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悪役令嬢は婚約者に全てを丸投げする  作者: 上杉凛(地中海のマグロ)
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悪役令嬢は報告を聞く


「その前に手は大丈夫か?」

「はい。治癒魔法をかけてもらったのでもう治りました。ありがとうございます。それよりアルベルト様の方が大丈夫ですか……? あの、先程はすみませんでした」


被害者アルベルトは加害者セリーナを気遣い、私はどことなくいたたまれない気持ちになった。

アルベルトの方が私よりボロボロだったが、その怪我を負わせたのは他でもないこの私という恐ろしい事実がここにある。いやホントごめんなさい。


「いや、むしろ俺は礼を言わなければならない立場だ。助けてもらったしな。それに怪我ももう治ったから気にするな」

「それはよかったです。今日は色々ありましたがこうしてここにいられて本当によかった」

「そうだな」


日常を失いかけて改めて日常というものの素晴らしさを実感した我々はしばらく沈黙した。

そして数秒後、アルベルトが顔を上げる。


「さて。まずは報告だが」

「はい」

「結論としては駆けつけた騎士たちのなかでピンクの髪の少女を目撃したものはおらず、その後の捜索でも見つからなかった」

「……不気味ですね」

「ああ」


あの後、私は駆けつけたサラとメイドたちに大慌てで医務室へ連れていかれ、アルベルトは逆に治癒師を呼び寄せて治療しながら事後処理に当たっていた。本当にお疲れ様です。


アルベルトが忙しそうにしているなか、私はというと父に手紙を書いて協力を要請することくらいしかできなかったけど、少しは役に立てただろうか。

そんなことを思いながら私は立ち上がってサイドテーブルの上に置いてあった対策会議の資料が入ったファイルを取ってきた。


この資料は、ヒロインがドアを開いた時に咄嗟にソファーのクッションの下に突っ込んだのを、医務室に連れて行かれる直前に思い出して救出したのだが、今も必要になるかなと思って私が持参したのである。

ちなみに資料は全て英語で書いてあるんだけど、このときほど英語で書いてよかったと思ったことはなかったよ。


なぜなら足に怪我をした私が資料の束を抱えながら医務室へと向かうなんて許されるはずもなく、なんとかソファーのクッションの下から救出した資料はメイドたちに寄ってたかって奪われたからだ。


「お嬢様……! なんておいたわしいお姿に!」

「なんてこと! ささ、お嬢様、お早くこちらへ! 医務室にご案内致しますわ! 治癒師がお待ちです!」


ボロッとした私の姿に息を呑んで駆け寄ってきたメイドたちが、さあさあと私を医務室に連れて行こうとするのを遮って、クッションの下から紙束を出して抱えた私の腕から全てが奪い去られるまで10秒とかからなかった。


「お怪我なさっているのにいけませんわ、お嬢様! 荷物はわたくし共がお持ちしますので、ご心配なさらずに!」


サラに心配そうな顔で正論を吐かれた私は何も反論できなかったし、そんなこと言ってる雰囲気でもなかったので私は何も言わずにその場をあとにしたのだった。


というわけで、メイドに両側に付き添われて支えられながら歩いて医務室に向かったのだが、こちらに置いておきますね。と、治療を受けている横のテーブルに置かれた資料の状態を見て私は軽く冷や汗を流した。

実のところこの資料の束、あの騒ぎに巻き込まれてグシャグシャになっていて、それを見たメイドが気をつかってきれいに整えてくれていたからである。


一瞬、え、みられた? もしかして中見られた!? と震え上がったが、すぐに胸をなで下ろした。

よかったー! 中二病とか思われたりして変な噂が立ったらどうしようかと思った! 


ついでに英語に関してだが、この国の言葉と文法がほぼ同じだったのでそれに関しては問題がなかった。天才アルベルトはあっという間に文法や基本的なことを吸収したが、問題は単語だった。

英単語を膨大に覚えるのはめんどくさい上に時間の無駄であると断言したアルベルトの方針で、この国の言葉をアルファベットで変換して書くことにして、私たちは文字の問題を全て解決したのであった。


え? わかりにくいって? うーん、そうだなあ、まあわかりやすく言うと例えば、『私はリンゴが好きです』を英語で、『I like Ringo』って書くみたいなかんじ。


ま、それはいいとして、話を戻そう。


今回の件に関して私たちの表向きの説明はこうだ。


・私とアルベルトが2人で談笑していたら、突然不審者が現れて攻撃をしてきた。

・驚いた拍子にポットをひっくりかえして私は火傷を負った。

・アルベルトは咄嗟に不審者の攻撃から私を庇って負傷した。


その後は攻撃魔法を使って不審者に対応しながら、近衛騎士がやってくるのを待ったというわけだ。

私たちが証言した不審者の特徴を元にすぐさま捜索が行われたが、誰一人として彼女を目撃した者はおらず、ヒロインは忽然と城内から姿を消していた。


城は上から下への大騒ぎ……とまではならなかったがそれなりの騒動にはなった。


そしてこのこと自体が私は不気味だった。皇太子と公爵令嬢が警備の厳しい皇城の中で襲撃にあったのになんでこの程度の騒ぎで収まってるんだ?


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