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孤独な迷探偵  作者: 高橋はるか
第一章 座禅しながら人は死ねるのか??
3/55

2国語の教師って熱血な奴が多いよね??

 時は一日前にさかのぼる・・・・。




どうして人は学校に通うのだろうか?

どうして人は勉強をしなければならないのだろうか?

ひらがな、カタカナ、そして漢字の読み書きは、日本という国に暮らす俺たちにとって、必要不可欠なことは認めよう。

英語を学ぶことは、国際化している現代社会において、決して間違ってはいないことを認めよう。

一歩街に踏み出せば、多くの外国人が行きかい、彼らの中には、なぜだかろくに日本語すら話せない者が大勢いる。

中には、英語を話せない者すらいるそうだが(そう言う奴はしょうがない。諦めるしかない)、それでも、英語が、未だに世界の主要外国語であるのは確かな事実だ。

しかし、数学はどうだろうか?簡単な四則計算、加減乗除ですらも、計算機がある昨今では、もしかしたらできなくてもいいのかもしれない。

できない、とまではいかないまでも、それほど早く計算できる必要は無いだろう。ましてや関数は?定理は?図形問題や、幾何学など、日常生活で役に立つことがあるのだろうか?

古典を学んで、役に立ったことは?古語を用いて話をするような貴い血筋の人間など現代日本に存在するか?

漢語は?わざわざ中国人が、レ点や一二点を入れて、俺たち日本人に分かりやすい文法に変えてくれるだろうか?

もっと言えば歴史はどうだ?

卑弥呼がいったい何をした?

源平の乱が現代日本に及ぼす影響は?江戸幕府が何年から始まったか、ということを一体どれくらいの人間が知っているというのか?

そんな無意味な知識を、現代社会に出た瞬間に、真っ先にお荷物になってしまう知識を、必死に詰め込んで、俺たちは何をしようと言うのか?どこへ向かうというのか??

大人たちは、一体俺たちに何をさせようというのだろうか?


ガガガガガガ!!!!

 

それほど遠くもない現場から日がな一日工事の音が聞こえる。

 今となってはもう慣れたが、今年は三年目の受験時期なのだ。それでなくとも繊細な人間、心に余裕のない人間は、少しでも自分の思い通りに成績が上がらなければすぐに外部にその原因を求める。

 そのため着工が始まった最初のころは、いや、今でもまだ、保護者会と、そして学校側の折り合いが付かず、揉めていると聞く。

 そして当然のように、ここに通う高校生たちの中でも三年生は特に過剰に反応する者が多い。

 

亀裂が入ったようにひび割れた廊下。

 どこまでも続くのではないか?と不安に思うような灰色の壁、天井。

 窓も扉も立て付けが悪く、どおせなら新校舎を一度でもいいから見てみたかったな、と他人事のように思う自分もまた、今年卒業予定の三年生なのに・・・。

 そして、旧校舎を、ぼうっと歩く、歩く、歩く・・・・。

 本当に憂鬱だった。

 今から向かうところが。

 そして、今から何があるか分からないが、それでも容易に想像できてしまうことが・・・・。

 

 「・・・失礼します・・・・」

 

 ぽつり、と気だるげにでもなんでも、挨拶しなければいけない、と決まっているのが気に食わない・・・・。

 誰も、挨拶を返すこともないし、陰気で、憂鬱な、死んだような目をした生徒のことを気に留める奴はこの中にはいない。

 そもそも、一学年四百人、十二クラスに分かれているのだ。

 当然知らない生徒など腐るほどいるだろうし、何なら、俺にだって知らない教師ばかりだ。

 そもそもお前らが俺らの顔を覚える気が無いように、俺にだってお前らの顔を覚える気もなければ、名前も覚える気はない。

 ずるずると足をひきずるようにそれでも職員室の中を闊歩し、今回来たくもない目的の人物のところまで近づいて行った。

 

 「来たか」

 

