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孤独な迷探偵  作者: 高橋はるか
第一章 座禅しながら人は死ねるのか??
17/55

16劇的ビフォーアフター(ただし大改造はしない)

「随分と早いんだなあ・・・・・」

帰ってきた二人はぽかんとして、部屋の中を見渡している。

昨日あれだけやらされたんだ、当然だろう。

「まあ、慣れたんで・・・・」

ところで一つ気になったのだが・・・・。

「って言うか二人ともなんか食べて来たでしょ!?じゃなきゃこんな遅くならないでしょ!!!」


昨日風呂に行ったとき大体二時間以上は帰ってこなかった。

それはまあ、まだ分かる。

まだ分からないでもない・・・・。

だけど、今回一時間ちょっとかかっているのはおかしい!!だって、どこかで握り飯を買ってくればいいだけの話じゃないのか!?

ましてや佐倉先生は車を持っている。その上、駅が近いんだ。せいぜいが二十分だろ!!


「・・・・・・」

「うん。朝から営業している、定食屋あったから」

「なんだよそれえええええええ!!!!!!!俺だけ仕事させてええええええ!!!!」

って言うか、朝から定食とか、随分と重いんだな・・・・。

「まあまあ、深冬の分も買って来た」

「は・・・・??」

「ええっと・・・・。お持ち帰りもしてくれたから・・・・・。はい。これ、買って来たんだけど・・・・」


流石に佐倉先生は申し訳なさそうだ。そりゃそうだろう。

しかし、手渡された弁当は、まだ温かくて、湯気といい匂いがしている。

「・・・・まあ、いいですけど・・・・・」

それで機嫌が直ってしまうんだから、俺も単純なもんだ、と思わなくもないけど、まあ、しょうがない。男子高校生なんてそんなものだ。

「で?今回はちゃんと箸あるんですよね?」

「あ・・・・・」

え??なんの、あ、なの??

「え・・・・??まさかない、とか・・・・??」

「あー・・・・。そう言えば・・・・・」

気まずそうな顔で頭を掻く佐倉先生、まさかそんなこと無いよね??

「え・・・?どうやって食べろと??しかも生姜焼き弁当だし!!手で食べたらべたべただよ!!??」

「その辺に箸落ちてないかなあ・・・・・」

先生が指さすのは、今まさに最後の片づけを始めようと思っていた、事務所の机の上だ。

「いやいやいや!!!!そこから箸が出てきたとしても、俺は嫌ですからね!!!!」

こんな場所から発掘された箸がまともなはずない。絶対そうだ!!

「しまったなあ・・・・・」

終わった・・・・。俺、もう動けません・・・・・。

「お姉ちゃん、可哀想」

「茜・・・・」

「なあんて嘘だよおおおお!!!!ちゃんともらってきてるから、食べて食べて!!!」

「・・・・・・」

「なに?どうしたの??びっくりしちゃった??驚いた??」

「ぐすっ・・・・」

「いやいやいや!!!!???泣いてるの!!!???え!!??大丈夫!!??本当に大丈夫!!!??ちゃんと箸あるから!!!だから泣かないで!!!!心配しなくてもいいから!!!!!」

「よしよし」

茜が俺の頭を撫でてくれるけど、泣いてなんかいないさ!!泣いてなんか・・・・!!くそ!!世界が歪んで見えるぜえ・・・・。



「ふう・・・・。ようやく終わりが見えてきたな」

昼近い時間になっただろうか?この事務所も見違えるようにきれいになった。

部屋を埋め尽くしていたごみの山は、今では綺麗にすっきりとなくなり、埃塗れの床も、磨き上げられたかのようにピカピカだ。

元々調度されていた、皮張りで落ち着いた色合いのソファ、そして、その前に置かれた、木目が美しいローテーブル。

窓の前には簡素な執務机が置かれており、まさに、事務所、もしくは相談所、といった趣だ。

更には、左右の壁に設置されていた本棚には、ずらりと、作者ごとに本が整然と並べられ、まさに圧巻の光景と言えるのではないだろうか!?


