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孤独な迷探偵  作者: 高橋はるか
第一章 座禅しながら人は死ねるのか??
22/55

21恋文・・・それは時代を超えて・・・

結局迷うことは無く、俺たち四人は校舎の中を歩いていく。

校舎の中にも少なくない数の生徒がいたが、特段俺が注目を浴びるようなことは無く、いかにも警察然とした犬飼さんの前に、視線を俯きがちに、そそくさと走り去る生徒が多い。

それでも、やはりというか・・・・・。

「・・・・ねえ、さっき一緒にいたのって・・・・・??」

「・・・・うん、間違いないよ・・・・」

「・・・・なんでだろうね・・・・・??」

「・・・・・まさか・・・・・??」

ひそひそとすれ違う生徒の中からこちらを見咎めて噂話をする声が聞こえてくる。

それはそうだ。だって、目立つんだもん・・・・。


「・・・・・まさか・・・!!佐倉先生に限ってそんなこと無いよ!!」


あんた目立つんだよおおおおおおお!!!!!!俺も、何の気なしにいたけど、改めてよくよく考えれば、先生はうちの学校の人だった。


「・・・・・でもでも・・・!!警察と一緒だし・・・・・??」

「・・・・・じゃあ、きっと捜査に協力してるんじゃない・・・・・??」

「・・・・・そうだよきっと!!だってほら!!先生って、心理カウンセラー?だっけ?そんなんだったと思うし・・・・」


だが、耳をすませば、否定的な話は一切聞かない。これもひとえに人徳か・・・・??

ところで俺はというと・・・・。


「ねえねえ??ところで・・・・」

「うん・・・・それは私も気になった・・・・・」


ふっ・・・・!!皮肉なものだ・・・・・。いやはや、週明けもし誰かに追及されたらなんて言い訳をしようか??


「いや・・・・あの美少女誰??あんな人学校に居たっけ!?」

「俺も思った!!滅茶苦茶綺麗じゃね!!??誰だあの美少女!!??」


だろうねえ!!そうだと思ったけど!!!そうだと思ったけれども!!!


「・・・・・はあ・・・・、何食べたらあんなに綺麗になるんだろう・・・・??」

さあな?でも、特別なものは食ってなかったと思うぞ?

「はあ・・・・、私と同じ人間とは思えない・・・・・」

俺もそう思う。どうやったらあんなに汚い事務所で一か月暮らせるんだ?俺なら無理だ。

「・・・・・あの艶のある黒髪・・・・・。神秘的な佇まい・・・・・美しい・・・・」

昨日までどろどろで、汗と埃に塗れていてけれどもな。

「・・・・・でもなんか・・・・??佐倉先生に面立ちが似てないか・・・??」

ご明察!!誰かは分からないが、良く見破った!!実はその通りなんだ。


「「「「「「はあ・・・・・。美しい・・・・・」」」」」」


いや・・・・。うん。想定はしていたけど・・・・。俺は・・・・??全く注目されていないよね??何ならいっそ、清々しいほどの空気扱い??

・・・・・恐ろしい・・・・。まあ、良いけど・・・・。慣れてるし・・・・。断じて!!慣れているだけだから!!

別に悔しくなんかないもんね!!



「何してんだ?付いたぞ?ここだ。入れ」

「ここって・・・・」

体育館だ。体育館は、午前中まで部活動が行われていたのだろう、数人の女生徒がたむろしているだけだったが、開けた瞬間に、むわっと熱気が立ち込めてきて、汗の饐えたにおいが鼻につく。

とは言っても、昨日から、ずうっ、と嗅いでいた、むしろ、生ごみとかの臭いもしていたあの事務所の方が酷かったぐらいだから、俺にとってはなんてことはない。

だが、犬飼さんはそうもいかないようで、僅かに眉間にしわを寄せる。


「青春だねえ・・・・。そんで、人が一人死んだのに、部活動とは・・・・」


俺もそう思う。

確か、今回亡くなった体育教師の石川は、女子バスケかもしくは女子バレーの顧問だったか??

