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孤独な迷探偵  作者: 高橋はるか
第一章 座禅しながら人は死ねるのか??
13/55

12初めて・・・・

「深冬。お弁当買ってきた」

「あ、ありがとう・・・・」

そう言っていたのに・・・・。

茜が、すっ、と差し出して来たのは、紙パックのお茶だけ。

「え・・・・・??」

なにこれ?罰として夕食抜きなの??

「お弁当・・・・は・・・・??」

「ちゃんと買ってきているから、そんなふうに怯えるなって」

「でも・・・・あれ??見間違いじゃなければ二つしかいないように見えるけど??」

「うん」

え??高度な嫌がらせか??この場には三人いるのに、お弁当は二つ・・・・。どうやっても解けない難問か??

「これはお姉ちゃん」

十二品目の雑穀弁当。随分と健康に気を遣っている様で・・・。

「私と深冬」

幕の内弁当。しかもかなり値段が張るのではないだろうか??一番上等な奴だ。

でも・・・・。今なんて??

「え?俺と・・・・茜・・・・??」

どういうこと??

「ほら、私一つ食べきれないから」

「それは・・・・、そう言えばそうだろうけど・・・・」

それだけ言うと、俺の許可なんてお構いなしで、するするとふたを開けると、そのままぱくぱくと食べ始めてしまった。

「何の躊躇もなし・・・・そして、先生は・・・・」

「なに??」

こちらももうすでに食べ始めている。

ふう・・・・・。ひどくない??

見ているだけって、すごくお腹すくんですけど・・・・??

そう思っていたら、どんどん茜の箸が動かなくなっていって・・・・、

「ふう・・・・お腹いっぱいだ・・・・。あと食べて」

そう言って差し出されたお弁当は八割くらい残ってしまっている。

「って!!??全部箸つけてるじゃん!!??それに・・・・その・・・・。俺用の箸は・・・??」

「そう言えば」

そう言えば?そう言えばってなんのそう言えば?そう言えば忘れていた、のそう言えば、なのか、それとも聞き間違えて、総入れ歯、とでも言おうとしたのだろうか??

「二膳しか持ってくるのを忘れていたよ。別に茜は気にしないだろうから、食べちゃっていいぞ??」

「うん。気にしない」

「いや!!いやいや!!俺が気にするんですよ!!??俺が!!気にするんです!!!」

純情な男子高校生にそれは殺生ですぜ!!

それなのに、先生に、ふ、っと鼻で笑われてしまったではないか。

「ふっ・・・・。今時分小学生ですら間接キスなぞ気にしないぞ??」

「それはまだ思春期でないからで・・・・!!」

「中学生だって気にしないだろ」

「それは・・・・。とにかく!!俺は気にするんです!!」

「じゃあ手で食べるのか?べたべたになって行儀が悪いぞ??」

「・・・・今更ここで行儀云々を言われるとは・・・・」

俺の皮肉は黙殺されました。

「別に茜が気にしないんだ。お前が気にしてどうする??普通は、もっと喜ぶものだろう??この際だ、ぺろぺろ舐めながら、茜の唇の味でも楽しんだらどうだ??」

「それただの変態じゃん・・・・」

「なに!?まるでお前が違うみたいな言い方だな!!??」

「まるで俺が変態だという言い方ですね!!」

「違うのか!?あの、床を這いずり回りながら黒レースのパンティとブラジャーを興奮したような眼で見つめていたお前はまさしく、変態では!?」

「そんなじゃなかったし!!!って言うか何それ!!??それはもう完全にアウトなやつでしょ!!??俺はまだそこまで行ってなかったろ!!!」

「ああ言えばこう言う・・・。随分と面倒な奴だな」

ふう、とまるで呆れたようにため息をつく先生に、一瞬俺が悪いのか?と疑ってしまった。・・・・危ない。

「深冬、深冬」

「なんだよ」

「私は気にしない。深冬は気にするの??」

「うっ・・・・!?」


そんな純粋な目で俺を見ないでくれ!!!まるで邪な目で茜を見ているみたいで自分自身に嫌気がさすから!!


「いや・・・・、俺は・・・・」

「私、そんなに臭い??」


困ったようなその顔に、ふいに昔の嫌な記憶が蘇ってきてしまう。

それは、中学生のころだったか?

