表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢は婚約者に全てを丸投げする  作者: 上杉凛(地中海のマグロ)
5/71

悪役令嬢は最終試験に臨む

ガタゴトと馬車に揺られながら公爵領に帰った私は瀕死の状態だった。


ば、馬車の揺れがひどすぎる……!!私が数日かけて皇城に向かっている途中で舗装工事が始まったらしく、帰り道はでこぼこだった。揺れの激しさに見事に酔った私は家に着くまでの間中ずっとカエルに変身してゲロゲロやっていた。もううんざりだ!馬車なんてうんざりだーーー!!


そんなこんなで、ひいこら言いながら自室にたどり着いた私は両親に挨拶するのもすっ飛ばしてベッドに飛び込んだ。本日の営業は終了致しました。さようなら、おやすみなさい。



***



その翌日、両親にベッドから引きずり出されてアルベルトとは仲良く出来たのかとか根掘り葉掘り聞かれた。


最高だったわ、とか適当に答えたらとても嬉しそうにしていて、その結果、私の皇妃教育にさらに熱が入ってしまった。

しまった……!まあまあだったとか言っておけば……っ!


くっ、とほぞを噛む私を置いて、ビシバシとスパルタ教育が展開された。


「お嬢様!姿勢が崩れております!」


「ええっ!そんなことないわよぉ」


「いいえ。このサラの目はごまかせません」



ドスッと頭の上に本が2冊乗る。そして、これを落とさないように!と厳命された。ひぃっ!重いよぅ!


頭の上に本を乗せてバランスをとりながら勉強する私……。


確かに姿勢は良くなるけれども!なんなんだ、曲芸師か?自分が何を目指しているのかわからなくなってきた。


涙目で帝国史を習う。おじいちゃん先生の声が淡々と歴史を語っていく。帝国歴何年なんとか将軍がうんちゃらかんちゃら……。カリカリカリ。それをなんとか書き写す私。うっ、首が痛いっ!







「……………………」



ドスッ!



「お嬢様!」



いつの間にか意識が飛んでいた。こっくり船を漕いだ瞬間、重い音を立てて頭上の本が机にダイブし、私の居眠りは一瞬でバレる。

くっ、こういう使い方もあったのか!少しでも気を抜くとすぐにバレる。恐ろしい仕掛けだ。



「お怪我はありませんか!?」



怒られると思ったけれど、サラの顔は心配そうで思わず言葉につまった。ごめんなさい。



「あ、だ、大丈夫よ。ありがとう」



「はぁ……よかったです。今日はもう終わりにしましょう。お嬢様はお疲れなんですわ!」




さあさあ、とサラに追い立てられて私はベッドに戻った。


ぼーっと寝ながら前世の記憶を思い出す。

半年後までになにか新しく思い出しておけ、とアルベルトに無茶な命令をされたのだ。私の記憶力のなさをなめるんじゃない。ひどいんだぞ!特に私は人の顔を覚えるのが苦手だ。みんな同じ顔に見える。


「まあ、そんなことはどうでもよくって」



えーーなんだっけ。わからんよ。なにか思い出すことは……、

頭をめぐらせるが特に思いつかない。ぐるぐると思考が駆け巡る。うーむ。





「………………羊が……」



そして、いつの間にか私の頭の中を羊がリズミカルに踊っていた。羊がいーっぴき、羊が2匹……おやすみなさい。




***



半年が経った。半年は、更に厳しくなった皇妃教育を涙目で乗り切ったり、領地内に遊びに出かけたり、必死に前世の記憶を思い出そうと足掻いたりしているうちにあっという間に過ぎていった。そして私は大したことを思い出せずに終わったことに少し冷や汗をかいている。しょうがないじゃん!覚えてないものは覚えてないの!と何回、内心地団駄を踏んだことかっ!




今日は魔力属性検査のために教会に向かう日だ。1週間前に皇都に到着した私たち公爵家一行は、皇都の別邸に滞在していた。


この世界の子供たちは生まれた時に必ず魔封じというものを施される。これは、幼い子供が魔力を暴発させたり魔法を悪用するのを防ぐためだ。魔力属性検査の儀式ではその子の属性を検査すると共に魔封じを解くことも行われる。



「おはようございます、お嬢様」


「おはよう……」



寝ぼけ眼の私は早朝からメイドに叩き起されて、頭のてっぺんからつま先までピカピカに磨きあげられ、落ち着いたデザインの青いドレスを着せられた。もうバッチリ。お肌も髪もつるつるツヤツヤである。はぁ疲れたぁ……。


パーティーのように自分を魅せつける必要はなく、どちらかというと厳かな場であるため、豪華に着飾る必要がないのが救いだ。今日のメインはあくまで儀式。


そして今日は私の運命が決まる日でもある。この日が近づくにつれて謎の震えが止まらなくなった私は何日か前からずっと祈りを捧げていた。


闇闇闇闇闇……アルベルトは闇属性アルベルトは闇属性アルベルトは闇属性!!!ええい闇じゃぼけぇい!!

もはや神様を洗脳する勢いで祈ったから多分大丈夫なはずだ。自分のお小遣いからお布施もした。アルベルトは闇属性アルベルトは闇属性…………。これで正反対の光属性とか来やがったらもう神様でも許さない。二度とお布施をしない。邪神教に入ってやる。


まぁ光はないか。アルベルトが光属性だったら主人公のアイデンティティが消えるもんな。


あれ?そういえばなんで主人公はアルベルトを魔法で癒せたんだろ。魔封じかけられてるはずだよね?私が知らないだけでなにかそういう設定があるのだろうか。主人公補正か?



馬車に乗って教会につく。今日はお母様とお父様も一緒だ。上位と中位の貴族の子供たちの魔力属性検査の儀式、通称、属性の儀、は、帝国内で1番大きな教会で行われ、儀式が終わったあとに軽い立食パーティーが催されるので一種の社交界の行事となっているのだ。



教会に入って名を告げると、本堂へと案内された。ここからはお嬢様だけで、と言われたのでここで両親とは一旦別れを告げる。



「セリーナ。準備はいいかい?」


「はい、お父様」


「じゃあ行ってきなさい。私達はここで見ているから、安心してね」



「はい、お母様。行ってまいります」



お父様が私の肩を小さく叩き、お母様が微笑む。

そんなふたりに背を向けて私は教会の中の自分の席に向かった。




席は前から身分の順になっていて、1番前の左端がアルベルト、その隣が婚約者であり公爵令嬢である私、そして公爵家でもある騎士団長の息子、その婚約者の侯爵令嬢、侯爵令息、その婚約者、みたいな席順だ。


ぱっと見た感じ、上位貴族の人達はまだ来ていない。どうやら私が一番乗りのようだ。

案内の人に誘導されて自分の席に座ってじっとしていると、しばらくして、すっと私の横に影が差し、淡々とした声がかけられた。



「お久しぶりですね、フォークナイト嬢。元気にしていましたか?」



「アルベルト様!」



音もなく横にたったのは皇太子殿下だった。案内の人が近くにいるせいか、完璧に猫を被っていらっしゃる。


私は急いで立ち上がり、挨拶をした。久しぶりだね。皇太子。


半年ぶりのアルベルトは少し背が伸びたようであり、また、顔にはさらにレベルアップした例の完璧な笑みが張り付いている。どうやら演技の腕前も上達したようだと心の中で結論づけて、私はその赤い瞳を見つめ返した。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