悪役令嬢は頭を悩ませる
PASH!ブックス様より書籍化決定いたしました!
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人殺し! と叫んだヒロインに私は周りをキョロキョロした。人殺し? そんな恐ろしい人がこの場にいるなんてこわーい。
箸より重いものは持てない深窓の令嬢であるセリーナは恐怖に怯えたフリをして辺りを見回した。やだぁ。誰のことですの〜?
「アンタのことよ!」
ヒロインがそんな私に苛立った声をあげた。
はぁ。え。うん。まあ。何が言いたいのか分からなくもない。納得はできないけど。
胡乱気な視線を送るとヒロインは気色ばんだ顔をした後に自分を落ち着かせるかのように深呼吸をした。そして顔に皮肉げな笑みを浮かべる。
「だって、アンタが前世の記憶を持ってて、今世の人格だってことは前世の人格を殺したってことでしょ」
「何をおっしゃっているのか皆目見当もつかないのですけれど……。人を侮辱するのも大概にしていただけます?」
「なによ、事実でしょ。それともなに? アンタの前世の人格はまだ生きてるの?」
「そんなの……」
イラッとしてノせられそうになった私の肩にアルベルトの手が乗った。落ち着け、と言うようにぽんと叩いたその手に私は言葉を飲み込んで深呼吸をする。
そんな私に変わってアルベルトが口を開いた。
「そういうお前はどうなんだ? お前こそ今世の人格はどこへ行った?」
「アタシたちは共存してるの」
「……なるほど?」
アルベルトが軽く眉を寄せる。
「そもそも前世がなかったら今世も存在しないわけじゃない? まともな神経を持ち合わせてたら、その人格を消すなんてこと出来ないはずよね? なんていうか、人権意識みたいなのが欠如してるよね、さすが悪役令嬢。遅れてるっていうか。アンタが殺した前世に申し訳ないとか思わないわけ?」
「…………」
思わない。大人しく成仏しろ、というのが私の正直な感想だ。要は死んでまでわざわざ他人の体を乗っ取りに来るな、安らかに眠ってください、ということ。つまり私がやったのは人殺しでもなんでもなく、いうなればお祓いである。悪霊退散オンキリキリ。
しかしそれをどう納得させたものか。この手の人間はだいたい人の話を聞かないのだ。
私が次に発するべき言葉を探しているとアルベルトが口を開く。
「お前こそ、今世の人格を隷属させていることに罪の意識はないのか?」
「隷属!? ふざけないでよ、アタシはただお願いを聞いてもらってるだけ!」
「無理矢理きかせているのは、お願いではなく強要というんだ」
ん? 二人の会話の流れに私はわずかに首を傾げた。今の話から察するに、もしかしてヒロインの今世は前世に支配されてるってこと?
アルベルトを見ると、彼は私を見下ろしてわずかに頷いた。
「こいつが現れた途端、強制力が消えたように思える」
そして私の耳元でぼそりと呟かれた推論に、私は顔は平静を装いながら内心驚きに目を見開いた。そういえば……!!