それでも彼女らは普通に部活をしたのだろう。

全国大会に命を賭けているわけでもなし、行けなきゃ死ぬのか??そこまで必死になる理由が俺にはよく分からない。


「さ。体育教官室。亡くなった石川教諭の城みたいなもんだな。入ってくれ」


もうすでにここにも捜査の手が伸びているだろうに、ここに連れてきたと言うことは、何かがあると言うことなのだろう。

一体何があるのだろうか?

中は、つい昨日来た時とほとんど変わりはない。


そう言えば、いろんなことがあって忘れてしまっていたけれども、昨日の昼頃にここに来たんだ・・・・。

あの時目の前で威張り散らしていた石川が死んで、俺は、もう一度この体育教官室へと足を踏み入れる。

なんだろう・・・??不思議な感じだ・・・・。


「で?ここに連れてきたと言うことは私たちに見せたい何かがあった、ということですか?」

「ああ・・・・。こっちに・・・・」


入り口を開けて目の前に、体育教員が仕事をするための椅子と机が置かれている。

左側には窓があり、そこから体育館を一望できるようになっている。

改めて、そこから下を見てみたが、存外に高い。

その上、やはりというか、上から俯瞰で見ると、地上にいるのとはまた違った景色が見えてくる。

ここからだと・・・・・。さぼっている生徒は一瞬で見つかるな・・・・。

だから、俺の体育の評点はいつも、いつも一、だったのか・・・・。納得だ。上手くさぼっていたつもりだったんだけどな・・・・・。

って言うか、日本の体育は、いじめられっ子、ぼっちに厳しい!!

 だってそうだろ!?野球にしろ、サッカーにしろ、バスケットにしろ、必ずと言っていいほどチームスポーツだ。

いや、卓球だろうが、バドミントンだろうが、テニスだろうが、どんな個人スポーツだって相手がいなければ成立しえない。

そんなのを授業にして、できない生徒、輪の中に混ざれない生徒を見つけ出すんだ。間違っている!!断じて間違っている!!

町内会のおじいちゃんとかに手伝ってもらって、ぼっち、いじめられっ子にも門戸を開くべきだ!!

だって、チームスポーツに混ざれない、零点。対戦相手がいないので、何もしない、零点。これって俺のせいなの・・・・??だとしたら、随分と手厳しくはないかい??

それか、もう授業内容を太極拳とかにしてもらえないだろうか?

ほら、よく朝の公園で、おじいちゃん、おばあちゃんがゆったりとした動作でやってるやつ。あれでよくない?・・・もしくはヨガとか。どう??


・・・・ん??なんだ??


視線を感じて、下を見てみれば、数人のたむろしていた女生徒の内、一人が、やけにちらちらと上を見上げている。

どうやら、体育教官室に入った俺たちが気になるようだ。

まさか・・・・??俺・・・・??

なんて自意識過剰なことは無い。どう考えても警察官が連れてきた二人の美女が気になるのか・・・・。もしくは警官自体が気になるのか・・・・??

どちらにせよ、俺には関係がない。

何とはなしに目を離そうとしたが、どこかで見たことがある気が・・・・??

思い出せないな・・・・。どこだったか・・・・??

そんなに昔の話ではないはずだ・・・・。そうだったとしたら覚えているはずがない・・・・。

だって、信じられないくらい女子と接点がないんだから・・・・・。

だとしたら・・・・。


そうだ思い出した!!昨日、俺がここで怒られていた時に入って来た柏木、とか呼ばれていた生徒だ。そうだった、そうだった。と独り言ちていると、「深冬?なにしてるの?」と茜に呼ばれてしまった。


「ここにこんなものが入っていたんだ」

体育教官室の事務机の前で、一番上の鍵がかかっていた引き出しを開けた犬飼さんは、そこから一枚の封筒を取り出した。

・・・・もしやこれが噂に聞く殺害予告か・・・・!?

