48たとえすべてを犠牲にしてでも②
「ちょっ!?返しなさいよ!!!返してよおおおおおおおお!!!!」
半分泣きべそでもかいているのか?と疑う金切り声と、
「てめえ!!杉谷!!!待てええええ!!!!」
どこかの馬鹿の野太い声も追いかけてくる。
ちょっ!?お前はいらないよ!?なんで付いてきたの!?空気読んでよ!!空気!!
頼むから、もう一人、是非とも追いかけてきてほしい人がいるんですよ!!あ、勿論お前じゃなくてね??
・・・俺が逃げたのにも意味がある。
あれだけ思わせぶりな話をしたんだ。
真犯人が、一体どんな動機があって、石川を殺したのか俺は知らない。
だが、唯一の証拠品となりそうなものを俺が持って逃げている。そして、なぜか、事件に最も詳しい俺。
ここまで来れば、追いかけないわけにはいかないだろう??
例え、全く携帯電話が関係なかったとしても、だ。
そう思いたい!!
・・・・実のところ、あの中に犯人がいなければ、終わりなんだけどね・・・。頼むから、遅刻の常習犯とか、もしくは教師でした、とか、そう言う結末だけは止めてよね??
「ぜえ、ぜえ、ぜえ・・・・・」
日ごろの運動不足がたたったな・・・・・。
校舎の端から端まで駆け抜けて、一階から三階まで階段を駆け上がるだけでこんなにも息が上がるなんて・・・・。情けねえ・・・・。
そうだな・・・、もし、俺が、ここから生きて出られたら、休日くらいは運動するか。
まずは、歩くことから、かな??
「はあ、はあ、はあ・・・・・、返し・・・・てよ・・・・!!」
まあ、お前もたいがいだけどな・・・・。成瀬流美・・・・・。
外見そのまま、随分と足も遅ければ、体力もないのね??
それは、女の子だってこともあるから仕方ないか・・・・。
いや、しかし、それにすら追いつかれそうになった時は、流石に、心が挫けそうになったけどね・・・・。
「ぜはあ・・・・、ぜはあ・・・・、ぜはあ・・・・・!!!・・・・もう・・・・!!逃げられねえぞ・・・・!!!」
・・・・逆にお前は、なんでそんなに死にそうなの??
顔色も悪いし、呼吸器官系にダメージでも負っているのか?って心配になる程、掠れた声じゃん??・・・・ほんとに大丈夫??
ええい!!!でも、こんなところで捕まる訳にはいかないんだよ!!
「捕まえてみろよ!!」
ひらり、と階段の踊り場の窓から、外に飛び出せば、そこは、教室の外のベランダ??みたいな通路になっていて、壁伝いに下さえ見なければ、何とか、歩けるんだけど・・・。
老朽化が酷いんだ、これが・・・・。
今にも壊れそうで、立ち入り禁止になっているから、教室の外に出て、このベランダに出ているのが見つかったら、とんでもない大目玉を食らうところなんだけど・・・・。
今は、教室も誰もいないから、どこかの窓が開いていれば、そこから、また逃げることができると思ったんだけど・・・・。
「この・・・!!逃がさないわよ!!」
委員長も、高所は別に苦手じゃないみたい・・・・。
ひらり、と存外に身軽な動作で、俺を追いかけてくるじゃありませんか??・・・彼女が立った瞬間、みしり、って嫌な聞こえた気がするんだけど・・・・、大丈夫だよね??
俺の体重が、五十五キロもないから、彼女、重いの??
「待てや!!こらあああ!!!!!」
「あ、ちょっ!?来るなよお前は!?」
やばいって!!やばい、やばいから!!!ほんとに!!冗談抜きで!!!
だって、男子にしては、身軽な俺と、やせ型の女の子、二人で、もうミシミシ、ミシミシ軋んでるんだぞ!?
そこに、お前まで来たら・・・・!!??
ばきん!!!
何かが割れる、不快な金属音がした。
それこそ、鉄が割れるような、ネジが折れるような、そんな音。
嫌だなー、嫌だなーってときほど、その予感って当たるよね??
あれ、何なんだろうね??
俺は、神様って信じてないけど、こういう時は、何だろうね??やっぱり神様っていて、ちゃんと、どこかで見てるのかなー、とか、考えちゃうよね??
がん!!!
中央が、撓んだ。
一瞬の浮遊感、足元、地面が消えるような、そんな錯覚。
足の裏がヒヤッとする。背筋が凍る。全身に一瞬で汗が噴き出す。
ここが三階だってことを、今更になって思い出すよ。
全てがスローモーションに見える。
見下ろせば、遥か彼方に見える地面も、そこに生えた花壇の草木も。
そして、凍り付いたように身を強張らせた成瀬流美の顔も。
何より、一瞬の浮遊感に、まるでもがくように、宙を必死に掻き、何とか捕まるところを探す伊藤の慌てた姿も。
その腕が、成瀬流美の肩を押す。
「・・・・・え・・・・・??」
余りにも簡単に。
そして、あまりにも呆気なく、振り落とされた彼女の体は、なすすべもなく宙に投げ飛ばされてしまった。
そして、自分がしてしまったことすら気付けずに、ようやく体勢を整えた馬鹿な教師が、ふう、と安堵の息を吐き、気持ちを落ち着けているところも。
全てが、スローモーション。
全て俺には、ちゃんと見えている。
理解できる、できない、ということはこの際置いておいて・・・・。
ただ、ただ、体が動いた。
直感的に、そして、感覚的に、飛び出していた。
自分から、宙に向かって、まっすぐに。何も支える物が無い虚空に向かって、泳ぐように。
ただ、ただ、馬鹿みたいに。
なんでだろうね??
助けなくちゃ、とか、そういうことは全く思わなかったかもしれない。
いや、それでも自分から飛び出したんだから、思っていたのかもしれない。
ただ、その、彼女の、え・・・??って言う表情を見たら、飛び出さずにはいられなかったんだと思う。
何が起こったのかも分からずに呆気にとられ、すぐに、助けを求めるように懇願するようなその表情を見たら・・・・。
だって、いつか、いつだったか??鏡で、朝自分の顔を見た時にそっくりだったから。
だから、あの時、俺ごときには手を差し伸べてくれる人はいなかったけれども・・・。
俺ごときには何ができるかなんてわからないけれども・・・・。
ただ、手だけは伸ばしたかったんだ・・・・。
「きゃああああああああああ!!!!!!?????」
・・・・しぬ・・・・・・!?
ぽつり、と悲鳴の狭間に彼女のそんな心の叫びが聞こえた気がした。
それは、死んでもいいや、っていう、諦めの色は無かったように思う。
だから、敢えて俺は笑う。
・・・・死なねえよ・・・・、だって、四階から落ちても、人って死なないんだぜ??
まあ、打ち所が悪ければ死ぬけどね??
それでも、大丈夫だよ・・・・。
だって・・・・・。だってさあ・・・・。
ばきばきばき!!!!!
地面に激突するほんの直前に、花壇に植わっていた植木を圧し折り、なぎ倒し、
だああああん!!!!
地面に背中を思いっきり打ち付けながら、ようよう俺と彼女の追いかけっこは終わる。