 机に向かっていたその中年の小男は、ぎろり、と睨み据えると机の片隅から一枚の紙を取り出した。

 弛んだ頬。眉間の皺は深く刻まれ、病的、と表現してもおかしくは無いのではないだろうか?その瞳に、険を湛えている。

 「なんで今日ここに呼ばれたか分かるか?」

 怒りを抑えた語り口は、しかし、ぶるぶると口元が震え、それが恐怖なのか、はたまた憤怒なのか俺には分からなかったが、それでも分かったことはたった一つ。

 

 あーあ・・・。これは怒られる方だ。面倒臭え・・・

 

 「さあ・・・?」

 思い当たることは一つ、確かにあったが、そんなくだらないことでいちいち叱られるいわれはないと思ったので、あえてしらを切れば、今先ほど、机の片隅から取り出した紙を目の前に突きつけてくる。

 「これは何だ!!??」

 そこには、馴染みの書体でつらつらと文章が書きこまれている。

 決して汚いとは思わないが、それでも惚れ惚れするほど上手い字だとは言わない。

 俺の字だ・・・・。

 俺が書いた字だ。

それは作文、というよりも読書感想文、といったほうが早いだろうか?

 どうして読書感想文?と思う人もいるかもしれないが、うちの高校は、いや、うちの学年は、国語の授業をこの学年主任でもある目の前の教員が受け持っていて、一月に一度、読書の日、という日が設けられており、その日はその一か月の間で読んだ本の感想文を提出しなければいけない、と決まっているのだ。

 もし提出できなければ、生活指導室に呼ばれ、反省文と共に、目の前のこの馬鹿が指定した本を読まされ、挙句感想文が書き終わるまで一切出ることを許されない、という苦行が待っているため、厭が応にも皆必死になって課題をこなすのだ。

 

それにしても俺はきちんと課題をこなしたはずだ。

 であるとすれば、この馬鹿が怒っているのはその内容ということになる。

 

 ・・・まあ、こいつが気に入る内容を書いた、とは口が裂けても言えないけれどな・・・・

 

 それでも、わざわざ短い休み時間中に職員室まで呼びつけて怒鳴るような話ではないと思うが・・・。

 

 

「『坊ちゃん』を読んで

                                杉谷(すぎや) ()(ふゆ)

  夏目漱石はどうしてこれを書いたのだろうか?

  この本を読んで真っ先に浮かんだ疑問はたった一つ、それだけだ。

  この物語は、坊ちゃんと呼ばれる、東京育ちの無鉄砲な若者が、成長し、四国の教員になるところから始まる。

  その前に、この坊ちゃん、と呼ばれる主人公の性質に関しての説明が長々と続くが、いわば、無鉄砲で、短気で、正直者で、そして何より、曲がったことが大嫌いな情に厚い男、ということだろう。

  その主人公が、四国の教員として勤める話だが、主要な登場人物は『校長』、『赤シャツ』と呼ぶ教頭、そして、数学主任の『山嵐』、美術教員の『野だいこ』、同僚の『うらなり』、くらいだろうか?

  簡潔に要約してしまえば、『赤シャツ』と、そして『野だいこ』の策略に嵌められ『山嵐』と仲たがいさせられた主人公。

  生徒たちの反目もあり、次第にその学校で教員を続けることに嫌気がさすが、生来の負けん気から何とか教員を続けていた。

  しかし、『うらなり』の想い人を巡る『赤シャツ』、『野だいこ』の策略から、すっかり『赤シャツ』と『野だいこ』を信用できなくなり、代わりに『山嵐』と仲直りすることができた。

  そんな折、『山嵐』を疎ましく思っていた『赤シャツ』に嵌められ、馘にされる彼を追って主人公も職を辞す。

  そして、最後は『赤シャツ』と『野だいこ』の二人をリンチして、一路帰郷した。

  という話だ。

  物語自体は、一切の無駄を省き、恐ろしいほどの速さで進展してくストーリーに引き込まれるものだが、しかし、最後まで読んでたった一つ。

  で?結局何を言いたいのですか?ということだろうか。

  読みやすい。緻密に計算されたストーリーはまるで絵本のようで、幼子ですらもすらすらと読めてしまうのではないか?と疑うほど。

  おそらく識字率の少ない当時にあって、それでもなお、学も見識もない人ですらも読めるように簡潔化されたストーリーは現代においても読みやすさ、という一点においては他の追随を許さない所はあるだろう。

