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悪役令嬢は婚約者に全てを丸投げする  作者: 上杉凛(地中海のマグロ)
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悪役令嬢は虎の威を借る

それから一週間が経った。


一週間も経てば、さすがにいつもの日常が戻ってくるというもので、私たちは授業やらなにやらで忙しくしながらもその隙間を縫って対策会議を進めた。


そこで出た話を紹介すると、例えば私の強制力についてだ。頭がぶっ飛ぶほどの強制力を味わわされても、アルベルトと違い私はやけどとその後のジンジンとした痛みだけで正気を保っている。


この違いはなんなのか。


白熱した議論の末、私に前世の人格が混ざってるから強制力に耐性がある説、と、私とアルベルトでは痛みへの耐性が違う説が有力な2つの説として採用された。ま、あくまで仮説だけどね。結論は出ていない。


更に事件の次の日にルイスが抜け道についての調査報告を持ってきた。彼によると、昔アルベルトが使った抜け道とは別の道に誰かが通った形跡があるとのことだった。

その道はちょうど皇太子の居住区の近くから、ヒロインが住んでいる城下町のあたりまでつながっていたらしい。抜け道ありすぎじゃない? どうなってるんだ、まったく。


ついでに強制力のせいで不運にも私たちの警備に穴を開けることとなった騎士たちは近衛から別の部隊に飛ばされ、メイドは半年間の減俸処分となったようだ。胸が痛む。なんかごめん。


あとはこの一週間の出来事で大事なことといったらなんだったかな。まあ対策会議の内容でいうと、攻略キャラたちの候補が絞られたことくらいかな。


攻略キャラは全部で五人いるってことは前にもいったよね。そのうち、アルベルト、教師(特定済)、ポエマーな伯爵令息(不特定)、カイル(予想)の四人が確定したキャラ。


うん、カイルについてだけどあの人、公爵家で騎士団長の息子なんだよね。こんなおいしい肩書きのヤツをヒロインが逃すはずが無い。まあ私の記憶にはないが、おそらくカイルはほぼ確定といっていいだろう。 


そしてあと一人なのだが、コイツに関してはほぼ分からない。しかし乙女ゲームというものの性質からして、チャラ男かわんこか不良かフェロモン系のどれかだろう、というふわっとしすぎている予想は立っている。私たちは一昨日くらいの対策会議中にそこら辺の情報を改めて整理し直した。


ふー。しかしあっというまだったな。気づいたらもう一週間がたっていたことで、時の流れの早さに驚きつつも、その日の予定をすませた私はアルベルトとの対策会議部屋のドアをノックした。


「ごきげんよう、アルベルト様。本日も……ってあら!」


部屋に入って挨拶をしている途中で私は部屋にもう一人いることに気がついた。え? 慌てて首をそちらの方に向けるとお父様の姿が!


「元気そうでなによりだ、セリーナ」

「お父様!」


喜びの声を上げる私を見てにっこりと破顔する。


「手紙をありがとう。おかげで悪い事態は避けられたよ」

「いえ、来て下さってありがとうございます!」


わーい。久しぶりに会う父にテンションが上がった。


「たまたま皇都にいてよかったよ。すぐに駆けつけられたからね」


にこにこ笑う父は穏やかにそう言って笑った。柔らかな朝の日差しを浴びながら心地よさげに目を細めてお茶を口にし、リラックスした様子である。

私はその隣に腰掛けて微笑んだ。会えて嬉しい。アルベルトはそんな私たちの様子をあたたかく見守っていた。父がアルベルトのほうに顔を向ける。


「殿下、改めまして、いつも娘がお世話になっております。お二人とも仲が良さそうで安心致しました」

「世話になっているのはこちらのほうだ。いつも助けられている」


自分の方がアルベルトのお世話になりっぱなしな自覚がある私は、褒められて落ち着かない気分になった。そんな私をみてアルベルトがふっと笑う。


「この通り、本人に自覚はないが、本当にいつも支えられているんだ」

「鈍感なところがありますからな。それはなによりです」


そんな会話をして、二人は眉を寄せる私をよそにくすくす笑った。誰が鈍感だ。


「それでは、そろそろ報告に移らせていただきたいと思うのですが……」

「そうだな。よろしく頼む」

「はい。ああ、そうだ。セリーナにも分かるように順を追って最初からお話しした方がいいですかな?」

「そうだな、そうしてくれるとありがたい」

「畏まりました」


父は一つ頷いて口を開いた。


「それでは私からは今回のことでの第二皇妃一派との経緯についてお話致します」


今日の事件が起きてしばらくして『皇太子の部屋に忍び込んだ不審者が下位貴族の子弟で、驚かされたセリーナが怪我をしてその混乱でアルベルト殿下が魔力の操作を誤った』ざっくり言えばこのような結論に落ち着いたことを、第二皇妃派が知ってからすぐに、殿下のことを貶めるような噂が流れ始めました。


曰く、『子供に驚かされたからといって扉を吹き飛ばすほどの攻撃魔法を使うとは、やはりその凶暴性は魔族の子が故の……』『魔力の操作を誤るなんて能力が疑われる』『そもそもそれくらいわざわざ魔法を使わなくても対処できるだろう』といったものが主な論調となった噂です。


また、今回はセリーナに対しても『ポットに手を引っかけて倒すなんて粗忽者だ。公爵令嬢たる者、もっと冷静に物事に対処するべきなのではないか』『ちょっと驚かされたからといって大騒ぎしすぎである』などといった噂を流していることも確認できました。


セリーナに対して第二皇妃派がなにかを仕掛けてくるのはこれが初めてですな。殿下に対する攻撃よりはやや手ぬるい印象を受けましたが、これは当家の出方を窺っているからでしょう。様子見といったところですか。


「まあ当然こちらもしかるべき対処はさせていただいたのですが、どうにも奇妙でして……思うようにうまくことが運べず困惑致しました」


ふーむ。そんな状況になっていたのね。私のネガキャンまで始めたか、第二皇妃め。なに? 粗忽者ですって? アンタの息子なんて9歳にもなって自分の家で迷子になってたくせにエラそうに! 

私は遠目にしか見たことのない第二皇妃を頭の中でボコボコにした。許さん。あの派手好き女め。


というかついに私にまで手を出してくるとはね。ウチと戦う覚悟を決めたってか? あん? 受けて立ちますよ! 覚悟しろ! 

アルベルト問題にはおおっぴらに口は突っ込めないけどね、私のことに関してはいくらでも動けるんだぞ、フォークナイト家は! くけけけけけ! 


後ろ盾だけは誰にも負けない自信のある公爵令嬢セリーナは実家の威を借りて心の中で高笑いした。



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