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孤独な迷探偵  作者: 高橋はるか
第一章 座禅しながら人は死ねるのか??
30/55

29現場百見。それが捜査の基本です

こうして俺たちは、再びの現場に戻ってきた。



「もう警察も引き上げたんですね・・・・」


閑散としたプレハブ小屋は、一般人の立ち入りを拒む様に黄色と黒のテープでぐるぐると囲われているだけで、別に入ろうと思えば無理やりでも入ることができる。

事実、佐倉姉妹もテープの下をひょいと器用に持ち上げて、中へ堂々と入って行った。

それを注意する警察官も今は一人もいない。


「もうこれ以上何か証拠になりそうなものが無い。そう思ったはず」

「と言うことは?これ以上捜査をしても得られるものが無いってこと??」


え??じゃあなんで俺たちは、と言うより茜は、ここに来たの??


「と、警察は思ったと言うこと」

「茜はそうは思っていない??」

「恐らく」

「恐らく??」

「私は、現場には必ず何かこの密室を解き明かすピースが残っていると思っている。どんな些細なピースでもいい。それをつなぎ合わせて、ようやく見えてくる真実がある」

「ピースってそんな・・・・。パズルじゃあるまいし・・・」

笑い飛ばそうと思ったが、茜は真剣そのもの。

「一緒。殺人事件も、パズルも全部一緒。人が生み出し、人が作り、そして人が為した。それは決して超常の現象ではないし、決して不可解な現象でもない」


「まあ、とりあえず中に入ろうか。犬飼さんから、鍵も借りてきたことだし」

先生がポケットからひょいと無造作に取り出した鍵を使って、小屋の扉を開ける。


相変わらず何もない部屋。

何もない建物。

そして、鋼鉄の造りは、その侵入を、いや出入りをすべて拒絶するかのような、牢獄そのもの。


冷たい床には木板が打ち付けられ、一か所にまとめられた布団類は無造作に詰みあがっているだけ。

支え一つない天井。

鉄格子が嵌められた小さな窓。

そのすべてが、俺には、まるで牢獄のようにしか感じない。


勝手に外から入って悪さをする生徒がいない様に鉄格子と鍵を造った、と聞くが、外からの侵入を拒むつもりが、まるで中から出ることができないような牢獄みたいになってしまうなんて、皮肉な話ではないか??


「ここに倒れていたのか」

ごろり、と茜が横たわったのは、部屋の中央。

見上げる彼女は何を思うのだろうか?


・・・・と言うかすごいな。

「良くそこに寝転がれるわね・・・」

先生も呆れ顔だ。

「なんで?」

「いや・・・・なんか、死者の怨念とか?そんなのが残ってそうじゃない?」

仰る通り。俺も好んで近づきたいとは思わないそこに、平気で転がるのはいかがなものかと・・・・。

「睡眠薬で眠っていたなら意識もなかったはず。自分が死んだとも気付かずに死んだだろう」

それでも天井を見上げたまま滔々と語る茜。

・・・・憑りつかれてないよね??

「いや・・・むしろそっちの方が怖いわ・・・・。だって、もしそうだとしたら、自分が死んだとも知らずに肉体を求めて彷徨っているかもしれないとかそんなことがあるかもしれないじゃない??」


俺が言うのもなんですけど・・・・。


「先生って霊感とか強い方なんですか??」

「いや全く?どうして??」

「いや・・・・。そんなこと言うくらいだから、霊感が強いのかと・・・」


途中からものすごい目で睨まれた。

言わなきゃよかったか??


「霊感なんて皆無よ!!!でも!!!でもでも!!!だからこそ、もしこれをきっかけに見えるようになったら!?とか考えると怖いでしょうが!!!今まで見えなかったものが見えるようになるのよ!?正気を保てると思う!?いいえ!!私は思わないわ!!!」

・・・・いや、まだ何にも言ってないんですけど・・・・。

「そもそも!!!」

びし、っと指さされた。

俺、なんかした??

「あ、先生怖がってる、って胡乱な目で見ないで頂戴!!!怖い物は怖い!!!特に、霊とか、お化けとか、そう言う超常の物、理を越えた物、科学で説明できない物は大体の人が怖いわよ!!!」

そういうものだろうか??

俺も霊感は全くないから分からない。


「大体!!茜はいつまで寝ているのよ!?さっさと起きて!!!憑りつかれたらどうするのよ!?」


憑りつかれるって・・・・。映画じゃあるまいし・・・・。


「大丈夫。私は数学者」


・・・・うん。で??

数学者だと、霊に取りつかれないのだろうか?

彼らが唱える公式とかは、もしかして、宗教的な念仏とかに通ずるものなのか?

だから授業中眠くなるのか??

「私たちは見えない物は決して信じない。そしてこの世に、理論で解き明かせない物は決して存在しない」


そう言うことね?

要は、超常の現象なんて全く信じていない、とそう言うことだろう?


「で?何か見えたの??」


わざわざ寝転がってまで何をしたかったのかは分からない。

それでも何かあるから床に寝転がったのだろう。


「うん」


そう言うと、体を起こした茜に、今ので何か分かったのか?と思ったが、

「取りあえず自殺は不可能だ、と言うことが、分かった」

思わず転びそうになってしまった。

そこまでして、それだけしか分からなかったのか?と思わなくもないが、まあいい。



するとすぐに、茜は窓際まで近づいていく。

入念に何かを見つけようと目を凝らす彼女は、今度は何を捜しているのだろうか??



俺は俺で、壁際まで近づき、こんこん、と壁を叩いてみたが、やはり、金属でできた壁は、高質な手ごたえを返すばかりで、この壁をどうにかしよう、とは流石に思えない。

・・・おそらく鉄か?いや、この手応えならアルミか、もしくは錆びない様にステンレスとの合金か・・・??


・・・まあ、何だっていいか。


どう足掻いても、この壁や天井には仕掛けらしい仕掛けもないことだけは確かだ。

見た目も継ぎ目がなく、ここを溶接したとは到底思えない。

もしそうだったとしたら真っ先に警察が発見しているだろうし。


・・・おっと。まるで探偵の真似事だな。危ない、危ない・・・・。俺は別に探偵になりたいわけでも、警察に捜査協力しているわけでもない。

殺された石川に、恨みはないが、特別に好きだったわけでもない。

何だったら嫌いな部類に入る。

だったら、佐倉姉妹には申し訳ないが、役者が違う。

俺は、茜が天才だとすれば、凡人もいい所。

佐倉姉妹が、もし、推理小説の主人公だとすれば、そこら辺にいる少年Aか?いや、Mくらいだろうか??

名前も出てこない、公園で、大した目撃情報も言わない奴。

そもそもそんな奴いたっけか?とか、読者に言われるくらいの、流し読みされるモブだ。

これが漫画なら、目鼻すらも描かれないだろう。

それくらいしょうもないただの高校生だ。

そんな俺が、どうして今ここにいるのか?とよくよく考えれば、笑えて来る話だが、まあ、餅は餅屋、じゃないが、難事件は探偵に。

俺の出る幕なんて無い。

二人が無軌道に突っ走らない様に監視でもしていれば十分だろう。




・・・そう思っていたのに・・・・。まさかあんなことになるなんて、俺はこの時、全く思ってもいなかった、いや、予想もしていなかった・・・・。


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