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悪役令嬢は婚約者に全てを丸投げする  作者: 上杉凛(地中海のマグロ)
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悪役令嬢は新たな攻略対象を発見する


ただいま我が家! 


そんなこんなで私がデビュタントに向けての準備をてんてこ舞いで進めていくなか、皇城のアルベルトは自分の評価底上げ大作戦を開始しているそうだ。


皇城から近況を知らせる手紙が来たことと、母に連れられていった先のお茶会などで大人たちがアルベルトのことを話しているのを耳にしたことで、私はそれを知った。


アルベルトはマイナスになった評価を手っ取り早く上げるために目に見える実績を地道に作り上げていくことから始めたらしい。まず彼は皇帝陛下に、皇帝がどのようなことを行っているのか側で勉強させてくれと頼んだが、実地で学ぶのはまだ早い。今は他に学ぶべきことがある。と諭されたそうだ。


しかしそこで諦めるアルベルトではなかった。彼は自分の学業が通常より大分進んでいることや、例え側で勉強することが許されても学業をおろそかにしないことなどを論理的に説明する説得力のあるプレゼンを皇帝陛下と重臣たちの前で開いたのだ。


『強制力のおかげで妨害されて三度もやる羽目になった』とはアルベルトの手紙に書かれていた文言である。そう、最初の1、2回は意図などがうまく伝わらず全く評価されなかったが、三度目に見事なプレゼンで皆の心をつかみ、許されたのだそうだ。


それからのアルベルトはコツをつかんだのか、コツコツとあらゆることに取り組み徐々に評価を上げている。というかもはやこの逆境が楽しくなってきたらしい。なんという強メンタル……!私も見習いたいものだ。


皇太子であることを振りかざさずに学ぶ立場であることを忘れず、どんな小さなことも手を抜かないその仕事ぶりが評価され、ついにこの間皇帝陛下から小さなプロジェクトを任され、それを見事に成功させたそうだ。


『大切なのは不屈の精神だな。俺のやることなすこと、大体最初の1、2回はクソミソに酷評されるが、それにめげずにやり続けることが大事だと悟った』


悟りを開いた皇太子12歳。彼は学業や仕事の傍ら、自身のプロデュースにも手を抜かない。


ルイスなどの、アルベルトの腹心たちも三回目の法則を心得てきたらしく、お父様を見習ってめげずに何度も何度も同じうわさを広げたりする努力を続けた結果、ついにそれが実り、最近評判が上がってきたそうだ。

ちなみにルイスには乙女ゲームや転生についてはぼかしているが、ある程度の情報は伝えているらしい。まあそりゃそうだよね。ヒロイン監視してるのルイスだし。


と、いうわけで、最近アルベルトの不屈の努力が実を結び、意外とできる皇太子じゃないか、なんてうわさもチラホラ出始めてきたこの頃。

私たちフォークナイト一家も全力でその後押しをした。


「アルベルト殿下のことは私たちの中でも評判だよ。先日、共に同じ事業に携わる栄誉に授かってね。誠実で優秀な方であられた。噂とは本当に当てにならないものだね」

「まあ! ありがとうございます。誤解を受けやすい方なので、殿下の素晴らしさが皆様の知るところとなって嬉しいですわ」


オホホホホ。そう、アルベルトは誤解を受けやすいんです。だから今までそんなに評判がよくなかったんですの~。


言外にそのようなニュアンスをにじませて語り、今までの噂が事実と異なることを匂わせる。陰でそんな活動をしてアルベルトの後援活動に精をだした。


結果、アルベルトいわくあの事件以来デッドラインを切りかけていた評価が浮上し、元に戻ってきている、とのこと。まあ始めて4、5ヶ月にしては十分な成果だろう。


そんなこんなで忙しくしていたらあっという間に半年が過ぎ去り、ついにデビュタントの日がやってきたのだった。


何日か前に皇都入りして別邸に入った私は、入念な下準備やいくつかのお茶会への出席などを経てその日を迎えた。


所定の場所に行って馬車に乗り込む。デビュタントの出席者は皇都の中央広場から馬車に乗って皇城に向かうのだ。


ワアアアア! 

沿道には多くの人が集まって歓声をあげ、私たちの馬車が列をなしてお城に向かうのを祝福してくれた。私と同じ馬車に乗っているお母様が微笑んで馬車の窓から外を指す。そこにはフォークナイト家の使用人たちがいて、見送ってくれていた。


私は満面の笑みを浮かべる。なんて楽しいの! 本当に一生に一度の晴れ舞台という感じがする! 


 皇城について控え室に入った私の視界に派手な赤髪を結い上げたナタリアがうつった。あら。


「ごきげんよう、ナタリアさん」

「あらセリーナ様。ごきげんよう」


近づいていって声をかけるとナタリアは機嫌良さそうに挨拶を返してくれた。彼女の派閥の子たちにも挨拶をすると次々に返してくれる。


「あちらのお部屋でカイル様が待っているそうですのよ。アルベルト殿下もそちらにいらっしゃるのではなくて?」

「あら、そうなのね。ありがとう、ナタリアさん。実は一人で心細かったところなの。よかったらご一緒してもよろしいかしら?」


こんな日くらい矛は納めて共に楽しみたいものだ。私の誘いにナタリアは一瞬目を大きくしたが、彼女も私と同じ気持ちだったのかすぐに頷いてくれた。いいね。平和だね。


「ええ。もちろん。ではぜひご一緒しましょう。早速向かいましょうか?」

「そうね」


そう言うとナタリアは私の隣に並び、そのまま歩き出す。しかし数歩進んだところで私は首を傾げた。ナタリアの取り巻きがついて来ないのだ。どうしたんだ? 


