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悪役令嬢は婚約者に全てを丸投げする  作者: 上杉凛(地中海のマグロ)
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悪役令嬢は友人を激励する



「水属性でした」



開口一番、私はそう言った。ちなみに魔力量はそこそこでした。まあ満足ではある。


控え室の椅子に座って窓の外を眺めていたアルベルトは、そうか、と頷いた。



「ところで」



私は彼の正面の椅子に腰かけた。まっすぐ顔を見つめる。


「最終判断は、どうなりましたか」


「ああ。もちろん合格だ。俺はお前の話を信じたし、協力するよ」



あっさりと言い放つアルベルトに深いため息をつく。はーーーっ、よかったーー!!!

私はヘラヘラと笑み崩れる。

これで私は未来への切符を手に入れた!一応!!ありがとう!!いえーい!女神様ありがとう!でもお布施の力で動いてくれたってことは女神様ってば実は守銭奴?え?不敬だって?はーいごめんなさーい。


んふふふふ、どうしよう、笑いが止まらない。えへへへへ。


あ、そうだ。そういえば。

そんな私を呆れたような目で見てくるアルベルトにさっき言おうと思ったことを思い出した。



「そういえば、アルベルト様。単刀直入に申し上げますが」


「なんだ」


「アルベルト様は正真正銘、皇帝陛下と皇后陛下のご子息ですから安心なさってください」



「…へぇ。なぜ分かる?」



重大事実をあっさり告げた私に、首を傾げるアルベルト。

なんでってそりゃあ、ねぇ。



「前世の幼なじみがそのようなことを言っていたことを思い出したので」



アルベルト様はその瞳と魔力から魔族の子供だーって疑いを受けてて、表面上は平然としてるけど実は内面に悲しみを抱えていて、屈折した思いに苦しんでいるの!それをヒロインこと私が見事に解決するんだよ!!アルベルト様は正真正銘皇帝の子供だって証拠をみつけてねっ!




幼なじみの声が頭に流れてくる。うーん、ありがとう。君は要所要所で役に立ってくれるね。さっきの神父なんかとは大違いだよ。あいつは逆に要所要所で役に立たなかった。マニュアル人間め。どうやら私の中で、かの神父の株は大暴落しているようだ。



幼なじみの言葉を一言一句そのまま伝えると、アルベルトは微妙な顔をした。まあそりゃあね。未来の自分の心理を我が物顔で語られたらそんな顔にもなるだろうよ。



「……まぁいい。とりあえず俺が父上と母上の子供だという証拠がどこかに存在するわけだな?ほー、やる気が上がったな」



「それはようございました」




ガチャン。



その時控え室のドアが開いて私の次の人が姿を見せた。私達は同時にふっつりと言葉を切ってそちらに顔を向ける。



「あ……、お久しぶりです、アルベルト殿下。僕は……」



私たちから視線を注がれた彼は少し怯えたように身を固くしながら挨拶をした。




***



控え室に人が増えてきた。属性の儀もだんだんと終わりに近づいている証拠だろう。まもなく立食パーティーが始まる。あーあ、お腹空いたなあ。

緊張が解けたことでどっと空腹がおしよせた私の頭の中で、立食パーティー=バイキングと変換される。


ああっ、料理が私を待っている……っ!!ご飯が踊りながら脳裏を駆け巡る。待って待って〜!今食べてあげるからねぇ〜。うふふ、あはは。私はフォークとナイフを持って逃げる食事を追い回した。なんというお花畑。


…………はっ!やばい、一瞬トリップしていた。我に返ると、すぅっと私の頭の中から走り回る食材の群れが消えていく。くーっ、お腹がすいた!まだ始まらないの!?始まったら全力で食にはしってやる!まあもちろん、あまり食べる場ではないのだけれど、私はまだ子供なので大目に見てくれ。

と、いうわけでいま私は結構そわそわしているのだが、その前に、こいつを何とかしたい。まあ別にいいんだけどさー。



私は目の前にいる、ド派手な赤いドレスを身にまとい、ジャラジャラ装飾品をつけたパーティー女を胡乱な目で眺めた。

彼女は婚約者である私をぺーいと蚊帳の外に放り投げ、アルベルトの横をキープしてずっと話し続けている。


ニコニコ笑いながらそれに対応しているアルベルトだったが、話を聞き流して別のことを考えているのは一目瞭然だ。少なくとも私には。

え?なんでか分かるのかって?よく見れば君にもわかるよ!さあ、レッツ観察。


まず第一に、アルベルトの目の焦点があっていない。一応顔はパーティー女に向けているが、多分意識に入っていないだろう。目の焦点がずれている。そして目が死んでいる。


更には、「ありえないと思いません?どう思います、殿下!」「ああ、そうかもしれないね」といった感じで、ただただ機械的に頷くだけのイエスマンと化している始末。彼女に微塵も興味が無いのだろう。


だがそんな上の空の状態でも、そう“かも”しれない。といった曖昧な返答で、自分の意見をぼかしているところはさすがと言っておこう。


まあちょっと不用心かもしれないけどこの女相手にはそれで十分だと思う。なにせ、コイツはだいぶおバカさんだ。

知力に自信の無い私ですら勝てると断言できるレベルのおバカさんだ。いや、学力とかそういう話じゃなくてね?まぁお勉強も出来なさそうだけれども。


いかんせん、幼稚にも程があるのだ。甘やかされ放題で育ったワガママお嬢様。現に、自分にも婚約者がいるくせにほっぽり出して他人の婚約者に引っ付いてるし。少しは立場を考えろ。