「すごいじゃないか!?見直したぞ!!!君は随分と綺麗好きなんだな!!」


え・・・??見直したって・・・・。ここまで一人でほとんどやらせて酷くない?


「すごい、すごい」

茜は手放しに誉めてくれているのに・・・。褒めてくれているんだよね??相変わらずの無表情だから良く分からない・・・。


しかし・・・・、何だろう?この圧倒的な解放感は!!ようやく一仕事終わって、しかも、その成果が目に見えて出ていれば、こんなにも嬉しいのか!!

清々しい気持ちで、換気していた窓から身を乗り出すと、何やら下に、一台の車が止まるのが見えた。

中から降りてきたのは、くたびれたスーツ姿の中年親父。

何だろう??と思っていると、ポーン、とエレベーターがこの階で止まる。


「邪魔するぜ」

こんこん、と控えめなノックの音とともに中へ入って来たのは、今しがた、目にした中年親父だ。

しかし、随分な挨拶だ。どうにも堅気には見えない。

まさかやくざか!?

と怯える俺をしり目に、その中年親父は、「嬢ちゃんはいるかい?」と声をかけ、しかし、一歩室内に入った瞬間に固まってしまう。


え・・・・!?なに!?何が起こった!?まさか狙撃でもされたか!?


「な・・・・・」

「な?」


「なんだこれええええええ!!!??滅茶苦茶綺麗になってやがる!!!???」


なんだこの親父??



「挨拶が遅れてすまんな。俺は、犬飼慎也、警察だ」


警察だったか・・・・。俺の嫌いな人種だ。何かって言うと、俺のことを変質者扱いして、すぐ職務質問だなんだって、鞄の中身をひっくり返し、ポケットの中身をまさぐり出すんだから。

もし俺が刃こぼれした包丁を、研ぎに出そうと持ち歩いてたらどうすんだよ?銃刀法違反で捕まえるか!?

そしてそれ以上に・・・・。

・・・・いや、これ以上考えても嫌なことしか思い出さないからやめよう・・・・。

そっと、彼の視界から隠れようとしたが、なぜか、犬飼、と名乗った警官は、しげしげと俺の顔を見つめている。

なんだ?何か顔についているとでも言うのか??


「すまないな若いの。この事務所に来て、こんなに綺麗に片付いてたってのを見たことがねえし、何より、佐倉姉妹以外に誰かがいるってのを見たことがねえもんだから・・・・名前、聞いてもいいか?」

「・・・・・えっと・・・・」


答えるべきなのだろうか??別に答えてもいいか・・・??うん、答えないと失礼だよな・・・??


「杉谷・・・・」

「杉谷君かあ・・・・。ここに杉谷君がいて、こんだけ綺麗になってるってことは、杉谷君が片付けたんだよな?すごいな、あのごみ山をたった一人で」


たった一人・・・??には違いないだろうが、一か月前は先生が片付けたんじゃないのか??

その言葉に、違和感を覚えたので、無言で先生を見詰めれば、気まずそうに視線をそらされてしまった。


「いや・・・・、ほら・・・・、あの、な。私にも苦手なことがあってえ・・・・。掃除とか、片づけが苦手って言うかあ・・・・」

「あとお姉ちゃんは料理も苦手。洗濯も苦手なのだ」

・・・・それって家事全般じゃないですかね??

「こら!!茜!!余計なことを!!!それじゃあ、私が駄目女みたいじゃないか!!」

「え?違うの?」

「がはははは!!!!!嬢ちゃんに一本取られたな、先生」

「犬飼さんも笑ってないで何とか言ってくださいよ!!!」


何だろうこの人は?

犬飼、と名乗る警官はどうやら二人と面識があるようで、二人の方も、身構えることなく話をしている。

一体どんな関係なんだ・・・・??


「時に杉谷君、君は、U高校の生徒で間違いないか?」

「なぜそれを・・・・!?」


流石警察・・・・。人を見抜く目だけはある・・・・。俺の立ち振る舞い、背格好、そして雰囲気からU高校の高校生だと見抜くとは・・・・!?できる・・・・!!!


