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孤独な迷探偵  作者: 高橋はるか
第一章 座禅しながら人は死ねるのか??
46/55

45踊っていたのはこちらなのか??

「えーと・・・。なんですか??・・・ここで臨時ニュースをお伝えします!!」


テレビの中で、今の今まで、見る価値もねえ和やかな動物特集なんかしてたくせに、厳めしい男性に画面が切り替わったかと思うと、そいつは、手元の原稿をぺらり、とめくりながら、


「先ほど入って来た情報によりますと・・・・U高校教員殺害事件に進展があった模様です!!」


「ぶふっ!!・・・はあああ!!!???」


思わず、口に含んだチャーハンを吹き出しそうになったが、それはこの際どうでもいい。

・・・一体何が・・・!?いや、誰が、か!!??


「何が起こったんでしょうね??」

誠も、目線はテレビに釘付けのまま。普段であれば、麺が伸びる前にと、急いですするラーメンに箸を浸したまま、食い入るように画面を見つめている。

・・・警察内部に情報をリークした人間がいるのか・・・??だとしたらそいつは署長の大目玉を食らうぞ!!

一体誰が・・・??


「えー・・・・。今入ってきた情報によりますと今回の事件は、前代未聞の密室殺人だそうです!!どのような、密室だったのかは、情報は・・・・??入って来てませんか!?入ってきていない!!情報が入り次第お伝えいたしますが!!さらに・・・・。え??これは伝えていいんですか!?・・・いい??」

密室殺人、と報道されただけでも最悪なのに、これ以上何を言うつもりなのだろうか??

いやーな予感がしてきた・・・。いやーな予感が・・・・。

ぼそぼそとディレクターらしき人物に確認を取ったアナウンサーは、


「警察は、すでに密室の謎を解き明かし、犯人逮捕に王手をかけているそうです!!まもなく犯人が逮捕されるとのこと!!少なくともこの一週間以内には犯人が明らかになり、事件も終息するのではないか!!と情報が入ってきました!!」


まさか・・・。違うよな??違うと誰か言ってくれよ・・・・。


「犬飼さん・・・・。これって・・・・。もしかして、犬飼さんと、『もう一人の協力者』くんの約束では・・・・??」

「あんの野郎!!!!」

慌ててポケットから取り出した携帯電話で、登録したばかりの杉谷と言う学生を探し、かけてみたが、何度呼び出しても留守番電話に繋がっちまう!!

「くそっ!!あいつ今一体どこで何してやがる!?」

「犬飼さん・・・・、犬飼さん・・・・」

兎に角、今すぐにでもあいつを警察署まで連れて行って、もう好き勝手出来ない様に拘束しなくちゃいけねえ!!!

それもこれも俺のせいなんだが・・・・、今回ばかりは、全部が全部、裏目に出てやがる!!

「犬飼さん・・・・、犬飼さん・・・・」

ちょい、ちょい、と立ち上がった俺のスーツの裾をさっきから誠が、何度も、引っ張って来て鬱陶しいな!!

「なんだ!?」

振り返れば、そこに、テレビを指さす誠が・・・・。


その指さす先を見てみれば・・・・。


「じゃあ!!殺された石川先生は、女子生徒に対して、成績と引き換えに売春を強要する最低の教育者だった、と!!??」

「ええ、そうですね」

「その証拠は今ありますか!?」

「ええ、ここに」

テレビの中に映っているのは、顔を映さない様にお腹の辺りを映され、レポーターからのインタビューに答える男子学生。

声も変えられ、例え、仲の良い友人でも、一見では分からないようになっているが、俺には簡単に分かる!!

「あいつ・・・・、まさか・・・!?」

ひらり、と取り出したのは、一通の便箋。

こんなことになるなら、あの体育教官室とやらに残して来なければよかった、と後悔するがもう遅い。

何せ量が多かったものだから、内容も確認せず、上から段ボールに入る分だけ入れてきたのだが・・・・。

その後、もう一度回収に行くのをついうっかり忘れてしまっていた。


「拝見しても!?」

「ええ」

「どれどれ・・・??『石川様・・・。今宵の月はとても綺麗でございますね・・・・。このような美しい満月の夜、あなた様のことを想い、文を認めているのは、この上もなく切ない気持ちとなってしまいます・・・・。ああ・・・・。あなた様の涼やかな視線、暑い吐息、温かい、大きな手の平・・・・。今でも、あの時のことを思い出しては、天にも昇るような心地になります・・・・。あなた様はもう私のことなど覚えてはいらっしゃらないでしょうが・・・・・。それでも、毎夜、私は、あなた様への想いを募らせ、月へと叶わぬ願いを託しております・・・・。秋の夜長、季節の変わり目となり、お身体ご自愛の上、どうか、いつまでも、お変わりなくお過ごしください・・・・』これは・・・・??」