  しかし、私には、やはり分からない。

  結局漱石は何を言いたかったのか?その一点だけが、やはりどれくらい考えても見えてこないのだ。

  それこそ、良く言えば児童文学でも通じる絵本のような作品。

  そしてそれは言い換えれば、とても稚拙で、まるで・・・・。

  そう!まるで小学校低学年の道徳の教科書で使われる、できの悪い倫理本のようなものではないだろうか?

  そして、その小学校低学年の道徳本にも劣るのではないか?と思われる点が一点だけ。それは最後に行われた勧善懲悪が本当に正しいのか?という点だ。

  結局主人公は『山嵐』と二人で『赤シャツ』と『野だいこ』を私刑、要はリンチするわけだが、それは法の観点から照らして見ても決して正しい行いではなく、むしろ、どちらかと言えば主人公側に非があるとみなされてもおかしくはない内容だ。

  何より、『赤シャツ』と『野だいこ』の二人は、遊郭で遊女を買う、という、決して違法なことをした訳ではなく、それ自体は、褒められた行為ではないが、それにしても間違った行いはしていないはずだ。

  そこに至るまでに『赤シャツ』に様々な人倫に悖る行いがあったとしてもなお、直接的な暴力に訴える、という記述を描き、私刑を助長するような記載は、現代において認められるべきではないし、何より、明治当時においても、褒められたものではないだろう。

  当時の時世や、法律に関して、綿密な知識がある訳ではないが、それでもなお、はっきりと論ずるのであれば、歴史的価値、文学的価値はあれども読む価値はないかもしれないと言わざるを得まい。」

 

 

「これを読んでお前はこう思ったのか?」

 怒りを抑えた語り口は、その国語教員が、今にも爆発する予兆。

 それでもあえて言わせてもらいたい。何が?と。

 「ええ・・・・。それで何か?」

 「何か?じゃねえだろうがよ!!!!てめえ人を馬鹿にしてんのか!!!???ああ!!??」

 弾かれたように立ち上がったその馬鹿は、おもむろに俺の胸元を締め上げると、前後に揺すり出す。

 別に馬鹿にしているわけではないし、もし馬鹿にしているというのなら、お前ではなくて、漱石に対して、であろう。 それが、国語教諭として許せない、というのであればしょうがないが・・・・。

 「いえ・・・・別に馬鹿にしているわけじゃあ・・・・」

 もごもごと口の中で言い訳めいたことを言っても、それでもなお、怒りは収まらないようだ。

 「いいや!!お前は馬鹿にしてんだよ!!!人を!!教師を舐め腐ってそんなに面白いのか!!!??ああ!!??斜に構えて批判的なことばっか書いてねえでもっと素直に読むこともできねえのか!!??いちいち癇に障るやつだ!!その目つきもなんだおめえ!!??」

 素直に書いた結果がそれなのだから、それ以上素直に書きようがない。

 そしてそもそも目つきは鋭い、鋭いと自分でも思っているがこれは生まれつきなのだからしょうがない。

 要は何もかもが気に入らないということなのだろう。それならそうと言えばいいのだ。

 

「これを見た人間が十人中十人、評価できるような文章をお前は書いたって胸を張れるのかよ!!??これは十人中十人が評価する文章なのか!!??」

 

どんな高名な作家が書いた文章ですら百人いて百人が評価する文章など存在しない。誰も彼もが優れている、と口を揃えて評価する作品など古今東西を捜しても存在しないだろう。それは俺自身もそうだろうし、目の前にいるこの馬鹿ですらも、誰もが納得できる文章を書くことなどできるはずがない。

 もしできるというのなら、こんな地方のしょうもない学校の国語教師程度で終わるはずが無いだろう。ここにいる、ということが、こいつが自分で言うほどの文才が無いことの証左ではないだろうか?

