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悪役令嬢は婚約者に全てを丸投げする  作者: 上杉凛(地中海のマグロ)
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悪役令嬢はピラニアに胃を噛まれる



椅子に座ったアルベルトに促されて私も座る。ちらりと周囲に視線を走らせ、周りに誰もいないのを確認した彼は、小さな声で私に話しかけてきた。


「ところでお前の属性はなんなんだ?」


「私ですか。確かゲームでは水でしたね」


「ふーん、水か。いいんじゃないか」



アルベルトの顔に少し悪い笑みが浮かんだ気がして私はハッとした。急いでぐさぐさ釘を刺す。冗談じゃない。


「ダメですからね。協力の条件はあくまで殿下の属性を当てたかどうかです。もし万が一私が今言った私の属性が違っていたとしても協力はしてくださいよ」


早口でまくし立てると彼はきょとんと目を瞬かせた後、苦笑して息を吐いた。え?



「フォークナイト嬢。俺は確かに必要なら嘘もつくし詭弁も使うが、はっきり交した約束事は守る人間だ」


「あ…そ、うですね。申し訳ありません」



なるほど。確かにアルベルトはあの日、曖昧な言い方で煙に巻いたりはしなかったな。はっきりと約束してくれていた。疑ってごめん。私は頭の中でアルベルトに刺した釘を釘抜きで引っこ抜いた。すまない。穴だらけにしてしまった。


ピリピリと神経を尖らせている私の様子に苦笑したアルベルトが小さく顔を仰向けて、協会の天井にはめ込まれている見事なステンドグラスに目をやった。そこに描かれた女神様が朝日を反射してキラキラと光り輝いている。



「そう緊張するな。お前の話が嘘の可能性は低いと俺は考えている。多分俺の属性は闇なんだろうよ」


「え?」



ん?つまり信じていると?突然の信じる発言に戸惑う私。いきなりどうした?

そんな私を横目で見たアルベルトが言葉を足した。



「論理的に考えた結果の話だよ。お前の言うことが嘘の可能性は低いと俺は判断した。だから今日、魔力属性は闇と出るだろうと俺は予測している」


「そういうことですか…。じゃあ私も殿下の予測を信じて待つことにします」



その言葉で胃の痛みが少し良くなった。ありがとう。分かりやすく例えていうならば、胃を噛んでいたピラニアの歯が半分なくなった、みたいな感じ。だいぶマシだ。


ふーっと深呼吸する私の隣や後ろの席に、次々とやってきた子息や令嬢が挨拶を交わしながら腰を下ろし始める。周りに人が来たので、この話は終了となった。




***




「魔法というものは、そもそも我々人間に女神様がお与えくださったもので…………」



儀式が始まった。神父が朗々とありがたいお言葉を述べているのをぼんやりと聴きながら、私はそっと胃をさする。そして、その様子を目にしたアルベルトの唇が僅かに笑いで歪んだのを恨めしげにちょっと睨んだ。笑わんといて、ホント、胃が……っ!!


すーはーすーはーと腹式呼吸を行う。大丈夫、大丈夫だ私!頑張れ!

ところで、こんな感じで頭の中がごっちゃごちゃでも私の背筋はぴんと伸びて作法は完璧だ。あのスパルタ皇妃教育が報われるってもんだよ。ありがとうお母様!お父様!サラ!じいや!


僅かに目を動かして、お母様たちがいるであろう貴賓席を見わたして両親の姿を探す。あ、いた!ありがとう!心の中でお礼を叫んでおいた。

と、そこで私はふとおかしな点に気がつく。


……なぜ大人たちは皆サングラスをかけているんだ……?


ん?なんだ?マフィアか?華やかなドレスやタキシードに身を包んだ紳士とご婦人方が一様にサングラスをかけている姿は不気味というより逆に笑いを誘った。ぐっ、堪えろセリーナ!!堪えるんだ!プルプル震えそうになる体を意地で抑え込む。



そんなこんなで私が腹筋を鍛えている間に神父の話はクライマックスへ。ふと気がつくと、周りの子の大部分はうっとりと目を閉じて神父様のお綺麗な話に耳を傾けていた。

騙されるなー!と私はそれに心の中で叫ぶ。そいつが言っていることには多分に嘘が含まれてるぞー!


