その五・散らせるモンなら散らしてみやがれ! 前編
もしもお待ち下さっている方がいらしたのであれば、まことに申し訳有りませんでした。
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二年ぶりの更新であります。
何となく、二年ほどぽかんとしていたような気がする。そんな感想を抱かせるほど、夕樹と北畑は凄まじい動きを見せていた。
「おおおおおおおっ……らあああ!」
拳の弾幕。そうとしか呼べない連打を放ち相手を宙に浮かべ、さらにそこから打ち上げる回し蹴りを連続でぶちかます夕樹。
「星十郎!」
「承知!」
闇を高く打ち上げた夕樹が呼び、北畑がそれに応える。
「浮島……っ!」
目にも止まらぬ速度で腕を振るえば、不可視の衝撃波がさらに闇を打ち据える。間髪入れずに飛び込んだ北畑が激しく旋回しながら一撃を入れ、闇は大地に叩き付けられ地面が陥没した。
「いやまてそこの二人」
『ん?』
ずばびしと何かヘンなポーズを決めている二人に向かって思わずツッコミ。いつの間にやらえらくパワーアップしてるじゃないか。
そう問うてみたら二人は何いってんのとでも言いたげな顔で答えた。
「そりゃあ二年も時間が空いたらレベルも上がるでしょ?」
「ああ、二年も間が空いたんだからな」
「筆者いぢめはそのへんにしとけ」
正直すまんかった。……って、アタシは誰に謝ってんだろ?
ともかくあれだけの打撃を与えたのであれば、普通動けなくなるどころじゃすまないはずだけど。
「pehyto,fu;\6666666!!!!!!」
何事もなかったかのように跳ね起き、夕樹の方へと真っ直ぐ突っ込んでくる闇。全くひつこいヤツだよと構えを取ろうとしたら、夕樹が手で制してきた。
む、ちょっとかちんときたぞ。
「コラ、アタシも混ぜろ……」
「ダメ」
アタシの言葉をぴしゃりと遮る夕樹。ちょっと過保護すぎるって言うか、そこまで気を使われるほどじゃない。食って掛かろうと思ったのだが。
「その足じゃ全力出せないでしょ? それに……」
視線を逸らしたまま、夕樹はぽそりと言う。
「たまには好きな娘の前で格好付けさせてよ」
「~~~!!」
だ~か~らあ、何でこの子はいちいち萌え殺すような仕草してくんの! か、カッコ可愛いって言葉を魂で理解できたぞアタシゃあ!
うあ顔熱い顔熱い。思わずしゃがみ込んで両手でぺしぺし頬を叩く。……え? 襲い掛かられてるんじゃなかったかって?
うんその、大丈夫だ。
……だって格好付けてくれるって、言ったもん。
「ふっ!」
刹那の合間に、一瞬の呼気。
敵は真正面から、両手には刃物の煌めき。怖気が走るような気配と共に迫る闇。
一瞬夕樹の躯が沈み込む。
大きく踏み込んでから放たれるのは、掬い上げるようなアッパー。
錐揉みしながら吹っ飛ぶ闇。そこで夕樹は止まらない。
「だ……」
一足で間合いを詰め、回し蹴り。墜ちてきた闇が、再び宙で回転する。そして。
「らァ……っ!」
回転の中心――鳩尾の辺りに、両の手で掌底突きが叩き込まれる。まともに食らった闇は再びゴミ置き場へと叩き込まれた。
鈍った動きで藻掻き、再び立ち上がらんと試みる闇。千載一遇のチャンス。それを得た夕樹と北畑は。
「「へや?」」
ひょい、とアタシと林檎をそれぞれ抱き抱え――
「……逃げろおおおお!!」」
「「えェ~~!?」」
脱兎の如くこの場から逃げ出した。
「ちょ、なんで逃げるのさ!? 大分押していたじゃないか!」
うわ恥ずかしいうわ恥ずかしい恥ずかしいなんてモンじゃないぞお姫様だっことかああ!! ……ってな内心はおいといて、アタシは夕樹に食って掛かる。
確実に自身の体重より重いであろうアタシ――目を背けたくなるが事実だ――を、そうは思えないような力強さで抱き抱えている夕樹は、叫ぶように答えを返す。
「押してるから勝てるってモンじゃないでしょおアレは!」
「カッコつけてくれるんじゃなかったのかよ!?」
「サービスタイムは終了させて頂きましたっ!」
「うわんアタシのときめきを返せェ!」
言い合いながらも走る走る。見た目に似合わず体力の塊である夕樹だから出来る芸当だった。まあアタシらの仲間内の野郎なら、カヅ以外やってのけるんだろうがね。
案の定となりを見てみれば。
「はなせ! 降ろせェ! ボクをどこへ連れて行くつもりだ! はっ、ホテルか! 拉致監禁か! いやあだあSM調教レイプ目とかそんなんはいやだあああああ!!」
「人聞きの悪いことを言う。そう言う場合にはちゃんと同意を得るに決まっているだろう?」
「同意を得たら何でもやる気か!?」
「…………………………」
「応えろよおおお!?」
じたばた往生際悪く暴れる林檎を器用に抱き抱えて走る北畑。一見林檎は嫌がっているようにも思えるが……怒りとは違う形で顔が真っ赤になっているのが見て取れる。ありゃただの照れ隠しだねうん。
半ば自身の立場を忘れて現実逃避気味に林檎の様子を見ていたアタシだったが。
ぞくり。
背中が総毛立つような、気配。
うわやっぱり効いてねェ!
