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孤独な迷探偵  作者: 高橋はるか
第一章 座禅しながら人は死ねるのか??
5/55

4体育の教師って依怙贔屓が過ぎるよね?

・・・・ようやく解放された。

あの後およそ二十分近い説教を受けて、当然のように書き直してこい、と言われたが、散々だ。

授業はもう始まっているだろうし、ここで終了間際に教室の中にでも入って行こうものなら、途端に浴びたくもない注目を浴びることになる。

その上、知っているくせに教師共の、なんで遅れたんだ?というあの問いかけと言ったら・・・。

もう一度言うが知っているくせに!!

はあ・・・・。まあ、それでもしょうがない。こんなくだらないことで出席日数を減らしたくもないし、とりあえず顔だけでものぞかせてみるか、と思って、教室にこっそりと戻ってみれば、何のことは無い、移動授業だ。

・・・・ああ、そう言えば次の授業は体育だったっけな。

もう今更感は拭えなかったが、とりあえずここで待っていても皆が戻ってきたときに、

はあ?なんでこいつ一人だけ制服でいるの?

なんて言われるのは嫌だ。

不良か?こいつ?

と思われるだけならまだしも、

気味の悪い奴だなあ、誰かの財布でも盗んでたんじゃあねえのか?

なんて迫られて濡れ衣を着せられてはたまったものではない。

嫌だけれども、目立たず、波風立たず、誰とも話さず、誰にも話しかけられない。それが集団の中で何も持たない弱い自分が生き残っていく道なのだ。

下手に目を付けられて、陰湿ないじめでもされた日には、この狭い学校社会の中だ、逃げ場もなければ、助けもない。

そんなことを思いながらも、のろのろと着替えを終えて、体育館へと向かった。

当然のように体育の授業は佳境へと差し掛かっており、そろそろと中へ侵入した一生徒に目を止める者はいない。

それが、クラスの人気者であれば話は違っただろうが、目立たない、というよりは、人と滅多に話をしない俺程度の人間だ。見向きもされない。

・・・後は、どこかその辺の壁際まで行って、誰の迷惑もならない所で呆けて居よう。

そう思って、俯きがちに歩いていると。後ろから思いのほか強い力で肩を掴まれた。

・・・え!!!??

突然のことに混乱した頭で、振り払うか否かを考えていたが、有無を言わさぬ声で、

「こっちに来い」

と言われてしまう。

振り返ってみれば、なんてことはない。肩を掴んでいたのは体育教員だ。

「・・・・あ・・・・その・・・・」

それでも、当然のように言葉は出てこない。

そりゃそうだ。こちとら伊達にこの一週間人と口をきいていなんだぞ?

さっき怒られたときだってあれは独り言みたいなもんで、別段会話らしい会話なんて無い。

家にいるとき?そんなの・・・・・自慢じゃないがほぼ無言だ。

しかし、何かを言う前に、有無を言わさず体育教官室と呼ばれる体育館の上、ちょうど館内全体を監視できる部屋へと連れて行かれる。


「はあ・・・・。で?」

ドカッ、と自分だけ教官室に置いてあった椅子へと腰かけた体育教諭は、開口一番長々とため息をついてそんなことを言ってきた。

いや・・・・で?って?逆にこっちが、で?なんですが?

圧倒的に言葉が不足している。こいつもこいつで、大学時代も部活かなんかをやっていたからなのかその弊害で人は言葉なしでも分かり合えると思っていやがる。

そんな簡単に以心伝心ができるなんて、地球外生命体でもないんだ、日本語を話してくれ!

「でって、言われましても・・・・・」

「なんで遅れてきたんだ?ってこっちは聞いてんだよ!!そんなことも分かんねえのかよ!!」

怒られた。

逆になんでわかると思ったのだろうか?

腹が立つ。

「・・・・怒られてたもんで・・・・」

校内放送で、俺の名前が呼ばれたいたことなんて皆知ってんだろうが。耳が聞こえねえのかこいつは?それとも、校内アナウンスはもしかして俺のいるクラス限定でしか聞こえないようになってんのか?スピーカー、ここにも付いてるよね?

