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孤独な迷探偵  作者: 高橋はるか
第一章 座禅しながら人は死ねるのか??
14/55

13防犯はばっちりだ!!哀しいかな、俺も、その対象なんだけどね・・・

「で、着いたわけですけど・・・・。まさか中にまで付いてくるわけじゃないですよね!?」

「そのまさかだが?」

あれ??やっぱり俺が間違っているのか??・・・いやいや!!騙されるな!!佐倉先生の、何を当然のことを、みたいな表情に!!

「そのまさかだ」

「そしてなぜ茜まで!!??」

「行っちゃダメ?」

無表情なはずなのに・・・・。会った時と変わらず無表情なはずなのに!!なぜか、少し、しゅんとしているように見えるのは気のせいなのか・・・・??

「あ・・・・えっと・・・・いや・・・・・なんと言うか・・・・駄目っていうよりは・・・・」

「しかし随分と立派な家だな」

ピンポーン、と間抜けな音とともに、門に付けられた赤外線式のライトがぴかっと俺たちの姿を闇の中に映し出す。

「もうインターホン押してるし!!??何故えええ!!??」

「はいはーい!!」

ああ!!もう!!なんでこの二人はこうも勝手なのか!!??まあ、ここまで来たら、腹をくくるしかない・・・・。

がちゃり、と扉が開き、中から出てきたのは、何を隠そう母親だ。

俺を見て急に顔付きががらりと変わる。

「あんた!?こんな遅くまでどこほっつき歩いてたのよ!!??」


心配している?これが??そんな風には思えない。


「・・・・うるせ・・・・」

「うるさいじゃないでしょ!!??全く・・・!!一体どれだけ心配したと思っているのよ!!!お父さんも、お父さんで、あいつはもう放っておけ、なんて言うし・・・!!私がどういう思いで待っていたかなんて・・・!!!」


もう聞き飽きた。うんざりだ。

大体いつもそうだ。

普段よりも帰宅が遅れようものなら、この調子なのだ。それ以外でも、少しでも何かいつもと変わったことをすれば、もしくは反抗的な態度を取れば、これが始まってしまうのだ。


もううんざりだ。


嫌だな・・・・。こんな家庭見られたくない・・・・。

はたから見れば、こんなにいい家庭環境は無いだろう。中流の中でも上位に位置するような一軒家に住んでいて、立地も悪くはない。

ましてや、夜に帰宅すると、母親がこんな風にすっ飛んでくる・・・・。


・・・・本当に息がつまりそうだ。


まるで・・・・・。なんだろうな??形容が難しいけれども・・・・。

そうだ!!工場だ!!

実際に体験したことは無いけれども、まるで、オートメーションの部品工場だ。

いつもと同じ・・・、いつもと全く同じ品質を求められ、少しでも規格と違えば弾かれる。

だとしたらうちの母親は、さながら、ヒステリックな検査員といったところか?

寸分の狂いもなく目を光らせる検査員。

少しでも他と違えば、世間一般の規格と異なれば、すぐに矯正される。無理やりにでも・・・。


「お母さま、申し訳ありません。お宅の息子さんには、いろいろと私手伝ってもらっていまして、それでこんなに夜遅くなってしまいました・・・・・」


佐倉先生だ。

すっと、まるで俺の盾になるかのように、体を入れ替えると、母親と俺の間に立ち、滔々と申し訳なさそうな顔を浮かべる。


「あら・・・・。あなたがお電話いただいた佐倉先生・・・・なのかしら??」

「ええ。申し遅れましたが、私、佐倉、と申します。僭越ながら学校で保健医、兼カウンセラーをしております」

「随分お若いのですね・・・・」


ほら見ろ。うちの母親の得意技の一つ、若輩者を警戒する、が発動したぞ?


「ごめんなさいね。別に責めているわけではないですし、疑っているわけではないのですけど・・・・。まだ、大学を卒業したばかりなのでは??そのような先生に一体うちの息子は何を手伝わされたのでしょうか・・・??」

さてなんと答える??

「ああ!!お疑いはもっともです!!僭越ながら私のように若い、ましてや女性だ!!本当に能力があるのか?と疑われるのも当然です!!」

「いえ・・・・そんなつもりは・・・・」

あれ?急に母親が慌てて否定を始めたぞ??