「ナタリアさん、あの子たちはいらっしゃらないの?」

「ああ、あの子たちはまだ婚約者がいないんですの。付き添いはお母上や親戚のお姉様がたがやるのでここで待機するそうですわ」

「あら。一緒の部屋に待機するのではないのね」


なるほどね。そんな会話をしながらナタリアと共に進み、小部屋に入るとそこにはエスコートをする令息たちがいた。

私たちが来たのを見つけてアルベルトとカイルがこちらに向かってくる。彼らは私たち二人が仲良くやってきたことに意外そうな顔をしたが、すぐに驚きを引っ込めて挨拶をしてくれた。


「セリーナ」

「アルベルト様。ごきげんよう」


私たちが談笑する隣では、意外なことが起きていた。いつもなら私を押しのけてでもアルベルトに話しかけようとするナタリアが意外にもアルベルトに礼をとったあとすぐにカイルに挨拶をし、話しかけているのだ。


「まあ、見違えましたわ、カイル様。今日はやけに輝いていらっしゃいますのね」


おまけにカイルを褒めている! なんだ! 何があった! 


「ナタリア。君の方こそ今日は一段と綺麗だよ。燃えるように赤い髪に白いドレスが映えてとても素敵だ」


褒め言葉を先に言われたカイルが苦笑しながらナタリアに答えた。


「あら。お上手ですこと」


褒められたナタリアはツンと顎をそらして素っ気なく言いながらも満更ではなさそうだった。しかし次の瞬間にはカイルをうち捨て、アルベルトに怒濤のごとく話しかけてこようとしているのを察知したアルベルトが先手を打って断りを入れ、私たちは部屋の隅へと移動したのである。


「まあ。ナタリアさん、一体どんな心境の変化があったんでしょうか」

「ちょうど騎士団にまざって訓練しているカイルを、親に言われていやいや会いに来た時に見かけたらしくてな。それからカーマイン嬢の態度が若干変化したそうだ。先程カイルが言っていた」

「あらぁ。これはこれは……。うふふ。ナタリアさんにも春がきたのかしら」


私はなんだか微笑ましくなってクスクス笑った。あのナタリアがねぇ。おおかた訓練中のカイルが思いの外かっこよくて、普段と違う姿にドキッとしたとかそんなところだろう。

それにしてもアルベルトとカイルって仲良かったんだな。まあそれはそうか。皇太子と騎士団長の息子だもんね。親交はあるはずだ。


「セリーナ」


呼ばれて見上げると、アルベルトが柔らかく微笑んでこちらを見つめていた。


「今日のセリーナはこの場の誰よりも輝いていて綺麗だな。緑の瞳が宝石のように煌めいて吸い込まれるようだ」

「まあ!」

「そのドレスも優美でお前の雰囲気にぴったりで素敵だな」

「ありがとうございます!アルベルト様こそ今日は一段と凜々しくて素敵ですわ」


普段あまりそういうことを言わないアルベルトからの褒め言葉は心がこもっていて、とても嬉しかった。私が頬を赤らめて照れていると、横からからかうような声がかけられる。


「まあセリーナ様。お熱いですわね!」


振り返るとそこにはすみれ色の髪と瞳の令嬢が、エスコートの婚約者を連れて立っていた。

あ! エイプリルだ! 


「エイプリルさんじゃないの! ごきげんよう。やだ、見ていらしたのね、お恥ずかしいわ」

「ごきげんよう、セリーナ様」


エイプリル・エイガース伯爵令嬢は改めて私に挨拶するとクールに微笑んだ。相変わらずオーラあるなあ、この人。

エイプリルは私の派閥の主要な令嬢の1人で私と仲が良い。その落ち着いた物腰とクールな感じがかっこいいお姉さんポジの子だ。というかいつの間に婚約を……ってその前に紹介しなくちゃ。


「アルベルト様。こちらはエイガース伯爵令嬢、エイプリルさんですわ」

「初めまして、エイガース嬢」

「お会いできて光栄ですわ、アルベルト殿下」


エイプリルは深く膝を折ってアルベルトに礼をした。そして連れの婚約者を私たちに紹介する。婚約者の彼は青い髪に青の瞳の、眼鏡をかけた美男子で、ちょっと冷たそうな学者風の雰囲気の人だった。初めて見る顔だ。


「殿下、セリーナ様。こちらは私の婚約者のヴァンダル卿でございます」


アルベルトと私がそれぞれ彼に挨拶の言葉を投げかける。


「お会いできて光栄でございます。皇太子殿下。フォークナイト公爵令嬢。辺境伯、ストラウト・ヴァンダルの息子、レイモンド・ヴァンダルでございます」


え!? 伯爵令息!? しかも辺境伯だと……! ひょっとしてコイツか? 


私は驚いたが顔には出さないように気をつけてアルベルトをチラリと見た。すると彼はかすかに頷く。おおう。やっぱりあなたも疑ってるのね? 


辺境伯の息子ということは、属性の儀に出席せず自領で魔力属性検査なども執り行った可能性が高い。なにせ領地が国境付近に位置し距離的にも遠いため、彼らはあまり中央に関わらないのだ。

そのせいで私達の調査にこれまで引っかからなかったのかも。


伯爵令息。クール系の見た目。眼鏡をかけたその姿。


「お二人の輝きはまるで世界にさした祝福の光のようですね。僕のハートに続く道が輝いている…!」


そして口から飛び出す謎ポエム――


「……………」


――見つけた! たぶんコイツだ! 攻略キャラの一人の例の中二病大爆発な伯爵令息! こんなところにいたとは! 




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