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孤独な迷探偵  作者: 高橋はるか
第一章 座禅しながら人は死ねるのか??
36/55

35それでも俺は・・・②

「珍しい」


足の赴くまま、気の向くまま、たどり着いたのは先生のいる保健室ではなく、茜のいる探偵事務所だった。

今日もいるだろうな、と何となく、確信めいた思いを胸に、いざ来てみれば、散々に迷って、迷って、何度も、何度も、会うべきか、会わないべきか、会っても何を話すのか?と堂々巡りの思考を重ね続けたが・・・。


兎に角、ここまで来たんだし、とりあえず、顔だけでも出しておくか。事件のトリックを解明した、みたいなことを言っていたのは気になるし・・・。と自分自身を無理やり納得させて、扉を開けてみたけれども、開口一番、ソファに横になった茜が、相変わらずの無表情で、そんなことを言うので、思わず固まってしまった。


「いや・・・・あの・・・・。最近見ないな、と思って・・・・」

しまった!?その言い方は気持ち悪かったか!?

これでは、微妙な関係のカップルみたいではないか!?


ヒヤッとしたが、それでも、茜は何も思っていないようで、


「うん。そうだね。ずっと考えてたから」

「事件のことを?」

「うん」


何だろう・・・・??気まずい・・・・。

そう言えば、茜と二人きりで会ったのは初めてだったから忘れていてが、いつも、いつも、先生がいて、彼女が、常に明るく、騒がしく振る舞っていたから、こんな風に俺たち二人だけでは絶望的に話が進まないことに気付かなかった・・・。


「・・・あのさ!!この前犬飼さんに会って話したんだけど・・・・。事件のトリックが分かったって??」

その話をするために、犬飼さんに呼ばれたわけではないが、それでも、そういう風に言うしかない。

そして、運のいいことに、茜も特に何かを気にするような人間ではない。

「うーん・・・。何となく・・・??」

「すごいじゃん!!だったらもう、それを警察に話して、茜は事件から手を引いたりはしないの!?」

手を引いてほしかった・・・・。

犬飼さんの話では、彼女は、マスコミに目を付けられていて、最悪の場合、このまま長期化するようでは、過去の話を掘り返そうとする輩が現れないとも限らない。

だからこそ!!ここでもう満足だろう、と。見切りをつけて、捜査から離れてほしいと、そう強く願ったのに・・・・。


「いいや。まだ。まだ、犯人が分かっていない」


当然のように。それが、さも、当たり前のように。そう言い切る彼女は、どうして現状で満足しないのだろうか??


「なんで・・・・??」


「どうしたの?深冬、どこか具合でも悪い?」


事ここに居たって、ようやく茜は、俺の様子がおかしいことに気付いたようだ。

それでも、俺は、言葉を止めない。

これ以上何かを言えば、彼女を傷つけてしまうかもしれない、と理解しているのに、いや、もしかしたら彼女は何を言っても傷つかないかもしれない。それでも、少しでも、ほんの僅かにでも、その可能性があることをしたくない、と思っている自分がいて、怯える自分から目をそらしながら、言葉をぶつける。


「何で!?もういいじゃん!!もうトリックが分かったんだから!!もうこれ以上は警察に任せればいいじゃん!!!茜、言ってたよね!?パズルと一緒だって!!だったら!!もうパズルは解けたんだろ!!??ならなおさら、もうこれ以上深入りするべきじゃない!!!これ以上は、茜にとっても、佐倉先生にとってもいいことなんて一つもない!!!」


しん、と静まる事務所の中で、茜がゆっくりと体を起こした。

相変わらずの無表情。

相変わらずの無感情。

だからこそ、感情の赴くままに口から飛び出た言葉の行く末を、内心びくびくしながら見守ることしかできない。


「・・・・ごめん。私は、人の気持ちが分からない」


「何を・・・??」

突然何を言い出したのだろうか??彼女が伝えたい思いは何なのだろうか??


「私は、人の気持ちが分からない。だからこそ、深冬が何に怒っているのか?全然わからない」

怒っている、ということは理解できても、その先の感情。では、何のために、どういう理由で、というのが全く理解できないみたいだ。

犬飼さんの言ったとおりだ・・・・。


「だから、もし、気に障るようなことをしたんなら、先に謝っておく。ごめん」


「そんなふうに謝ってほしくて言ったんじゃないんだ・・・!!」

誤解させたのなら謝る。

怯えさせてしまったのなら、不快な気持ちにさせてしまったのなら、何度でも謝る。

言葉が足りないのなら、今、俺が話すことができる最善の言葉で、何度も、何度でも、理解できるまで説明して見せよう。

それなのに・・・・。


「でも、ごめん。深冬が、どうしてそんなことを言うのか分からないけれども、それはできない。捜査から手を引くことはできない」

頑なに、拒む彼女をそうさせているのはいったい何なのだろうか??

