18沈黙の捜査車両
気まずい・・・・・。なんでこんなことに・・・・??
「煙草、吸っても気にしねえか?」
「あ・・・・、うぇ・・・・、あの・・・・はぃ・・・」
「がはは!!!なんだそりゃ!?気にしねえのか、気にするのかどっちだよ!!」
本当は煙草の煙は苦手だ。だってなんか喉が痛くなるんだもん・・・・。
でもこの車は、この刑事さんの物だし・・・・。断り辛いし・・・・・。
「あ・・・・、大丈夫・・・・です・・・・」
「そっか。もし嫌ならすぐに嫌って言えよ?」
そう言うと、窓を少し開け、おもむろに懐から取り出した煙草に火を点ける。
「ふううーーー」
煙草の煙をうまそうに噴き出す彼は、どこからどう見ても、渋い大人の男だ。でも・・・・。
うん。やっぱり煙、喉に染みるなあ・・・・。
この感覚、絶対体に良くないんだろうな・・・・。俺の寿命、今日だけで三日は縮んだな・・・・。
「んで?杉谷深冬くん?だっけか??」
げっ!?こいつ俺の名前覚えていやがる!?あの二人が、特に茜が俺の名前を連呼するから・・・・!!
警察と教師に、名前を憶えられていいことなんて一つもねえのに・・・・。
「ええ・・・・。まあ・・・・」
「あの二人のこと、詳しいのか?」
え・・・??俺、何を聞かれてんの??
「えっと・・・・・」
詳しくは・・・ないよな・・・・?
先生の方は、年齢が・・・・不詳!!それに・・・。あとは・・・あとは・・・・。胸の大きさくらいか?知ってるのは。
茜は・・・・??十八歳、って言うことくらいで・・・・。あれ?そう言えば、天才だ、天才だって、二人が誉めそやしていたのに、大学すら通ってない・・・・。飛び級か??茜もそうだな・・・・。胸の大きさくらいか?うん。それ、詳しいのかな?
いやいや!!詳しいだろ!!非常にパーソナルな部分だ。
でも、恐らくだけど、まかり間違っても、そう言うことを聞きたいんじゃないんだろうな・・・・。
「そんなには・・・・知らないです・・・・・。昨日、初めてあそこに連れて行かれましたから・・・・・」
「なにいいいい!!??」
「うひゃあ!?ごめんなさい!?ごめんなさい!?」
「いや・・・・。別に怒ってないから・・・・。そんなふうに過剰に反応されるとやり辛えなあ・・・・」
だったら、最初からそう言えよ。
突然こっち振り返るし、大声出すし、怖いんだよ・・・・。
胸の話してたら、もしかして銃殺されてたかもな・・・・。
「じゃあ、嬢ちゃんたちに会ったのはつい最近なのか?」
いや、だからさっきそう言ったじゃん。改めて確認することなのか?
「へえ・・・・まあ・・・・」
何か下っ端構成員みたいな口調になっちまったぜ・・・・。
「なんだその話し方。下っ端か」
取りあえず早く学校に着いてくれえええ!!!
こんな気まずいんだったら、俺だけ電車で行きますって言えばよかったな・・・・。
「時に杉谷くんよ。あの二人についてもっと詳しく知りたいと思うか?」
もっと知りたいか?だって??
確かに、ほんの少し気になることはある。
昨日からあの二人と話している中で、違和感を覚える時が、僅かにでも存在するのは確か・・・。そして、そのことを知りたい、という好奇心は、当然俺も人間なので持ち合わせている。
でも・・・・。
「いえ・・・・特には・・・・」
「へえ?随分と冷たいんだな?あれだけの美人姉妹だ。男なら誰もが憧れるんじゃないのか?」
「そうかもしれないですね・・・・」
「じゃあ・・・・?」
「でもどうせ俺なんて、良いように扱き使われただけで、暇そうで、嫌だ、って断りそうになかったから、声かけられただけですよ・・・・。だったら、今回、用が済んだらそれで終わりです。これ以上あの二人にかかわることもなければ、積極的にかかわろうとも思いません・・・・・。どうせ俺とは住む世界が違うんですから・・・・」
「・・・・・お前、随分卑屈なんだな?友達いないだろ?」
「ほっとけ!!」
なんてこと言うんだ、こいつは!!今のが俺じゃなかったら、扉を開けて走行中の車内から飛び降りるところだったぞ!!
そしたら今日の夕刊の見出しは、『真昼の逃走劇!?警察車両から、高校生飛び降りる!?』か?・・・・うん。それ、俺の方が悪者だね?
・・・ふん!!俺に感謝するんだな!!
「うーん・・・・こんな話しておいて、何だけど、あの二人はそんな子じゃねえよ。あの二人をもっと信じな。・・・・まあ、お前がそんなんだから、あの二人も信用してるんだろうけどな・・・・」
何だよ最後の気になる一言!?
ああ!!嫌だ!!嫌だ!!どうしてこう、大人ってのは、勿体ぶった話し方しかできんのかね!!??
できんのかね!!??
「ん?なんだ??聞きたくなったか!!??聞きたくなっちゃった!!??」
うっざ・・・・。
「いえ・・・・べつ・・・・」
「教えなーーーーい!!!!」
益々むかつくやつだなおい!!??
「って言うか、おっさんは、あの二人のことよく知ってるんですか・・・?」
「おっさんじゃねえ!!犬飼さんだ!!」
「犬飼さんは・・・・・」
言い直してやったぞ?これでどうだ??
「なんかむかつく顔してんな・・・・。まあ、いい。あの二人のことか??」
って!!どさくさに紛れてもう一本煙草に火を点けるなよ!!!
もう一本吸い終わったのかよ!?肺活量とんでもねえ化け物並みなんじゃねえのか!?
「よーく知ってるよ。二人とも。よーく・・・・」
「そうですか・・・・」
今度は俺もそれ以上聞かなかったし、犬飼さんもそれ以上は茶化さなかった。
どうしてかって?そんなの簡単だ。
その横顔が、煙越しでよく見えなかったけれども、それでも、後悔と、哀しみと、憐れみと、そして怒りが、混ざり合ったような複雑な表情をしていたから・・・・。
それに、考えてみればその事実が、何よりも彼女たちの人生を物語っている。
だってそうだろ?普通に生きてて二十代になって間もない女性二人が、一体何の縁があって警察官と顔なじみになるって言うんだ?
例え、探偵だったとしても、それでも、あの二人に降りかかったであろう何かは、彼にこれだけの表情をさせてしまうものだったんだろう・・・・。




