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孤独な迷探偵  作者: 高橋はるか
第一章 座禅しながら人は死ねるのか??
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3座禅をしながら人は死ねるのか??

被害者(がいしゃ)は?」

「は!被害者はこの高校に勤める教師で、四十一歳、既婚男性です。名前は・・・・石川武夫。死亡推定時刻は、死体の死後硬直の時間から考えてもおよそ昨夜二十四時から深夜一時の間と思われます」

「深夜か・・・・。じゃあ目撃者は居ねえだろうが・・・・。なんで学校の先生がそんな夜中にこんな掘っ立て小屋にいたんだ?」

思わずと呟いた言葉に、真面目な部下が、首をかしげながらも応じる。

「さあ・・・?それはまだ何とも・・・・」

それはそうだろう。まだ死体が発見されたばかりで、何も分かっていることなんてありはしない。

身元と、死亡推定時刻が分かっただけでも御の字だ。

「まあいい。続けてくれ」

「は!被害者の首に策条痕があったこと、そして、死因が窒息死であると思われることから、縄での頸部圧迫により死亡したものと思われます」

「んで?家族は?」

「奥様にお話を伺ったところ、昨夜は少し遅くなる、と連絡があったそうで、いつまでたっても帰宅しないご主人を不審に思い、学校側に連絡をしたのですが、すでに帰宅した、とのことで、警察にその後連絡をしたようです」

「そんときには?」

「その時点で深夜を越えていましたので・・・・。捜索は明日、日が上った時に、とお約束して、奥様にも納得してもらったようですが・・・・」

「今朝、仏になって見つかった、と」

「警部、縁起でもないんで止めてください」

報告中の部下にたしなめられたが、それでも冗談でも言わんことには始まらんだろう。

何と言ったってこんな不可解な事件・・・・。見たことも聞いたこともないのだから・・・。

「んで?家族は?」

「中学生のお子さんが二人いらっしゃるようで、そのお子さん二人を学校に届けてから、こちらに来るそうです」

「土曜日なのにか?」

最近の学校は、土曜日は休みのはずだ。生温い、と思わなくもないが、国が決めたこと。俺が何を言ったところで変わるものでもない。

「部活があるそうです」

「なる程ね。んじゃあ、まだここに来るまでに時間があるわな」

「そうですね」

そのまま、どちらからとも言わずに掘っ立て小屋の中に入る。

外には、何台もパトカーが止まり、ブルーシートが掛けられていて、現場は外から一見できないような状況になっているが、その中では多くの警官達がせわしなく動き回っている。

写真を撮影する者・・・。遺体を運び出す者・・・。関係者から話を聞きだす者・・・。

それ以外にも多くの警官達が入り乱れており、また、部活か何かの朝練のためだろう、登校を始めた生徒たちが、何があったのか、と騒ぎになっていて、喧しいのだが、小屋の中に入るとその喧騒がまるで嘘のように静かになる。

