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悪役令嬢は婚約者に全てを丸投げする  作者: 上杉凛(地中海のマグロ)
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悪役令嬢は思わず唸る


「つまり強制力によって世界がヒロインに味方しているということですね」

「そういうことだ」


頭が痛いんだが……。私は思わず眉間を指でぐりぐりしながら唸り声をあげた。唸る公爵令嬢を前にした皇太子殿下は神妙な顔で頷いた。私の唸り声を気にもとめていない様子だ。相変わらず寛容でありがたい……。


「しかしこの現象についてはいくつか法則も発見した」

「え、法則があったんですか!?」


驚く私にメモをするように頼んだアルベルトは、自分の考えを整理するように斜め上を見つめた。

それを横目に私はペンを掴んでメモを取る体勢をとる。


「今回のことで俺が感じた法則性だが、まず第一に、ヒロインに都合の悪い情報がうまく伝わらない、ということだ」

「はい。伝言ゲーム現象ですね」

「ああ。そしてもう一つ。その現象は同じ人物で2回までしか起こらない、ということ。ただし同じことについてだけだ。例えば怪我情報に対して3回言って納得させても他の情報についてはまた3回いうまで勘違いする」


ん? つまり一個のことについて3回目でやっと正確に伝わるってことかな?

私の問いかけにアルベルトが頷く。


「一度強制力を経験することで耐性でもつくんじゃないか?」

「なるほど」


強制力に耐性とかあるんだ……。反復が効くと? 

なんというか、ヒロインの強制力には体育会系の対抗策が効くんだなあ。痛みしかり、反復練習しかり。なんだか微妙な気持ちになる。


「これは朗報じゃないですか? 一応対抗策が見つかったってことですね!」

「まあそうだな。若干前進はしたな」


ポジティブにいかねば……。私たちはお互いの目を見合わせてから、同時にため息をついた。先はまだ長い。


「なるほど。よし。今のはまとめておきました。あとは、えーっと、そうだ。じゃあ私たちが騒いでるときに誰も入ってこなかったのも強制力の影響ですかね。たしかヒロインが来る前に外に立っていた騎士が、いつの間にか消えていたような記憶があります」

「十中八九そうだろう。というかこれに関しても伝えておかなければいけないことがあったんだ。まるで笑い話のような話なんだが……」


そう言いながら辺りを見回すアルベルト。どうやら報告書をお探しのようだがどこにも見当たらなかったようで、ちょっと困ったように前髪をクシャッと片手で掻き上げながら、参ったな。とつぶやいている。

……可愛い。え、可愛い。

普段頼もしい姿しか見せないアルベルトの困り顔が想像以上に可愛くて、私の鼓動が早くなる。 


「……」


少しの間、ぽーっとアルベルトの顔を眺めていた私は、はっ! と我に返ると慌てて一緒になって探そうと部屋をキョロキョロ見回した。何を呆けているんだ私! 

と、そのとき、あ! とアルベルトが大きな声を上げる。わっ! びっくりした! 


「しまった、資料はあいつに渡したままだった……」

「え、あいつ?」


聞き返すと。アルベルトが顔をあげて私を見た。首を傾げると、しばらく私の顔を見た後なにやら納得したように頷いた。え? なに? 


「ルイスを知っているか?」

「え? ルイス様? あの、どちらのルイス様でしょうか?」


突然の謎かけに私は目を白黒させた。


「ああ、すまない。俺の侍従のルイスだ。よくそばにいるから会ったこともあると思うんだが……」

「あ~、あの茶髪の侍従ですよね? えっと、背は普通くらいで中肉中背の優しげな方で……」


あれ? おかしいな。私、そのルイスという侍従がアルベルトのそばにいつもいることは知っているというか、よく顔を見ているはずなんだけど、改めて思い出そうとしてもぼやっとした顔が浮かんで来るばかりではっきり思い出せない。

優しそうな茶髪の男の人ということしか思い浮かばないのはいったい……。


「よく思い出せないだろう?」

「ええ……、何ででしょう。おかしいな。今日も朝会ったはずなのに……」

「まあそれがあいつの特技だからな」

「特技?」


印象がぼやっとしてるのが特技ってなに? 存在感を消すってこと? まるでスパイみたいな……ん? 待てよ。何かが記憶の片隅に引っかかっているような……。


「俺はずっとヒロインの調査をしていただろう? 当然あれは俺が人にやらせていたわけだが、そういう俺の個人的な、というか裏で動きたいときの手足となってくれるのがルイスだ」

「へえ、あの調査をやっていたのって彼なんですね! 秘密裏の調査を任せられるほどの方というわけですか」

「ああ。あいつは信頼してるな」


周りが敵だらけのため、ちょっとやそっとじゃ人を信じそうにないアルベルトがそう言い切ったのには少し驚いたが、たしかにそのくらいの信頼がないとヒロインの調査なんて任せられないか。いや、というかただの侍従じゃないな。何者だ? というかあれ、そういえば……! 


そのとき、先程からなんとなくモヤモヤしていた記憶が釣り針に引っかかったので、私は記憶の釣り竿を思いっきり引き上げた。


「そういえば前に父から聞いたことがあります。代々の皇帝には陰日向なくささえ、その手足となって動く絶対の忠誠を誓った側近が一人つくという……、もしかしてルイスはその噂の側近でしょうか?」


だいぶ大物の情報が釣れたので披露したらアルベルトは少し驚いたように目を見張った。


「さすがはフォークナイト家だな。この情報は伏せられているはずなんだが、一体どこから手に入れたものやら」

「うふふ」


ひとたび思い出すと、それに付随する事柄も思い出すものである。


これはたしか私とアルベルトの婚約が正式に結ばれてから少しして、お父様から様々な皇室に関する情報を聞かされた時に教えられた気がするぞ。アルベルトの驚きようから察するに思ったより機密度が高い情報らしい。

ほけほけとした顔で語っていたお父様の顔を思い出して、私は微妙な気持ちになった。もっと緊張感を出せ。


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