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その三・おっと、そいつァ問屋が卸さねえ 後編


 




翌日。

 

その光景にアタシはがくんと顎を落していた。

 

これ以上ないってくらい整えられた身なり。学生服だから限度はあるが同じモノとは思えないほどぱりっと糊とか効かせてる。

 

いつも無造作に流されている長髪は背中で束ねられ爽やかさを演出してるらしい。

 

胸には花束。情熱の赤い薔薇がたんまりと。

 

馬鹿が、すごい馬鹿がそこにいた。


「おはよう、良い天気だな。まるで心が洗われるかのようだ」

「いやあの北畑? 曇ってるよ?」

 

とりあえずツッコミを入れている夕樹だけど、それは条件反射みたいなモノで彼もどう反応したらいいのだか戸惑っているようだ。

無論そんな反応など馬鹿は気にする様子もない。芝居がかった踊るような足取りで、ぽかんと口を開けた林檎の元へと歩み寄る。


「一晩が千夜かと思うほどに長かったぞ秋沼 林檎よ。思わず早起きがてら花屋をたたき起こし薔薇の花束何ぞを購入してしまうほど舞い上がっているぞ今の俺様は。まあそんなついでの代物だが、良ければ受け取って欲しい」

「え、あ、うん……ありがとう」

 

脳が完全にフリーズしていたらしく、呆然としたままの林檎は通常の反応を忘れて素直に花束を受け取り反射的に礼を言う。

と、そこでやっと正気に戻って慌てて取り繕うかのように言葉の雨を放とうとする。


「いや、そのこれはあれだこの美しいボクの罪か!?嬉しいわけでもないわけでもないわけでもないわけでもないがどっちだ!?勘違いするな花には罪はない!捨てるの勿体ないし綺麗だし良い匂いだしあ、これボクの好きな品種じゃないかちょっとピンクがかってて可愛いんだよね…………ってこれは罠か!?孔明か!?おのれ貴様謀ったな!?ボクのハートをがっちりキャッチしようとして何が狙いだ!金ならない!」

 

…………微妙に動揺してんな。気持ちは分かるけど。

普通こういう反応をされると退くが、仲間はみんな慣れている。ましてや相手は北畑、しかも精神状態が通常ではない。

まともに話を聞いてるはずもなかった。


「ふ……喜んで貰えたようで何より。たたき起こした花屋と死闘を繰り広げた甲斐があったというもの」

「朝っぱらからナニしてんだこの人は……」

 

げっそりと頬のこけたカヅががっくりと肩を落して呟く。今の会話で疲れたのではない。朝現れた時にはこうだったのだ 。原因は……尋ねるまでもないだろう。

爛れたハーレム野郎はおいておくとして、どーしたもんでしょこの浮かれまくったあんぽんたんは。や、恋愛は自由なんだけどさ、タイミングがよろしくないわけよ。何の騒動もない時だったらむしろもっとやれって言ってただろう。今は都合悪いどころの騒ぎじゃない。

かといって聞き分ける人間でもないからなあ。普段ならまだしもこの状態で耳を貸すとはとてもじゃないが考えられない。いっその事、意識なくなるまでボコって事が収まるまでどっか監禁しておくか、そんな危険な考えすら頭をよぎる。

 

しかし幸い、それが実行に移される事はなかった。それどころじゃなくなったからだ。

 

突如響くサイレンの音。そしてかなり先の交差点からすごい勢いでカウンターを当てながら曲がって現れるパトカーの群れ 。

何事だと考える間もなくパトカーの群れはアタシたちを囲むような形で突っ込んできて急停車。おののく他の生徒の前で、勢いよくドアが開かれ無数の警官が登場。じゃきじゃきと拳銃を構える。

 

未だテンパってる林檎に対し一方的に愛を語る続けている北畑に向かって。

 

おいまさかこれ。いやな予感を覚えるアタシたちの前で、何かごてごてとしたスポーツカー改造のパトカーらしき車から威風堂々と降りてくる、サングラスをかけショットガンを携えた漢の姿。

 

