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孤独な迷探偵  作者: 高橋はるか
第一章 座禅しながら人は死ねるのか??
18/55

17助手って何をすればいいの??

「被害者は、U高校に勤める体育教師、石川武夫。四十一歳、男性。今朝方、用務員の男性職員が、新校舎建設地の敷地内にある簡易のプレハブ小屋の中で倒れているのを発見。その後警察が駆けつけ、死亡が確認された」


茜がパラパラと渡された資料をめくっている。

後ろから覗き込むと、写真が添付されていたが、まさしくうちの学校の敷地内だ!!


「死亡推定時刻は昨夜二十四時から深夜一時ころだと思われるそうだ」

「死因は?」

「縄による頸部圧迫での窒息死だ。策条痕の痕跡から、首を絞められたのではなく、首を吊って死んだんじゃないかってことだが・・・・・」

「だったら自殺?」


自殺?うーん・・・あまりピンとこないな・・・・。あいつ、俺も良く分からないけれども、自殺するような奴だったか??


「それが分からんからこうして嬢ちゃんに協力を依頼している」

はあ?どういうことだ?首を吊って死んだんだったら自殺、何だろうけれど、それがどうして茜の協力ってことになるんだ??


「詳しく」

「今から説明する。ところで嬢ちゃん。資料の三枚目を見たか?」

「まだ」

「そこに、被害者が亡くなっていたプレハブ小屋の、簡易な建物図が書かれているが・・・」

パラパラとめくった茜の動きが一瞬で止まった。

「そして四枚目には、その建物内の写真がある・・・・」

ぺらっ、と一枚めくった茜の表情が、一瞬変わったか・・・・??


「ふーん・・・・」

「それを見てどう思う?鍵は中で倒れていた被害者が持っていて、内側から施錠がされていた・・・・」


あれ・・・・?俺もよく覚えていないけれどあそこって・・・・??


「そして、窓は二つ、しかし、その窓にも鉄格子ががっちりと内側から嵌めこまれていて、大人二人がかりでもびくともしない上に、外したような形跡もなし」


そうだった!!あまりにも中に忍び込んで生徒が悪戯するって言うことで、鍵と鉄格子がつけられたんだっけ?・・・・と言うことは・・・・じゃあ・・・・。



「完全な密室」



「その通り。まあ、窓自体は開いていたそうだが、それでも鉄格子の隙間は狭すぎて犬猫ですら中へ侵入することはできないだろうな・・・」


だったらどう考えても自殺なんじゃないのだろうか??まあ、人なんて何を考えているか分からない生き物だ。

面ではいつもにこにこ、にこにこしていても、裏では、悪魔のように腹黒いかもしれない。

だとすれば、何の不満も抱えていないような奴だったとしても、内心で死にたい、死にたい、と願っていたとして不思議はない。

ましてや、俺は、あいつのことなどよく知らないし、仮に、良く知っている生徒がいたとしても、それは学校の中だけの話。家庭ではどうか?職員の中ではどうか?そもそも仕事はどうだったのか?なんて、はっきりとは分からない。

分かっているように見えても、それは表面をなぞっているだけ。その先のさらに深いところまで、となれば、本当のところは恐らく本人にしか分からないだろう。


ところが・・・・そんな簡単な話ではないようで・・・・。


「あの小屋の中を見てきたがな・・・・。自殺もできるような場所じゃあねえんだ」

「は・・・?」

しまった!!うっかり間抜けな声が漏れてしまった!?

しかし誰も気にするようなことは無く、むしろ茜が俺に、写真を見せてくれた。

「見て。何もなさすぎる」


そりゃそうだろう。いくら何でも、ああいうところは、ただの休憩所みたいなもんだ。だったら、そこには椅子と、机と、もしくはコップとか、ポットか、やかんくらいあれば事足りるだろう。


「そうだ。何もなさすぎる。もし自殺したとしたならどこにその縄を掛ける?天井の梁か?柱か?それともどこかの出っ張りか??・・・・・なんにも無えんだよ・・・・。縄を掛けられる場所なんて、そのプレハブ小屋の中には、どこにも・・・・」



なんだそれ・・・・??じゃあ・・・・??どうやって死んだと言うんだ・・・??



