月の慌ただしい夜
「月が綺麗だ」
この地球上において、最強に相応しい人間がいる。
世がそんな人間に出している評価は、”名実をとれば最強”
多種多様な強みで比べ、人間という種族であり、認め知られる存在だからこその評価。
その名は、ダーリヤ・レジリフト=アッガイマン。
ロシア人であり、その国家のトップに立つ人物でもある。
「……………あれで」
空を見上げ、月の明かりが国を照らす光景を見て、
「新しい特訓をするか」
己に厳しく、己の規格外ぶりを過小評価。人間という種族であるが、その戦闘能力は宇宙規模とも言えるほど、膨大なエネルギーを持つ。彼一人の”超人”で、戦争が行えると言っていい。
ダーリヤの思い付きの、自分自身を鍛える特訓は国家どころか、地球そのものを狂わせるものだった。
◇ ◇
2日後。
「……………」
世界各地で同じ日々を観測していた者達が異変に気付き始めた。
誰もそんな事が起きるわけないと思っているし、誰がそんな事をすると言えば、神様ぐらいしか分からないほどの規模である。各国で観測していた月の形が、
「なんか、……昨日と違くね?」
「いや、そんなわけあるかよ」
空を見る地点から月の形が違うなんて、そりゃそうだと思うが。これまで記録していた月の形が、急に変わったと言われたら、オカシイ以外にはない。目を疑うというより、世界を疑うほどの光景。
月だけではない。
「日没の時間も今日はなんか時間が違っていたぞ。1時間以上も違うぞ」
「は、はははは。そ、そ、そ、そんなこと、あるわけないだろ。天候を操るような奴がいるってのか?」
天候を操る、そんな奴……。
ロシアにいた。最強と呼ばれる男がそうだ。
「ダーリヤ、空になんかしたじゃろう?」
「そんなわけあるか」
「なんじゃ、お主の仕業じゃないのか……」
「地球を蹴っ飛ばして自転の速度、角度を変えてみた」
「なにしてるんじゃ!?お前!!」
世界の異常気象・異常現象。それらの原因を作っているだろう、このダーリヤという男に。国家のマッドサイエンティスト爺もドン引きしながら、突っ込んでいる様。ダーリヤはそんなことを意に介さず。
「フレッシュマン博士。ちゃんと6日後には元に戻す」
「アッサリ言うな!!」
「自分の限界を超えるために、特訓も考えねばならないからな。月を見てたら、この特訓が浮かんだ」
「どんな特訓じゃ!?地球ごと巻き込む特訓をするな!!これじゃから、”魔天”のダーリヤは……自分自身の肉体のみで地球の自転や公転を変えるんじゃないぞ!周りの迷惑を考えぇっ!」
「フレッシュマン博士には言われたくはない」
科学技術の一切がなく、一つの生物が保持していい肉体能力ではない。最強に相応しいだけの規格外であるが、それを自分勝手な特訓のために使っているんだから、彼以下の生物にとっては迷惑極まりない。
どうやって、地球の働きに干渉……いや、力技を用いてやっているのか。聞きたくない。科学的な数値では、いまだに測れない彼のエネルギー。よく世界は滅びなかったと思う。
「人間はより強くならねば、世界は滅びるものだ」
いや、お前のせいで世界が滅んでもおかしくない。
「誰よりも何よりもな……」
お前基準でやったら、お前以外生き残らんわ。
「そうだ。今度、この特訓の成果を見せてやろう。フレッシュマン博士」
「は?」
◇ ◇
2日後。
「スーーーーぅ」
満月の光が照らしてくれる自然溢れる真夜中の森にて、精神統一をするダーリヤ。そこから400mは離れ、双眼鏡で彼を観察するフレッシュマン博士。別に見たいわけじゃないんだが、
「危険じゃわい」
どーやってそうなるかを答えろ。こいつに限っては分からん。そーいう答えが出ている。
技を披露したがるタイプではないが、大自然という土壌の上で大宇宙の空を見せてやりたいのだろう。ダーリヤが顔をあげ、突きの構えをとり
「三日月」
月に向かって、突く!!
瞬間に次元が引きちぎられた、悍ましい炸裂音が響き。森が枯れるように死んでいく。空に残っていたわずかな雲は消し飛んだ。そして、満月の形もゆっくりとであるが変形していく。
「おおぉっ」
ダーリヤの言葉通り、満月から三日月へ。
「次、半月」
再び、月に向かって突く。
今度の衝撃は周囲に地割れを引き起こし、なぜかは知らんがマグマまで吹き出る始末。
そして、三日月から半月に変わっていく。
拳一つで月の見え方を変えてしまう、なんやねんこの男。
ダーリヤは空を見上げながら
「月が綺麗だ」
雲も消し飛ばして、光を届ける月を眺めていた。
「そんな事より、お前さんの足場がヤバ過ぎるわーーー!さっさと避難せぇっ!というか、周りを助けぇっ!」
確かに月は綺麗だが、色んな形を見せたおかげか。
地球では天変地異が発生しまくったのは言うまでもない。
こいつ1人で世界が滅ぶのもそう遠くない。
「フレッシュマン博士、月を見たか?」
電話して確認する。
「それどころじゃないわーい!!月よりもお前が起こした天変地異に目がいくわい!」