「いえいえ!!お母様に置かれましては、大事な息子さんです。そのように心配なさる気持ちはもっともです」

「えっと・・・・」

随分と芝居がかった大仰な仕草をするな・・・・。一体どこの女優だよ!と突っ込みたくはなったが、それでも堪える。

「息子さんには、学外での社会科体験として、特別支援が必要な身体障害者とのコミュニケーションを深めて、彼ら彼女らの社会進出を助ける、といった、私が心血を注いでおりますプロジェクトに協力してもらっていました!!」

「まあ・・・!!??」

まあ、って・・・・。よくもまあ、そんな嘘を滔々と語れるものだ。それに騙される馬鹿も相当だけどな・・・・。

「む。身体障害者?って私のこと・・・??」

後ろでぼそりと呟かれた言葉は、聞こえていないみたいだ。良かった。もし聞こえていたら変なことになっていただろう。・・・・まあ、茜の顔は変なことになっているけれど・・・・。

「息子ったら・・・・、暗くて何を考えているか分からなくって・・・・、皆さんのお邪魔をしませんでしたか??お手を煩わせるようなことは・・・??」

「まさか!?その逆ですよ!!むしろ皆も彼の働きに助けられたと口をそろえて言っていましたよ!!いやはや・・・・。よくできた息子さんですね」

皆・・・・??皆って誰のことだ??・・・・まあ、人が集まれば皆になるのなら、二人も皆なのかもしれない・・・・。


しかし・・・・。俺のことを否定し続ける母親と、俺のことを肯定し続ける先生の図、か・・・・・。今まで見たこともない光景に、なんだかむずむずする・・・・。

三者面談??何それ??あれは、教師と親が寄ってたかって俺の皮肉と悪口を言って、結局二人で仲良くなれてよかったねー、っていう下らないやつでしょ?


何が、

『お宅の息子さんは・・・・申し上げづらいですが・・・・学校ではなかなか友人が作れず・・・・・』

『家でもそうなんですよ!!素直じゃないというか、屁理屈というか・・・・。いや、偏屈なんでしょうね!!誰に似たんだか・・・・』

だよ!?

その後必ず、

『お母様も随分と苦労なさっているのですね・・・・。分かります』

『分かっていただけますか!?先生!!』

ひし。

じゃねえんだよ。お涙頂戴の時代劇だってもっと斬新なパターンがあるぞ!!頭を使え頭を!!

もう面倒だったので、ずっと頭を下げっぱなしの母親の横を通り抜けて家の中に入ることにした。


「あ!!ちょっと!!まだ先生が話しているでしょ!!!失礼よ!!!」

「・・・・うっせ・・・・」

「全く!!!この子は!!」

「ははは!!お母様、私たちは気にしてませよ。では深冬くん!!明日またな!!!」

やっぱり明日も手伝わなきゃいけねえのかよ!!??憂鬱だな・・・・。

「こら!!深冬!!!返事くらいしなさい!!!」

本当にうるせえな・・・・・。

「・・・・また」

ちらりと後ろを振り返って手を上げたら、茜が手を振り返してくれた。

「またね」


すぐに三人に背を向け、家の中に入ったから、そんな俺に二人がどんな顔をしていたのか知らない。

それでも、最後にちらりと見せてくれた、茜のほんの少し、僅かに見せてくれた笑みに、どきり、としたのは確かだ。

見間違いじゃなければ・・・・だが・・・・・。

後ろでぎゃあ、ぎゃあ、と騒ぎ立てる母親を置き去りに、家の扉をばたん、と閉めた。

どうやら、父と妹はもう帰って来てるみたいだな・・・・。

だからどうした?という話なのだが、たまたま二人の靴が目についたから言ってみただけだ。

どうせ父親の方は、俺の帰りをわざわざ出迎えには来ない。

妹だって・・・・・。


「ねえ」


そう思っていたのに、随分なご挨拶だ。

「・・・・・」

そのまま素通りしようとしたら、今度は苛立ったような声音で再び呼び止められた。

しかも舌打ち付きで。


「ちっ!!ねえって言ってんじゃん!!聞こえてるんでしょ!!??」

「・・・・何だよ・・・・?」


階段を上った先に俺たち子供用の部屋が各一部屋ずつあるのだが、その上から俺を見下すように見つめているのは、何を隠そう俺の妹だ。

一学年下の妹は、俺とは違って成績優秀、運動神経もよくて、何より明るく快活で友人も多い。

だからこそ、この時間にこいつがいることの方が驚きなんだが・・・・。

面倒だな・・・・。絡まれちまったぜ・・・・。

なんて、街でチンピラに因縁を付けられた時と変わらない反応に、不満だったのか、ずんずん、とわざとらしく音を立てて近づいて来たかと思うと、

「『あの』佐倉先生と一緒だったの!!??」

何だこいつ・・・・??嫉妬しているのか・・・・??気持ち悪いな・・・・・。


「答えなさいよ!!」

「・・・・そうだけど何か関係あんのか??」


クラスの連中が噂していたけど、こいつにはいわゆるファンクラブ、とやらが全学年に存在しているようだ。

って言うか、片やクラスの中でも空気で、片や学校中の人気者・・・・。

まあ、別にいいけどね。もう慣れたし。

クラスの奴らも、俺とこいつが兄妹だって知らないんだろうな・・・・。


「何そのキモイ目・・・・。って言うか目立ったことしないでよ!!!あんたみたいな気持ち悪い兄がいるって気付かれたら私の評判が悪くなるでしょ!!」

ちっ!!どいつもこいつも面倒臭え・・・。要は何が言いたいんだよ?

