25大体の情報が出そろった。さあ解いてみろ!!①
「良く来た」
随分とまあ、偉そうなことで。
執務机の椅子に腰かけ、資料に目を通しながら、ぼりぼりとせんべいを食べる茜の姿が。
ただし、どこからどう見ても、少女が背伸びしているようにしか見えず、むしろ微笑ましい。
「なんだその煎餅・・・??もらったのか??」
「犬飼刑事が持ってきた」
「ふーん・・・・」
そのまま、先生は茜の目の前、机の上に腰かける。
お行儀悪いでしょ!!
まあ、そんなことよりも気になるのが・・・・。
「ちょっと・・・!!なんかもう・・・・薄汚れて来てません??」
って言うか、散らかって来てるな・・・・。
あんなに綺麗にしたはずなのに・・・・。まだ二日くらいしか経ってませんよね??どうなってんの??・・・時空でも歪んだのか??
「ああ!!もう!!ほんとにもう・・・・こんなところに脱ぎっぱなしの服とか散らかして・・・・・。ああ!!また弁当の食べ差し!!もう!!きちんと全部食べないとだめじゃないですか!!!・・・・それにこんなのばっかり食べてると体に悪いですよ??」
ひょい、ひょいと手近にあった袋の中にごみを捨て入れながら、脱ぎ散らかされた服を畳んでいく・・・・。
「うん・・・・・。って言うか!!!ついついやっちゃいましたけど!!!なんで俺がやってるんですか!!??」
そして、当然のように、机に座って煎餅食ってるし・・・・!?
「いや・・・・。誰も掃除してくれ、なんて頼んでないんだけど・・・・??逆に怖いわ・・・・。お前はお母さんか・・・!?」
確かに・・・。今のは俺が悪い。でも一つだけ言いたい。
「いや・・・・これだけ散らかってればなんか・・・・嫌だなって・・・。ていうか気にならないんですか!?」
「・・・・特には・・・・??」
その方が怖いわ・・・・。
「深冬を今後掃除担当に任命する」
「止めて!!!掃除当番を思い出すから!!」
掃除当番・・・・・。それは、数多存在する学校の悪習の一つ。
道徳心を向上させたいのか、経費が無いのか知らんが、生徒をまるで奴隷のように学校中掃除させ、あまつさえ、自分らが使っている職員室さえも掃除させると言う・・・・。
まるで、看守と囚人だ。
そして時間内に終わらなければ当然のように飛んでくる叱責。
どうしろと!?孤高を貫くぼっちにとっては、何よりも恐ろしい時間。
それが毎日存在すると言うのも、とにかく恐ろしい・・・・。
トイレの掃除は、特に鬼門だ。
誰もやりたがらないことを率先してやるのがぼっちの宿命!!だが、トイレだけは、勘弁してくれ・・・・!!
がちゃり!
「おう。まーた揃いも揃ってんのな」
ノックもせず、訪ないもたてずに犬飼さんが入って来た。
まるで常連さんだ。
刑事が探偵事務所の常連とか、どうなのだろうか??
「なんだ坊主?この事務所の掃除アルバイトでも始めたのか??」
まあ、そう思われても仕方ないですよね・・・・。
「大変だなあ・・・。ここは職場環境が整ってないだろ??悪いことは言わねえ、止めとけ、止めとけ!」
そうですよね・・・。俺も止めたいんです・・・・。
「用は?」
相手が警察だろうが、誰だろうが、茜の不愛想は変わらない。それで大丈夫なのか??
「鑑識の結果が出た」
「随分と速いですね!!・・・・まあ、あれだけの事件です。警察も大変でしょう??」
先生が指摘する通り、犬飼さんは憔悴しきった顔で、よく見ると、無精ひげがまばらに生えてきている。
目の下の隈も随分とひどい有様になって来ていて、恐らく、昨日まる一日寝てないに違いない。
顔を撫でながら、本人もそれを否定はしない。
「まあ、そうだわな・・・・。学校で、教師が死んだ。これだけでも随分とマスコミの注目を浴びるってのに・・・・。その上、変死体と来たもんだ・・・・。こいつは、厄介だ・・・・」
「まあ、それで茜にも協力依頼があったわけですけど・・・・」
「で?結果は??」
早く話しを進めろ、とばかりに茜は続きを求める。
大丈夫だよね??捕まらないよね??傲岸不遜な口を利きおって!!とかならないよね??
