47たとえすべてを犠牲にしてでも①
背の低い順から列を作って、口を開くことすら許されずに続々と体育館に連行されて行く俺たちは、さながら軍隊か、もしくは囚人か??
俺たちくらいの年齢になると、もう無いけど、高校一年生とか、中学生とかって、ほんとに一か月とか、一週間とかで、身長が伸びるもんだから、熾烈な闘いだったな・・・。
あ、俺が、じゃなくて、俺以外の皆が、だよ??
勘違いしないでね??
だって、俺、誰からも目立たない様に猫背だし。
何なら、真ん中くらいの方がちょうどいいし。
でも、真ん中って、前後左右全部人に挟まれるから、ちょっと嫌なんだよね・・・・。
列を乱さないようにしなきゃいけない中で、前後左右の同級生が、できるだけ、できるだけ、教師から注意されないぎりぎりで、俺から距離を取ったりとか?
絶対に触れない様にしたりとか??
・・・・やめよう。これ以上考えても虚しくなるだけだ・・・・。
「あれ・・・??」
体育館に着いて、指定の場所に並んで、初めて気づいたことがある。
・・・・教師の数が・・・・少ない・・・・??
それも、少ない気がする、ではない。圧倒的に、少ないのだ。
これは、チャンスか??チャンスなのか!?
・・・・まあ、恐らく昨日の俺のせいだろうけどね。
十中八九、校外、教育委員会、PTAとか、保護者会からの問い合わせのせいだろうな。
これを狙ったわけじゃないけど、上手い具合に進んでいる。
そのおかげと言っては何だけど、体育館の前方、壇上近くに教師が固まっているほかに、横に並んでいるくらいで、後ろの方、特に出入り口付近には、ほとんど、と言うか、全く人がいない。
最悪の場合、逃亡を図ることができるわけですが・・・・。そうならない様に祈るしかありませんねえ。
・・・・きーん・・・・。
と耳に不快な、マイクの共鳴音が一瞬、響き、ぶつり、という音と共に、壇上に立っていた一人の教員がおもむろに口を開く。
それ以外の教師は、まるで、囚人を監視する看守のさながら、壇上から、俺たち生徒の方を隅々まで睨み付け、目を光らせるが、そんなことしなくても別にいいのにね?
「えー・・・・。今回集まってもらったのは他でもない。皆も知っていると思うが」
そこで言葉を切った彼は、すう、と息を深く吸い込むと、
「一体どこのどいつだあああああああああ!!!!!!?????」
マイクなんかいらないんじゃないか??と思うほどの絶叫が、体育館中に、いや、校舎中に響き渡り、思わず耳を塞いだ生徒は俺だけではなかったはずだ。
「悪ふざけもたいがいにしろよこの餓鬼どもがああああああ!!!!!!!」
こんな朝早くから、あんなに叫んでよく血管が切れないよなあ・・・・。
「死んだ先生のことを冒涜して!!!!!ありもしない偽情報を流しやがってえええええ!!!!!てめえらみてえな屑野郎初めてだあああああ!!!!!」
へー・・・・。俺も、お前みたいな馬鹿初めて見たけど、じゃあ、お互い、初めましてなのな?もう一回最初から自己紹介でもするか??
「一回だけチャンスをくれてやる!!今回の嘘の情報を流した馬鹿野郎は名乗り上げろ!!」
名乗り上げたら、今だけは許してやる、とかは無いの??そう言う、期間限定キャンペーン流石に今回は無しかあ・・・。これは痛いなあ・・・・。
まあ、もしそう言ったとしても、結局最後には、怒鳴られて、殴られるんだ。教師ってホントに嘘つきばっかりだよね??
なに??嘘つかなきゃ生きていけないの??
道徳とか、倫理とか、謙虚さとか、そう言う言葉を並べ立てたその口で、おぞましくも、浅ましくも、どうやってこいつらを騙してやろうかな?って腹積もりしてるわけだ?
すごいよねー。俺だったら、罪悪感とか、良心の呵責とかに苛まれて、まともな精神状態では務まらないね。
ああ、だから、あいつらって全員、目が血走ってて、口から泡吹いてて、首がかくかくしてて、まるで狂人みたいのか!!ようやく理解できたぞ!!
「名乗り出ねえのか!!!???・・・・・てめえら度胸もねえくせにつまんねえことしてんじゃねえええええ!!!!!!!!」
へー・・・。そう思われるのは癪だな。別に度胸なんて、そんなもの関係ない。だって、俺がしていることは、別に悪いことじゃないんだから。
罪を犯した人間を正当に裁いているだけ。
それが死者だろうが、何だろうが、死んだら逃げられる、なんてそんなの許さない。
冒涜しているわけでもないし、侮辱しているわけでもない。だって、それが真実なんだから。
だから、今だけは胸を張れ!!背筋を伸ばせ!!
普段は猫背で、大して人様に誇れる生き方なんてしてねえけど、今だけは、目一杯叫べ!!