 

「何とか言ったらどうだ!!??ああ!!??反抗的なのが格好いいとでも思ってんのか!!??だとしたら格好悪いしそんなことすらも理解できない糞餓鬼なのかよてめえはよ!!??」

 

反抗的なのが格好いいと思っているか、だって?同年代の餓鬼どもでもあるまいしそんなの格好悪いと思っているに決まっている。何より、小・中・高校と今まで十二年間いじめられ続けてきたのだ。

 そんなことで目立ちたいと思う訳がないし、むしろそんなことで目立とうものなら、今は同学年の全員に無視されるだけで済んでいる物を、また中学校の時みたいに陰湿ないじめが始まってしまうではないか。そんなことを望むとでも思っているのか?もしそうならよほど生徒のことを見る目がないし、無関心なのだろう。

 

馬鹿が・・・・。

 

心の中で悪態をつくだけで、口には出さなかったはずだが、態度には出たのかもしれない。胸倉をつかむ手の力がさらにきつくなった。

 「てっめえ!!!今心の中でせせら笑っただろう!!??ああ!!??俺のことを馬鹿にしただろう!!??」

 面倒くさい・・・・。正直な感想を言えばそうだ。だが、それでもそれを正直に言えばまた揉めることは知っている。だからこそ、一瞬で全身から力を抜いて、瞳を俯かせる。

 「いえ・・・・。そんなことは・・・・」

 「はあ・・・・。いいか!!??俺はお前のためを思って言っているんだぞ!!??もうお前も高校三年生だ!!そこんとこは良ーく分かってるよな!!??受験ともなれば論文が必要になってくるんだぞ!!??それに慣れるためこういうことをやってるのに・・・。全く・・・・」

 ぶつぶつと疲れたのか説教を始めたこいつは、しかし、胸倉をつかんだ手を一向に離そうとしない。

 呆れたように俺に向かって説教をくれるだけで、まるでそれが正論であるかのように、ご高説を垂れるその姿が一瞬、両親と重なる。

 

 ・・・・はあ・・・・。あんたのために言ってるのに・・・・。

 

 何度も聞かされた。それこそ耳にタコができるほどに。

 何度も、何度も、何度も・・・・・。

 何かをしようとすればすぐに否定され、それは皆がそうやっていない、それは、お前にとって意味がない、価値がない、世間様から見て、そうすることが正しくはない・・・・。

 何度否定されただろうか?

 確かにその中には、子供心にも正しいと思うことがあって、納得することもあったが、それでも、納得できないことの方が多かった。

 だからこそ、反抗して、問いただして・・・・。

 その度に返ってきた答えがそれだ。

 どんな時でも、どんな場面でも、困ったときはその言葉が返ってきた。

 

 あんたのために言っているのに・・・・。

 

 だからだろう。その瞬間、それを言われた瞬間、口から言葉が滑るように転がり出てきてしまった。

 

 「・・・・だったら最初からそう言えよ?言葉遊びがお望みなら最初からそう言えよ・・・・。その巧拙で判断するっていうなら、最初からそう言ってくれれば、俺もそう言う文章にしてやるよ」

 

 苛々していたのかもしれない。

 

職員室中に響き渡る怒声をあげ、胸倉を締め上げるように脅迫する目の前の馬鹿に対してもそうだが、何より、まるで何もないかのように、存在すらしていないかのように、瞳を一切合わせようとせず、淡々と自分の仕事だけをするその他多くの教員たちにたいしても・・・。


一瞬空気が凍った。


今の今まで見て見ぬふりをしていた周りの教員たちが、驚いたように目を瞠って俺のことを見つめてくる。


「てめえええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!」


職員室中に、いや、職員室の外にまで轟く罵声が、目の前の馬鹿の口から発せられた。


ばちん!!