真夏の時の話だったと思う、体育の時間の後、汗みどろになってしまったが、汗を拭いたので大丈夫と、そのまま制服に着替えたのだ。

しかしパンツも汗びっしょりになっていたようで、臭い、臭いと犯人捜しをされ、結局俺のせいにされたと思ったら翌日からクラス皆に、いや、学年全員に、杉谷は不潔、風呂に入っていない、と噂され、臭いから近づくな、とか、汚いから俺の、私の、半径一メートル以内に来ないで、と言われた。

どうして今になってあの時のことを・・・・??と思わなくもない。それでも、その時に茜が浮かべていた表情は紛れもない、あの時、窓ガラスに映った自分がしていた顔にそっくりな気がした。

だからこそ、痛いほど良く分かる。

言われもない中傷で、人は簡単に傷ついてしまうことを・・・・。


「いや、そんなことないですよ・・・・。逆に俺が汚いから、茜が嫌な気持ちするんじゃないかと思いまして・・・・。まあ、気にしないならありがたく」

そう言うや否や、差し出されたお弁当を、茜が使った箸でパクパクと頂く。



・・・・やっぱりやめとくんだったか??すぐに後悔してしまった。

何故かって??味なんてわからないからだ。

どうしようもなく、意識してしまう。

だってそうだろ!?さっきまで、目の前で満足げに俺を見つめる可憐な少女が使っていた箸を使っているのだ!!冷静でいろって方が無理な相談だ!!

しかも、わざとらしく佐倉先生がにやにやと笑いながら、「若いねえ・・・」なんて年よりじみたことを呟くものだから、益々気恥ずかしくなってしまう。

額から、暑くもないのにだらだらと汗をかき、必死で弁当を掻き込む姿に引かれないか?一抹の不安を覚えつつも、それならそれでいい、とどこか投げやりな気持ちでとにかく急いで夕食を終えることにした。


「あんまり急いで食べると太るぞ?」

・・・誰のせいで!!!

喉元まで出かかった言葉を最後の米粒と一緒に飲み込み、

「これで今日は十分じゃないですか??」

と尋ねれば、「そうだなあ・・・」としばし考え込む仕草を見せた佐倉先生は、一渡り室内を見渡し、

「うん。ありがとう。助かったよ。いやー、これなら明日にでも終わりそうだな!!」


当然だろ!!天井近くまで積みあがっていたごみの山が、今ではソファの上くらいの高さまで片づけてみせたのだ!!

しかも、掃除しながら、という器用さで!!


「いやはやすごいな深冬は。掃除が得意なのか??」

「いや・・・・そういう訳では・・・・・」

「家でもよく手伝いなんかするのか??」

「いや・・・・そういう訳では・・・・」


説明しよう!!ぼっちは掃除の時間、誰とも口を利かず淡々と掃除をこなすうちに掃除が不意にある日から突然、楽しくなるのだ!!

ましてや小・中学校ともなるとより凶悪で、掃除の時間になって、誰も手伝ってくれず、俺一人で掃除していた、なんてこともよくある。

もっとひどいときには、掃除した端からごみを散らかされて泣きながらそれを片付けていた時まであるくらいだ!!


・・・・・嫌な思い出だ。惨めになるからやめよう・・・・。


そんなこととは露知らず、随分と歯切れの悪い俺に苛々としたのか、先生はちらりと外に目をやると、「もう遅い。送っていくよ」と言ってくれたが、そこまでお世話になる気はない。


「いえ・・・・大丈夫です・・・・。まだ電車はあるんで・・・・。それに遅いとは言っても高校生が出歩いて大丈夫な時間のはず・・・・・」

「か弱い男子高校生を一人で家路になんて送れないさ。何、遠慮することは無い。どうせ君の家の住所なんて把握しているんだから」

「言い方がいちいち怖えよ・・・・・。ストーカーみたいな言い方止めてもらえます・・・・??それにか弱い男子高校生って・・・・。それ普通女子に使う言葉なんじゃ・・・・」

「ここからそうだな・・・。車で二十分くらいか??」

うん、相変わらず全然話を聞いてくれないなー。それに、間違っていないのが余計に怖い・・・・。

「合ってますけど・・・・・。逆に怖いんで・・・・・」

「安心しろ、親御さんに挨拶するだけだ」

「止めてええええ!!!!その・・・なんだ?さっきから微妙に勘違いしそうな言い方あああ!!!止めてくださいよね!!??まかり間違ってもうちの両親の前でそんなこと言うのは!!!」

瞬間、きらり、と佐倉先生の瞳が光った。

「ほう?私が送って行くのには賛成だ、と」

「・・・・・あ」

汚ねええええええ!!!??それ誘導尋問だろ!!

「はあ・・・・。もういいですけど・・・・」

「と、いう訳で!!いざ杉谷家へ!!」

「れっつごー」

「いや、れっつごーって・・・・。子供じゃあるまいし・・・・」

うん・・・・??

いやいやいや!!!ちょっ、ちょっと待ってよ!!

「茜も来るつもりなの!!??なんで!!??」

「私行っちゃいけない?」

「う・・・・」

そんなつもりで言ったわけでは・・・・。ってあれ?俺間違ったこと言ってるのかな・・・・??あれ??どっちだ??ああ!!もう分からない!!




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