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悪役令嬢は婚約者に全てを丸投げする  作者: 上杉凛(地中海のマグロ)
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悪役令嬢は15歳になる

それから3年ほどが経過し、私は15歳になった。


あの日、デビュタントの後の夜会で私がエイプリルから聞き出した情報……は、残念ながら、彼がずいぶんロマンチスト(つまり詩人)という話やら好きな食べ物やら惚気やらちゃちなものだったが、我らがアルベルトはきちんと仕事をこなしていた。


なんとあの後彼は本人と直接話して、うまく色々聞き出したらしい。雰囲気に流されてそのまま友人と恋バナにふけった私とは大違いだった。

聞けば、女子は女子で集まったように男子も男子で集まって談笑したらしい。その際に聞き出したとのことである。


結論から言えば、レイモンド・ヴァンダルは攻略キャラの一人で間違いないらしい。


中二病に罹患し自分に酔ってる奴は基本、隙あらば自分語りをしがちだ。これみよがしに思わせぶりなことをしてみたり、意味深な言動をしてみたりする。

つまり彼らはかまってちゃんであり、話の水をむければペラペラしゃべるのだ。


よって、アルベルトのしたことは単純だった。

彼はただ、レイモンドがかけている眼鏡について触れ、目が悪いのかと聞いただけである。あとはもうお察しの通りだ。


レイモンドはこれは伊達眼鏡ですと答え、聞かれてもいないのにかけている理由(ポエム)を語り始めたということ。


アルベルトは、そのポエムを聞いてコイツこそが攻略キャラだ! と謎の感動をおぼえたが、隣にいたカイルの顔は引きつっていたと証言した。


ともかく、これで攻略キャラのうちの四人(アルベルト含む)がそろったわけだ。


しかし伯爵令息は既に中二病を発症してしまっていたため、ヒロインの魅力が効きやすくなっていて、更に教師も新理論を発見して学園でくだを巻いている始末。三人のうちの2人がゲームのキャラにそっくりに成長しているという悲劇。いやだね、もう。


これを見ると、本当にアルベルトはギリギリだったのかもしれないな。

そう思って私は、間に合ってよかったと安堵のため息をついた。よかった、前世を思い出したのがアルベルトがまだまともな時で。


これでもう1、2年後に思い出していたら、協力を求めに行った先で『孤独のアルベルト(笑)』が私を出迎えたかもしれない……! ひいっ! 


さて。


そんなこんなでデビュタントも済ませ、一応大人の仲間入りを果たした私たちは時間を無駄にすることなく精力的に日々を過ごしていた。


アルベルトは与えられた勉学や鍛錬などをこなす傍ら実務にも精を出し、私も日々の授業やレッスンをこなす傍らお母様について人脈を広げにかかっている。


連日様々な会に顔を出してアハオホ笑っているとたまに虚しくなるが、これも立派な将来への投資なのだ……。人脈の多さや顔の広さは武器になるからね。


お母様や教育係から学んだ社交界のしきたりやうまくこの世界を渡り歩くコツなどを実践し続けているため、前と比べるとだいぶしっかり付き合いや駆け引きなどこなせるようになってきた。うん、ちょっとは自信もでてきたといったところかな。