「ちい、もう追いかけてきたか! 結構本気でぶちかましたのになあ!」
「やはり何らかの理由でダメージが通りにくくなっているようだな。関節技に持ち込んで腕や足の一本も持っていけば変わるかも知れないが」
「もしかしてそれでも再生とかすんじゃないあの様子だと!?」
「………………否定はできんなあ……」
走りながらもげんなりした表情で言い合う夕樹と北畑。とかやっている合間にも気配は徐々に迫ってくる。
そして。
「pehytofu;\9bkv"Zat"33333333333!!!」
『きたああああああ!!!』
まるで昆虫が地を這うように四つんばいになって追いかけてくる闇。
はっきし言ってホラーだ。いやホラーより怖い。人間ここまで捨てる事が出来るのか、アタシは戦慄を覚えずにはいられなかった。
二人の野郎はさらに速度を上げる。体力を温存していたのではない。速度を上げなきゃ追い付かれるからだ。どっちかって言えば火事場の馬鹿力に近い。
普通四つんばいになったりしたら、人間の場合移動速度が格段に低下する。当然だ、人類は四つ足から脱することによって進化を続けた生物。すでに構造上四つ足移動は困難なものと化している。
だというのに闇の速度は衰えない。高速移動には不向きなはずの昆虫のような動きで、荷物抱えているとは言え常人よりも速く走る二人に追いすがろうとしている。どこまで人間止めればこのような芸当が出来るのか、アタシには皆目見当も付かない。
「0qdk、0qdkpehyuk9666666666!!!」
咆吼した闇が、ごひゅうと大気を吸い込むような動作を行う。そして。
すごい勢いで雪崩のように何かを吐き出した!
『どひいいいい!?』
それはすべて、刃物。カッターだのペティナイフだの肥後の守だの日常生活でお見受けするあれやそれやが遠慮無くびゅんびゅん飛来してくる。
って一体何をどうやった!? 腹の中に内蔵しているとでも言うのかコレェ!?
「うわあぶ、あぶ、あぶ、あぶなっ!」
「む、少し激しく動くぞ」
悲鳴を上げながらも確実に飛び来る刃物を避ける夕樹。そして危なげなく、ほとんど分身するかのような動きで回避する北畑。不意打ちの、しかも予想外の攻撃だというのに頼もしい連中だった。
とはいってもこのままじゃじり貧だ。いくら強靱とはいえ二人の体力には限界があり、そして敵は底が知れない。いずれ限界が来るのは目に見えている。
「……ってことでどうすんだよ!?」
「そりゃまあ、“何とか出来る人”に押し付けるに決まってるだろ!」
何とか出来る人って……あ。
「青森さんとか静香さんとかか! でも向こうにだっていたろアレ!」
単体でも厄介なのに複数で徒党を組まれたらさらに厄介になる。いくら専門捜査官と人外主婦とはいえ、どうにか出来るとはとても思えなかった。
けど。
「いやちがくて、いるでしょう“何かやたらと思わせぶりな言動を取っていた癖に直接話に絡んでこなかった人”が」
という夕樹の言葉にクエスチョンマークを浮かべるアタシ。はてそんな人って……。
あ。
「……いたね」
「いたでしょ?」
極至近距離で顔を見合わせ頷くアタシと夕樹。
「でもさ、どうにかできんのあの人?」
「無意味に生徒けしかける人じゃないでしょ? なーんかやる気だぜ多分」
眉を顰めて断言する夕樹。まあ確かにあの人なら、アレ相手でも何とか出来るかもだけどさ。
ともかく荷物抱えた二人は走る走る。迫り来る脅威を振り払い、行く先に希望があると信じつつ。
それにしても……やっぱハズいぞコレェ。
「被害者と容疑者お待ちィ!」
怒濤の勢いでなだれこんだそこは、戦場だった。
「よっしゃあ保護対象確保ー! 警部!」
「おるあ死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねェゃ!」
ずぱらららららららららら!!