……あれ?改めて考えるとコイツ、ゲームのヒロインと悪役令嬢をブレンドしたような奴だな。他人の婚約者にベタベタする=ヒロイン。甘やかされ放題我儘お嬢様=悪役令嬢。その2人を掛け合わせたような存在。劇薬だ。

もうこいつひとりでゲームを賄えると思う。私の代わりにヒロインと戦ってくれ。


このちょっと性格がおかしいパーティー女はカーマイン侯爵の愛娘、ナタリア・カーマインだ。コイツは……どうだったかな。乙女ゲームのモブとしてちらっと登場したようなしなかったような……。あまり記憶にない。

真っ赤な髪に茶色の瞳。ド派手な顔立ちにド派手な服装。ド派手が服を着てスキップしているような存在だ。そしてアルベルトのことが大のお気に入り。アルベルトの瞳と自分の髪が同じ色なのは運命だと豪語している。

はぁ?赤毛なんて珍しくもなんともないよバカ。気づいてないなら教えてやるがな、お前の婚約者も赤毛だぞ。


確かにアルベルトはかっこいい。それは顔の話だけではない。11歳にしては背が高く、毎日鍛錬を怠らないためがっしりしていて筋肉質だ。そしてほのかに漂う男の色気。ホントに11歳?さすがは攻略対象といったところだろうか。

余談だが、この世界の人は総じて背が高い。体が大きい。さすが外人だな。その中でも長身の部類に入るアルベルトはもう160は越えているし、私も150は越えている。あれっ、このままいけば私もモデル身長に……!?憧れの170に近づける!?


…ゴホン。まあそれはそれとして、背も高く顔も良く性格(外面)もいい皇太子殿下のことをナタリアは大好きなのだ。

見ろ。お前の婚約者が面白くなさそうな顔を……して…るか?うーん、まぁ、地味にしてるな。だがどうやら面子を潰されたことに対するイラつきのようだ。そこに嫉妬の色はない。まあそりゃあそうだろうよ。婚約者が自分をほっぽっといて他の男の元へいってるんだもの。常識のなさにムカつくわな。


あ、目が合った。私と目が合った彼は、そっと目線をアルベルトの方へやり、また私に戻し、というのを2回ほど繰り返したあと、にぱぁっと笑った。え?何その笑顔!!なに!?


ずんずんと大股で近づいてきたナタリアの婚約者は満面の笑みで私の元へ来ると、一礼して挨拶してくる。


「お初にお目にかかります。公爵、アレキサンダー・シューライトの長男、カイル・シューライトです」


「お噂はかねがね。公爵、リヒト・フォークナイトの娘、セリーナ・フォークナイトでございます」



お互いに名乗りあうと、カイルはドカッとウンザリ顔で私の隣に座った。



「いきなりすまない。だが、仲間を見つけたと思って嬉しくなったんだ」


「仲間?」



砕けた態度のカイルに少し驚く。お、おう。馴れ馴れしいな。いや別に全然いいけど。気取った貴族の坊ちゃんにしては珍しい。

ちょっと驚いた私の顔を見て、カイルは慌てて、失礼、と謝ってきた。


「失礼、いきなり不躾だったな」


「いえ、別に構いませんよ。私もそちらの方が気が楽です」


「ありがとう」



いえいえ、と手を振ると、ほっとしたようにお礼を言われる。爽やかな感じのカイルに私はいい印象を持った。うん。よかった。あの女にはもったいないくらいの常識のあるいい人だ。仲良く出来そう。


「それで、仲間とは?」


「ああ。あれだよ。あれ。婚約者取られた仲間」



皮肉げにいう彼に私は苦笑する。まあ、そうだけれど。多少事情は異なる。


「まあ確かにそうですけれど。多分私は仲間とはちょっと違いますね」


「そうなのか?」


意外そうなカイル。まあそうだろう。パッと見た感じでは、アルベルトは明るい笑顔で楽しそうにナタリアに接しているのだから。だがよく見るんだ。目をこらせ。



「アルベルト様の目をご覧下さい」


「目?………………あーー、うん。なるほどな」



じいっとアルベルトの目元を見つめたカイルが呆れたように息を吐いた。よくやるな、と言われて、本当に。と頷き返す。

さっきより更に虚ろになった赤い瞳は完全にナタリアなんざ映していない様子だった。


ちなみにアルベルトの名誉のために言っておくと、別に彼は最初からナタリアのイエスマンに変身していたわけじゃない。


何回か私の方へ来ようとしていたのだが、その度にナタリアに腕にしがみつかれ、騒がれたので、諦めて仕方なく相手をしているというわけだ。いや、相手にしてないけどさ。上の空だけれども。

まあ仕方あるまい。ナタリアは自分の思い通りに行かないと癇癪を起こすし、今癇癪を起こされても困るからね。


そのことを聞いて、はぁ……、と深〜いため息をついたカイルを慰める。まあまあ、ドンマイドンマイ。え?なに?父上ぇ〜恨んでやる〜?まあ恨みたくなる気持ちも分かるけどさぁ。あれが婚約者って……。気を取り直せ!頑張れカイル!ほら、お菓子食べて!おいしいよ?え?ジャムは嫌い?あ、そう。


そんなこんなでわちゃわちゃやっていたら、ついに、案内の人が私たちを呼びに来た。どうやらパーティーの始まりのようだ。よっしゃ!こい!食べ物め!私が全て片付けてやるっ!


顔を上げると、さすがにうんざりした表情をしながらアルベルトがチャンスとばかりにナタリアを振り払って私の元へ向かってくるのが見えた。


私は静かに立ち上がってカイルに別れと激励を告げた。頑張れ!負けるなカイル!




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