「随分としっかりした造りなんだな・・・・」

「防音?でしょうか??」

「そこまではいかないだろうが・・・・、それに近いんじゃないか?」

掘っ立て小屋にそんな設備がいるのか?と思わなくもないが、それでも、何か理由があるのだろう。

「しかし・・・・」

「ここに被害者が倒れていたわけですね・・・・」

部下が指さすそこは、室内のちょうど真ん中。

仰向けに倒れた被害者は、首に縄を巻いた状態で、手足を投げ出し死んでいたのだ。

それも、鍵を持ったまま・・・・。

「どうして被害者はこの小屋の鍵を持っていたんでしょうかね?」

「さあ・・・・?」

鍵は比較的簡単に、職員であれば誰でも持ちだせるところに置いてあった。

そして、持ち出しには誰かの許可が必要、ということは無かったようだが・・・・。

「生徒の中には忍び込んで鍵を盗み出し、悪さをする者がいたから、厳重に用務員室に保管していたようですが・・・・」

「それでも先生方は簡単に持ちだせたんだから、皮肉な話だわな」

「まあ、普通はそうなのではないですか?悪さをする先生など普通に考えればいないですから」

「問題なのは、何の目的で鍵を持ち出したのか?あるいは・・・・」

「ここに連れてこられたのか・・・・ですか?」

「その通りだわ。その時には生きていたのか?はたまた死んでいたのか?それすらも分からんわな」

「やはりそうなってくると問題は二つですね」

よく頭の切れる部下だ。

思考が柔軟で、すぐに現状を整理することができる。まだ三十代手前、と聞いていたが、一緒に仕事をするようになってからは助けられることもままあるくらいだ。

まあ、こちとら現場一筋三十年。もう定年が見えてきたお年頃だ。最後に若い奴を育てるつもりで引き受けたが、これじゃあ逆にこちらが教わっている、なんて言われてもしょうがないかもしれないな。

「言ってみろ」

「もし殺人だとするのならば、どうやってこの密室内で人を殺し、外に出ることができたのか」

窓には鉄格子が嵌められており、今も二人がかりで引っ張ってみたが、容易にはびくともしない。それだけ頑丈な造りなのだろう。

そもそも壊した形跡もなければ、外した形跡もないのだ。

そして、もう一つ。唯一の出入口である扉には中から鍵が掛けられ、二本存在する鍵の内一本は中で死体となって発見された被害者が持っており、もう一本は、建設会社が保管していて、朝方、警察から連絡があるまで誰も持ち出すことなく厳重に管理されていた。

となれば、誰も侵入できないのはそうだが、何より、誰も脱出できないということに他ならない。

であれば、犯人はどうやって人を殺し、中から出たというのだろうか?

「それで?もう一つは?」

「もう一つ。もし自殺だとしたら・・・・」

天井を見上げてみる。

そこには、縄をかける事ができる柱もなければ、梁もない。

視線を転じてみても、どこにも何も存在しない。それはそうだろう。ここは、新校舎建設予定地に立てられた、ただの掘っ立て小屋なのだ。

ただプレハブを持ってきただけの簡単な造りでしかないこの中で、一体どこに縄を掛けるというのだろうか?

「この窓の鉄格子にでも縄を掛けますか?」

「・・・・それくらいしかないだろうが・・・・」

「冗談ですよ。まさか、ここに縄を掛けても、大の大人だったらどれだけ縄を短くしても足が地面に付いてしまいますよ?」

「だが、事実そこしか縄を掛けられる場所は無いだろう?」

「でも、どうやって足がつくような低い場所で首を吊るんですか?」

どれだけ自殺願望の強い人間だって、生き物なんだ。死が目前に迫れば、そして苦痛に晒されれば自ずと生き永らえようとしてしまうだろう。

足がつくような低い場所に縄を掛けて首を吊ろうなんて冗談にもほどがある。

冗談にもほどがある・・・・とは分かっているのだが・・・・。

「・・・・座禅でも組むしかねえだろうな・・・・」

「・・・・・それ本気で言ってます?そもそも窓際で死んだ人間がどうやって部屋の真ん中まで行くんです?」

「そりゃそうだ」

呆れたような部下の言葉に、しかし俺はただ、肩をすくめることしかできなかった。

これは、もしかしたら、『あのお嬢ちゃん』に助けてもらうしかねえか・・・・??


「また彼女の力を借りるつもりですか?」

勘の鋭い若造だ。

若者ってのは、勘が鈍いくらいが可愛いのに・・・・。

「あまり部外者を招き入れるのは良くありませんよ」

「そうも言ってられねえだろ・・・・」

「もし、それで解決できなかったらどうするんですか!?今までは解決してくれたから上も大ごとにはしませんでしたが・・・・。私は犬飼さんのことを心配して・・・!!!」

「誠・・・・。俺たちの仕事は犯罪者を捕まえる事なんだよー・・・・。そのために誰かの力が必要ってんなら、それが例え探偵なんてうさん臭え輩でも使うべきだ。・・・そうだろう?」

俺が引かないと、分かったのだろう。それ以上は異を唱えることはしなかったが、それでも、一言、

「・・・・・どうなっても知りませんよ」

「大丈夫だ」





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