しかし、予想に反して犬飼さんは苦笑いを浮かべ、「そうだったな、すまん、すまん」なんて謝る始末。
「で、結果なんだが、まず。被害者の死体から、やはりというか、大量の睡眠薬が検出された。扉の近くに落ちていた酒からも同成分が検出されたため、恐らく、被害者は、殺害、もしくは自殺の前に睡眠薬を服用していたものと思われる」
まだ、他殺か自殺かは結論付けていないのか・・・・。ご苦労なことで。
「・・・・」
茜は一切口を差し挟まない。こういう時の彼女は、無関心なのか、それとも何か考えているのか、無表情すぎて分からない。
しかし、それも慣れているのか、犬飼さんは、いったん言葉を切った後に、何も反応がないと分かると、そのまま続ける。
「そんで、入り口だが、やはり、無理やり開けた形跡はない。窓の鉄格子もそうだ。だから、完全な密室だったわけだが・・・・」
「首元の策条痕は?」
「それが・・・・。喉元の方からうなじの方にかけて約六十度上向きに、つまり、縄を天井かどこか、真上に引っ掛けて首を吊ったとしか考えられないそうだ・・・・」
「そっか・・・」
「あと、あの気味の悪い手紙の主だが、筆跡から特定はいまだできていないそうだ。まあ、あれだけ生徒数がいるんだ。全員の筆跡を鑑定する、となると、時間がかかるのは仕方がない・・・・」
「そうですか・・・・」
残念だ。あれ、誰か微妙に知りたかったんだけどな・・・・。
・・・いやいや!!ちょっと待って!!??
「って言うか!!!そんなに簡単に捜査情報を俺みたいな一般人に公開して大丈夫なんですか!?」
このおっさん、責任取らされたりしないよね!?
「なに今更のこと言ってんだ??あの時、現場に入った時点で、もうお前はこの捜査の協力者の一員だ。違うのか??」
いや違うでしょ!!!いやいや!!!なんでそういう扱いになってるの!!??
慌てて否定しようとした俺だが、答える前に、
「深冬はそう。私の事務所の一員」
「・・・・・いつからそうなった・・・・!?」
「今決めた」
「勘弁してくださいよおおおおおお!!!!!???」
はは・・・!!膝が笑っちゃうぜ・・・。
拒否権ってないの??・・・・ああ、そう言えば生まれてこの方、人権を認められたことってなかったっけ・・・・。
「はっはっは!!!だ、そうだぞ?もう逃げられねえな?」
俺は追い詰められた犯人か!?現役の刑事が、冗談でもやめてほしい!!!
「それでいいの!!??警察としてはその扱いでいいの!!??そんなに簡単に捜査情報を口にしちゃっていいの!!??ねえ!!??」
「だって・・・・ねえ?こっちから協力要請しているわけだし・・・。お嬢ちゃんには頭が上がらないって言うか??」
どういう関係なの??ほんとに、ねえ??逆にこっちが聞きたいわ!!
「深冬のことは置いておいて」
「置いてかないで!!先生だけは!!置いて行かないで!!!」
「なんだ?」
犬飼さんに至っては見向きもしないし!!
「そして当然のように話を進めないで!!??まだ・・・!!まだ俺の話が・・・!!」
終わっていないのに。
そう続けようと思ったのに、先生に「うるさい!!」と遮られてしまった。
・・・・え??俺が悪いの・・・・??