思い切り耳の近くで響いた音に、何が起こったのかも分からず目を白黒させていると、頬がずきずきと痛み、頭がくらくらとする。

まるで熱を持ったように痛む頬。

思わずたたらを踏んで初めて、自分が殴られたのだと気が付いた。

それでもなお、意地でも膝は付かないし、涙も流してやらない。それをすれば相手の思うつぼだし、何より悔しかったからだ。

ただ、ただ、ぼうっとした瞳で相手を見つめ、努めて無表情で相手を睨む。

激昂した馬鹿は、胸倉をつかむ手を離しかと思うと、今度は俺の髪をむんずとつかみ、引きずるようにその場からどこかへ連れて行こうとする。

それでも誰も止める者はいない。

誰もが止めない。

「ちょっとこっち来いおらあああああああああ!!!!!!!!」

そのままずるずると引きずられるように職員室の外へと連れ出され、隣にある生徒指導室へと連行される。


誰も止めようとはしない・・・・。

髪を思いきり引っ張られて痛かったし、殴られた頬がじんじんと痛むけれども、不満は言わない。助けは求めない。

そんなことに意味はないから。

そんなことをしても、誰も助けないことは自分が一番よく知っているから。


ああ・・・・。まるで刑務所だな。ここは・・・・。

どれだけ健全だとうたっても、どれだけ立派だと誉めそやされても、内実はどろどろで、ぐちゃぐちゃで、暴力と、権力とが渦巻き、封建社会すらも凌駕する、驚くほどの格差社会が形成されているのだ。


その中で一番底辺の自分には、何かに抗う力もなければ、抗う気力すらも沸かない・・・。

ただ、ただ、流れに身を任せ、その波がどこに流れつこうとも、無感動に、無慈悲に、あるがままを受け入れることしかできないのだ。

それが悔しい、という感情は、とうの昔に捨てた。

それが哀しい、という気持ちも、とうの昔に無くなった。

怒りも、憎しみも、期待も、全て・・・。全てここに至るまでにどこかに消えて無くなってしまった。

あるのはただ一つ、諦めの感情だけ。


面倒だなあ・・・・。


その感情だけが己を支配する。

だから無駄な抵抗はしない。すればするだけ時間の無駄だから。労力の無駄だから。

ただ、流されるまま・・・・・。


「伊藤先生!!!??何をしているのですか!!!??」


そんな時だった。いつもとは違う。いつもは聞かないその声を聞いたのは。

「ああ!!??」

ものすごい剣幕で振り返ったこいつに引っ張られるように俺の視線もおのずとそちらへと向かされる。

そこに立っていたのは・・・・。

「佐倉先生・・・・」

先ほどの剣幕はどこへやら、彼女を見た瞬間、苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべたが、それでも俺の髪を掴む手を離そうとはしない。

「伊藤先生!!何があったのか私は知りません!!それでもあなたがその髪の毛を引っ張っているのは生徒ではないのですか!!??」

毅然とした彼女の態度に、それでもいら立ちの方が勝ったのか、真っ向から睨み付ける。

「そうですよ?そうですが何か??こいつは悪いことをしたんです!!!悪いことをした者には罰がある!!!それをしっかりと教えてやることも我々教師の役目なんです!!あなたのような外部の人間には分からんでしょうがね!!!」

「それでもあなたのやり方は少々、いや、大分強引ではないのですか!!!??言葉によらず暴力によって、というのは、我慢のきかない子供と一緒です!!今すぐその手を離してください!!」

子供と一緒、そう言われて、かっとなったのか、ずんずんと彼女のもとに近づいていく。

憤怒の形相を浮かべる中年の小男を前にして、二回り以上も若い彼女は、しかし一歩も引くことなく睨み返している。

「教育の何たるかを知らねえ小娘が、安易に口出ししてんじゃねえぞ!!??」

どすのきいたその言葉に、フルフルと震えるその体に、いつ手が出るのか?と他人事ながら首をすくめてしまう自分がいたが、よくよく考えれば、未だに髪を掴まれたままで、いい加減離して、二人で言い合いでもなんでもしてくれ、と思わなくもなかったが、ことが自分のことだけに、そうも言えない。