そう思って身構えた俺とは対照的に、一切の躊躇なく佐倉先生は腕を伸ばし受け取る。


「どれどれ・・・・??石川先生へ。もしよかったら、今週の週末、一緒にピポットの練習をしませんか?  あやか。・・・・・なにこれ??」


うん。これなに??


「おっと間違えた!!それじゃねえ!!こっちの・・・・ええっと・・・。これだ!!これ!!・・・いや、すまんな・・・・。どうも枚数が多くて・・・・」


また同じような可愛い封筒に入った便せんが出て来たぞ!?どうなってるんだ??


「どれどれ・・・・??石川先生へ。文化祭お疲れさまでした。ミスター先生、一位おめでとうございます!!私も先生に投票しちゃいました!きゃー!!でも、私、先生のこと本当に格好いいと思っているんですよ?お祝いに、私の手作りのチョコをプレゼントします!! わか。・・・・なにこれ??」


いや、ここまで来ればもう分かるでしょ!!って言うか何このファンレター・・・??あの人って・・・・いい歳したおっさんじゃね??


「それも違った!!!いや、すまん、すまん・・・・。存外にこの石川っていう教諭は女生徒に人気だったんだな?かなりの量のファンレターがあって、この引き出しが一杯だったんだぞ?」


え・・・・??本気で言っているのか・・・・??もし冗談なら随分笑えない冗談だ。


「え・・・・??趣味悪・・・・。なに?最近の女生徒ってあんな顔面崩壊した、女好きのくず野郎を好きになるの・・・??」

「佐倉先生・・・・。それは偏見ではないでしょうか・・・??」


流石にそれは・・・・。言いすぎでは・・・・??

なんで俺があいつの肩なんか持っているのかよく知らないけれども、そこまで酷い人ではなかったような・・・??


「いやいやいや!!!本気で言ってるのか!!!??それこそ、それは偏見だ!!!あいつ、事あるごとに私を口説こうとして来て・・・・・!!全然興味なかったから、妻子がいるでしょ?って断っていたら、最終的には、じゃあ、妻子とは分かれても一緒になりたいっ、て・・・・!!今思い出しただけでも寒気がする!!!!!!!」


それは許せんな!!うん、許せん!!・・・・しかし・・・・・。


「そんな奴だったとはな・・・・。聖職者、なんていうが、所詮はただの男、か・・・・。しかし、先生に手を出そうなんて、随分と根性あるんじゃねえのか??」

「いやいやいやいや!!!!無理無理!!!例え妻子がいなかったとしても!!!例えあと二十歳若くて、私とほとんど年齢が変わらなかったとしても!!!あいつだけは絶対に無い!!!!!!」


・・・・・死んでてよかったね・・・・。同情は・・・・、しないけど、少し気の毒かな??


「お!!あった、あった!!こいつだ。間違いなくこいつだ、こいつ」

「・・・・・今度は、ちゃんとした奴なんでしょうね??」


佐倉先生が、渡された封筒を恐る恐る受け取るが、確かに今回は、少し毛色が違っているように思う。

何だろう・・・・??

今までの封筒は、便箋が、女の子!っていう感じだとしたら、これは、秘書!!もしくは・・・・。弁護士!!っていう感じだろうか??随分とお堅い、色褪せた茶封筒に、和紙のような材質の紙が入っていた。


「どれどれ・・・・??石川様・・・。今宵の月はとても綺麗でございますね・・・・。このような美しい満月の夜、あなた様のことを想い、文を認めているのは、この上もなく切ない気持ちとなってしまいます・・・・。ああ・・・・。あなた様の涼やかな視線、暑い吐息、温かい、大きな手の平・・・・。今でも、あの時のことを思い出しては、天にも昇るような心地になります・・・・。あなた様はもう私のことなど覚えてはいらっしゃらないでしょうが・・・・・。それでも、毎夜、私は、あなた様への想いを募らせ、月へと叶わぬ願いを託しております・・・・。秋の夜長、季節の変わり目となり、お身体ご自愛の上、どうか、いつまでも、お変わりなくお過ごしください・・・・」


・・・・明治から送られてきたのかな・・・・??

