しょうがないよね??だって、俺が言うのもなんだけど、見たこともないような目立たない子だし??
「杉谷ああああああ!!!!てめええええええ!!!!!」
そして、事件は終わりを告げたが、まだまだ、俺の波乱含みの人生は続くようだ。
え・・・??って言うかめっちゃ怒ってない???
そもそも、なんでこの、凄いいいタイミングで出てくるの!!??見計らってたでしょ??ねえ??もう事件は解決したんだし!!!良くない??
俺、滅茶苦茶頑張ったと思うんだよね???
ねえ!!??それでよくないの???ねえ???ねえ!!!???
「ここまで散々に虚仮にされたのは初めただああああ!!!!覚悟はできてんだろうなああああ!!!!????」
このままじゃ、何されるか分からないよ!?何??あの剣幕!!??
俺、今日ここで奇跡的に生還して、なのに教師に殺されました、とか笑えないよ??
ずんずん、ずんずん!!地面を踏みしめ近づいてくるその、鬼は、いや違った伊藤教諭は、俺の目の前までやって来て、憤怒の形相で俺を見下ろしてくる。
・・・・・怖えぇ・・・・。何されるの??俺・・・・・??
「てめえぇ・・・・・!!!」
その怒りはもう爆発間近!!逃げろ!!!みんな逃げろ!!!そして、俺の足も動け!!!・・・・・でも、動かないんだなこれが・・・・。
あーあ・・・・。最後の最後で、これじゃあ締まらないよな??まあ、俺の物語なんて、いつもこんなものだし、しょうがないか・・・・・。
がちゃり。
諦め、天を仰いだ俺の耳に、聞きなれない金属音と、
「・・・・・はあ??」
随分と間の抜けた伊藤教諭の声が。
「・・・・・え??」
見上げればそこには、厳めしい顔つきで、伊藤に手錠をかける犬飼さんの姿が・・・・。
「・・・・お前??何してんの??」
「お前じゃない。俺は刑事だ」
「いやいや!!刑事さんさあ!!!ここは学校なんだよ!?なんで許可もなく立ち入って来てんだ!?ああ!?」
頭一つ以上小さいと言うのに、なぜそんなに警察に向かって強気に出られるんだ??
学校という特別な空間にいれば、自分が王様だとでも思っているのか??
・・・と言うか、なんで犬飼さんは・・・・??
「許可ならしっかりともらっている」
「それは殺人事件に関してだろ!?それだったら、ここに俺が来るまでに解決したみたいだろ!!??そんなこと言ってたよな!!??なあ!!??なのに何だこれは!!??ああ!!??」
口角泡を吹き飛ばし、喚き散らす伊藤に、犬飼さんは随分と迷惑そうに、
「教師なら学校の中で何やってもいい訳じゃねえだろ??なあ??」
「てめええ!!!!!俺に教育の何たるかを説教とはいい度胸じゃねえか!!??」
しかし、生徒相手であれば、それで終わっただろうけど、残念ながら、相手は警察だ。どれだけ怒鳴ったところでどこ吹く風。
「はあ・・・・・。子供かよ??」
「なんだって??」
「子供かっての??そうやって怒鳴り散らしていれば言うこと聞くとか思っているんだろ??そんなの今どき中学生でも、意味ないって理解できるわ」
「てめっ・・・・!!!」
「公務執行妨害、あとは、脅迫罪、更には、暴行未遂・・・・・。ああ、そう言えば、この二人を突き落としたんだよな??だったら、殺人未遂もつくけど、留置所ではあんまり暴れるなよ??お前じゃ、到底叶わない怖ーいお兄さんたちが一杯いるから」
「はああああああ!!!!!????・・・なんだよ!!???なんだよそれ!!??俺がいつ公務執行妨害をしたって言うんだ!!??」
「今してるだろ」
「じゃあ脅迫は!?」
「さっきそこに横たわる生徒に向かってしてただろ??」
「あれは教育的指導で・・・・!!!」
「覚悟しとけ、とか、殴りそうな勢いだったけど??普段もああやって、生徒に手を上げたりとかしてるんだろ??なんなら、そこら辺の言い訳は署で詳しく聞くから。とりあえず歩けって」
「・・・・!!!!????殺人未遂は違うだろ!!???俺はそんなつもりで・・・・!!!」
「そんなつもりがなくたって、三階から、腕ぶん回して自分だけ助かろうとして、挙句自分の生徒突き落としたんだ。故意じゃなきゃ過失殺人って立派な犯罪があるんだけどさ?知らねえのか??」
「・・・・そんなの!!!・・・・そんなの・・・・!!??」
おお!!おお!!いいね!!!いいね!!!もっとやれ!!!もっとやれ!!!