何が、彼女を引き留めて離さないのか??

俺には分からない・・・。

パズルみたいだ、とそう言った彼女の瞳は、知的好奇心にあふれていたように思えてならなかった。

だからこそ、トリックを見破れば、もうそれで手を引くのではないか?とどこかで期待していた。

それが見事に裏切られ、俺は、どうしてこんなに慌てふためているのだろうか??


「なん・・・で・・・・??」


「分からないから」


当然のように、一言だけ。それが何を意味しているのか、俺には分からない。それでも、その、分からない、ということが、何よりも茜にとって大切なことなのかもしれない。


「人が死ぬのも、人が人を殺したいと思うのも、死にたい、と願うことも、全てが分からない。この世のほとんどのことは、説明がつくのに、死んだあと、人はどうなるのか?どうして、人はそんなにも簡単に死のうとするのか?殺そうとするのか?それが分からない。だから必ず、犯人に聞くことにしているんだ。『どうして人を殺したのか?』って」


「・・・それで・・・どうだったんだ??」


「分からない。皆それぞれ違う理由で人を殺す。どうして?って聞いて、納得できたことが無い。だから、何度も、何度も検証を重ねて、ようやく理解できるんだと、そう思うことにした。そして、もしそれを理解できれば、人の気持ちが分かるんじゃないか、とそう思っている」


「分かる必要なんてあるのか?」


他人の気持ちなんて分かってもいいことなんて一つもない。

面倒くさいし、顔色ばっかり窺ってしまって碌に話もできなくなるし。

何より、気持ちが萎縮する。

嫌われてばかり、恨まれてばかり、呆れられてばかりの人生だったからなおのことそう思ってしまうのか?それは分からないが、人の気持ちが分からないことがむしろ俺には羨ましい限りだね。


「うん。そうすれば、おばあちゃんが死んだときも、涙を流して哀しむことができたかもしれないから」


ドキッとした。

心臓が口から飛び出すかと思った。

あまりにも平然と、あまりにも自然に茜が口にする物だから、それが、殺された、育ての親の話だと知るまでに一瞬の空白ができてしまった。


「深冬?どうしたの・・・??」


下から覗き込んでくるように近づいて来た茜から、思わずのけぞるように距離を離してしまう。

「いや・・・あの・・・俺は・・・!!」


その時だ。ガチャリ、と扉が開き、佐倉先生が入って来たのは。


「ふん、ふーん!らーららー・・・」

上機嫌に鼻歌を歌いながら。


「あれ?」

しかし当然のように、俺の存在に気づき、一瞬、びっくりしたような表情を浮かべた先生は、次いで室内の雰囲気に、

「あの・・・??お取込み中でした・・・??」

と、にやりと人の悪い笑みを浮かべて、聞いて来た。


「いや・・・。帰りますんで、大丈夫です」


「え?いやいや!!どうしたの!!??何かあったから来たんじゃないの!?もしかして告白の最中とかだったんなら、もう一回外に出て聞き耳だけ立てて待ってるけど!?」

自分の妹の話だってのに、趣味悪いな、と思ったけれども、今は、それを突っ込む気力すらも沸かない。

何より、茜だったからこそ、気付かれずに済んだことが、佐倉先生には簡単に見破られてしまいそうで、怖かった。


「いえ・・・。そう言うんじゃないんで・・・・。もう大丈夫です」

そう言い残し、俯いて帰ろうとしたが、その進路をふさぐように先生が立ちはだかる。


「ははーん!!その様子だと、告白して振られたな!!どうだ!!的中だろ!?大丈夫!!大丈夫!!茜はああ見えて、告白されても気付いていないことが多いから、何なら何度でも告白してもオッケーだよ!?」

ああ見えて、はいらないと思う。

だって、見た目のまんま、恐らく過去に、好意を寄せられて、アプローチされたとしても、その尽くを、気付かずに終わらせてきたんだろう。

それくらいは、短い付き合いだったけれども簡単に分かる。


「それ、本人前にして言ってたら流石に気付かれますって」

「と言うことはやはり愛の告白タイムだったんじゃないか!!どうだったんだ!?お姉さんに結果だけは報告しなさいよー??」

「そんなんじゃないですって!!」

そう言って、思わず先生の体を押しのけて、逃げるようにその場から立ち去る。


「あ!?ちょっと・・・!!??」

佐倉先生の制止の声が追いかけてきたが、それすらも振り払うように、先へ、先へ、とがむしゃらに駆ける、駆ける、駆ける・・・・・。



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