無論青森さんだった。


「動くな抵抗するな。いやむしろやれ。撃つ」

『止めて下さい警部』

 

完全に私怨だけで構成された台詞に、周りの警官から一斉にツッコミが入った。拳銃を仕舞い込むその中の一人が、疲れた顔をしつつも慣れた様子で青森さんに語り掛ける。


「確保しなきゃならん重要参考人って、昨日の学生じゃないですか。むしろ被害者でしょう彼らは。……まあどちらにしろ話は聞かないといけないわけですが」

 

そう青森さんを諫めるが、表面上はハードボイルドっぽくみえて実はかなり暴走している様子の青森さんは聞く耳を持たない。


「黙れいいか我が娘林檎は可愛い可愛いイコール即ち正義。その正義を汚さんとする星十郎は悪。ならば法の番人として滅ぼさねばなるまい滅ぼすべきだ。これは決して私怨からの行動ではなく正義を知らしめんがためのホーリーウォー即ち聖戦。父と子と精霊と俺の名の下に正義の鉄槌を下すのが我々警察官の行くべき定めだと思わないか思うだろう思え思ったところで射殺用意」

 

……なるほど、間違いなく親子だ。改めて確認したくもなかった事実を見せつけられて、アタシたちはがくくんと肩を落すしかなかった。

とにかく青森さんを落ち着かせないと話にならないが、正直手を出すのはいやだ。ぶっちゃけ今のあの人に関わり合いになりたくない。

 

……って。


「返事は急がなくても構わない。人生を左右する事だ、むしろじっくり考えて欲しい」

「その話は前向きにも後ろ向きにも検討していいものなのかどうなのか当方としては返答に窮するというか困るというか別にその嬉しいとかそう言った感情は一片もないと思いたい今日この頃なのでありまして本日はお日柄も良かったりしちゃったりしちゃったりしてこの」 


聞いてなかったのかよ今の一連の話。

 

ある意味二人だけの世界に突入している北畑と林檎の様子に、びききと青筋を立てる青森さん。どう見ても怒り狂ったヤクザにしか見えないその口から何か言葉が飛び出す直前。

 

ばちちと火花が散る音がして青森さんの身体がびくんと跳ね、その後がくりと崩れ落ちる。 


その身体を背後から支える先ほどの警官。その手にはごっついスタンガンらしき物の姿が。


「やれやれ、本部長が危惧したとおりになったか」

 

溜息を吐きながら周囲の警官に青森さんを回収するよう頼む直属の部下らしき警官。

 

……親近感湧くなあ。

 

多分苦労しているであろう部下の人の指示に従いとっとと撤収を開始する警官の皆さん。それを背景に部下の人はアタシたちにぴっと敬礼して見せた。


「いやいや申し訳ない。ウチの警部殿今少々ナーバスになっておりまして、皆さんにはご迷惑をおかけしました。迷惑ついでに近々昨晩の事についてお話をお聞かせ願いたいと思いますので、どうかご協力下さいますようお願いいたします。……では失礼」

 

一気にそう言っった後あっさり撤収する部下の人以下警察の皆さん。度々あんな事があるのか妙に慣れた様子だった。何やってんだ青森さん。

最初にあったころのイメージが完全に瓦解し株が急落しているその人の娘は、騒動から切り離されたかのように未だ口説かれ続けているが。

 

あ〜、ま〜、とにかく、だ。

放課後あたりに警察に顔出さなきゃならんのだろうなあ。話に進展はありそうだが、なんだか段々とヤバイ方向へと突き進んでいってるような気がひしひしとしてるよあたしゃ。

一人でクライマックスに突入していきそうな北畑バカを皆でしばき倒しながら、アタシは深々と溜息を吐いた。


 













ともかく何がどうなっているのか事前情報とかはないのか。藁にもすがる思いのアタシたちが休憩時間に赴いたのは。


「美月お姉さんと」

「奈月おねえちゃんの」

『耳より情報室〜♪』

 

美人だがおかしい非常勤保険教諭と美人だがおかしい教育実習生改め英語教諭が、おかしなポーズを決めて待ち構える保健室だった。


「間違えました」

「逃げんな香月」

 