「見た通りですよ。女子生徒からの恋文、と言う奴でしょうね。実際にある女子生徒からは、売春を強要させられていた、という証言も出てきているみたいですし・・・・。殺される動機は十分にあったんじゃないですかねえ・・・??」

「随分と古めかしい、いえ、奥ゆかしい文面ですね・・・。では、警察は、この文を書いた人間を探している、と言うことで間違いないですか??」

「さあ??そこまでは俺も何とも・・・・。ただ、事件解決が近いって、そう聞いたもので・・・」


その恋文を丁寧に折りたたんで、返したレポーターは、締めくくるように、

「現場からは以上です!!」


と言い残し、映像はすぐに切り替わる。


「随分とまあ・・・。古風なと言いますか・・・・。今どきの女子高生って、一周回って、あんな手紙を書くのですか??」

真面目な情報番組だからだろう、必死に笑いを押さえながら、アナウンサーがそんなことを言うが、すぐに、

ははは、とスタジオ内に少なくない笑いが起こる。

「まあ、笑い話でもなんでもなく、ああいう、思いつめやすい女性が、傷害事件とか、あとは、自殺未遂とか、最悪の場合、相手も道連れにして自分も死ぬ、とかそう言うことをしてしまうんですよね・・・・」

「はあ・・・・。じゃあ、古川さんは、犯人は、彼に恋をしていたけれども、他の女子生徒に売春行為を強要していた被害者に裏切られたと感じた女生徒の凶行、と??」

何の専門家か知らないが、どうせ専門外だろうに知ったような口を利く、どこぞの教授とやらに、すぐに切り返すアナウンサー。

「まず十中八九間違いないでしょうね。ここまで、事件の調べがついているのなら、犯人の断定はすぐですよ、すぐ。ただし、密室殺人、と言うのがいささか気になりますねえ・・・」

「ですねえ・・・・」

古川、とか言う、何かの専門家らしい教授は、すぐに興味を無くしたのか、それ以上は何も言わず、アナウンサーも、「これ以上の情報は、入り次第順次・・・」と言い残し、終わってしまう。


何とも、不完全燃焼感が否めない内容だ。


一般の視聴者であれば、

「なにあれ??いやだ、いやだ、物騒な世の中で。高校教師が売春強要ですってよ」

「世も末ねえ・・・・。全く、最近の女子高生と来たら・・・」

とか、

「ええ・・・??密室殺人の内容は??それが重要なんじゃんかよ!!」

「ほんとねえ。それにしても、不祥事よねえ・・・・。どうなるのかしら??」

とか、無責任にほざくのだろうが、俺たちはそうもいかない!!


「あいつ・・・・。自分が何したのか・・・・。理解しているのか・・・・??」

呆然と、携帯電話を握りしめたまま、つぶやくが、これは取り返しのつかない不祥事だ。

警察の内部情報が、あろうことか、被害者の通っていた学校の、その上未成年の学生から漏れてしまったんだ!!

もしこれで、犯人の特定ができなければ・・・??

考えたくはないが、最悪の事態になるだろう・・・・。

俺の首が飛ぶくらいなら、まだ可愛い方だ!!

もし、坊主が晒し物にされたら・・・??

いや、それは自業自得と諦めてもらおう!!最悪そうするしかない!!何の意図があって、このような暴挙に出たのかは知らないが、あいつも覚悟の上だったはず!!ならば、それは仕方のないことと割り切ってもらうしかない!!

だが、佐倉姉妹はどうなる!?

今回のことがあって、警察が外部の人間に協力を要請している、なんてことが上層部に漏れでもしたら・・・??

佐倉姉妹の無事すら、どうなるか分かったものじゃあない!!

引っ張り出してきておいてなんだが、最悪だ・・・・。

こんなことになるなら、あいつに頭なんて下げなきゃよかったんだ・・・。


「くっそ!!」

「落ち着いてください。犬飼さん」

「これが落ち着いていられるかよ!?くっそ・・・!!一体どうすれば・・・!?」

何で、すぐに折り返して来ないんだよ!?全く!!最近の若い奴は・・・!!

