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その零・おめえさん、あっしをお斬りなさるおつもりで?

 


この作品は拙作「僕らの学園大戦」及び「僕らの学園大戦第二次」の続編です。まずはそちらの方から目を通して下さる事をお勧めします。


もう読んだあるいは読まないがそれが良いという方は遠慮なくどうぞ。



 





二高の裏にある小山は個人所有の土地ではあるが一部が解放され立ち入りが許されている。

 

園芸部なんぞはそれを良いことに勝手に一部を占拠し使用しているが、それすらも実は学校側から所有者に許しを得て使わせて貰っているというのが実情だ。

 

その立ち入り可能な区画の最奥にて、怪しげな集団がたむろしていた。

 

車座、近寄りがたい気配、くくくとかふふふとかいう不気味な笑い声。

 

そして、周囲にこれでもかと集まってニャーニャー鳴いている、猫。


「はあうかわいいでちゅかわいいでちゅね〜」

「私は、ここに辿り着くために生まれてきたのかも知れない……」

「素晴らしい……猫好きの魂が、形になったかのようだ」

 

言うまでもない。二高を代表するダメ人間の集団。猫派の連中であった。

その集団の中央には、無論この女の姿が。


「分かった……今だけは七井と九江洲と羅々亜と礼子阿と覇満と臥留真の事は忘れる」

 

猫相手に真剣な表情で何かあほな事を言っているのは二高生徒会長兼猫派支部長、預菜振 詩亜。二高最高ランクの問題児はひとしきり猫に愛を語った後、傍らの人間を仰ぎ見る。


「流石、やはり私の目に狂いはなかったようだ。これ程の猫集会場を見つけ出すとはね。……北畑 星十郎君」

 

両肩に二匹、胸元に一匹、そして頭の上に一匹の猫をそれぞれまとわりつかせた星十郎は、ふん、と鼻を鳴らしさも当然とばかりに言い放つ。


「俺様は間違いなく全ての猫好きの意志を背負っている。この程度は造作もない」

 

どこから来るのか分からない自信にまみれたその言葉の何に納得したのか、詩亜は大きく頷く。何かを分かり合った人間特有の空気が流れ、その周囲にいた詩亜のお手つきたちは皆膨れたり睨んだりと不服そうな顔をしていたが、当人たちは色気など全く意識していない。

 

そこにいるのはただの猫好き。猫のために生き、猫のために全てを捧げる殉教者。

 

ただひたすらに変人ではあるが、その思いは本物だった。馬鹿馬鹿しい事に。

 

この空気を全ての人間が知れば争いなどなくなるに違いないと、あほな考えに到ろうとしていた二人の目が、突如鋭い物に変わる。

遅れて猫たちが一斉に毛を逆立て、次いで猫派の者達が反応しようとする……が、それよりも遙かに早く疾風が走る。

まるで瞬間移動のように集団の輪から抜け出した星十郎。その速度を威力に変え、居合の形で手刀を一閃。電光の速度で放たれたそれは真空すら生み出す勢いで、見事周囲の立ち木を数本斬り倒す。

 

ずずんと倒れる木々。しかし……求めていた手応えはない。

 

静寂が周囲を包み、ちぎれた葉や草が風に舞う。

 

ややあって、鋭い目をしたままの星十郎が呟いた。


「面妖な……なにやつ」

 

その台詞に答えるかのように、頭の上の猫がにゃあと鳴いた。

















「……てな事があってさ、結局連中あすこの所有者と学校から怒られてやんの。そのとばっちりを受けて僕らしばらく作業できないんだわ。まったく良い迷惑さ」

 

体勢を崩したモヒカン野郎にコンボを叩き込んで空中に浮かべ、落下するところにハンマーのような拳を叩き込みながら夕樹が愚痴る。

ふうん、まあ連中が問題を発生させるのはいつもの事だけどさ、何か妙に気になるね。

前後から飛び掛かってきたあほ二人を蹴り飛ばしつつ、アタシはちょっと考え込んだ。その辺夕樹も気になっていたらしく、投げ飛ばした馬鹿に追撃の蹴りを放ちながら小首を傾げていた。


「また問題にならなきゃいいんだけど……とか言ってもどうせ何か起こって僕ら巻き込まれんだぜ、きっと」

 

うあやめとくれ、そんな事いったら実際巻き込まれそうじゃないか。ただでさえこう、あほが集まってきてるってのに。頭を抱えたくなってきたが、状況はそれを許してくれない。膝を崩し、横っ腹を打ち、崩れたところで後頭部に踵落しを食らわせつつ溜息を吐くアタシ。

 

……そういや“アイツ”も何か様子がおかしかったなあ。つい最近の事が思い起こされる。


 















によによと頬を緩ませている檸檬。

 

うっとりした表情を見せる小梅。

 

二人が手にして眺めているのは光を反射して輝く揃いのシルバーペンダント。

二人が付き合っている男、東山 暢照からのプレゼント。なんでも二人を喜ばせたいがためにわざわざ土建屋系のバイトをしまくったらしい。まめな男だよホント。


「えへへ……嬉しいなあ。好きな人からのプレゼントって、こんなに嬉しい物だったんだなあ」

「心が、ぽかぽかするんですよね。なんだか今夜眠れそうにありません。一晩中にやけながらごろごろしてそう」

 

はいはいはいはいごちそうさま。やれやれ、最初この子らがノブ(最近そう呼ぶようになった)絡めて修羅場おっぱじめた時にはまさかこうなるとは思わなかったよ。経験上あのレベルの騒ぎになったらどっちかが身を退くかダブルノックダウンかってのが相場なのに、まさか丸く収めちまうとは。ノブが予想以上に大物だったかこの二人の波長がもの凄くあったのか。もしかしたら拳と拳で熱く語り合ったが故に強い絆が生まれたのかも知れない。嘘だけど。

