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孤独な迷探偵  作者: 高橋はるか
第一章 座禅しながら人は死ねるのか??
31/55

30それでも腕は抜けません

「助けて」


抑揚のないこの声は茜の物。

そして、その内容は、どう考えても剣呑ではない!!

一体何が!?

慌てて物思いから覚めた俺の目に飛び込んできたのは、鉄格子の隙間に腕を突っ込み、どうしてか、抜けなくなってしまった茜が、必死に腕を引き抜こうともがいている姿だった。


「何してんの??」


・・・まあ、先生が随分と冷たいことで。

腰に手を当てたまま、茜の後ろからにらみを利かせるその姿は・・・・。

「お姉ちゃん、手を入れたら抜けなくなった。助けて」

「全く!!」

罠にかかった獲物と、猟師みたいだ・・・・!!

「どうやったら、こんなことに・・・。あれ??抜けない??あれ??・・・そんなはずは・・・・」

茜の手を掴んで、引っ張り出そうとした先生だったが、二人の雰囲気が良くない方向に向かっている気がすごくするんですが?


「ぬ・・・抜けない!?そんな馬鹿な!?」


それでも腕は抜けません、てか?悪い冗談だ。

「先生の腕力があれば、鉄格子の一つや二つくらい折り曲げられるんじゃ・・・・??」

「何だって?」

「・・・・何でもないです」

怖いんで止めてください・・・・。

あ!拳の骨を鳴らさないでください・・・・。その腕力で殴られたら顎骨粉砕されちゃいますんで・・・・。


「手伝え」

「・・・はい」

有無を言わさないその口調にうなずくことしかできない。

まあ、とは言っても、助けることはやぶさかではないんですけどね?


「で・・・、あの・・・・、どこを持てば・・・??」

助ける意思はある!!もちろんそれはある!!!当然だ!!なんなら今すぐにでも助けたい!!


でも、あの、どこを持てばいいの??


鉄格子は狭く、挟まってしまった茜の手を掴もうとすれば、二次災害もあり得る。

だから、佐倉先生みたいにその腰のあたりを掴んで引っ張りたいんだけど、そもそも細身の女性だ。さすがに二人が掴むほどの太さはない。


では、どこを掴めばいいのか??

足?いやいや、それ、地縛霊感が強くない??なんならスカートをはいた女性の足を掴むって、変態みたいじゃん??

じゃあ肩か??

いやいや、それだと佐倉先生の邪魔になるし・・・・。

ここは少し捻って顔、とか??

いやいや、女性の顔を掴んで引っ張るとか、失礼にも程がある!!

じゃあ首か?

それではまるっきり犯人ではないか!!

「悩んでないで私の腰を掴んで引っ張れ!!」

おう・・・。随分と男前なことで・・・・。でもそれ、大きな蕪、みたいじゃありませんか??

悩んでいる暇がないことは分かりましたから先生そんなに睨まないでください・・・・、では失礼して。


「よいしょ!!よいしょ!!よいしょおおおお!!!」

「痛い」

「痛くても我慢しろ!!兎に角腕を抜くぞ!!こんなところに警察でも来てみろ!!」


それは最悪だ!!下手したら連行されてしまいそうだ!!


「間抜けだろ!?」

・・・そっちね・・・。まあ、間抜けだと自分でも思うけど・・・・。


「せーの!!せーの!!せーのおおおお!!!」


「あ。抜けた」


「うおおおおおおお!!!!????」

もつれるように三人が勢い余ってゴロゴロと転がり、床に、壁に全身を強打してしまう。


「いたたたた・・・・」

「痛い・・・・」

「痛え・・・・・」


見上げる天井は、色褪せた灰色をしていて、特筆するべきものは何もない。

・・・何か虚しくなってきたな。

「ねえ、茜、もう帰らない?」

それは先生も同じだったようだが・・・・。

「まだ。もう少し」

こんなところにこれ以上いても何か収穫があるとは思えないんだけれども・・・。

まあ、本人の好きなようにさせようか。

「じゃあ、俺は外で待ってますよ」

「あ、私も一緒に行くから、茜は気が済んだら出て来て」

「うん。分かった」

俺たち二人に取り残されても彼女のスタンスは変わらない。

彼女の行動は変わらない。

恐らく、例え本当に地縛霊が出てきても、彼女の心はみじんも揺れ動かないんだろう。


「・・・・はあ・・・・」

「なんだ少年?まだまだ若いのにため息とは!!もう疲れたのか?」

「ええ・・・。まあ」

なんでこの二人は逆にこんなに生き生きしているんだろうか??

まるでアンドロイド、いや、サイボーグみたいだ。

「あんなでも茜は凄いんだぞ?難事件を何度も解決に導いていて、警察からは勿論、お客さんからも」

「頼りにされているんですか??」

「いや、賛否両論入り乱れているな」

いやいや!!今の話の切り出し的に滅茶苦茶頼りにされている感じだったじゃん!!??

なに?賛否入り乱れているって!!??

「まあ、あの性格だ。そしてご覧のマイペース。なにより若い女性だ。それだけで邪険にする者が一定数はいるんだよ」

まあ、そりゃそうか・・・・。

人は、自分より優れたものをとかく羨み、そして妬む生き物だ。

 それが単に自分の実力不足だったとしても、若いくせに、とか、女だてらに、とか、そんな下らない理由を付けて、貶すものだ。

あとは、勉強しかできないくせに、とか、友達いないくせに、とかか??

「まあ、でも間近で見続けてきた私だから偏見も横に置いて言わせてもらうと、間違いなく優秀な数学者、そして探偵だよ。彼女の手にかかれば、解けない事件はおよそ無いだろうね」


近親者だからこそ、妬みや嫉みは無かったのだろうか??

少なくとも、自慢げに茜のことを語る先生の瞳には、ただただ、彼女に対する純粋な善意しか感じない。

それは、俺にとっては眩しい物で。

思わず目をそらしてしまう。


「何の話?」

そこに、ちょうどタイミングよく茜が姿を見せた。

「いや、何でもないよ」

先生は口に出すつもりはない様だ。

そして、当然のように茜もそれ以上の追及はしない。


「なにか分かったか??」

「全然」

悄然と項垂れるでもなく、がっくりと肩を落とすでもなく、彼女は、ただ、ただ、首を横に振る。

だからこそ、本当に何もなかったのか?それとも、実は、何か、どんな些細なことでも目についたのかは分からない。

「そっか・・・・。帰るか」

そしてやはり、先生も彼女にそれ以上何かを追及することは無い。


「さ、帰ろう、帰ろう!!」

「そうですね。誰かに見つかる前にとっとと帰りましょうか」


まあ、俺自身は落ち込むこともなければ、気にもならない。

身もふたもない言い方だが、正直に言えば、どうでもいいのだ。


「あーあ・・・。茜でも分からないとはなあ・・・・。どうするかなあ・・・。あ!いっそのこと動機のありそうな犯人を捜すとか!?」

「いやいや・・・。それは警察の仕事だと思いますよ?その警察が、中々特定できないとなれば、俺たち三人で動いたところで何も分かりませんよ」

「そりゃそうかあ・・・・。何せ教員、生徒含めて千五百人以上、下手をしたら二千人は在籍しているんだから、それだけ容疑者の数も多いわけか・・・・。って、あれ??何しているの??」


先生につられてくるりと振り返ってみれば、茜が、小屋の目の前に立ち、じっくりと外側から外観を眺めている。

微動だにしない彼女は、まるで何かを探す様に。

見えない何かを見つけようとでも言うように。


「なんか・・・・、変??」


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