「そうやって脅かせば誰でも従うとでも思っているんですか!?時代錯誤で旧態依然の教育方針ですね?このことは教育委員会に、そして、校長先生にも報告しますよ!!」

教育委員会、校長の名前が出て、ようやく、この馬鹿が忌々しそうな表情で俺の髪を掴んでいた手を離した。

「・・・・ち!!教育委員会だろうが、何だろうが言えばいいだろうが!!気の済むだけ告げ口したらいいだろう!!??外部から呼ばれてきた心理カウンセラー様は気楽で羨ましいなあ!!!??」

「そうやって教育、という名の体罰をいつまで続けるおつもりなのですか?」

「離したからいいじゃねえかよ!!!まだ文句あるのか!!??ああ!!??てめえと話していても時間の無駄だ!!来い!!!」

一瞬、佐倉先生は悔しそうに俺の方を見た気がしたが、それでもただ生徒指導室に連行されて叱られる分には何も言えないのだろう。

腕を掴まれ引きずられて行く俺を見つめたまま立ち尽くしている。


ぴしゃり、と目の前で生徒指導室の扉が閉め切られた。

中は、机が一つ、そしてその机に、対面になるように椅子が二脚ずつ置かれているだけの非常にシンプルな狭い部屋。

まるで取調室だ・・・・。

実際に取調室を見たことは無いが、それでもドラマなんかでよく見る取調室に似ている。

「くそ!!あの小娘が!!」

目の前の馬鹿は、佐倉先生の悪態を先ほどから何度もついていて、聞いていて気持ちのいいものではない。

「たかが外部カウンセラーのくせにでしゃばりやがって!!」

佐倉先生とは、昨年から新たに導入された心理カウンセラーの先生で、昨今のいじめ問題、生徒・教員のストレス問題、過労、などなど、学校で起こる問題に対処するべく、県の教育委員会が実験的に導入を実施した制度だ。

これが実は非常に評判がよく、今年も延長という形でこの学校に居続けているのだが・・・・。

「少し可愛いからって調子に乗ってやがる・・・!!!どいつもこいつもあんな容姿だけの女をちやほやしやがって・・・・!!!くそが!!」

そう。

評判がいい理由は簡単だ。

佐倉先生自体が、とても綺麗な先生なのだ。

まだ二十代半ばと、生徒にとっても歳が近く、そして教員の中でも、歳が若い教員、中年の教員の中には彼女に好意を寄せている者が何人もいると噂で聞く。

それだけの魅力がある女性だ、と俺も認めたくはないが素直に思う。

そして、彼女のすごいところは、女生徒にも人気がある、というところではないだろうか?

快活で、明るくて、誰にでも公平で、何より気さくな彼女は、相談に来た人一人一人に分け隔てなく接し、女生徒の中からも、嫉妬や恨みを買うことは少ない。

その手の話を聞いたことが無いし、彼女を悪く言う話は、この目の前にいる馬鹿を含め、ほんの一部だけだろう。


「まあいい・・・・」


愚痴を言うのに飽きたのだろう、くるりと俺に向きなおると、そのまま長々と説教が始まった。

一体いつまで続くのか?と憂鬱な気持ちでちらりと時計を見れば、もう授業が始まって二十分近い時間が経過している。

気付かれないようにそろそろとため息をつきながら、とにかくすぐにでもこの場を切り抜けようと、いらぬことを言わず、ただ、ただ相槌を打つだけにとどめた。





ちなみにご説明いたしますと、こんな教師今どきいないだろ?と思われる方もいると思いますが、私が高校生の時、大体、十年しないんですけど、誇張はしてても八割実話です・・・・。

流石に女子に手を出す方ではありませんでしたけど、肉体言語で教育的指導を受けている男子を見たこともあります・・・・。

怖かったー・・・・。

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