「被害者の石川教諭が持っていた鍵なんですけど・・・」
「それがどうしたんだ??」
「生徒が持ち出しできない様に用務員室に保管されていたって話ですけど、それでも、あの時間なら、いくら持ち出したのが教師だって言っても、不審に思われる時間なんじゃないですか??」
「それがな、用務員ってのは、朝早い代わりに、夕方で仕事が終わるそうだ。だから、その後は、用務員室の鍵を職員室に預けて、あとは誰でも持ち出しができた、って寸法だ。そもそも、職員室の入り口のところに、鍵を掛けて置く台があって、そこにほとんどすべての鍵が掛かっていたから、誰かが持ち出ししても誰も気に留めなかったそうだ」
なん十本も存在する鍵の一つ一つを記憶している暇人もいなかっただろう。
仕方のないことだ。
そして、そこから犯人の特定ができるとは流石に思っていなかったようで、先生もそれ以上はそのことに触れない。
「死亡推定時刻は?」
「ん??ああ、恐らく二十四時、日付が変わる少し前くらいだそうだ」
「最後に被害者を見た人は?」
「あの日、夜の二十一時少し過ぎころまで残っていた教師のほとんどだ。被害者が、職員室に体育教官室の鍵を置きに来て、『お先に失礼します』と言い残して帰って行った。これを、そうだな・・・・。大体三分の一くらいの職員が見ていたそうだ」
「変わった様子は?」
「無かったそうだ。まあ、少し嬉しそうだった、とか、機嫌がよさそうだった、とか、そんなことを話している連中はいたが、まあ、金曜日だ、明日から部活が休みで休日なんだろうか?とでも思って気にも留めていなかったそうだ」
「なるほど・・・・」
なるほど・・・・。教師って、随分と遅いんだね、帰宅。
残業時間、百時間超えるんじゃない??大丈夫か??
「最後まで学校に残っていたのは誰?」
「宿直の先生で、社会の先生だそうだ。歴史だったか・・・・??まあ、そこらへんだ。とにかく、その先生が、二十三時少し前に、校門を閉めたそうだから、その後の校内は完全に無人だろうな」
「なるほど・・・・」
なるほど・・・・。やっぱり遅い。そんなに残業してて、正常な判断力ができるのか??
って言うか、何をそんなにやることがあるの?
「ちなみにその時に、石川教諭の車は残っていたそうだが、やはり、どこか飲みにでも行っているんだと思って気にも留めなかったそうだ」
「奥さんが警察に連絡してきたのは?」
「夜の二十三時ころか?日付が変わる少し前だって話だ」
なにそれ?羨ましい・・・・。
「それって・・・・。そんな時間まで気付かなかったんですかね・・・・??」
俺なんて、門限十八時だぞ!!
「それくらいの時間に帰宅することが稀にあったみたいだな・・・・。奥さんも、そこらへんは特殊な仕事をしているから理解はあったようだが、それでも今まで一度も日付を越えて帰ってきたことが無かった上に、連絡も繋がらなかったから少し不安になったそうだ」
「で、結局翌日、校内で死んでいました、と」
「随分と辛らつだな坊主。実はお前、被害者のこと嫌いだったんじゃないのか??」
嫌い??そうだっただろうか・・・??
「まあ、好きか嫌いかで言えば嫌いでしたよ??というか、俺は、学校の人間が大体嫌いです。いや、ほとんど嫌いです!!」
どうだ!?参ったか!?
そう思ったのだが・・・・。
「・・・・そんな堂々と胸を張るなよ・・・・。一応、被害者と関係のあった全員が被疑者なんだぞ?勿論、学校内だけにとどまらないが、ただし、亡くなっていた場所が、場所だ。必然的に校内に犯人がいる可能性が高いだろ?だから、当然、お前も・・・・」
その先は言わなくても分かる。
まずい・・・!?
「まあ、現段階では、当日夜にアリバイのなかったほとんどの者が容疑者だ。疑いだせばきりがない。だが、とりあえずお前のことは信用することにするよ」
「はあ・・・・」
なんで・・・・??
「深冬は犯人じゃない」
「嬢ちゃんもこう言っていることだしな」
だから、なんで茜のことは全面的に信じるんだよ!?
「ちなみに茜がそう思う根拠は?」
「勘だ」
「勘かよ!?」
思わずずっこけてしまった俺に、しかし、犬飼さんはくつくつと面白そうに笑う。
「くっ、くっ、く・・・。だがな坊主、良く当たるんだわ。このお嬢ちゃんの勘は」
「えええ・・・・??」
見えない・・・・。
「何となく分かって来たか・・・??」
期待半分、諦め半分の犬飼さんの問いかけに、茜は、
「全然だ」
と首を横に振る。
本当に、この調子で大丈夫なのだろうか?