「ああ! また押収品パクってあの人は!」
「あのMG42、俺狙ってたんだけどなあ……」
「メタルジャケット弾あんだけ食らってんのに平気なのかよ」
「確か押収品にRPG4あったろ、持ってこい」
「だから押収品をパクるなと」
「6j5o6,5a'yiuidw.!!」
『うわこっち来たあ!』
パトカーで簡易バリケードを作って闇の一体を追い込み銃撃で押さえ込んでいた青森さん以下の警官達。そこにアタシらともう一体が乱入してきたもんだから、一気に状況が動き出す。アタシらを追っていた闇はそのままの勢いで警官達に飛び掛かろうとし――その眼前に立ち塞がった何者かにどでかい銃……らしきものを突き付けられる。
引き金が引かれ、轟音とともに闇は吹っ飛ばされる。そして、爆発。
……爆発!?
「やっぱりカンプピストルは零距離射撃に限るわねえ」
スカートと長い髪をなびかせながら、のほほんと怖いことをおっしゃるのは人外主婦静香さん。
危なげなく銃の弾を込め直しながら、ほんわかした口調のままで彼女は言う。
「あら林檎、おかえり」
「おかえりじゃなあああああい!?」
世にも珍しい林檎のツッコミであった。林檎はそのままの勢いで目と腕をぐるぐる回しながら訴えた。
「ここは家じゃないぞ母様! ってかそれ以前の問題でなにをやっていらっさいますですかですか!? それは主婦のやる事じゃなくてでも格好いいんですがどうですか! ギャップ萌えですか!? 神はこのような奇跡と試練を同時に与えるなどとS!? Sなのか!? 暇を持て余した神々の遊びなのか!? 何という淫蕩!」
いつもにもまして混乱しているようだった。いや分かるけど、分かるんだけど。
アタシたちはバリケードの影にこそこそ隠れながらひそひそと言葉を交わし合う。
「おいアレ……いいのか?」
「良いも悪いもどうしようも出来ないでしょ」
「師匠がああいう人間なのは分かっていたが……まさか連れ合いも同種であったとはな」
「類は友を呼ぶ、ってヤツじゃね?」
「カヅ? アンタどうしてここにいるのよ!?」
「や、なんでか纏めて連れてこられて」
「私たちもいるよ」
「どういうわけか分かりませんけど」
「……うむ」
もしかしたら、被害者をバラけておくより一緒くたに纏めておいた方がいいからという判断なのだろうか。それにしても“前線”に引っ張ってくるこたあないだろうよ。そう考えていたアタシに声を掛けてくる人がいた。
「やあ、ご無事……とも言い難いようですね。我々の不手際です、申し訳ない」
「あ、本部長さん」
アタシの怪我を見て申し訳なさそうに頭を下げてくるのは、この件の総責任者であるらしい仙台本部長。アタシはぱたぱたと手を振りながら応える。
「いやこんなの慣れっこですから。それよりいいんですかこの状況?」
アタシの言葉に、本部長さんはどこか遠い目で答えを返した。
「ちっともまったくさっぱりよろしくはありません。ですがこうなった以上、ここで決着をつけるしかないでしょう。まあ幸いにして……」
そこで本部長さんは、ふっと皮肉げな笑みを浮かべる。
「“本職”の方とも話は付きましたし」
「本職って、まさか……」
まあここで出てくるとすれば一人しかいないが。
……とか思っていたら、突如遠くから何かが飛来するような風切り音が響いてくる。どうやら来たらしいね。
ひゅるひゅると風が唸り、そしてどかんと何かが落下した音が響く。源は近くの屋根の上。月明かりを背後に、その人物はすくりと立ち腕を組む。
そして大音声でこう宣った。
「ふははははは! 我が愛しき生徒諸君の危機を救うべく、マスク・ド・ダンディウェット&ワイルド今ここに推参っ!」
………………。
『全然違うのが来たあああああ!!??』
その場の全員が一斉にツッコミを入れた。そりゃ当然だろう、今の今まで話に絡んでくるどころか掠りもしていなかった人物がいきなり出てくるなんて誰が思うかよ!