即座に後ろを向いて脱出しようとしたカヅの襟首をがしっと掴む夕樹。ナイスだこの二人カヅが関わらないと基本的に役に立たないからな。暴走する確率も高くなるが。

必死で藻掻くカヅをノブが拘束している間、皆はぞろぞろと保健室に入る。そういや前の時は夕樹が馬鹿やって保健室に担ぎ込まれたんだよなあ。あれから一月も経っていないけど何か随分昔のような気がする。その前にも色々あって……とか考えていたらふと思った。

 

アタシらってひょっとして、結構な問題児なんじゃなかろうかと。

 

いやいやそんなはずはない! アタシは頭を振って自分の考えを否定する。だってアタシら大した事してないじゃないか。せいぜい怪生物と戦ったりとか、猫派と犬派の勢力抗争に巻き込まれトーナメントバトルしたりとか、近隣珍走団を一夜にして纏め上げたりとか、近隣のヤンキーをシメて回ったりとか…………。

いやいや! 生徒会長とか生物科学部(何か最近合併した)とか天野せんせとか校長とかに比べれば! 比べればっ……!!


「……ああ゛! 否定できる要素が思い浮かばない!?」

「うあいきなりどしたのなっちゃん!?」

 

思わず絶叫してしまうアタシ。檸檬がびびくんと反応するがそれどころじゃない。気付かないで良いところに気付いちゃったよアタシ! 内申書とかどうなってんだ!? そいや何か仲間内以外であんまりクラスメイトとかと接触していないような気がしてたけどもしかして敬遠されてたのか!? がくりと床に両手をつくアタシを心配して皆が声を掛けるが耳を素通りしていく。色々あったけどこの事実が一番絶望感を感じたよ!? 


「あ、あの、かりんさん? 一体何事なんですか?」

「…………な、何でもない。ないったらない。気にするな少なくともアタシは気にしないように努力する」

 

こんな事下手に口に出したらみんな絶望のあまり首括る。これはアタシの胸に仕舞っていた方が良い。そう判断したアタシは「単なる発作だ心配するな」と平静を装って立ち上がる。

それよりも、それよりもだ! 今は青森さんの話だろう。胡乱な視線をびしばし感じながらも、アタシは未だヘンなポーズを取りっぱなしの南田シスターズに向かって話をするよう促した。


「まあいいけど……こほん。それじゃあ警察関係のお友達をちょっとシメ……もとい、説得して聞かせて貰ったお話によると、現在青森警部はとある広域犯罪者を捜査するための特殊任務に就いているんですって。それがどうもかなり厄介な連続殺人犯らしくて未だ逮捕に到らず、任務に就いてから数年間、全国を飛び回っていたようだわ」

 

その台詞を奈月せんせが継ぐ。


「昨日遭遇したアレだな。昔のツレ……友人に調べて貰ったんだが、どうもマイナーな有名人やその周りの人間を殺傷して回っているようだ。警察の方はあまりにも突飛かつ凄惨な事件なので報道を控えていたらしい」

「マイナーな有名人、ですか? なんかこう矛盾しているというか……」

「その筋では有名、と言うヤツだな。何かスポーツの優勝者とか、地方の有名人とか。男性とあると言う事と新聞やテレビでちょっと取り上げられた事があるというのが共通点だが、それ以外は一貫性がない」

「怨恨、かなあ? で、何でりんちゃんが…………ん? “何かスポーツの優勝者”?」

 

考え込んでいた檸檬が何か思い付いたらしく、はっと顔を上げる。その視線の先には、あらかじめ余計な事をしないよう拘束具で締め上げられた北畑の姿が。


「……そういや北畑君って、この間の大会で個人戦優勝してたんじゃあ……」

『それか』

 

皆がぽんと手を打つ。剣道部の面目躍如といえるこの間の大会。好成績というか圧倒的な強さで大暴れしたらしいが、まさかそれがこんなところで影響出てくるとは。


「つまり昨日のは、北畑の巻き添えって事か? 確かに秋沼ちゃんと二人揃ったところを執拗に狙っていたとは思うけど」

 