「校内放送で伊藤先生に呼ばれたのは知っていたがな、こんな長々と怒られてました、なんて・・・聞かなきゃわからねえだろうが!!」

「・・・・はあ」

何だこいつ?長々と説教されてて授業に遅れました、じゃあ許さないのか?だったらそれは俺に言うことじゃあねえだろうが。

そう思ったが、どうやらそのようだ。

「全く!!それでのこのこ終了十分前に現れて、出席してましたってか!?馬鹿にしてんのか!?」

馬鹿になんかしてないし、何だったら、別に出席してたことにしてもらえるとは期待していない。

「いや・・・・別に・・・・」

「別になんだよ!!??別に何だって言うんだよ!!??ああ!!??言ってみろよ!!」

まるで恫喝するようなその話しぶりは、教師、というよりは筋物のやくざにしか見えない。まあ、それが怖いとは思わないが・・・・。

強がりでもなんでもなく、ただ、ただ慣れた。

暴力にも、恫喝にも、あからさまな無視にも、そして陰湿な嫌がらせにも・・・・。

糞が。

本当に下らねえ・・・・。

「なんだお前その顔は!!??文句でもあんのか!!??あるなら言ってみろよ!!!」

「・・・・いえ。ありません・・・・」

本当に面倒だ。

いちいち、いちいち突っかかってくるんじゃねえよ、と言いたいがそれをぐっとこらえ、瞳を俯かせる。

しかし、それでは満足できなかったようで、

だん!!!と思い切り机をたたくと、

「嘘だね!!!お前の顔を見れば分かる!!!不満たらたらだ!!!俺はな!!人の顔見ればそいつが何を言いたいのかなんて一瞬で分かるんだよ!!!!」

はあ??本当に面倒くさい・・・・。

不満はあるか?って聞いて、無いって答えれば、嘘だと言われ、恐らくだが、こういう手合いは、ありますって答えると、今度、それはそれで怒り出すんだ。

もうどうすればいいだよ?って話だけれども、要は、いちいち俺のことが嫌いなんだ。

顔も、口調も、雰囲気も、全てが気に障るってことなんだろうな。

そんなふうに難癖付けられ続けてきた。

こっちこそ、お見通しだ。

「ただ怒られてただけなのにそれで授業に遅れて出席にしてもらえないのが不満だって顔してるくらい見れば分かんだよ!!!ええ!!??そんなのお前の責任なんだ!!俺に関係なんて無いに決まってんだろうが!!!ばああか!!なんで俺が譲歩しなきゃならねえんだよ!!!」

ほんっとうに口が悪い。ついでに頭も悪いと来たもんだ。

ここまで来れば傑作だ。

何度も言うが、俺は別に、出席日数をもらいに来たわけじゃあない。

ただ、制服のまま、皆が戻ってくるのを教室で待っていれば、目立つからそうしているだけなんだ。

それを、見当はずれの推理もいい所だな。いっそ哀れだ・・・・。

何を言っても無駄だと思って、再びの聞き流し体勢に入ろうとしたその時、体育教官室の扉が、こんこん、と控えめに叩かれ、中の応答も待たずに、がらり、と開けて入って来たのは、クラスの女生徒の一人だ。

名前は・・・・・。

何だったかな??思い出せない。というか、覚えてない。

そもそも、クラスの男子の名前すらろくに憶えていなんだ。女子の名前なんて、もしかしたら一人も覚えていないかもしれない。

「・・・・なんだ柏木?どうした?」

ところが、さっきまで口汚く怒鳴り散らしていたこの体育教師が急に黙り出した。

へえ・・・・。柏木・・・ねえ。まあ、今日帰るころには忘れているんだろうけどな。


「てへ。石川先生ー、私、今来たとこなんですけどー」


はあ?俺よりも遅いってどういうこと?なんかあったのだろうか?

「ああ・・・。そう言えばお前も今日来てなかったっけな・・・」

「あ!!ひどーい!!先生私のこと忘れてたなんてー!!」

甘ったるい、間延びしたような声だ。

本当に普段からそんな声で話しているのか?

「・・・・で?柏木、お前は何で遅刻してきたんだ?」

俺の時よりもよほど上等な聞き方をしていやがる。

お前日本語話せたんだな?