「・・・・なんだ!?お前・・・・杉谷か・・・・!?何黙って手を上げてんだよ!!??お前がやったのか!!!??今回のこれは!!!お前がしたことなのか!!!??ああ!!??」
ゆっくりと立ち上がる。
面白いくらい膝が震えるな・・・・。
笑っちゃうくらい、喉がカラカラだ・・・。
手が、じんわりと痺れるように先ほどから感覚が無い・・・・。
汗が、ぽたり、と手のひらから床に、そして背中から肌着に、脇から服に垂れてくるけど、もう止められない。
「そうですけど何か??」
皆の視線が、俺に集まっている。
呆然とする者、唖然とする者、驚愕に目を、口を開いたままの者、怪訝な表情の者、そして、中には、笑っている者もいる。
人が不幸になって、それが面白い連中なんだ。気にしたら負け。
それよりも、全員を意識しろ!!!
俺が求めているのは、どんな些細な反応でもいい!!
他の皆とは違う、そんな反応。
何処だ・・・・??どこに居る??
誰だ・・・・??いったい誰なんだ??
目を凝らせ!!耳を傾けろ!!意識を集中させろ!!!どんな些細な反応でも見落とすな!!必ずこの中に!!真犯人がいるんだから!!
「・・・てめえええええ!!!!!自分が何したか理解してんのかああああ!!!!???どう責任取るつもりなんだああああ!!!!??ああ!!??」
まーた、責任かよ。こいつら大人って、責任て言葉が好きなのな。
口を開けば責任。
言葉を発したと思ったら、責任。
一言目には責任、二言目にも責任、責任。そんなにその言葉が好きなら、心中でもしたらどうだ??
まあ、今は目の前のこいつと闘っている様で、実は違う。
だから、真摯に向き合う必要なんてない。
悪いけれども、この馬鹿を利用させてもらおう。
「あのさあ。俺がいつ、自分が嘘をついたって言ったよ!?俺が昨日話したことが全部本当だったら!?逆にどう責任取るつもりなの!?しっかり調べもしないで、責任、責任って・・・・。それほど虚しく響く言葉もねえぞ!!??国語の教師だってんなら、ちゃんと辞書で責任って言葉の意味でも調べてきたらどうだ??」
「ってめええええええ!!!!!!」
マイクから口を離し、壇上を駆け降りる伊藤に、思わず、焦りながらも、懐の中に手を入れる。
「ほら!!!!皆も疑うんなら見てみろよ!!!」
ばさり!!と、宙に放り投げたのは、便箋の束。
できるだけ、女の子っぽい便箋を探すのに苦労したぜ。
そして、中を見られてもいいように、女の子っぽい丸文字を書くのにも、な。
誰もそれを拾って読もうとはしなかったけれども、突然の行動に、一瞬、伊藤の足が止まったのは事実。
そして、宙に放られた便箋の束を目で追う奴の隙をつき、十数枚の便箋を新たに懐の中から抜き出す。
それは、先ほど宙に放った便箋とは明らかに異質な、古ぼけた茶封筒のような趣のある便箋。
中から一枚、取り出した紙は、和紙のような、紙質の手紙。
「そんなに信じられねえなら、今から読み上げてやるよ!!!これを読んでも俺は嘘をついたって言い張れるのか!?」
すう、吐息を深く吸い込む。
壇上を駆け降りた伊藤は、しかし、ぎゅうぎゅうに詰めて座った生徒の列に足を取られ、中々前へ進めずにいる。
馬鹿が。だから、こんな狭い体育館で全校集会なんてするもんじゃないんだよ。
それでも、今、この瞬間だけは、感謝する!!
「『石川様・・・。今宵の月はとても綺麗でございますね・・・・。』」
もし、この中にいるのなら、早く出てきてくれ!!頼む!!
祈るような思いで、読み上げるのは、恐らく、彼女が書き上げた渾身の恋文。
「『このような美しい満月の夜、あなた様のことを想い、文を認めているのは、』」
申し訳ない、とは思うが、こうするほか道がない。
自分が書いた、ポエム的な恋文を読み上げられる程、恥ずかしいことは無い!!・・・はず!!
ああいうのは、冷静になればなる程、自分なにやってたんだろう!?って死にたくなる奴だ!!
先に言っておくけど、実体験ではないよ??そこだけは強調しておくね??
「『この上もなく切ない気持ちとなってしまいます・・・・。』」
さあ!!早く出て来い!!
頼む!!さっさとしてくれ!!!出てくるのならさっさと!!!
社会的に俺が、そして君が死ぬ前に!!