「三つ質問」

「なんだ?いくらでも聞いてくれ」

「三つだけでいい。一つ目は、警察はどうやって中に入ったの?」


確かにそうだ。完全な密室だったと言うのなら、どうやって中に入ったのだ??もし壊して入ったと言うのなら・・・・。そこに何か密室を解き明かすヒントが・・・・!!


「生憎だが、それは建設会社で保管されていたもう一本の鍵で開けたんだ。だから間違いなく現場の保全は完璧だし、もっと言うなら、完全に中から施錠されていた。そして、その鍵の管理もきちんとなされていたから、盗まれてそれで出入りしたってことは無い・・・。もしあるとしたら、それをしたのは建設会社の職員、ってことになるが、どいつもこいつも昨日は金曜ってこともあって夜分まで飲み歩いていたらしく、全員にアリバイがある。それを証明するのも、社員だけじゃなく、飲み屋の店員とか、あとはスナックのママとか部外者も含まれるから確かだろう。・・・・・まあ、もしアリバイが無かったとしても、動機が無いだろうけどな・・・・」


なる程ね・・・・。益々分からん!!


「二つ目は、被害者の体内から何か検出された?」


どうしてそんな質問をするのだろうか?死因は頸部圧迫による窒息だってさっき言われたはずだ。

だったら毒殺、なんて可能性は無いんじゃないだろうか?


「それは今調べている。だが、どうにも、検視官の言う話では、もしかしたら、酒と一緒に睡眠薬を飲んだんじゃないかって・・・・」

「ふーん」

「というのも、被害者の足元の方に転がっていたペットボトルの中から、アルコールの臭いと、そして睡眠薬のような細かい結晶も確認できたそうだ」

「ペットボトルって・・・・。お茶とかじゃなく?」

「ああ。ラベルは剥されていて、お茶のような色味の液体が入っていたから、俺らも最初はお茶かと思ったんだが、中を開けて確認してみると、どうにもアルコールの匂いがしてな・・・・」

「それ、誰が準備したんですかね・・・・??」


教師がそんなの学校に持ってくるだろうか?喉が渇いたとき用に酒を常備しているとでも言うのか?


「さあな?だが、ペットボトルには被害者の指紋しかついていなかったし、飲み口にも恐らく被害者一人の唾液しか残っていなかったから、無理やり飲まされたのか、自分で飲んだのかは知らんが、とにかくあれを飲んだのは確かだろう。・・・・あとは鑑識の結果を待つだけだが・・・」


なんだろう・・・・??お酒が好きだったのかな??もしくは精神が不安定で、睡眠薬を常備していた、とか??

しかし、茜は相変わらずの無表情で何を考えているのか理解できない。


「三つ目。当日夜の被害者の足取りは?」

「それよ。それなんだが、今聞き込みをしている最中で、これ以上の進展がなさそうだったから俺は抜けてきたところだが・・・」

「それでもいい。分かるところだけ教えて」

「実はな。被害者の石川教諭は、運動部の顧問を担当していたそうで、部活の練習が終わって片付けが終わる大体二十時まで、体育館に居たそうだ」


そう言えばそうだ。あいつは、何だったか・・・??女子バレー?か、もしくは女子バスケットボールの顧問をやっていた気が。


「だがその後の足取りが不明だ。宿直の先生が、見回りをしたのが大体二十二時。んで、その時間には、もう誰もいないと確認して戸締りをしていったそうだ。勿論、この時には体育教官室も見回ったが、すでに明かりは消え、施錠され、鍵も職員室に返却されていた、と証言している。・・・・・だがな、不思議なことに石川教諭の車が残っていたそうだ・・・。勿論、その時には、ああ、どこかへ誰かと飲みに行ったから車じゃなく電車で帰ったのかな?くらいにしか思っていなかったそうだが・・・・・」

「それが翌日に校内で、死体で発見された、と」

「その通り。だからこそ、その間、二十時から二十四時までの間だな。いや、もっと言えば、二十時から二十二時、そしておそらく見回りの時間が一時間ほどかかると言っていたから二十三時から二十四時までのこのタイムラグに、誰と?どこで?何をしていたのか?それが全く分かっていない・・・・」


恐ろしい話だ。警察は毎回こんな難事件を解決しているのだろうか・・・・??