「っていうかあの人最近姿見なかったけれど、何してたんだろう……」
頭を抱えながら夕樹が呟くように疑問の声を上げた。と、その声が聞こえたのかマスクはふ、と微かな笑みを浮かべてから――
「出張していましたっ! 先生方おみやげ忘れちゃって御免っ!」
くわっと、大声で心底どうでもいいことを宣った。
ホントにもう、あの半裸どうしてくれよう。どうしようもないけれど。
がっくしと力を失うアタシら仲間達。そして呆然とするお巡りさん達。さらに、つい先までおぞましい気配を放っていた闇二体までもが動きを止めていた。
ん? なんかふるふる震えてるぞ? とか思ってたら。
「^……^yqe9666666!!??」
言ってる言葉は判別が付かないが、なんだかすっごく同調できるような悲鳴を上げる闇たち。
「なんか、貴様らが言うなと言うかなんというか」
「……りんちゃんに言われたらおしまいだって気がするけどね」
「いやまったくです」
林檎達がなんかぶつくさ言ってるけどまあそれはいい。ともかくこーちょーの出現により闇どもが狼狽えているのは確かだ。警察の皆さんも絶好の機会と見て取ったのだろう、温存していたのか重火器を次々と取りだし闇に向かって狙いをつける。
だが、事はそう簡単に終わらなかった。
動揺している闇ども。やつらは混乱が頂点に達したのか、天を仰いで叫び声を上げる。
「nyu333! qr:w55555!!!」
金切り声が響き渡り、そして。
おぞましい気配が膨れあがり、集まってきた!
「ちょ、まさか……」
ぶば、と民家を飛び越し現れる影。その数5つ。
着地しゆらりと身を起こすのは、ぼんやりとした輪郭とおぞましい気配を放つ闇たち。計7つの殺気が、周囲に振りまかれた。
「冗談じゃないよこれは……」
複数存在するのは予想していたが、まさかこれほどいたなんて。ただでさえ手こずっていたのにこの数は、脅威どころではなかった。
が、世の中にはそんなものなどへとも思わない人間もいるわけで。
「ふふふふふ纏めてきおったか。OKならば纏めて死ね。我が娘と妻に手を出した報いを地獄の底でたっぷりと味わうが良いわ」
「あらあら、おいたもすぎると……おばさんちょっと本気になっちゃうかも」
「ふ、相手にとって不足無し。この美と威を兼ね備えし肉体、破れるものなら破ってみるがいい」
両手に機関銃を持った青森さんが、何か棍棒みたいな武器を肩に載せた静香さんが。そしてポージングを取るこーちょーが、それぞれ不敵な笑みを浮かべ一歩前に出る。
おいおいおい待て待て待て。やる気か、やる気なのか。いやそりゃ拙いだろう。
あの人らも常識外れな戦闘能力を持ってはいるが、なにしろ相手はダメージがほとんど通らない。一体二体ならともかくこれだけの数、苦戦どころじゃないはずだ。いやそれでも何とかしちゃうような気がするけれど、するけれどもね!?
とはいえアタシらごときが止められるはずもない。皆固唾を呑んで見守るしか手だてがなかった。(まあ本部長さんは何もかもを諦めた表情で深々と溜息を吐くだけだったけど)どちらにしろ場に満ちる闘気とおぞましき気配に気圧され、まともな人間なら動くことすら叶わない。アタシらはまだマシだが、林檎や部下のお巡りさん達には酷な状況だ。
じり、と肌が焼け付くような空気。強者の気配を感じ取ったか、それとも変態の存在が心底イヤなのか、闇どもは今までと違い慎重に機を窺っているようだ。だがそれも長くない。
ぎし、と間接が軋む音。ぎ、と引き金に力が籠もる音。
前触れはなく。
闇どもは一斉に躍りかかった!
そして――
横合いから飛び込んできた何かに纏めて轢き飛ばされた。
錐揉みしながら地面に叩き付けられる闇どもを背後に現れたのは、黒と赤に塗り分けられた一台のバイク。
それに跨った人物は、ヘルメットを取りながら気楽な調子で言う。
「よ、待たせたな」
………………。
『色々な意味で遅すぎるわ!!』
皆が一斉にツッコミを入れた。入れるしかなかった。
久しぶりすぎて作風すらも忘れていますマジすみません。
できれば今年中に完結したいと思っていますが前科が前科なので期待しないで頂きたい。
全ての言い訳は終わってからと言うことで。