だとすると差出人は・・・・。


「それを書いたのって、もしかして与謝野晶子?」

「いや・・・・。与謝野晶子って・・・・。もう明治の詩人だろそれ!!!・・・名前は・・・ないな。これを書いた女生徒は随分と古典文学に明るい、古風な女の子なんだろうな?月が綺麗ですねって・・・・。そんなの今どき使う奴いるのか?」

「それは知らんが、だが、ロマンチストなのは確かだろうな・・・。そして、もう一つ」


唐突に犬飼さんが一番下の引き出しをがらりと開けた。


「体育教師ってよ・・・・。保健の授業を受け持っているって聞いたんだが、こんなに避妊具って必要なものなのか??」


そこから出てきたのは、それこそ全校生徒に配る気ででもいるんじゃないか?って思うほど、とてつもない量の避妊具だ。

さっきの手紙と照らしてみても・・・・。導き出される答えは自ずと決まってくると思う。


「生徒に手を出していたんだろうね・・・・。本当に虫唾が走るほどのくず野郎だな・・・」


佐倉先生の嫌悪が止まりません・・・・。

怒っているのだろうか・・・??今下手なことを言えば、殺されるんじゃないかってくらいの剣幕だ・・・・。どうしたんだろう??


「どうにもそのようだな・・・・。それが、動機の線ってのはありそうか??」

いやいや、警察が一般人に聞いちゃダメでしょ・・・・。

「そりゃそうでしょ!!!こんなことをしていて・・・・。それで殺されたって言うなら、仕方ないんじゃないですか!?」

怖い・・・・。

だけど・・・・。

うーん・・・・。そうだろうか・・・・??


「・・・・そうなのかねえ・・・・??」

犬飼さんも俺と同じように、腑に落ちない顔をしている。

「少なくとも、こいつにファンレターを送った女生徒には、確かにもしかしたら被害者と男女の関係になった奴もいるかもしれんな・・・・。その中で、いろいろなことがあって、被害者に敵意を向ける者もいるかもしれん・・・。だが、それは好き好んでそうしたんであって、恨まれることはあったとしても、殺すほど憎まれるってことはあるんだろうか・・・??」


そうなのだ。言葉にはし辛いが、どうにも、それがために殺されるほど憎まれるって言うのとは、少し違うような気がする。

それに、この明治の詩人が送り付けてきた呪いのラブレターも、裏返せば好意の表れであって、それがすぐさま憎悪へと変わるとは思えない・・・・。

だったら、女性関係の問題というのは、少し違う気が・・・・。


「甘いですよ犬飼さん!!妻子がいたくず野郎に、それ以上に何人もの女の子たちが誑かされていたんです!!もし、そのことを知らずに、純情をもてあそばれたと、信じていたのに裏切られたと、そう思う女の子がいればそれは、陰湿な憎悪へと変わるんです!!!女の子って言うのはそういうものなんです!!!」

「お姉ちゃん、しょ・・・・」

「うるさい!!!茜は黙って!!!」


しょ・・・・??しょ、ってなんだろう??また、しょ、の話になると過敏に反応する先生だが、一体何なのだろうか??


「・・・・そうなんだろうかねえ・・・・??」


しげしげと、恋文を見つめる、犬飼さんは、しかし、それでもまだ腑に落ちない顔をしている。

どうでもいいけど、その手紙、元あった机の引き出しに早く戻さない??なんか、変な念とか籠っていそうで、怖いんだよね・・・・。



「とにかく、俺たちは、生徒への聞き込みを続ける。女生徒の恨みっていう線で聞き込みをするから、まあ、何か分かったことがあったら教えてくれ」




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