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悪役令嬢は婚約者に全てを丸投げする  作者: 上杉凛(地中海のマグロ)
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皇太子殿下は考え込む

「アルは相変わらずサングラスを外さないねえ。室内だしいい加減とったら?」


そう言ってケラケラ笑いながら手際よく食器を片してくれる彼女は皇都の中等学校の生徒で、その努力と頭の良さによって、働きながらも学年1位を保ちつつ勉学に励んでいる勤労学生だ。ちなみに同い年の15歳。


「サングラスはアルのアイデンティティーだからねぇ。外すわけにはいかないの」

「あっはっは、何それ! セレナは相変わらずお嬢様みたいで素敵だけど変なこというね。お二人とも最近どうなの? なかなか来てくれなかったけど」


特徴的な赤い瞳を隠すためのサングラスは外せないのよ~。オホホ。

アルベルトは皇太子なだけあって新聞とかに顔が載っているのでバレないように要注意だ。


「まあ。色々あってね。家の用事とかで忙しかったの」

「へえ、やっぱお金持ちも大変なんだね、付き合いとかあって」


そう言いながらカラッとした笑みを見せる彼女だが、どことなく暗い雰囲気になったのが気になった。


「カーラこそ最近どうなの? 高等学校はどこに行くとか決まってる?」

「ああ……。高等学校には行かないんだ」


軽い気持ちで聞いたら返ってきた思いがけない言葉に私はびっくりした。横でアルベルトも驚いたような雰囲気である。将来の夢は研究者って言ってたのに!

 

「どうして? あなたすごく勉強出来るし意欲もあって優秀なのに!」

「あー、うん。あたしんち、貧乏だからさ。とてもじゃないけど学費出せないんだ」

「そんなもったいない……。今みたいに働きながらとかでも無理そうなの?」

「弟たちが今年から学校上がるからね。無理かな」


そう言った彼女はどこか悲しそうな顔で微笑んだ。


「こんなこと言いたくないけど、あんたたちはいいね。高等学校もいくんでしょう? 正直うらやましいよ」

「カーラ……」

「カーラ。一つ聞いてもいいか?」


その時それまで黙っていたアルベルトがふと顔を上げる。


「なに?」

「お前みたいに意欲も実力もあるのに金の問題で進学を諦めるヤツって多いのか?」

「うーん。まあそんなにいっぱいいるわけじゃないけど。っていうかそもそも金持ちとか貴族以外はあんまり高等学校以上に進まないしね。でも、まあ、進みたいけど諦めるって子はそれなりにいると思うよ」

「そうか。わかった。ありがとう」


カーラの答えにアルベルトは一つ頷いただけだったが、私には分かってしまった。何か考えているね? アルベルトよ。


その後、アルベルトが心ここにあらずで帰りたそうな様子だったのでお金を払って店から出ると、私たちは歩いて目立たない場所に止めてある馬車に向かった。

裏通りに入ると、皇都といえど少し治安は悪くなる。どことなく怖いのでアルベルトの腕にそっとしがみつくと、何も言わずに歩調を合わせてくれる。


柄の悪い不良たちが歩いて行くのを遠目に見ながらアルベルトが、そういえば、と話を切り出した。


「さっき言うのを忘れていたが、ヒロインはここ皇都で不良にも人気らしいぞ」

「え? 不良に人気?」

「ああ。最近柄が悪い連中とも付き合いがあるみたいでな。ルイスが言っていたがお前に言うのを忘れていた。今、不良が歩いて行くのを見て思い出しt……ん?」

「どうかした?」


前を歩いて角を曲がっていく不良の集団を見ながらそう語ったアルベルトが不意に目を細める。


「いや……いまカイルの弟がいたような気がしたんだが。気のせいか」


首を傾げるアルベルトの視線を追うが、彼らは皆角を曲がりきって行ってしまってここからでは見えなかった。


もしかして式典にくるはずだった弟、ここで油売ってたりして。まあさすがにそれはないかな? 私は弟に会ったことないから分からないけど。

そんな会話をしながら馬車に乗り込んだ。


城に戻るとアルベルトが難しい顔をしながら椅子に座った。


「アルベルト様? 何かお悩みが?」

「いや。学ぶ意欲があるのに進学を諦める優秀な人材が多いというのは国にとって損失だと思ってな」

「え、ええ。たしかにそうですわね」


てっきりカーラやその周りについての個人レベルの話かと思いきや、思いのほか統治者目線で語り始めたアルベルトに驚きと彼の成長を感じた。日々、国政の行われる様子を見聞きして、軽くとはいえ実際に関わったりするなかで、アルベルトも私の気がつかないところで色んなことを吸収しているのだ。


「何かそういう学生を支援するようなシステムが作れるといいんだがな」

「前世では奨学金制度というものがありましたわね」


ふむ、と興味を示したアルベルトに促されて、私は知っている限りのことを洗いざらい話した。


「それはこの世界でも似たようなものを実現できそうだな。……やれると思うか?」

「ええ。もちろん。まあ一筋縄ではいかないですし、大変なことも、あるいは失敗する可能性もありますが、その苦労をする価値はあるのでは。人のためにもなりますし、なにより成功させれば私たちの立場もだいぶ強化されると思います」

「そうだな。ここら辺で大きく自分の力で実績を築いてみたい」


私の言葉に、背中を後押しされたよ、ありがとう、とアルベルトは微笑んだ。


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