宗教関係なんてだいたいそんなもんである、と前世の私が冷めた目で語っている。荒んでいるな、だがそれも一種の事実だろう。利権が絡むとどうしてもね。

はっはっはっ、まあお布施をした私が言うことでも無いかもしれないけれど。


隣のアルベルトをちらりと伺うと、当然のことながらヤツにうっとりした様子は微塵もなかった。まあコイツはそうだろう。私の話を検証している様子を見た限りではアルベルトはかなりの理系脳だ。宗教なんてまるで信じてないんだろうな。




「それでは、これより、魔力属性検査に入る!」




神父がようやく長ったらしい話を終えて本題に入った。やっとか!前置き長すぎだよ!


会場に、魔力属性検査に使う大きな虹色の魔石を捧げ持った協会の人達がしずしずと入ってきた。それは壇上に設置されて、様々な準備が行われる。虹色の魔石かぁ。全属性の魔石だな。いや、そんなことはどうでもいい。うっ、胃がぁっ!ピラニアの下の歯が復活したっ!ギリギリと再び痛みが増した胃をそっと押さえる。



「アルベルト・ヴァン・ミューゼル殿下!」




朗々とした声に名前を呼ばれたアルベルトが優雅に立ち上がる。彼は横目で私をちらっと見たあと、堂々と前に進み出て魔石の前に立った。


ガリガリとピラニアが私の胃を噛んでいる。アルベルトは闇属性アルベルトは闇属性アルベルトは闇属性……っ!!!


私は僅かに上を向いて天井で能天気に笑う女神を睨みつけた。わかってるんだろうな、お布施の分はきちんと働けよ!!天井の女神は笑いながら天使と遊んでいた。楽しそうでいいですねぇまったく。



神父がアルベルトの黒髪に金色の輪を乗せる。それに手のひらを向けてなにやら呟くと、一瞬輪が光り輝いて、それから、パリンッとガラス細工が割れるような儚い音がした。あ、もしかしてこれは魔封じが解けた音?


神父に促されたアルベルトが魔石に片手を当てた。すると魔石が光り始める。薄い光がアルベルトの全身を包んで小さく光った。これは、魔石がアルベルトの魔力を吸い取っている現象である。属性検査の魔石は人の魔力を吸い取ってその属性の色に変化する、とゲームの中で言っていたような……。私の記憶はあまり信じられない……っ!


虹色に光り輝く魔石が徐々に色を変え始めた。七つの色が、石の内部でクルクル回っている。七色の光の玉が、近づいて、近づいて、1つに凝縮する。


その場にいる人が固唾を飲んで見守る中、1つに集まった光の玉が、パァンっと弾けて、一瞬全員の目を眩ませた。ぎゃあああ!目がぁっ!目がぁっ!





「お、おおぉ……っ!」



「これは…!」




目くらましのように弾けた強い光に目をやられた私は、大人たちがざわめく声を聞いてイライラしていた。

み、見えない!!何属性だ!何属性なんだっ!というか今わかったぞ!この光の対策でみんなサングラスをしてたんだな!ちょ、私にも貸してください。



だんだんと視界がハッキリしてきて、私は目をパチパチと忙しなく瞬かせた。焦点があってきた!必死に目に力を入れる。



視界を取り戻した私の目に、まず、興奮したように目をギラつかせたアルベルトの獰猛な笑みが映った。その冷たい横顔には一欠片の動揺も窺えない。彼は至極満足そうに笑いながら自分の魔力の色を映し出した魔石の表面を撫でていた。



そう。闇を閉じ込めたかのようにとろりと黒く染まった、その魔石を。




「………………っ!」




うっひょーーい!!!闇ぃいいいいっ!闇だああっ!!!アルベルトは闇属性!!!


はっ、と私は短く息をついた。自分の顔が隠しようもなく笑っているのを感じる。



んふふふふ。―――――勝った。





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