「はあ?なぜってそりゃお前・・・・制服着てるから・・・・」

そうでした・・・・。

親に見つかった時の言い訳のために、制服で来たんだった。

・・・・あと、普通の服をあまり持っていないから、何を着てくればよかったのか分からない、っていう理由もあったけどね・・・・・。それが一番の理由ではない!!無いったら無い!!


「犬飼さん!!いい着眼だよ!!ナイス!!深冬!!それは私も思った!!え?なんでこいつ、学外で制服着てきたの?ってな!!!・・・・もしかして、恥ずかしい私服しか持ってないのか・・・??」

「・・・・・・・」

くっそ、何も言い返せねえ・・・・・。

「く・・・・!!憐れな・・・・。分かった!!今度お姉さんと一緒に買い物に行こう!!何、ここの片づけを手伝ってもらったお礼だ!!一着くらいプレゼントしてあげるよ!!」

「いや、良いですよ。そんなの貰ういわれないですし・・・・」


何かを人からもらうって言うのは、なんだか嫌だ。

恥ずかしいとかじゃないんだけど・・・・。ほんとだぞ!?

でも、どう言葉にすればいいのか分からないんだが、人から物を貰うって言うのは、その人と深い縁ができるって言うことだ。

深い縁ができるって言うことは、それは重荷にしかならない・・・・。

誰かと深い関係になったことなど俺にはない・・・・。

だから、どうすればいいのか良く分からない、って言うのもあるんだろうけれど、それ以上に、何だろう・・・・。

とにかく嫌なんだ。子供の我儘だって思われるかもしれないけれども・・・・。だったら俺は、まだ一人孤独でいたほうがいい・・・・。そっちの方がよっぽど気楽だ・・・・。


「そっか・・・・」


そして、佐倉先生は、いや、佐倉姉妹は不思議だ・・・・。

何故だろう?俺が、これ以上は絶対に踏み込んでほしくない、ってところに、決して立ち入っては来ないんだ。

何だろう?もっと簡単に言うと、俺の嫌がることをしない・・・?

そんなの当り前のことで、何をいまさら、って言われるかもしれないけれども、それが、俺にとっては、何よりも大事なんだ。


「で?深冬がU高校生だと問題ある?」


茜の問いかけに、一瞬、犬飼が、俺をちらりと見た。その表情にはあからさまに、俺を邪険にするような色があったので、ここは空気を読むことにして。


「いいですよ。俺、もう仕事も終わったんで今から帰りますから」

鞄をひっつかみ、そのまま立ち去ろうとしたが、


「だめ。深冬も一緒に。じゃなきゃ聞かない」


茜が有無を言わさず俺の足を止める。


・・・なぜ?


そう思った。だってどう考えても、部外者の俺が、邪魔だと言うのは目に見えていた。なのに・・・・。どうして茜は止めるんだろう・・・??


「そうだね。茜の言う通りだ。彼に、お昼をご馳走するって約束していたんだ。犬飼さん、私もいることだし、彼も一緒では駄目かな?」

そんな約束をした覚えはない。それでも、先生までそう言い切れば、何の用件があってここに来たのかは知らないが、さすがの刑事も、ため息を一つ。


「はあ・・・・。そうかい、そうかい・・・・。邪魔者は俺ってことか・・・・。まあ、こっちから嬢ちゃんに頼みがあって来たんだ。嬢ちゃんの言葉に従うのが筋だわな」

ゆっくりと懐から、書類を取り出した。それを茜に手渡そうとしたが、途中でその手が止まる。

「しかしな、嬢ちゃん。俺の立場も考えてくれ。それでなくとも警察が、探偵に捜査協力を願うってことだけでも異例なんだ・・・・。その上、被害者の通っていたU高校の生徒に、捜査情報が漏れた、なんてバレた日には・・・・。俺の首が飛ぶ」

「うん。分かった。深冬もそれでいい?」


え・・・・??結局巻き込まれるの・・・・??

いやいや!!そんなことより!!今、U高校って言ったか・・・・!?被害者の通う、U高校って・・・・。そう言ったのか!?



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