そして当然、公の場で過ごす時間も増えているためふとした瞬間に気を抜くことも少なくなった。昔のように不用意な行いやお転婆なことも軽率にしなくなったと思う。


経験を積むことは人の成長に不可欠だというけれど、その意味を私は最近理解しつつある。


大人の社会に参加するようになって、それはもう、いいことばかりじゃなかった。全然なかった。

海千山千の狸ジジイやババア共に手玉に取られたり、うっかり気を抜いて失敗し噂されたり、駆け引きに失敗して悔しくて歯ぎしりしたり、色んなことがあった。


ぽん、とその世界に放り込まれると、否応なしに様々なことを経験し吸収し鍛えられ成長するものだ。


私が失敗したりするたびに、両親は笑って『若いうちに失敗しておけ。それも経験だよ』なんていって助言をくれる程度で特に手を貸してくれはしなかった。


つまり自分でやってみろということであり、ちくしょうと思いつつアルベルトを始め、エイプリルやヘイリーなどの友人たちと力を合わせて色々乗り越えてきた3年弱である。


まあその結果、実家の思惑通りに鍛えられだいぶ成長できたと思うよ、本当に。ついでに様々な思惑で渦巻く貴族社会にもまれて性格も悪くなった気がする。


あとは、なんだろう。そうだな、今までぶつくさ文句を言いながらも授業とかマナーとかを頑張ってきてよかったなって思うかな。

だってそういうのを疎かにしてたナタリアとか大変そうだもの。実家の威を借ればどうにかなった子供のときとは違うからね。


アルベルトとは定期的に会って会議をしたり、乙女ゲームとか関係なしに日常的な話や意見交換やらをしている。また、最近だと行動範囲が広くなり、一緒にお忍びで城下町に降りたりする機会も増えた。ただ遊びに行くときもあれば目的をもって行くこともある。


こうしてこの3年を振り返ってみると、けっこう順風満帆な日々を送れたのではなかろうか。


アルベルトも似たような感じだと思う。

私以上に大変だったはずの彼はコツコツと成果を上げ続け、もはや1、2回目の酷評をものともしなくなっていて、頼もしい限りだ。


どういうことかというと、『アルベルトの行動が減点方式で捉えられ最初は必ず悪い噂が立つ』、という状況に皆が慣れたのである。


私がそこかしこでさりげなく言いふらし続けた、殿下は誤解を受けやすい方なんですの~、というプロパガンダが功を奏したのかなんなのか、アルベルトは『最初は何故か必ず誤解をうけて悪い方に捉えられるがしばらく経てばキッチリ成果を出してくる変わったヤツ』という立ち位置を手に入れ、順調に宮廷内で勢力を拡大し続けている。


そうなってくると、事態は正の連鎖が続いた。この状況はつまり、アルベルトに対する強制力が意味をなしていないのと同義だ。するとどうなるか。


そう! ここに来てようやく私との婚約がもつ本来の意味が効果を発揮してくるのだ! 


覚えてる? 前に私とアルベルトが婚約したことでアルベルトの立場がグンと強くなるはずだったっていったこと。


強制力による邪魔をねじ伏せたこの頃、やっとそうなってきているのだ! そもそも私との婚約のメリットはフォークナイト家の後ろ盾が得られることだけじゃない。フォークナイト家と仲良くしている家やウチの傘下の家などの支持が得られやすくなることもメリットの一つだ。


今まではまだ私たちの年齢が低かったことやアルベルトの評判が悪すぎたことなどを原因として多くの家は旗色を明確にしていなかったが、ここへきてアルベルトにつくことを表に出し始める家が増えている。


カイルの実家のシューライト家を始め、ナタリアの実家のカーマイン家。エイプリルの実家のエイガース家など有力な家が次々とアルベルト側につきはじめた。

そう! 私とナタリアは女子同士の勢力争いでバチバチの関係だけど、実家同士は普通に友好関係にあるのである! 


そのため私たちはお互いの親からもっと仲良くするようにと苦言を呈されているが、どちらも引くに引けない状況。

ま、ナタリアが矛を納めるのなら私も納めてやらないことも無いけど? というのが私の正直な気持ちで、多分相手もそう思っている。


しかしそれでは親からの無言の圧力がすごいので、辟易した私たちは条件付きの休戦協定を結んでいる。すなわち、実家と張り合う関係にある家の子に対しては協力してことにあたろう、というものだ。


この協定が役に立ったのは、まだ1、2回しか無い。夜会などでの嫌味合戦で共同戦線を張った程度だね。

つまり状況はほぼ変わっていない。親の圧力は強いままだ。


まあそれはともかく、このように順調に物事を進めだした私たちに第二皇妃派が焦らないはずも無く、彼らはつい最近まで馬鹿の一つ覚えみたいにネガティブキャンペーンを全力で開催していたが、それの効果がそんなに出ないことを悟ったのか不気味な沈黙をはじめた。裏で何か画策しているのだろうが、それがなんなのかはまだ分からない。


また、最近アルベルトが軽い公務を任されるようになったので私もたまについて行くことがある。この間はエイプリルの婚約者の父、ヴァンダル辺境伯の領地の視察に出かけた。あそこの領地は皇国の端に位置していて、魔族領と人間の領土を分けている大山脈エンドサナに隣接しているから魔獣の被害に悩まされているらしい。


色々と勉強になることばかりだった。


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