「横暴だろ!?国家権力の乱用だ!!!無罪放免になった暁には、お前のこと世間に晒してやる!!!」
「はいはい・・・・。その前に、お前が、世間様に晒されて、教育委員会で懲罰物だろ??今どき、殴る蹴る、怒鳴る脅迫するで指導できるご時世じゃないの。それは自分が一番良く分かってんだろ??」
「・・・・てめっ!!!」
もうこれ以上言いあっても勝てない、そう思ったんだろう。
突然、伊藤がぐりん!!と首が飛ぶんじゃないか?と思うほど勢いよく俺に視線を落とし、
「杉谷ああああ!!!てめえええええ!!!!!!」
両腕は手錠で固定されているから、何を思ったのか、足を振り上げ・・・・・。
「暴れんなって!!!!これ以上罪を重ねるな!!!落ち着けよ!!!いいから落ち着け!!!」
犬飼さんに投げ抱えられ地面に組み伏せられてしまった。
土煙が舞うから、ほんとに暴れないでね??
「離せ!!!離せえええええええええ!!!!!!」
「こら!!!暴れんな!!!えー、こちら犬飼!!!応援を至急!!!」
これじゃあ、どこからどう見ても、逃げ場の無くなった犯人の悪あがきだ。
最後の最後まで名前の分からぬ(ごめんね??)男子よ。君の見せ場はもう無くなったぞ??良かったな。
対して、諦めきった彼は、犬飼さんと一緒にやって来た刑事に言われ、大人しく手錠を掛けられている。
うん。あれくらい大人しければ捕まらなかっただろうに・・・・。
雉も鳴かずば撃たれまい、ってことわざ知らないのかな??国語教師なのに??
「随分と無茶した」
「ごめん・・・・」
なんだろう??いつもと変わらない無表情なのに、茜の言葉に少し棘があるような気が・・・・。
「ごめん、じゃ許さない」
「・・・・え??」
「犯人を見つけるまでに、かなり強引なこともしたって聞いた」
「・・・それは、まあ・・・・」
そうしなきゃいけなかったからね??でもそれは・・・・。
ごん!!鼻先がくっつくほど覗き込んできていた茜が、鈍い音が響くほど頭を俺の額にぶつけてきたんだけど・・・・。
「痛い・・・・です・・・・」
「それが生きているってこと」
はっ!?とするほど美しい瞳にのぞき込まれて、正直居心地が悪すぎる・・・。
「茜、その辺にしておいてやりなさい」
「でも!!お姉ちゃん!!」
「でも、じゃない。今、深冬は、今はとにかく病院に行くことが重要だ。それ以外の追及とかは、今じゃなくても大丈夫」
「・・・・・分かった」
渋々顔をあげた茜を抱きかかえるように佐倉先生が立っているんだけど・・・・。
「先生・・・・あの・・・・」
「今は大丈夫だ。まあ、もちろん元気になったら、きちんと説明してもらうから、そこらへんは覚悟をしておくんだな?」
にこり、と花が咲くような笑みが逆に怖いんだけど・・・・。
「いや、はい・・・・。あのですね・・・・・」
「うん?なんだ??一体どうしたんだ??言いたいことがあるのなら、きちんと言った方がいいぞ??」
・・・・・ですよね??だったら言わせてもらいたいんですけど・・・・。
「俺の足、変な方向に曲がってたりとかしてません??」
随分前から、絶妙に痛いんだよね??折れてたりとかしないよね??
「ああ。それは無いから安心しなさい」
良かった・・・・。さすがに本職じゃないとは言っても、現保健医だからな・・・・。説得力が・・・・。
「ただ、言い辛いんだけど、足首が随分と真っ赤になって膨らんでるから、もしかしたら折れちゃってるかもしれないけどね??」
「トマトみたい」
「・・・・っっ!!??それを先に言ってくださいよおおおおおお!!!!?????」
道理で!!!??道理で痛いはずだよね!!???
え!!??俺の足首折れちゃってるの!!??
もう戻らないくらい!!???大丈夫!!??ねえ!!大丈夫なの!!??ねえ!!!
「救急車ーーー!!!早く救急車をーーー!!!重病人!!!重病人がここにいますからーーー!!!!」
ぎゃあ、ぎゃあ、とみっともなく喚く俺をしり目に、先生と茜は随分と冷めた目でいらっしゃること。
「全く、男なのにだらしがない・・・・・。それくらいの痛み我慢していれば治るはずだ」
「そんなわけあるかあああああああぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・!!!!!!!」
何その超自然治癒力??先生って、サイボーグとかなのかな??