なんかこう引っ掛かるんだよねえと、顎に手を当てて考える夕樹。その視線は何か言いたげに拘束具の下でもがもがやってる北畑に向けられている。

ともかくだ、事情は分かった。つまり――


「――そんな感じで問答無用で人襲う容疑者があまりにも危険だから、捜査関係者は一時的にしろ家族から離れざるを得なかった、ってかい? たしかにありゃ危なすぎる。心得のない一般人ならあっという間にミンチだ。……今回結局林檎は巻き込まれる事になっちまったが」

 

そう言うと林檎は悔しそうに唇を噛んで俯く。まんまと首を突っ込んじまったアタシらの自業自得だが、どのみち北畑が標的だってんならいずれは巻き込まれていた。そう言う意味では早めに心構えができるのは不幸中の幸いってヤツだろう。

天野せんせはそれを見越していたようだが……どうも何か企んでいるというか、独自の心積もりがあるように思える。多分語るべき時がくるまであの人は口を割るまい。ま、人の思惑に乗るのはしゃくだが降りかかる火の粉は払わざるをえない。何とかしてみるさ。


「ともかく事件が解決しないと青森さんは元の鞘に収まることができないというわけね」

「だが難しいな。警察が専門の捜査本部を設けてしかも戦力的にトップクラスの人材を集めてなお逃げおおせている存在だ。なまなかでは終わらんよ」

 

少し真剣みをおびた表情になった美月さんと奈月せんせが言った。確かに警察どころか特殊部隊や自衛隊でも連れてこなければ対処できないような相手だとは思う。しかし、しかしだ。


「逆に考えれば、狙われる危険性の高いアタシたちが捜査に協力する事によって事件解決の糸口が掴めるかも知れない。何しろぎりぎりとは言えなんとか犯人を撃退してるんだ、これは大きいアドバンテージじゃないか?」

 

そう意見を出してみると、渋い顔をした小梅が反論してきた。


「簡単に上手く行くとも思えません」

 

伊達眼鏡を取出して顔にかけながら、彼女は冷ややかとも言える態度で語り出す。


「はっきり言ってあの犯人は異常です。私たちが束になって相手をしても互角以上に渡り合い、しかもそれが複数。今回確認できたのは二人だけですが、他に存在しないとも限りません。それに私たちだけなら何とか逃げおおせる事くらいはできるかも知れませんが、周りの人間の中には戦闘能力などほとんど持たない方もいらっしゃいます。事実林檎さんや南田さんがいい例でしょう。その全てに気を回すなど、警察が総力を挙げても不可能。分が悪すぎではないですか?」

 

ふむ、至極ごもっとも。できうる限り事件には関わらず専守防衛に勤める、それはそれで間違いじゃないんだが。


「小梅、アンタそれで納得してんのかい?」

 

アタシの問いに小梅は一瞬身を震わせたが、平然とした態度を装って答えを返してきた。


「……ええ、別に私たちがあんな危険人物に関わる必要性なんてものはありません。警察もプロです、税金で雇ってあげているんですからこんな時こそ役だって貰いましょう」

 

そこはかとなく上から目線での物言いだった。普段あまりやらないこんな言い方をするって事は。


「……もしかして、仕留められなかったのが相当悔しかったのかい?」

 

びくんと、今度ははっきり小梅の身体が震えた。

そしてアタシの台詞に檸檬が続く。


「まさかとは思うけど、こっそり一人で行動して汚名返上しようとか、考えてるんじゃないよね?」

 

びびくん。めっさ分かり易い反応だった。

だらだら脂汗を流す小梅に対し、美月さんが窘めるように言う。


「周りを巻き込むから単独で行動とか、止めておいた方が良いわよ? 体を張ってくれた彼氏

に良いところ見せたいってのは分からないじゃないけど……」

「なんでさくっと本心言い当てちゃうんですか!? と言うか何で美月さんが知ってるんですかその話!?」

「香月に聞いたの」

「さいで……」

 