「って言うか、佐倉先生と何してたのか知らないけど、あんたみたいなの、ただ利用されているだけだから!!あんたみたいな根暗で、キモイ生徒、ちょっと優しくしてやれば何でも言うこと聞くって思われてんのよ!!気付かないの!!??」

言外に馬鹿なの?って言われてるようでむかつく。

って言うか、それくらい俺だって分かってるっつうの!!今日だっていいように利用されただけだし・・・・・。

でも・・・・。なんか・・・・。それを自覚するのは良いとしても、人に改めて言われると腹が立つな・・・・!!

そして、そんな当然のことを指摘されて腹を立てている自分にも腹が立つ!!

当たり前のことだ。当然のことだ。何も期待しちゃいないし、何も思っちゃいない・・・・。だから、大丈夫。あの事務所を綺麗にしたら、それで終わり。それだけだ!!


「あれえ!?傷ついちゃったあああ???ごめんねええ本当のこと言っちゃってええ。でもこれに懲りたら、もう佐倉先生に付きまとうの止めてよね!!本っ当に気持ち悪い!!!」

「・・・・別に付きまとってねえし・・・・」

「なに図星言われて熱くなってんの??」

「どけ」


いつまでも上から見下ろしてくるこいつが気に食わない・・・。

今だに外で、母親が金切り声を上げ二人と話しているのも気に食わない・・・・。

そして、何より、ここまで騒がしいのに、一切リビングから出てくる様子のない父親も・・・・。

気に食わないことだらけだ!!

どいつもこいつも・・・・。





「お母さん、綺麗な人だったね」

「そうだな」

珍しく茜が人に興味を持つなんて・・・・。随分と深冬のことを気に入ったんだろうか?

まあ、似たところのある二人だから、茜が気に入ると思ってわざと連れて行ったんだけどな・・・・。

「深冬、お母さんに顔立ち似てるね」

「そうだなあ・・・・」

確かに似ていた。性格は真逆かもしれないが・・・・。顔立ちが。

随分と若々しい母親だったが、ああ見えて四十代後半だと知っているからこそ、初めて顔を見て少し驚いてしまった。


「私たちは・・・・・お母さんとお父さんどっちに似てるのかな・・・・??」


ぽつり、と呟かれた言葉に、私はしかし答えるすべを持たない。

何故なら、私自身も本当の父親を見たことなどないのだから・・・・。

母親だって失踪したのは私がまだ小学生の高学年の頃の話だ。

茜は物心ついて間もないころ。その当時の記憶など、失っているだろう・・・・。私自身もよくは覚えていないんだから・・・・。


「でも・・・・。深冬、寂しそう・・・・」

「そうだなあ・・・・・」


両親がいて、帰る家があって・・・・。それは私たち姉妹から見ればとても幸せなことなのに・・・・。


「息苦しそう・・・・」

「そうだな・・・・」


あんなに心配していた母親・・・・、なのに、終始、一切姿を見せなかった父親。家の駐車場には車が二台止まっていて、もう帰宅しているはずなのにな・・・・。


「それにあの妹も厄介だろうなあ・・・・」

噂でしか聞いたことが無いし、それでも噂だけは学校の中でも上位に入るくらい囁かれている彼女。

「そうなの?」

「ああ・・・・」


あれだけの分厚い面の皮の下には、一体どんなドロドロした黒い物が眠っているのか・・・。

全てが全て聖人君子だとは思っていない。

むしろ、そんな人は本当に少なくて数えるほどしかいないことを、私自身、いや、茜も、そして彼も、身をもって知っている。

彼が、今日、一言も妹の話をしなかったことが、顕著にその事実を表している気がして、改めてぞっとする。


「まあ、明日も会えるから大丈夫だ」

「もし来なかったら・・・??」


む!?これは随分と好かれたようだな!!お姉ちゃんとしては嬉しい反面、複雑な気持ちだぞ!?


「なに、迎えに行けばいい。無理やりにでも連れて行くさ」

「いいね」

機嫌が戻って良かった。今日は、久しぶりに一緒に寝るとしよう。



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