それでも俺にとっては他人事だから、その程度の感想しか湧かないが、当事者だったら嫌だろうな・・・・。


だが、その当事者は、と言うと・・・・・。


「それでなんで刑事さん?は茜に捜査協力を??」


「坊主知らねえのか??」

何を??それに俺は坊主じゃねえ!!

「茜はな、数学の天才だ。数学オリンピックの問題を、若干十歳という若さで解き明かし、難関大学である、T大学の数学科の入試問題をその翌年に完全正答。ほとんど誰にも知られてはいないが、数学界では、知る人ぞ知る有名人なんだ」

少し嬉しそうだな、先生。

「へえー!!すごいな」

「すごいだろう!!」

だから何で先生が得意げなんだよ?

「その上、茜は稀代のパズル作家としても有名で、彼女の作るパズルには、世界各国で愛好家がいるくらいだ!!専門雑誌が、茜の作った問題の特設コーナーを特集するくらいには名が知れている!!」

「パズルー??」


何だろう??クロスワードとかかな??たまに、雑誌に小さく問題が出てると、ちょっとやりたくなるんだけど、大抵は母親か父親がもうすでに解いていて、俺は、その見直しをする、みたいな時があるんだけど、あれのことかな??

って言うか、そのまま直接本に書くなよ!!まだ鉛筆で書いている分には許すけど、ボールペンで書くな、ボールペンで!!せめて消えるペンで書けよ!!


「ちなみに嬢ちゃんの得意とするパズルは数独、ナンクロっていう奴だな」

「ナンクロ・・・・」

聞いたことがあるぞ!!あれだろ!?あの・・・・。数字を当てはめていくやつだろ!!

「解くのも得意で、確か世界大会で優勝しているんだったっけな?」

「そうなの!?すごいじゃん!!」

「そうだっけ?」


いや、どっち?どっちが正しいの!?なんか、はしゃいだ俺が馬鹿みたいじゃん!!


「いや、優勝しただろ。三連覇して、茜、つまらないからもう出ない、って表彰式で発言して大いに問題になってただろ!!」


・・・・うん。言いそう・・・・。


「あれ納めるの随分苦労したんだぞ!!妹は、解くよりも作る方が好きみたいですねえ、って言っても、出場者全員が殺すぞ、みたいな目で睨みつけてくるし・・・」

「思い出した。泣いてたやつもいた」

「うん。もっと酷くない!?それもっと酷い奴だよね!?」

「だって、ほんとのこと」


ぎゃあ、ぎゃあと言い争う俺たち三人に、犬飼、と名乗った警官はしびれを切らしたようで、一つ咳ばらいをし、


「とにかく!!そういう訳で今回も嬢ちゃんの力を是非借りたいんだが・・・・」

「うん。いいよ」

「随分あっさり!?」


ええ・・・??そんな簡単に承諾していいの・・・??もうちょっと考えたりとか、俺は関係ないけど、先生に相談したりとか・・・・。

いや、何だろう?依頼人なんだから、依頼は受けるのが当然なのだろうが、報酬の話もせず、ただ依頼内容を聞いて即決って・・・・。俺がおかしいのかな・・・??


「どうした坊主?」

「・・・・いや、報酬とか払うのかなって・・・・」

お節介だっただろうか?それでも、警察が、たかが一探偵に報酬を払うようには思えない。

「大丈夫だ。それは毎回きちんと払ってるさ」

「・・・・そうか・・・」


ええ・・・・??毎回ってことは、今回が初めてじゃないってことかよ・・・??それいいの・・・・??警察としては、それでいいのか・・・??

まあ、どれくらいの報酬か知らんけど、一円とか二円とか、子供の小遣い程度じゃないことを祈るか・・・。


「ところで坊主はどうするんだ?帰るって言うなら送っていくぞ?」

「え?いや・・・、そんな・・・・」

警察の送迎付き・・・だと・・・・!?そんなことをした日には、うちの母親が卒倒してしまう!?

それだけは阻止せねば!!

「深冬は私の助手。勿論連れて行く」

「なんでええええええええ!!!!!?????」

思いがけないところから、阻止されてしまいました・・・・。


ところで俺は、いつ助手になったんだよ・・・・。



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