かくーんと肩を落す小梅。悔しいって気持ちは十分に分かる。腕に憶えのある強者としては当然の事だろう。そして問題を放置するよりは自分で叩き潰す方が性に合ってると、行動することを選ぶ。みんなそうだろうしアタシだってそうだ。…………あれ? なんかこう恋する乙女的には凄まじく間違っているような。

ま、まあそれはそれとして、ある種の敗北感が仲間内に漂っているのも事実だが、無闇な行動は周囲を危険にさらすのも事実だ。色々な人……目の前のシスターズとかに頼めば頭数だけは集められるけど、数だけで何とかなる相手じゃない。となればやっぱり、先に対策を練っていてそれなりに経験値を積んでいる公僕に協力するのが一番の近道じゃないかな。















「というわけで我々は今警察署の方に来ております」

「どこに向かって説明してんのさかりん」

 

一通りのお約束を終え、アタシたちは玄関を潜る。受付で用件を話すと即座に会議室らしき大部屋に案内され、暫く待たされた。

そして現れたのは。


「お待たせしました。今回の事件で捜査本部長を務めております仙台と申します」

 

ロマンスグレーの紳士なおじさまと言ったものを絵に描けばこんな風になるだろうという感じの初老の男性が、昨日の部下の人を引き連れて現れた。

慌てて挨拶を返すアタシらをお構いなくと制し、席に着く。北畑のおじいちゃんもそうだったがこの人もなかなかのものだ。気配が希薄というか、気が付けば懐に潜り込まれているかのような凄味がある。だが。


「先日から今朝にかけて、青森がご迷惑をかけたようで申し訳有りません。警察を代表して謝罪いたします」

 

いきなり深々と頭を下げられて皆面食らう。そんな中真っ先に反応したのは意外な事に林檎であった。


「いえこちらこそその……“アレ”がご迷惑をかけているようで……」

 

ある程度の事情は分かっても未だ青森さんを父と呼ぶには抵抗があるのか、どうにも歯切れの悪い言い方になってしまう。それを気にした様子もなく、仙台と名乗った本部長さんは言葉を返す。


「痛み入ります。ですが彼は彼で優秀な人員なのですよ。彼の手腕で防げた犯行や救われた人間も多いのですから」

「なるほどそうですか……っと、そう言えばその青森警部はどちらのほうに? 捜査ですか?」

 

さり気ないつもりで話の矛先を逸らそうとする奈月せんせ(一応昨日の事件の関係者だから保護者を兼ねてついてきた)だったが、なぜか本部長さんも部下の人も揃って視線を逸らす。


「いやまあその、彼はどうにも連日連夜の捜査で疲れているらしく……ちょっと休息を取ってます」

 

…………ああ、またぞろ何か騒動起こそうとして一悶着あったなと、全員が悟った。

ずうんと空気が重くなる。そんな中、何かがばたばた動くような音が大きく響いた。

入室した瞬間から必死で視線を逸らしていた本部長さんが、恐る恐る尋ねてくる。


「…………あ〜、何か話題に出したら負けのような気がしたから放置しておいたんですが、そちらの拘束された人は一体……?」

 

…………やっぱり気になる、よね? いやその事件の中心人物だろうけど余計な事やって話をややこしくさせるのがイヤだから拘束させたままだったんだよな、北畑。殺気までわりと大人しかったんだが、今さら文句でもあるのだろうか?


「いや多分トイレかなんかじゃないかと俺ちゃん思うんだが」

「早く言えよそういう事は。テル、連れて行こう」

「……ああ」

 

夕樹とノブの二人が北畑を担いで慌てて退席する。ははは、ちょっと失念していたねえ。引きつった笑いで場を誤魔化すアタシたちだった。


「警官としてはその、あまりハードなイジメは見咎めねばならない立場にあるのですが」

「そちらの青森さんのようなものです」

「存分におやり下さい」

 

その辺については以心伝心で通じた。つまり似たような事がこの捜査チームでは日常茶飯事だったという事で…………。

 

大丈夫か警察。

 

そこはかとない不安を抱えつつも話を進めようとする。

 

しかしその時。


轟音が、びりりと警察署を揺るがした。

 

…………ただじゃ済まないとは思ってたけどさ。











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