 

それにしても……やっぱり嬉しいものなのかねえ。好きな人は居た事あるけど、プレゼントを貰うような間柄になった事ないからなあ。いつもアタシの片思いばっかりだったし。……う、思い出したらちょっと鬱になりそう。

少し落ち込み書けたアタシの脳裏に暗闇を払うかのごとく浮かび上がる、にぱりんと笑う夕樹の顔。こうやって時折ふと彼の事を思い浮かべるようになったのはいつからだろう。初めて会った時から気にはなってたんだけど、いつの間にかするりと心の中に潜り込まれた。そんな感じだ。

一度意識し出すと次から次へと夕樹の事が思い浮かぶ。ふにゃりとだらける顔、えへへと照れ笑いする顔、眉を寄せて困った顔、目に涙を溜めて見上げる顔等々。

 

……可愛いよなあ……。

 

はっ!? 待てアタシ、それは普通男の方が考える事だろうしっかりしろ! 慌てて頭を振りながら邪な(?)妄想を振り払う。くそ、この間から夕樹の事考える時間増えたなあ。男の事を思い浮かべるなんざいくらでもあったけど、こういう感じでうっとりするような経験なんかなかったぞ? うう、調子狂うなまったく。

きっと目の前の二人に中てられたに違いない。そう自分に言い聞かせて視線を逸らしてみれば、意外な光景が目に飛び込んできた。

 

ぼーっと檸檬と小梅の二人を見ている林檎の姿だ。

 

いやぼーっとしている事は良くある。二人を眺めている事もだ。しかしその二つが同時にという事は今まで有り得なかった。こんな光景目の前にしてちょっかいをかけないなんておかしすぎる。アタシは自分でも分かるほどに訝しげな顔になって林檎に声を掛けた。


「おーい林檎? 腹でも壊したか?」

 

その声にゆっくりと視線をこちらへと向ける林檎。その目に、その表情に、アタシは瞬時気圧された。

 

けど、次の瞬間彼女は視覚に捉えた二人の様子を目にし、何事もなかったかのようにいつも通りの反応を見せた。


「いかーん! 物で釣ろうなどと、釣ろうなどと! 二人とも騙されるなそれは光栄の罠だ嵌った挙げ句にハメられるぞ肉体的に! おのれ許すまじ例え天地が許してもこのボクが未来永劫子々孫々まで許すものか! ジハードだ自由を取り戻すための戦いだ今こそ心のプリズンから解き放たれるための戦いの乙女坂を……」

 

台詞途中でぶっとばされる林檎はいつもの通りだった。おかしなところなど……や、おかしいところしかないんだけど何か特別今までと変わった事などない。

 

だったらアレは見間違いだったのだろうか。

 

虚ろな瞳で、今にも泣き出しそうな表情など。


 















最後の一人にすこんと小気味よく回し蹴りを決めて、アタシはすたりと着地する。ふむ、60点といったところか。

やっぱり気になってるからか、どうにも切れ味が悪いなあ。すっきりしない気持ちを燻らせたまま首をこきこき鳴らしていると、夕樹が心配そうに尋ねてきた。


「どしたの? 何か調子悪そうだけど」

 

あ、そう見えるのかな? 顔に出してるつもりはなかったんだけど、動きに出てくるかも知れない。アタシはぱたぱたと手を振って答えを返す。


「別になんて事はないよ。ちょっと気になる事があっただけさね」

 

その答えに、小首を傾げてさらに問う夕樹。


「……話せる?」

「さてね。アタシの事じゃないから」

 

何もなけりゃあそれに越したことはない。取り越し苦労ってのが一番いいんだ。実際何か起こってるわけじゃなし、話さなくても構わないだろう。

夕樹は「そか」と軽く返事をして頷く。こういう場合アタシがしつこく尋ねても口を割る人間じゃないと分かってるんだろう。本人に自覚は薄いようだけど、コイツは結構気が利く。そんなところもアタシは気に入ってるんだ。

ん〜、なんてかさ、激しく燃えるように思いを募らせるって感じじゃなくて、空気のように常に側にあって、それが当たり前で、時折ときめいたりして。そういうのが凄く楽しい。今まで人を好きになったのとは違う、肩肘張らない自然なアタシでいられるってのは新鮮な感覚だった。

 

まあアタシの事はどうでもいい、順調で何よりってわけで。それよりやっぱ林檎が気になる。あんなのでも一応友達だし。

……と、そう言えばアタシら林檎の私生活ってあまり知らないなあ、家も行った事ないし。もしかしたらその辺が関わっているのかも知れない。ちょっとだけ考え込むがそこのところは林檎自身が話してくれなければ分からない。無理矢理聞き出して良い事でもないしね。

 

巻き込まれない限りは積極的に動かずにおこう。アタシの出した結論はそれだった。何かあっても夕樹や仲間と一緒なら潜り抜けられる。し、何かあるんだったら多分全員巻き込まれる。それは北畑の事情も一緒だろう。一つ一つ片づけるさね。

 

結果からいえばアタシの認識は甘かったといわざるを得ない。異常を感知した時点でさっさと動くべきだったのだ。

 

そして……全く関係ないと思われていた二つに事情が複雑に絡み合い、話がややこしくなっていくとは思いもよらなかったのさ。


 
















……おっと、そう言えば忘れてたね。

 

アタシの名は夏川 かりん。

喧嘩っ早いのがチャームポイントの、恋する女子高生だ。

 

………………何か文句ある!?













さ、というわけで始まりました第3部。


もうここまで来たら筆の向くまま気の向くまま、のんべんだらりと書いていく事にします。


それでも一向に構わん! という方はどうぞ気長におつきあい下さい。



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