「『ああ・・・・。あなた様の涼やかな視線、熱い吐息・・・・・』」
「やめてえええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!」
その叫びは、あまりにも突然のその叫びは、そこにいた全てを凍り付かせてしまう。
それは、俺を何とか止めようともがきながら進んできていた伊藤の足すらも・・・・。
そして、当の俺はと言うと・・・・。
ああ、やっぱりこいつか。そうじゃないか?とは思っていたんだが・・・。
「はあ・・・・、はあ・・・・、はあ・・・、止めて!!!お願い!!!もう聞きたくない!!!もう十分!!!!」
「やっぱりお前か・・・・。成瀬流美・・・・。学級委員長さん」
『こころ』を二週連続ぶち抜きでレンタルしてたくらい明治の文豪、それも夏目漱石が好きだってところで、そうじゃないか?と思ってたんだ。
それだけ。たったそれだけのほんの些細な推理。だからこそ、賭けだったんだけど、今朝お前を見た時に、賭けに勝ったな、って思ったよ。
だって、お前、普段そんなに朝早く学校に来る生徒じゃないよな??
と言うか、俺の中ではいつもギリギリに登校してくるイメージの方が強かったから少しびっくりしたよ。
それで、分かったんだ。
・・・・ああ、こいつも心配で、不安で、夜も眠れずに学校に来たんだな、って。
来たくもない学校に。どきどきしながら。それでも確かめずにはいられなくて、やって来たんだろうな、って。
「そうよ!!私よ!!!私がそれ、書いたのよ!!!だって!!!先生のことが好きだったから!!!大好きだったから!!!」
趣味悪う・・・・。あんな、屑のことなんで好きになっちゃったの??
「だってしょうがないでしょ!?好きになっちゃったんだから!!!体育の授業で!!!真剣に教えてくれる先生が格好良くて!!!なんでもスマートにできちゃう先生が格好良くて!!!手を取って教えてもらったときにああ、好きだって!!そう思っちゃったんだからしょうがないじゃない!!!!」
誰に言い訳をしているんだ??
その言い訳に意味なんてあるのか??
「だから殺したのか??」
「私は殺してなんかいない!!!先生を殺すなんて!!!そんなこと絶対にしない!!!」
そうだろうな。
その通りだと思うよ?
さっきからの態度と、そして、この恋文を見て、本当に憧れてただけなんだ、って、それくらい見れば分かるさ。
「本当にそうなのか!?本当にお前が殺してないって言えるのか!?だって、あいつは、他の女子生徒にも色目使ってた屑野郎だぞ!?知ってたんだろ!?」
「そんなふうに先生を悪く言わないで!!!」
やっぱりな。
知っていたんだ。
知っていたのに、それでも好きなんて、本当に人って変な生き物だよな?
しかし、さて?どうするか??
真犯人が全く見えてこない。さっきから、必死に揺さぶりをかけているつもりなんだけど、ここに集まった生徒の中に、他とは違った反応をする生徒が全くいない。
もしかして、今日は休んだ生徒なのか??
もしくは、俺の勘違いで、教師の中に犯人がいるのか??
はたまた、全く動機が違うのか・・・??
ええい!!くそ!!ここまで来たらもうアドリブだ!!どうにでもなれ!!
「だってそうだろ!?金で女子生徒を買ったりもしてたんだぞ!?そんな糞野郎に裏切られたって感じてもおかしくは無いよな!?」
「先生はそんなこと絶対にしない!!・・・・確かに、私以外にも、よく他の女子にも優しかったり・・・・、体を触っていたりはしたけど・・・・。でも!!!だからって先生がそんなことするような人じゃないって私信じてたから!!!」
ここまで来れば傑作だ。
自分に不都合な真実からは目を背けてきたんだ。
それで、自分に都合のいいことだけを切り取って、他の全部に理由を付けて、逃げてきたんだ。
だから、見えなかった。いや、見なかった。
「本当に本気で言ってんのかあ!?だったら、お前があいつに宛てた他の手紙でも読んでみるかあ??もしくは、ほら!!あいつが使ってた携帯電話だ!!」
全部嘘だ。
手紙も、俺が、勝手に内容を予想して書いただけ。
携帯に至っては、犬飼さんにお願いして、見せてもらったから、あいつが使っていたのはどんな物か知っていたんだけど、哀しいかな、色といい、形といい、俺の使っているのによく似てたから、あとはケースを買って来て、ぱっと見には分からないようにしただけ。
「警察は、この中に、容疑者を絞る手掛かりがあった、って言ってたけど、もしかしたら、それはお前のことなんじゃないのか??」
「そんな・・・・!?・・・私じゃない!!!絶対に!!!私が殺すなんて!!そんなわけない!!!」
「じゃあ、別の手紙を読んでもいいわけだな!?ほら!!皆に聞いてもらおうぜ!!!俺とお前!!どっちが正しいのかを!!!」
わざと、見せつけるように手紙を開けば、疑心暗鬼に陥っている彼女は、それを止めるしかできない。
「返して!!!」
飛びかかるように襲い掛かって来た彼女の手を避けるように、その場から飛びのく。
「おっと!!??捕まるかよ!!」
ひらり、と身を躱して、そのまま体育館の出入り口目指して脱兎のごとく駆け出す。
頭の中では、ただ、必死に、逃げろ!!逃げろ!!とうるさいばかりに耳鳴りがやまない。
・・・・うるせえんだよ!!