「えっとお・・・・。ほら私って家遠いんで電車じゃないですかー?」

いや・・・・知らんし。ほらっ、て言われても、全校生徒が何人いると思ってんだ?そんなこと言われても分からねえだろうに・・・・・。

そう思っていたのに。

「ああ。お前確か隣町のY市から来てるんだっけな?で?それがどうした?もう三限だぞ?昼近いこの時間に来て、寝坊ではないんだろう?」

何で知ってんだよ気持ち悪い・・・・。

当たり前のようにそれに応じるこいつもこいつだが、言われてケロッとしてる女子も女子だ。

「えっとお・・・。家から駅に行こうとしたらあ・・・・。自転車のタイヤがパンクしててえ・・・・。そんで仕方なく歩いて行ったんですけどお・・・・。駅から自転車で学校に来ようと思ったらあ・・・・。自転車のサドルが無くなってましてえ・・・・」

はあ?タイヤが急に今日パンクするわけねえだろうが。どんな砂利道に住んでるんだよお前は。それともお前の家の周りに撒き菱でも撒かれてるのか!?ねえ?虐められてるの?町内の鼻つまみ者なの?相談に乗るよ??

そんで何?自転車のサドルが盗まれてただあ?

ここはスラム街じゃねえんだ。法治国家日本だぞ!?それにあわよくば!!もし本当に盗まれていたとして、誰が、一体何の目的で盗むんだよ!!それも駅構内で、だろう?そんな目立つ馬鹿。いるわけねえだろうが!!

そう思っていたのに。

「そうか。それは仕方ないな」

いや!!いやいやいや!!なんでだよ!!??なんで仕方ない、で片付くんだよ!!意味わからねえよ!!

「盗難届けは出したのか?」

「さっき出したんですけどお・・・。それにも手間取って遅くなっちゃいましたあ」

「だったら仕方ないな。今日のとこは出席扱いにしてやるから、次からは気を付けろよ?」

なんっだよそれ!!??次から気を付ける!!??本気で言ってんのか!!??

本気ならやっぱりよほどの馬鹿だろ!!次からどうやって気を付けたらサドルを盗まれないんだよ。教えてくれよ。なあ!!

サドルにくぎでも打って固定しておくか!?

ぶっとい鎖巻いて南京錠でもかけて置くってか!?

馬鹿なんじゃねえの!?

「やったああ!!石川先生ありがと!!私体育の出席、ぎりぎりだったんだよね!!ほんとにありがとね!!」

それで素直に喜べるこいつも馬鹿だ。

馬鹿ばっかりだ。

だってよく見ろよ。

お前が嬉しそうにはしゃいでる姿見て、短いスカートの裾ちらちら、ちらちら見てるぞ?


見返りが無ければ、他人なんて普通何かをしてやろうなんて思うはずがない。

こいつらにとっては、権力使ってやりたい放題できる教師なんて天国だろうな・・・。

白けた目で見ていたら、さすがに居心地が悪かったのだろう、一つ咳払いして、

「柏木も、杉谷ももう帰っていいぞ」

なんて優しい言葉をかけてきたから、これ以上一緒にいるのも馬鹿らしくて、そのまま頭を下げて退室した。

扉を閉めた瞬間の柏木、と呼ばれていた女生徒の顔なんて、俺のことを空気だと思って気を抜いたんだろう、一瞬で無表情に変わった。

それもただの無表情じゃない。

一切何もありませんでしたよ?と言わんばかりの、完全な無。

ここまで人は切り替えることができるのか!?と驚くほどの。

先ほどまで振りまいていたふわふわした雰囲気から一変して、薄気味の悪い造り笑顔さえも一瞬で消える。


・・・・まるで、最初から何も無かったかのように。


それでも、お互い何も言葉を交わすことは無い。

そもそも俺も、話しかけられたいとも思わない。

だからそのまま、終業のチャイムが鳴ったのをいいことに、彼女は皆のいる女子更衣室に、俺は、誰も待つ人などいない教室へと向かう。



これも実際に私の通っていた学校にいらっしゃった先生を参考にしてますけど、かなり誇張してます。大体・・・・四割??五割くらいの感じですか??

皆さんの学校にはこんな人たちっていませんでした??

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