「落ち着けなくても、落ち着いてください。もう、公共の電波に乗ってしまった報道をなかったことにはできません」

「そんなこと知っている!!」

「だったら、次にどうするか?それを考えるのが、今最も重要なことではないですか??」

「次どうするか?だって??」

「はい。次どうするか?です。この際、私も、驚いていますが、しょうがない、と一旦割り切って見ましょう」

「割り切れねえよ・・・・」

「まあ、そう言わずに」

どんどんと話しているうちに、冷静になって来てはいるが、さて、どうするか?と言う話になると、全く頭が働かない。

と言うことは、まだまだ、俺も冷静になっている様でなりきれていないんだろうな・・・。

「さて、署長とか、上層部とか、そういう物を全部無視して。あとは、視聴者とか、テレビ局各社の圧力とか、教育委員会への申し開きとか、そう言うのも全部無視して、ですよ?」

「それ無視できるのか??」

そこらへんが一番厄介だろうに、こともなげに言う物だから、つい、聞き返してしまったが、

「できるんじゃないですか??彼が言っていたように、一週間、という期限付きであれば、ね」

「そう・・・か・・・??」

一週間のうちに必ず犯人を、と言い切ってしまえば、後の批判は全て、一週間後に、と言い逃れできるのか??今だけは、と言う期限付きではあるがな。

「まず、私が署長を説得してきましょう。そして、署長から、上層部を説得してもらって、その後、公式発表をすれば誰も文句は言わないでしょうね」

「・・・・それ、お前が大丈夫なのか??」

駄目な未来しか見えないんだが・・・。


しかし、その心配をよそに、

「まあ、何とかしてきますよ。そうしなきゃ始まらないでしょう??」

「まあ、そうなんだけどな・・・・」

何か、こいつが言うと、できそうだから怖いな・・・。まあ、できてもらわなければ困るんだが。

「ただし、どんなに頑張ってみても、私ができるのはそこまで。結局のところ真犯人を捕まえなければ、そんな努力は全て徒労に終わる。どころか、真っ先に批判を浴びるのは私でしょうね。その時に無事でいられるかどうか・・・・」

その通りなのだ!!

結局、どこまで行っても、そこに行き着いてしまうのだ!!

何なんだ!?なんなのだあの糞餓鬼は!?

利用できるだけ利用してやろうと、高を括って舐めてかかったのがいけなかったか??

結局あの美人姉妹の美貌に、もしくは情にほだされて、頼めば断れないだろうから、できるだけ扱き使ってやろうと思った罰が当たったのか!?

一瞬でこちらが苦境に立たされてしまった・・・・。

それも、驚くほどの窮地だ。


・・・仕方ない。俺にとっては、あの二人の方が大事なんだ。つい最近顔なじみになったばかりのどこの馬の骨とも知らない餓鬼が、どうなろうが知ったことではない。

あの涙を見た時から、あの能面のような無表情を見た時から、俺は、どうしようもなくあの二人だけは、守ると決めたんだから!!

あんな顔二度とさせねえって、誓ったんだから!!


「くそっ!!」


兎に角、どんなに最悪の場合になったとしても、あの二人に厄が及ばない様に努力しなければ・・・・。

もう何度目になるか分からない悪態をついたときだ。

ぶるぶると、手に持っていた携帯電話が鳴りだす。

「うお!?」

ついうっかり忘れていたが、そう言えば、あの小僧に電話していたんだっけか?

しかし、思いとは裏腹に、電話がかかって来たのではなく、届いたのはメールのみ。

それも、そっけない、何の申し開きも、何の謝罪もない、短文のみ。


『明日中に、犯人を見つけます。学校に待機していてください。探さなくても簡単に分かると思いますので、場所の指定はしません』


「餓鬼があああああ!!!!!!」

何が場所の指定はしない、だ!?

あの広い校舎の中、あいつを探して歩き回れってことか!?大人をおちょくるのもたいがいにしやがれ!!


「ふむ・・・・。もしかしたら、彼なりのやり方で犯人を見つけるのでしょうが・・・。もしかしたら、随分と人目につくやり方、いや、騒ぎになるようなやり方なのでしょうね?そうでなければ、あの広い校舎の中で場所の指定なし、なんてあり得ませんから」

今欲しいのは冷静な分析じゃないんだよ!!

もっと現実的な、どうするとか、そう言うのが・・・・。


・・・だが、落ち着け!!今俺にできることなんて、実は少ないのか??

「犬飼さん。落ち着いてくださいよ。もう、事態がここまで転がってしまったら、どう足掻いたって私たちにできることなんて、無いんですから」

「そうは言うが・・・!!」

図星だ。だが、それを自覚するのと、実際に言われるのとでは訳が違う。


「ですが、一体どうするのでしょうかね・・・??私はそれが興味ありますよ。普通に考えれば、今回の報道を使って、あの手紙の送り主に不安感を与え、炙り出す、とかですかね??」

「あの手紙の送り主が犯人なら、な」

だが、そんなに簡単に行くのだろうか??

まあ、メールが送られてきて電話してこないってことは、そう言うこと何だろう??

連絡したくないならしなくて結構!!

ようは、全てが明日次第なんだ。それだけ大見得を切ったってことは、やってもらわなければ困る!!


・・・まあ、それでもできませんでした、ってなった時にどうするか、ってことなんだろうけど・・・・。ああ、嫌だ、嫌だ。考えたくもねえ!!



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